2020年12月09日

サブリース事業者への行為規制-12月15日から賃貸住宅管理業法の一部が施行

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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4――特定転貸事業者の書面交付義務(説明義務)

1|契約締結前の書面交付
特定転貸事業者は、特定賃貸借契約の締結にあたっては、締結までに特定賃貸借契約の内容及び履行に関する事項につき書面を交付して説明しなければならない(法第30条、規則第5条)。法第30条違反行為には50万円以下の罰金が科される(法第43条)。書面交付の上で説明を行うことを求める説明義務である。

ガイドラインは契約締結前書面の交付(重要事項説明)に関して詳細な解説を行っている。まず、説明者については、一定の実務経験を有する者や賃貸不動産経営管理士など専門的な知識及び経験を有する者によって説明が行われることが望ましいとされる。

タイミングとしては、重要事項の説明から契約締結までに、1週間程度の十分な期間をおくことが望ましいとしている。これは特定賃貸借契約には、原則としてクーリングオフ制度の適用がないことを踏まえたものであろう。

そしてガイドラインは、相手方に応じた説明を求めている。具体的には(1)相手方の賃貸住宅経営の目的・意向を十分確認すること。(2)相手方の属性や賃貸住宅経営の目的等に照らして、マスターリース契約のリスクを十分に説明すること。(3)説明の相手方が高齢の場合は、説明の相手方の状況を踏まえて、特に慎重な説明を行うことである。これは金融商品取引法における適合性原則に似た考え方である。

重要事項説明書の内容は以下の通りである(規則第6条、図表5)。
(図表5)重要事項説明書
ガイドラインは重要事項説明書の留意事項として以下を規定している。

まず、書面の最初に、書面の内容を十分に読むべき旨を太枠の中に太字波下線で、12ポイント以上の大きさで記載する。そして書面の内容を十分に読むべき旨の次に、借地借家法第32条、借地借家法第28条の適用があることを含めたマスターリース契約を締結する上でのリスク事項を記載することを求める。

具体的にはまず、マスターリース契約には、借地借家法第32条(借賃増減請求権)が適用される。そのため、家賃が、変更前の家賃額決定の要素とした事情等を総合的に考慮した上で、家賃契約当初から事情が変更した場合に限り 、契約の条件にかかわらず、サブリース会社は家賃を相当な家賃に減額することを請求できることとの記載と説明が求められる。他方、サブリース会社は減額請求ができるが、オーナーは必ずその請求を受け入れなければならないわけでなく、オーナーとサブリース業者との間で、上記事情を総合的に考慮した上で、協議により相当家賃額が決定される旨を記載し、説明しなければならない(図表6)。
(図表6)借賃増減請求権
次に、マスターリース契約では、借家人(サブリース会社)はいつでも解約ができるが、オーナー(賃貸人)からの更新拒絶(解約申し入れを含む)には、借地借家法第28条(更新拒絶等の要件)が適用される。そのため、オーナーから更新を拒絶する場合には、正当の事由があると認められる場合に限りすることができる旨を記載し、説明する必要がある(図表7)。
(図表7)マスターリース契約解約
このような法律規定があることから、マスターリース契約が、オーナーとサブリース会社の協議の上で更新することができる等の定めは、オーナーだけの意向で契約更新の拒絶ができるものであると誤認しないようにすることが求められる。

そして書面の本文には8ポイント以上の大きさの文字及び数字を用いる。

以下は本文であるが、重要事項説明書の③(上記図表5参照。以下同じ)にある契約期間の記載の次に、借地借家法第28条の概要(オーナーからの解約には正当事由が必要である旨等)を記載する。また重要事項説明書の④のサブリース業者がオーナーに支払う家賃の額の記載の次に、当該額が減額される場合があること及び借地借家法第32条の概要(サブリース会社が減額請求を行うことができること等)を記載する。

この借地借家法第28条と第32条の規定内容については、重要事項説明書の⑭においてもその記載が求められる。

つまり、借賃増減請求権にかかる借地借家法第28条と解約権にかかる第32条については一つの文面上で、前文も含めて都合3か所で説明が求められている。
2|契約締結時の書面交付義務
特定転貸事業者(サブリース会社)は、契約締結時に遅滞なく相手方に対して次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない(法31条および規則9条))。通常は契約書の締結によって行われることが想定される。基本となるのは賃貸借契約書であるが、転貸を前提としているので、たとえば賃貸住宅の維持保全の実施方法や、その実施方法を入居者(転借人)に周知することなどが規定されている(図表8)。
(図表8)契約締結時の書面交付義務
法第31条違反には50万円以下の罰金が科される(法第43条)。
 

5――国土交通大臣の監督権限

5――国土交通大臣の監督権限

1|特定転貸事業者・勧誘者に対する指示
国土交通大臣は、特定転貸事業者に28条~32条違反、または勧誘者に28条・29条違反があったときは、特定転貸事業者に違反是正措置のための適切な措置をとることを指示することができる(法33条1項)。指示をした旨は公表される(法33条3項)。指示違反には30万円以下の罰金(法44条12号)。

国土交通大臣は、勧誘者の28条・29条違反があったときは、勧誘者に違反是正措置のための適切な措置をとることを指示することができる(法33条2項)。公表・罰則は特定転貸事業者に対するものと同じである。
2|特定転貸事業者・勧誘者に対する業務停止・登録取り消し等
国土交通大臣は、特定転貸事業者に法28条~32条違反、または勧誘者に法28条・29条違反があった場合に、特に必要があると認めたとき、または特定転貸事業者が前条の指示に反したときには、特定転貸事業者に対して、一年以内の期間を限り、特定転貸事業者・勧誘者による勧誘の停止、または事業の一部または全部の停止を命ずることができる(法第34条1項)。命令をした場合はその旨が公表される(法第34条3項)。命令違反に対しては六月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される(併科可)(法第42条)。

国土交通大臣は、勧誘者に法28条・29条違反があった場合に、特に必要があると認めたとき、または勧誘者が前条の指示に反したときには、勧誘者に対して、一年以内の期間を限り、勧誘の停止を命ずることができる(法第34条2項)。公表・罰則は特定転貸事業者に対するものと同じである。
 
なお、法33条~法36条の国土交通大臣の権限は地方整備局長・北海道開発局長に委任することとされている(規則13条)。
 

6――検討

6――検討

特定賃貸借契約(マスターリース契約)は長期にわたる継続的契約である。一般に継続的契約においては、契約を締結した当時の基礎となった事情が大きく変動した場合には、契約の解約権や契約内容の改定権を認めようとする考え方がある。

典型的な継続契約として、民法が解約権を定めているのが、賃貸借契約と雇用契約である。たとえば期間の定めのない建物の賃貸借契約においては、賃貸人・賃借人のいずれも3か月の予告をもって解約することができる(民法第617条)。また、期間の定めのない雇用契約も、使用者・労働者ともに2週間の予告をもって解約を行うことができる(民法第627条)。

しかし、このように自由に解約ができるとなると困るのが、建物の賃貸借であれば住居を失う賃借人であり、また雇用契約では職を失う労働者であるとされてきた。そのため、賃貸借契約については借地借家法により、また雇用契約は労働基準法や労働契約法により、それぞれ賃貸人、使用者の解約権を制限している。ここまでが、従来の考え方である。

特定賃貸借契約では、このような借地借家法が前提とする賃貸人と賃借人の関係とは異なる。賃貸人は、典型的には長期のローンを組んで土地・建物を購入する不動産の素人であり、特定賃貸借契約が解約されると困る立場にある。他方、賃借人であるサブリース会社は不動産のプロであり、往々にして大企業である。しかも自分で居住するわけではない。しかし、借地借家法第28条は賃借人からの解約権を制限していない。むしろ、賃貸人の解約権や契約更新拒絶権を制限することにより、賃借人であるサブリース会社が不当に家賃の減額を迫って来たり、不動産の管理に怠りがあったりする場合であっても、オーナーからはサブリース会社に対して契約更新の拒絶ができないということの法的な根拠となっている。

この点、マスターリース契約は賃貸借契約そのものではなく、オーナーとサブリース会社の共同事業の性格を有する賃貸借契約類似の契約に過ぎないとして、借地借家法の適用外とすべきとの見解もある。

しかし賃貸住宅管理業法は、借賃増減請求権を認める借地借家法第28条も、賃借人からの契約更新拒絶等を制限する借地借家法第32条も、いずれも特定賃貸借契約に適用があることを前提として、これらの法律内容の説明を尽くさせることで、情報の非対称性を解消することをもって問題を解決しようとするものである。このような整理については、議論すべき余地もあるものと思われる。しかし、たとえば借地借家法第28条を修正して、賃借人からの解約制限を入れることは、その影響の範囲を考えると現実的とは考えられない。そうすると、今回の法制定で示された問題解決策については、一定の合理性があると考える。

今回の法制定に、ひとつだけ注文を付けるとすれば、金融商品取引法第40条にある適合性の原則に類似した規制を入れるべきではなかったのかという点である。適合性原則とは顧客の知識、経験、財産の状況、金融商品取引契約を締結する目的に照らして、不適当な勧誘を行ってはならないとする原則であり、顧客の属性を踏まえて丁寧な説明を行うべきとするものである(いわゆる広義の適合性原則)が、顧客属性に照らして、リスクの高すぎる商品については、そもそも勧誘を行ってはならないと考えられている(いわゆる狭義の適合性原則)。

この適合性原則は業者の行動を規制する監督規定であるが、適合性原則に反する金融商品の販売は、不法行為として民事上の損害賠償責任が生じさせうるとするのが判例である。

マスターリース契約でも、たとえば自己資金ゼロで始められることをうたい文句として勧誘を行っている業者もあった。このような勧誘を受けた人の中には、もともとの収入が少なく、そのため適合的とはいえないケースもあるように思える。金融商品取引法の適合性原則に類する考え方はガイドライン上に記載がある(上記4.1|参照)が、オーナーの利益保護の観点をより重視するのであれば、賃貸住宅管理業法本体に記載すべきであったと考える。

次回、法の見直しの際には、この点も含めて検討課題とすることが望まれる。
 

7――おわりに

7――おわりに

サブリース会社やサブリース事業向けのローンを行っていた金融機関に不適正事象が発生したためか、法律はかなり厳しいものとなっている。事実の不告知・不実告知、および契約締結前の書面 (重要事項説明書)の交付や契約締結時の書面(契約書)の交付違反については刑事罰が科される。

ガイドラインを読むと、オーナーに対して借地借家法の規定についての十分な理解を得ることが最も強調されている。つまり、サブリース会社には家賃の減額請求権があるということと、その行使が無制限ではないことについての理解を得ることが、最強調点の一つである。また、サブリース会社には解約権や契約更新拒否権がある一方で、オーナーには解約権や契約更新拒否権が限定的にしか認められないことについての理解を得ることが、もう一つである。

勧誘者には表示・行為規制のみしか適用はないが、ガイドラインでは実際の勧誘にあたっては、重要事項説明書の最も大事なことである家賃が減額されることがあるなどを記載した部分を示しつつ勧誘を行うことを推奨している。

サブリース会社および勧誘者には、オーナーに納得のいく十分な説明が求められている。
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

(2020年12月09日「基礎研レポート」)

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