2020年12月09日

サブリース事業者への行為規制-12月15日から賃貸住宅管理業法の一部が施行

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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1――はじめに

2020年の通常国会では「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(賃貸住宅管理業法、以下、法という)が成立し、2020年6月19日に公布された。法は、以下の二つのポイントからなる。

(1)賃貸住宅管理業者の登録制度
(2)特定転貸事業者(サブリース会社)等への禁止規定・書面交付規定

法は、単身高齢者など社会的に配慮すべき人たちが賃貸住宅に居住していることや、親から相続したアパートなどの不動産が遠隔地にあって、不動産管理会社に管理を委託しなければならない事例が増えたことなどから、賃貸住宅の管理業務の質を高めることを目的として制定された。さらに、サブリース事業関係においては、いくつかの不適切な行為が発生したことから、サブリース事業の適正化も目的のひとつとして立法された。

上記(1)については、公布後1年以内に施行されるが、(2)の禁止規定・書面交付規定については、10月16日に施行令・施行規則(以下、規則)が公布され、2020年12月15日にいち早く施行されることとなった。また、10月の施行令等の公布に併せて、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方(以下、解釈・運用の考え方)、とサブリース事業に係る適正な運用のためのガイドライン(以下、ガイドライン)が公表されている。解釈・運用の考え方は行政が監督するにあたっての解釈指針であり、ガイドラインは事業者が事業運営を行うにあたっての行動指針である。

本稿では、2020年12月15日から施行される(2)、つまり、家主から賃貸住宅を賃借し、入居者に転貸する事業、いわゆるサブリース事業者等への規制について解説を行う。

なお、サブリース会社のうち、あわせて賃貸住宅の維持管理をする事業者は(1)にも該当する。一般論として、サブリース会社は(1)の登録制度の適用も受けることが多いと思われる。
 

2――特定転貸事業者・勧誘者の定義

2――特定転貸事業者・勧誘者の定義

1賃貸住宅の定義
法のすべての規制の前提となるのが、取り扱う物件が「賃貸住宅」であることである。賃貸住宅とは賃貸の用に供する住宅(人の居住の用に供する家屋または家屋の部分をいう)をいう。ただし、人の生活の本拠として使用する目的以外の目的に供されていると認められるものを除く(法第2条第1項)。

「賃貸の用に供する住宅」とは賃貸借契約に基づいて賃借することを目的とする住宅1であり、事業用であるオフィスや倉庫等は、賃貸住宅の定義から外される。定義にあるかっこ書きの「家屋または家屋の部分をいう」という箇所の「家屋」とは、アパート一棟や戸建てなどをいい、「家屋の部分」とは、マンションの一室などをいう(解釈・運用の考え方)。つまり賃貸住宅とは、建物一棟丸ごと賃借するものと、部屋だけを賃借するものとの両方が含まれる。

旅館、外国人施設滞在事業(特区民泊)物件、民泊物件は、人の生活の本拠使用目的以外の目的に供されているため、この法で定義する賃貸住宅から除外される(規則第1条)。
 
1 賃貸借契約に基づいて賃借するものでない住宅とは、たとえば事業に従事することに伴い居住が認められる社宅などが考えられる。
2|特定賃貸借契約の定義
特定賃貸借契約とは、賃貸住宅の賃貸借契約であって、賃借人(サブリース会社)が当該賃貸住宅を入居者(転借人)に転貸する事業を営むことを目的として締結されるものをいう(法第2条4項)。つまり、転貸目的で賃貸住宅を借り受ける契約のことを指し、下記図表1の左側の部分、いわゆるマスターリースのことである。
(図表1)特定賃貸借契約の定義
ただし、賃貸人(オーナー)と賃借人(サブリース会社)とが密接な関係にある場合は、特定転貸借契約から除外される。除外される主なケースとしては、賃貸人が個人の場合では、賃借人が、賃貸人の親族であるケース、あるいは賃貸人自身や親族が役員をしている法人であるケースなどが該当する。また賃貸人が会社である場合は、賃借人がその会社のグループ会社であるケースなどである (規則第2条)。
3|特定転貸事業者・勧誘者の定義
特定転貸事業者とは、特定賃貸借契約に基づき賃借した賃貸住宅を第三者に転貸する事業を営む者をいう(法第2条第5項)。いわゆるサブリース会社がこの特定転貸事業者に該当し、規制対象となる。

もうひとつ規制の対象となるのが勧誘者である。勧誘者とは特定転貸事業者が勧誘を行わせる者をいう(法第28条)。具体的には、特定の特定転貸事業者と特定の関係性を有する者であって、当該特定転貸事業者の契約締結に向けた勧誘を行う者をいう。両者の資本関係の有無は問わない。勧誘委託契約の有無にかかわらず、勧誘することの依頼を受け、あるいは勧誘を任されている場合は勧誘者に該当する。ここで勧誘とは、契約の相手方の契約締結に対する意欲を高めるなど、意思の形成に影響を与えている場合には広く該当する (解釈・運用の考え方)(図表2)。勧誘者とされるのは、サブリースすることを目的とした物件の建設や販売を行う建設業者や不動産業者などが考えられる。
(図表2)特定転貸事業者・勧誘者の定義
特定転貸事業者と勧誘者のうち、特定転貸事業者には、誇大広告の禁止と不当な勧誘等の禁止といった禁止規定と、契約締結前書面交付義務・契約締結時書面交付義務規定との両方が課される。勧誘者には前者の禁止規定のみが適用される。
 

3――特定転貸事業者・勧誘者に対する禁止規定

3――特定転貸事業者・勧誘者に対する禁止規定

1誇大広告の禁止
特定転貸事業者または勧誘者が、特定賃貸借契約の広告をするときは、法律・規則で定める点について、著しく事実に相違する表示、実際よりも著しく優良、または有利であると誤認させる表示をしてはならない(法第28条、規則第3条) 。違反行為には30万円以下の罰金が科される(法第44条)。

ここで、著しく事実と相違するとは、広告と事実との相違をオーナーになろうとする人が知っていれば、契約に誘引されない場合のことをいう。著しく優良、著しく有利であるかどうかは、専門的知識を有しないオーナーを誤認させる程度のものかどうかであり、具体的には表示全体から受ける印象や認識により総合的に判断される(ガイドライン)。

ガイドラインで定められている主な項目は、以下の通りである。(1)オーナーに支払われる家賃がマスターリース契約や借地借家法により減額されることがあることの表示を、家賃保証や空室保証のような表示と一体として表示すべきこと、(2)賃貸住宅の維持管理を実際に行っている維持管理業務より優良であるような表示をしてはならないこと、(3)賃貸住宅の維持管理・修繕費用の負担割合が著しく低額であると誤解されるような表示をしてはならないこと、(4)借地借家法や契約により、サブリース会社からの解約・更新拒絶が可能であるのにそれが行われないとの誤解を招く表示を行うこと、(5)借地借家法によりオーナーからの解約や更新拒絶は正当事由が必要であるのに、自由に解約できるといった誤解を招くような表示をしないことである(図表3)。
(図表3)禁止される表示
上記で、家賃保証という表示にあわせて、減額の可能性があることを表示することを打消し表示という。マスターリース契約の長所を強調するときは、デメリットである打消し表示を「文字の大きさ」「場所」「色」「背景」などの点で、適切に表示することが求められる。体験談は「個人の感想です」と表示しても、多くの人がメリットを得ることができるとの認識を抱かせてしまうため、打消し表示があっても問題となる可能性がある(ガイドライン)。
2|不当な勧誘等の禁止
特定転貸事業者と勧誘者は、不当な勧誘行為が禁止される(法第29条)。上述の誇大広告の禁止は「表示規制」であるが、この不当な勧誘行為の禁止は「行為規制」である。表示規制は広告規制とも言い換えられる。行為規制は勧誘の話法などを規制するものである。パンフレットを示しつつ、勧誘を行う場合などでは、二つの規制は一定程度重なるところがある。

不当な勧誘行為とは、(1)契約締結の勧誘等にあたって、特定賃貸借契約の相手方等の判断に影響を及ぼす重要なものにつき、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為(事実の不告知・不実告知、同条第1号)、および(2)特定転貸契約の相手方等の保護に欠けるものとして規則で定める行為(保護に欠ける行為、同条第2号、規則第4条)である。

事実の不告知・不実告知にかかる1号違反行為については6月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金が科せられる(併科可)(42条2号)。保護に欠ける行為に係る2号違反行為については行政措置のみである、
(1)事実の不告知・不実告知
事実の不告知・不実告知は、オーナーとなろうとする者に対して、契約締結させることを目的とし、または、そのような意図のもとに行われれば該当する。契約締結に至ったかどうかは問わない。「故意に」とは、内面の心理状態を示す主観的要件であるが、客観的事実によって推認されることとなるほか、サブリース業者であれば当然に知っていると思われる事項を告げないような場合については、「故意」の存在が推認されることになる。

「事実を告げない」とは事実を認識していながらあえてこれを告げない行為をいう。「不実のことを告げる行為」とは事実でないことを認識しながら、あえて事実に反することを告げる行為をいう。ガイドラインでは図表4のような行為が例示されている。
(図表4)事実の不告知・不実告知
(2)保護に欠ける行為
相手方の保護に欠ける行為として規則では4つの行為を禁止している(規則第4条)。具体的にはガイドラインで説明されている。まず、(1)相手方等を威迫する行為である。ここで「威迫」とは、脅迫とは異なり、相手方に恐怖心を生じさせるまでは要しないが、相手方に不安の念を抱かせる行為である。勧誘にあたって声を荒げたり、面会を強要したりするような行為が該当する。

次に(2)相手方等に迷惑を覚えさせるような時間に電話又は訪問により勧誘する行為である。「迷惑を覚えさせるような時間」とは、一般的には、オーナー等に承諾を得ている場合を除き、特段の理由が無く、午後9時から午前8時までの時間帯に電話勧誘又は訪問勧誘を行うことが該当するとされる。

さらに(3)深夜又は長時間の勧誘その他私生活又は業務の平穏を害するような方法により相手方を困惑させる行為である。「オーナー等を困惑させる行為」とは、深夜勧誘や長時間勧誘のほか、オーナー等が勤務時間中であることを知りながら執ような勧誘を行ってオーナー等を困惑させることや面会を強要してオーナー等を困惑させることが該当する。

そして(4)特定転貸契約締結又は更新をしない旨(勧誘を受けることを希望しないことも含む)の意思表示をした相手方等に対して執拗に勧誘する行為である。オーナー等がマスターリース契約を締結しない旨の意思表示を行った場合には、同一のサブリース会社の他の担当者による勧誘も同様に禁止される。1度でも再勧誘行為を行えば本規定に違反することとなる。
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保険研究部   常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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