2020年12月08日

2020~2022年度経済見通し-20年7-9月期GDP2次速報後改定

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1. 2020年7-9月期の実質GDPは前期比年率22.9%へ上方修正

12/8に内閣府が公表した2020年7-9月期の実質GDP(2次速報値)は前期比5.3%(年率22.9%)となり、1次速報の前期比5.0%(年率21.4%)から上方修正された。外需寄与度は1次速報の前期比2.9%から同2.7%へと若干下方修正されたが、7-9月期の法人企業統計の結果が反映されたことにより、設備投資が前期比▲3.4%から同▲2.4%へ上方修正されたほか、民間消費(前期比4.7%→同5.1%)、住宅投資(前期比▲7.9%→同▲5.8%)、政府消費(前期比2.2%→同2.8%)も上方修正された。一方、2020年4-6月期の実質GDPは前期比▲8.2%(年率▲28.8%)から前期比▲8.3%(年率▲29.2%)へと下方修正された。
 
2020年7-9月期は内外の経済活動の再開を受けて、大幅なプラス成長となったが、過去最大のマイナス成長となった4-6月期の落ち込みの6割弱を取り戻したにすぎない。また、日本経済は新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化する前に、消費税率引き上げの影響で落ち込んでいた。直近のピークである2019年7-9月期と比較すると、2020年7-9月期の実質GDPは▲5.7%、民間消費は▲7.2%低い水準にとどまっている。経済活動の正常化に向けた足取りは重い。
 
2020年7-9月期の2次速報と同時に、国民経済計算の基準改定(2011年基準→2015年基準)が実施された。今回の基準改定では、2015年の「産業連関表」、「国勢調査」等の結果を反映させるとともに、国際基準への対応や経済活動の適切な把握に向けた推計方法の改善が実施された。

具体的には、(1)改装・改修(リフォーム・リニューアル)の総固定資本形成への計上、(2)分譲住宅販売マージン・非住宅不動産の売買仲介手数料の計上、(3)娯楽作品原本の資本化・著作権等サービスの記録、(4)住宅宿泊事業の反映、などである。

基準改定後の名目GDPの水準は1994年度以降の平均で7.7兆円(GDP比1.5%)、直近の2019年度は7.2兆円(GDP比1.3%)の上方改定となった(2019年度の名目GDPは559.7兆円)。改装・改修(リフォーム・リニューアル工事)、分譲住宅販売マージン・非住宅不動産の売買仲介手数料の計上が名目GDPを大きく押し上げたとみられる。需要項目別には、住宅投資(4.5兆円)、設備投資(3.6兆円)の上方改定幅が大きく、名目GDPに占める割合は住宅投資が旧基準の3.1%から3.8%へ、設備投資が旧基準の15.9%から16.4%へと高まった(いずれも2019年度の数値)。
基準改定前後の名目GDPの比較/基準改定前後の名目GDPの比較(2019年度)
基準改定前後の実質GDP成長率の比較 実質GDP成長率への影響を確認すると、過去10年平均(2010~2019年度)の成長率は1.1%で旧基準と変わらなかったが、2019年度は速報値の0.0%から▲0.3%とマイナス成長へと下方修正された。住宅投資は前年比0.6%から同2.5%へ上方修正されたが、民間消費(前年比▲0.5%→同▲0.9%)、設備投資(前年比▲0.3%→同▲0.6%)、政府消費(前年比2.3%→同2.0%)、公的固定資本形成(前年比3.3%→同1.5%)がいずれも下方修正された。
(回復が遅れる設備投資)
財務省が12月1日に公表した法人企業統計によると、2020年7-9月期の全産業(金融業、保険業を除く)の経常利益は前年比▲28.4%と6四半期連続で減少したが、減少幅は4-6月期の同▲46.6%から縮小し、季節調整済・前期比では33.7%と6四半期ぶりに増加した。経常利益(季節調整値)は14.5兆円とピーク時(2018年4-6月期の24.5兆円)の6割弱の水準にとどまっているが、緊急事態宣言の解除を受けた経済活動の再開によって最悪期は脱したとみてよいだろう。
設備投資(ソフトウェアを含む)の推移 一方、設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比▲10.6%(4-6月期:同▲11.3%)と2四半期連続で二桁の減少となり、季節調整済・前期比も▲1.2%と2四半期連続で減少した。景気はすでに底打ちしており、テレワークや遠隔サービス関連など一部の投資は拡大しているものの、全体としては、企業収益の悪化、感染症や景気の先行き不透明感の高まりを背景に投資計画を先送り、中止する動きが強まっている。設備投資の好調を支えていた潤沢なキャッシュフローという前提が崩れたこと、需要の急激な落ち込みを経験したことで企業の投資抑制姿勢が一段と強まることから、設備投資は底打ち時期が遅れることに加え、底打ち後の回復ペースも緩やかにとどまる可能性が高い。
(対面型サービス消費は依然低水準)
個人消費は2020年5月を底に持ち直しているが、引き続きコロナ前の水準を下回っている。「家計調査(総務省統計局)」の実質消費支出の動きを形態別に見ると、財については巣ごもり需要の拡大や特別定額給付金の効果からすでにコロナ前の2019年平均の水準を上回っているのに対し、サービスは緊急事態宣言時の落ち込みが非常に大きかったことに加え、その後の戻りも弱い。特に、対面型サービス消費(一般外食、交通、宿泊料、パック旅行費、入場・観覧・ゲーム代)は、2020年4、5月にコロナ前の2割程度にまで落ち込んだ後、直近(2020年10月)でも6割程度の水準にとどまっている。
低水準にとどまる対面型サービス消費 10月までは、Go To キャンペーン事業によって外食、旅行などの対面型サービス消費が一定程度押し上げられてきたが、新型コロナウイルス陽性者数増加を受けたGo To キャンペーン事業の一時停止、飲食店の営業時間短縮要請の影響などから、11月以降は再び弱い動きとなることが予想される。
 

2. 実質成長率は2020年度▲5.2%

2. 実質成長率は2020年度▲5.2%、2021年度3.4%、2022年度1.7%

(実質GDPが直近のピークを超えるのは2023年度)
2020年7-9月期のGDP2次速報を受けて、11/17に発表した経済見通しを改定した。実質GDP成長率は2020年度が▲5.2%、2021年度が3.4%、2022年度が1.7%と予想する。2020年7-9月期の成長率は上方修正されたが、2020年4-6月期が下方修正されたこと、先行きの景気の見方を変えていないことから、年度ベースの成長率見通しは11月から変更していない。
実質GDP成長率の推移(年度)/実質GDP成長率の推移(四半期)
2020年7-9月期は緊急事態宣言の解除を受けて大幅なプラス成長となったが、2020年10-12月期はそのペースが大きく鈍化する公算が大きい。

輸出は好調を維持しているが、欧米で再び新型コロナウイルスの感染者数が増加していることを受けて経済活動を制限する動きが広がっていることもあり、先行きについては減速が避けられないだろう。その一方で、7-9月期に前期比▲8.8%の大幅減少となった輸入は、10-12月期はその反動で高めの伸びとなる可能性が高い。10-12月期の外需寄与度は7-9月期の前期比2.7%(年率11.5%)からプラス幅が大きく縮小することが予想される。

また、7-9月期の大幅プラス成長の主因となった民間消費は、ペントアップ需要の一巡などから財の消費が伸び悩むことに加え、Go To キャンペーン事業の一時停止によってサービス消費の改善が足踏みとなることから、10-12月期は伸びが低下するだろう。

景気底打ち後も減少が続いている設備投資は、2020年10-12月期に3四半期ぶりに増加に転じるものの、企業収益の悪化や先行き不透明感の高さを背景に持ち直しのペースは当面緩やかにとどまる可能性が高い。

実質GDPは、2020年7-9月期の前期比年率22.9%から10-12月期に同4.2%へと伸びが大きく低下した後、2021年入り後も減速するが、経済正常化の過程にあることから当面は潜在成長率を明確に上回る成長が続くことが予想される。ただし、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、緊急事態宣言が再発令されるようなことがあれば、経済成長率は再びマイナスとなり、景気の失速は不可避となるだろう。
実質GDPが元の水準に戻る時期 先行きの景気の回復ペースは、厳しい行動制限が課されなかったとしても、急激な落ち込みの後としては緩やかなものにとどまりそうだ。新しい生活様式(ソーシャルディスタンスの確保等)が引き続き対面型サービス消費を抑制することに加え、コロナ禍における倒産、失業、企業収益の悪化が先行きの需要の下押し圧力となるためである。さらに、需要が大きく落ち込んだ状態が続いた業界では、コロナ禍で供給力が低下したことが将来の需要の回復を遅らせる一因となる可能性がある。たとえば、インバウンド需要消失の影響を強く受けている宿泊業では、倒産、事業規模の縮小が相次ぐことで、訪日客を受け入れるための客室数の水準が大きく低下し、このことが中長期的な需要の下押し要因となるだろう。

実質GDPの水準がコロナ前(2019年10-12月期)を上回るのは2022年7-9月期となるが、消費税率引き上げ前の直近のピーク(2019年7-9月期)に戻るのは2023年度までずれ込むだろう。
(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2020年8月から3ヵ月連続で下落しており、10月には2019年10月の消費税率引き上げと幼児教育無償化の影響がほぼ一巡したことから、前年比▲0.7%まで下落幅が拡大した。
消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測 先行きについても、予測期間を通じてGDPギャップがマイナス圏で推移し需給面からの下押し圧力が続くこと、賃金の下落がサービス価格の低下要因となることから、基調的な物価は当面弱い状態が続くことが予想される。

一方、予測期間を通じて円安、原油高傾向が続くことを想定しており、輸入物価の上昇が国内物価に波及することが物価の押し上げ要因となる。コアCPI上昇率は2020年4-6月期から2021年4-6月期までマイナスが続いた後、2021年7-9月期に6四半期ぶりのプラスとなり、その後は概ねゼロ%台半ばで推移するだろう。

年度ベースのコアCPI上昇率は、2020年度が前年比▲0.6%、2021年度が同0.3%、2022年度が同0.5%と予想する。


 
日本経済の見通し(2020年7-9月期2次QE(12/8発表)反映後)
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2020年12月08日「Weekly エコノミスト・レター」)

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