2020年12月04日

2021年はどんな年? 金融市場のテーマと展望

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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(メインシナリオと下振れリスク)
以上、来年の注目材料を見てきたが、最も重要な材料は世界経済の行方を大きく左右する「コロナ感染収束の可否」だと考えられる。

メインシナリオとしては、ワクチンの普及や知見の蓄積によって、感染が次第に収束に向かうと見ている。ワクチンに関しては今後追随する形で実用化されるものも出てくるだろう。感染が収束に向かえば内外経済活動も正常化に向かうと見込まれ、株価の追い風になる。

また、経済が正常化に向かうなかでもFRBをはじめとする主要国中銀が大規模な緩和を維持すると見込まれることも株価の支援材料になる。さらに、米大統領選の翌年は米株価が比較的上昇しやすいという経験則もある。年間を通じた方向感は「上昇」と予想している。

ただし、これまでの急速な株価上昇によって、内外株価のPERは大幅に上昇し、日米ともに25倍前後に達するなど、内外株の割高感が高まっている。今後の景気回復を相当先まで織り込んだ形となっているため、日本株の上値は限られそうだ。

また、ワクチンの普及状況をはじめ、今後の不確実性は明らかに高い。一方で株価は既に先々の景気回復を前のめりに織り込んでいるため、下振れリスクが高い点は否めない。
 
ドル円については、日米ともに金融政策の大幅な変更が見込まれないことに加え、円もドルもともに安全通貨とみなされ、多くの通貨に対して同方向に動く傾向が強いことから、大幅な変動は見込まれない。

そうした中、米経済が正常化に向かうことで米金利がやや上昇し、日米金利差が拡大すると見込まれることは円安ドル高材料になるだろう。米国の大幅な財政赤字と金融緩和の継続がドルの余剰感を通じてドルの上値を抑えるものの、来年は小幅ながら、円安ドル高方向への水準調整が入ると見ている。具体的には、春に105円台を回復し、年後半にはさらに若干上昇すると予想している(具体的な値はP10参照)。
 
なお、長期金利は引き続き0.0%台前半での超低金利継続が予想されるが、来年終盤には米金利上昇を受けて0.0%台後半へと水準を切り上げると予想している(具体的な値はP10参照)。
日経平均・S&P500のPER(株価収益率)/ドル円レートと米長期金利

2.日銀金融政策(11月)

2.日銀金融政策(11月):地域金融機関向け補助金制度を突如導入

(日銀)金融政策は現状維持(開催なし)
11月はもともと金融政策決定会合が予定されていない月であったため同会合は開催されず、金融政策は現状維持となった。次回会合はFOMCの直後にあたる今月17~18日に開催される予定。
 
一方、日銀は11月10日に開いた政策委員会の通常会合において、「地域金融強化のための特別当座預金制度」の導入を決定した。内容は、経営統合や経費削減等に取り組む地域金融機関を対象に、日銀当座預金に対して年0.1%の上乗せ金利を支払う3年間の時限措置だ(以下、概要図参照)。実質的には日銀による地域金融機関向け補助金制度にあたる。
 
同制度の狙いは「金融システム安定確保」とされており、金融政策ではないとの整理から、通常会合での決定となったと推測される。

また、地銀の経営統合や合併を独占禁止法の適用除外とする特例法が同月27日に施行されることを踏まえ、近い時期に決定することによって、地銀の統合に前向きな菅政権との協調を演出する狙いもあったとみられる。さらに、従来、超低金利環境の継続に伴う地銀収益の圧迫が金融緩和による副作用の筆頭に挙げられてきただけに、地銀収益への貢献を演出することで批判を抑え、暗黙的に金融緩和の持続性向上を狙った可能性もある。
 
ただし、仮に第2地銀を含む全地銀が条件を達成したとしても、上乗せ金利の総額は年数百億円規模に留まるため、統合等に向けたインセンティブとしても、地銀収益への貢献度合いとしても、限定的な効果に留まりそうだ。
地域金融強化のための特別当座預金制度/新型コロナ対応特別オペの結果
(今後の予想)
前回の決定会合において、新型コロナ対応特別オペとCP・社債買入れからなる「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」について、来年3月とされている期限の延長が実質的に示唆されたため、早ければ今月、遅くとも1月の決定会合において、企業の資金繰り支援に万全を期すことを目的に、延長が決定されると予想。特別オペの方は政府経済対策における実質無利子・無担保融資と連動させているため、新たな期限や総枠・条件の詳細等は政府が今月まとめる経済対策の内容を踏まえて決定すると思われる。
 
なお、コロナワクチンへの期待を大きく織り込む形で世界的に株価が上昇してきたため、今後ネガティブな情報が出てくれば、株価が大きく調整し、米金利低下などによって円高が進む可能性がある。その際には、日銀は再びETF買入れペースを加速させて対応するだろう。副作用が強く、為替への影響も不確かなマイナス金利の深堀りには容易に踏み切れないものの、仮に1ドル100円を明確に割り込むほどの円高が進行すれば、日銀に対応を促す圧力が高まり、日銀がイチかバチかで深掘りに踏み切る可能性が出てくる。
 

3.金融市場(11月)の振り返りと予測表

3.金融市場(11月)の振り返りと予測表

(10年国債利回り)
11月の動き 月初0.0%台半ばでスタートし、月末は0.0%台前半に。
月初、米議会選でねじれ発生の可能性が高まり、大規模な財政出動への期待が後退。これを受けた米金利の低下が波及する形で5日に0.0%台前半に。その後、コロナワクチン進展に伴う景気の早期回復期待によって11日に再び0.0%台半ばに上昇する場面があったものの、基本的に0.0%台前半での推移が継続。月の半ばには内外でのコロナ感染拡大を受けたリスクオフで0.0%の節目に接近する場面があったものの、第3次補正予算案での国債増発懸念が金利の支えとなり、月末にかけて0.0%台前半での推移が続いた。
日米長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールドカーブの変化/日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(11月)
(ドル円レート)
11月の動き 月初104円台後半でスタートし、月末は103円台後半に。
月初、米議会選でねじれ発生の可能性が高まり、大規模な財政出動への期待が後退。これを受けた米金利の低下によって9日には103円台前半に下落した。しかし、その翌日にはコロナワクチン進展を示す情報が発表されたことで米金利が上昇し、ドル円も105円台前半へと反発した。その後はワクチンへの期待に伴うリスクオンのドル売りや、内外での感染拡大を受けたリスクオフの円買いによってじりじりと円高が進み、19日には再び103円台に。下旬には米経済指標の改善を受けて一旦104円台を回復したものの、米政権移行円滑化への期待に伴うリスクオンのドル売りが入り、月末は103円台後半で終了した。
ドル円レートの推移(直近1年間)/ユーロドルレートの推移(直近1年間)
(ユーロドルレート)
11月の動き 月初1.16ドル台半ばでスタートし、月末は1.19ドル台後半に。
月初、リスク選好地合いのなかリスクオンのユーロ買いが入り、3日に1.17ドルを回復。その後も米大統領選の結果が明らかになるにつれ、不透明感緩和を好感したリスクオンのユーロ買いが継続し、5日には1.18ドル台後半を付ける。独経済指標の悪化やECB追加緩和観測などから、11日には一旦1.17ドル台に下落したものの、コロナワクチンへの期待が高まり、13日には1.18ドル台を回復。中旬以降は1.18ドル台での推移が続いたが、終盤にはFOMC議事録を受けた米緩和長期化観測やワクチンへの期待によって一段高となり、月末は1.19ドル台後半で終了した。
金利・為替予測表(2020年12月4日現在)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

(2020年12月04日「Weekly エコノミスト・レター」)

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