2020年12月02日

ソルベンシーIIの2020年レビューを巡る動向-欧州委員会の市中協議文書とそれへの保険業界団体等の反応-

中村 亮一

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3|2020年のソルベンシーIIレビューに対するキーポジション
Insurance Europeは、さらに「2020年のソルベンシーIIレビューに対するキーポジション」との文書を3公表して、ソルベンシーIIレビューに関するInsurance Europeの重要項目に対するポジションのポイントをまとめている。

これによると、今回のソルベンシーIIレビューにおいて、「すべきこと(DO)」と「すべきでないこと(DON’T)」をまとめており、ポイントだけを挙げると以下のようになっている。

長期事業
全般
評価とソルベンシー資本要件(SCR)の両方において、資産と負債の関連性が、フレームワーク全体で認識されることを確保する。

ボラティリティ調整 (VA)/マッチング調整 (MA)
・VAの実質的な改善を行う。
・EIOPAによって提案されたようにMAを洗練する。
・VAでは、リスク修正を変更したり、流動性調整係数を追加したりしない。

リスクマージン
・現在の過剰なレベルとボラティリティを低下させるために、リスクマージンの設計と較正をレビューする。

リスクフリーレート
・リスクフリーレートの算定方法については、現行の方法を変更しない。

金利リスクのSCR
・マイナスの金利を考慮する。
・EIOPAのフロアを使用したり、最終流動性点を超えてショックを加えたりしない。

スプレッドリスクのSCR
・変更なく、内部モデル使用者のために現行の動的VAを維持し、動的VAを標準式使用者のための既存のスプレッドリスクチャージと組み合せて適用できるようにする。

株式リスクのSCR
・長期株式カテゴリの基準を改善する

不動産
・不動産資産カテゴリを15%に再較正する。

持続可能投資
・グリーン又はブラウンの資格に基づいて資産を保有するための人為的なインセンティブ又はディスインセンティブを導入しない。

その他
・長期措置の有無の場合のソルベンシーを公表する義務を撤廃する。
・移行措置を変更しない。

負荷の軽減
比例性
・比例性が実際に機能することを確保するために法律を改正する。

報告
・必須の定量的報告テンプレート(QRT)を削減する。
・SFCRを簡素化する。
・既存のQRTに多くの変更を加えたり、内部モデル使用者による標準式による数値の開示のような不必要なテンプレートを追加しない。

臨界値
・EIOPAの提案ドラフトに沿って、加盟国がソルベンシーIIを適用する臨界値を引き上げることを認める。

今後の課題
マクロプルーデンスのパッケージ/再建・破綻処理
・ECの勧告で参照されている措置のみを考慮する。
・SCRに違反する前に、新しい介入権限を導入しない。
・システミックリスクに対するカウンター・シクリカルな資本バッファーや資本サーチャージを導入しない。
・集中度制限を導入しない。
・配当をコントロールするために新たな権限を導入しない。

グループ監督
・グループ監督又はグループの資本計算に重要な変更を加えない。

保険保証制度(IGS
・IGSの最低調和を導入しない。

非比例再保険
・非比例的再保険の取扱いを改善する。  

4―ESRBの反応

4―ESRBの反応

ESRB(European Systemic Risk Board:欧州システミックリスク理事会)は、10月16日に、欧州委員会の協議に対する見解を公表4している。これによれば、以下のような意見が述べられている。

ソルベンシーIIは個々の保険会社をより安全にするのに貢献し、EIOPAは新制度を成功させるのに中心的役割を果たした。それにもかかわらず、この枠組みにはギャップも存在し、ソルベンシーIIのレビューは、今後数年間、あるいは状況によってはもっと早く、このギャップを埋めるまたとない機会である。過去数年間、ESRBは、そのシステミックとの関連において、最も関連性があると考えられるトピックについて、以下の観点から見解を示してきた。

(1) ソルベンシーIIにおけるマクロプルーデンスの考慮をより良く反映する必要性がある。
(2) 欧州連合における調和のとれた再建及び破綻処理の枠組みを確立する。
(3) ソルベンシーIIに基づくリスクの適切な捕捉を継続する。
(4) COVID-19の世界的流行に関連する最近の出来事は、保険セクターの強みと弱みに新たな光を当てるものであるため、レビューにおいて分析され、考慮されるべきである。

それぞれの項目の具体的な内容の概要は、以下の通りである。

(1)については、「ESRB理事会は、以下の3つのタイプのツールを規定した報告書を承認している」が、「これらのツールに加えて、回復期間の延長に関する指令2009/138/ECの第138条の規定は、ESRBの役割を明確にすることができ、ESRBがEU内のマクロプルーデンス監視に責任を負うことを考えると、EIOPAが例外的な不利な状況の宣言を行う前に、ESRBが適宜協議を受けた方が自然である」と述べている。

1) 保険者のプロシクリカルな投資行動を防止し緩和するためのソルベンシー・ツール

2) デリバティブによるヘッジや、消費者が利用しやすい償還機能を持つ保険商品の販売など、特定の活動から生じるリスクに対処するための流動性ツール

3) 保険会社が住宅ローンを組成したり、社債に投資したりする場合など、経済への信用供与から生じるリスクに対処するためのツール

(2)については、「このような枠組みは、保険保証制度 (IGS) の分野における更なる調和化とあいまって、金融システムにおける国民の信頼と安定を維持することを助けるとともに、保険契約者を十分に保護し、EUにおける金融の安定性を維持することに貢献するものであり、両目的は対等な立場に置かれるべきである」と述べている。

(3)については、例えば、リスクフリーレートの基幹構造に関して、「最終流動性点を20年から30年に移行し、最終流動性点からUFR(終局フォワードレート)への収束期間を40年から100年に延長すべきとし、最終流動性点でのクリフ効果の発生を回避するために、曲線の補外分は市場データとミックスされるべきである」と述べている。

(4)については、「COVID-19の大流行の影響はまだ終わっていないが、ESRBは最初の教訓を引き出すことが重要であると考えている。ESRB理事会は、強調したい5つの教訓を特定した」として、以下の5点を挙げている。

1) 経済の機能にとって特定の保険活動が制度的に重要である。
2) 必要に応じて追加的な回復力を提供する事前の資本のバッファーを構築する必要性
3) 監督当局が配当支払を阻止する力
4) ソルベンシー比率のボラティリティ
5) 保険会社に対する流動性リスク管理要件を強化すべきであり、流動性モニタリングを改善すべきであり、監督当局は流動性に対処する権限を必要としている。  

5―まとめ

5―まとめ

以上、今回のレポートで、ソルベンシーIIのレビューの具体的な内容についての欧州委員会の協議文書及びそれに対するInsurance EuropeとESRBの反応について報告してきた。

今回のInsurance Europe等の反応を見ていると、今回のソルベンシーIIのレビューについても、これまでと同様に、引き続き保険業界と監督当局等との考え方にかなりの差異が見られるようである。さらには、今回のレポートでは報告していないが、EU加盟各国の監督当局間でも必ずしもスタンスが統一されているというわけでもなさそうである。

昨今の長期間にわたる低金利環境の継続や不安定な金融市場、さらにはCOVID-19の感染拡大等の環境下で、これらの関係者のスタンスの差異等を踏まえて、欧州委員会等がどのような判断を行っていくのかが注目されることになる。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2020年12月02日「保険・年金フォーカス」)

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