2020年11月25日

今こそ#PlayApartTogether-コロナ禍にみた「あつまれどうぶつの森」のソサイエティ5.0の可能性

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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1――今なお続く「あつ森」フィーバー

KADOKAWA Game Linkageが発行する日本の家庭用ゲーム雑誌『ファミ通』によると、2020年上半期の国内家庭用ゲーム市場規模は、ハードが793.4億円(昨年対比120.0%)、ソフトが954.7億円(同129.0%)、ハード・ソフト合計で1748.1億円(同124.8%)という結果であり、上半期としては2012年以降で最大の市場規模となった。ハード、ソフト市場ともに前年比プラスとなるのは、2006年上半期以来14年ぶりであったという。
図1 ゲーム(ハード・ソフト)市場規模比較
この要因として、ニンテンドースイッチソフト『あつまれ どうぶつの森』のヒットがあったことは言うまでもないだろう。上半期ソフトランキング1位であった同タイトルは、ニンテンドースイッチ向けタイトル歴代最高の販売本数を更新し、10年ぶりにパッケージ版単独で累計500万本を達成した。また、任天堂が11月5日に発表した「2021年3月期 第2四半期 決算短信1」によると、全世界販売本数が、2,604万本を達成したという。もともと長らく発売を期待されていたということもあるが、新型コロナウィルス(以下新型コロナ)による“巣ごもり需要”が主な要因と言えるだろう。3月20日に発売された同タイトルであるが、3月25日の小池百合子都知事の不要不急の外出自粛要請も相まって需要が高まり、2020年3月29日時点で2,608,417本販売されていた。  

2――島にこもる人々

2――島にこもる人々

2020年3月28日にはWHO(世界保健機関)のグローバル戦略アンバサダーであるRay Chambers氏は、新型コロナウイルスの感染拡大を予防するために、自宅でゲームをプレイすることを推奨する旨をTwitter上で呼びかけた。

We’re at a crucial moment in defining outcomes of this pandemic. Games industry companies have a global audience - we encourage all to #PlayApartTogether. More physical distancing + other measures will help to flatten the curve + save lives. https://t.co/QhX0ssN0lH— Ray Chambers (@RaymondChambers) March 28, 2020

2019年の5月25日にWHOは「ゲーム障害(Gaming disorder)を国際疾病として正式に認定したばかりではあるが、Chambers氏は、いまこの瞬間がパンデミックの結果を左右する重要な局面であるとし、WHOからの勧告を受けたゲーム業界による、「#PlayApartTogether(一緒に離れて遊ぼう)」というキャンペーンを支援する姿勢を示した。また、イタリア南部バーリのアントニオ・デカロ市長がロックダウンを無視した市民に対して「家のプレイステーションで遊んでいろ。」という発言した通り、テレビゲームはパンデミック下における「娯楽」そして「外出禁止(移動制限)」において有効なツールといえただろう。

新型コロナによる世界的なパンデミックにより、卒業式や入学式、入社式など節目となる行事も数多く中止され、人々はコミュニケーションの機会だけでなく文化的な生活を送る権利すらも奪われた。また、コンサートやイベントなどの中止も要請され日々の娯楽が奪われている中で、2020年3月30日の日経MJで取り上げられたように「ヤケ買い」としてゲームや高級ブランド品が大量に消費されていた。これは、日本に限ったことではなく、世界中がこの苦境に耐えていたのである。その中で『あつまれ どうぶつの森』は、無人島での自然に溢れた生活と他のユーザーと自身の作成したアバターを通じての仮想的な交流がテーマとなっており、不要不急の外出が制限されていた当時、自身の分身が自然の中で知人と交流ができるという点が大きく支持されたのである。この「あつ森ブーム」を通して筆者は、新しい社会の形を目の当たりにした。アバターを通して人々がどうぶつの森という仮想空間で、実社会で制限された文化的な行為を行っていたからである。
 

3――ロックダウン下で行われた「あつ森」での誕生日会

3――ロックダウン下で行われた「あつ森」での誕生日会

例えば2020年3月イギリスではアレクシア・クリストフィ氏が9歳になる娘ソフィアの誕生日会が新型コロナウイルス感染拡大防止のために中止を余儀なくされたため、「あつ森」を介したオンライン誕生日会を企画した。参加者は彼女の同僚が中心であり、地面には大きく「ハッピーバースデー・ソフィア」と描かれるなど、DIYで作られたお手製の会となった。当日はパーティクラッカーを鳴らしたり、音楽の演奏やかくれんぼゲームなどをして遊んだようだ。また、同ゲーム内で結婚式も執り行われたことも分かっている。同じく3月には、医科大学に通うAshmush氏はコロナの影響で卒業式と結婚式という記念すべき式の中止を余儀なくされた。落ち込んだ同氏を見た親友と婚約者が「あつ森」を利用して、「オンライン結婚式」を企画したという。そのほかにも卒業式やオンライン会議が行われるなど、世界中で「あつ森」を通して社会的交流が行われていたのだ。
 

4――従来のアバターゲームとの違い

4――従来のアバターゲームとの違い

従来のインターネットを介したアバターによる交流でもこのような行動は確認されていたが、ゲーム内ユーザー同士の仮想的な繋がりよるものが多く、「仮想空間×仮想的な繋がり」によって行われることが多かった。また、確かにオンライン・アバターゲームもユーザー数は多かったのかもしれないが、主にネットゲーム愛好者に支持されており、テレビゲームのようなメジャーコンテンツと比較すると、幅広い層に受け入れられていたコンテンツとは言い難い。例えばアメリカのリンデンラボ(Linden Lab) 社が運営する「Second Life」というサービスはインターネット最大の3D仮想世界としてアバターがユーザーの代わりとなってサイバー空間で生活することができる。このサービス内ではカフェやダンス系クラブを営業して住民と交流したり、画廊、博物館、テーマパーク、ショッピングモールの運営から、コミュニティ放送局、障がい者支援活動など、さまざまな活動やビジネスが営まれている。また、そのような活動で得たセカンドライフ内の仮想通貨は、現実通貨に換金することもできるなど、サイバー空間に一種の社会を見出し、バーチャル世界に生きることができるのである。

しかし、今回の『あつ森』における社会的交流は「仮想空間×現実社会における繋がり」によって行われており、これは社会活動の「場」が現実世界からサイバー空間へと移行されていたことを意味する。従来のアバターゲームが余暇活動として行われていた一方で、『あつ森』で文化的交流を行うという一種のムーブメントは、全世界で“外出ができない”という不自由さを共有していた点で生まれたのである。言うなれば本来なら現実社会で行うはずだった文化的交流を代替する場としてサイバー空間が選ばれ、「#PlayApartTogether(一緒に離れて遊ぼう)」の精神の下、生活者が自発的に行った行動が、どうぶつの森で文化的行為を行うという文化を生んだのである。世界が同時に同じ問題に直面するという奇異な状態で、「あつ森」が一つのソリューションとして選ばれていたといえるだろう。
 

5――どうぶつの森での交流はソサイエティ5.0の一側面といえるのか

5――どうぶつの森での交流はソサイエティ5.0の一側面といえるのか

今回は、たまたまコロナによるロックダウンと「どうぶつの森」の発売日が合いまったことで、この「どうぶつの森」というコンテンツが選考されたが、今後このように社会的な「場」がサイバー空間に移行していく可能性は大いにあるだろう。実際にアメリカなどではコロナ収束まで大学の授業がオンラインによって行われることが予定されているなど、日常における物理的な繋がりをサイバー空間が代替している。このように物理的な繋がり×サイバー空間によって生まれる「場」は日本が提唱する未来社会のコンセプトであるソサイエティ5.0(Society 5.0)の一側面を垣間見ることができると、筆者は考えている。ソサイエティ5.0とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する新たな未来社会のことで、科学技術基本法の第5期(2016年度から2020年度の範囲)でキャッチフレーズとして登場した。前安倍政権が掲げていた「成長戦略」においても、日本社会の抱える課題を解決する重要なキーワードになっていた。ICTやIoTなどのデジタル革新により、「社会のありよう」を変えることによって、社会が抱える様々な課題を解決しようとする政策といえるだろう。もともとコロナ禍が起こる前から、テレワークやオンライン診療、遠隔授業など、遠隔で何かを実施するという社会の流れがあり、国がソサイエティ 5.0という言葉を使って推進しようとしていた。そこへ新型コロナ対策により、その流れが一気に加速したのである2。もちろんこの政策の意図は、少子高齢化・地域格差・貧富の差などのマクロ的な課題を解決することにあるのだが、ソサイエティ5.0によって一人ひとりが快適に暮らせる社会を実現するという視点からみると、物理的な場がサイバー空間によって代替されることで利便性が増えるという点もソサイエティ5.0の一側面と捉える事はできるのではないかと、筆者は考えた。  

6――今こそ#PlayApartTogether

6――今こそ#PlayApartTogether

東京都によると、2020年11月19日、都内で新たに500人以上が新型コロナウイルスに感染していることが確認され、1日の人数としては初めて500人を超え過去最多であったという。東京都内では感染の確認が再び増加し、都は19日午後に、感染状況の警戒度を最も高いレベルに引き上げたほか、専門家は「急速な感染拡大の局面を迎えたと捉え、今後深刻な状況を厳重に警戒する必要がある」と指摘している3

世界的に見ても、新型コロナウイルスの世界の感染者は累計で5,560万人を超え、死者は134万人を上回る。米国では感染者数が11月19日時点で1,149万人を超え、なお増加傾向が続いている4。イギリスでは1日の新規感染者が2万人を超える日が続き、感染第2波で医療体制が圧迫されつつあることから、ジョンソン首相は10月31日に、11月5日から12月2日までの約4週間、イングランド全域でロックダウン措置を再導入すると発表した。フランスも10月30日から12月1日までの約1カ月間、全土でロックダウンを実施しており、生活必需品の購入や医療処置のための通院、運動のために毎日1時間外出する以外は自宅待機を国民は命じられている。ドイツでも、新型コロナウイルスの感染再拡大を受け、11月2日から11月30日までの約1カ月間で部分的なロックダウン措置が実施されており、レストランやバー、スポーツジム、プール、映画館、劇場が閉鎖されているほか、集会は2世帯、10人以下に制限され、不要不急の旅行の自粛などが促されている。また、新型コロナウイルスの「第2波」で感染者数が急増しているイタリアでは、感染拡大が特に深刻な地域でのロックダウンが11月6日から12月3日まで適用される。

感染「第2波」に見舞われる欧州や「第3波の席巻」とも伝えられる米国を中心に、冬が本格化するに従って感染増加ペースが加速している5。一度緩んだ気持ちを引き締めるのは困難であるが、極力外出を控えることを我々は再度求められている。「物理的に距離を置き」「他の手段で感染者の増加を抑え」「命を救う」その手段としてゲームは新型コロナ流行以降も期待されてきた。いま改めて、#PlayApartTogetherの精神をもち、我々はゲームやリモートという「仮想空間×現実社会における繋がり」という“場”で、友人知人との会食や不要不急の外出などの娯楽とを代替すべき時なのかもしれない。
 
3 https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/monitoring.html
4 新型コロナウイルス感染症についての最新情報は、 厚生労働省、 内閣官房、 首相官邸 のウェブサイトなど公的機関で発表されている情報も合わせてご確認ください。
5 https://www.jiji.com/jc/article?k=2020110800623&g=int
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
          ニッセイ基礎研究所入社

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

(2020年11月25日「基礎研レター」)

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