2020年11月24日

米大統領・議会選挙-バイデン前副大統領が勝利確実。議会は上下院で多数党の異なるねじれ議会が濃厚に

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

世界が固唾を呑んで見守っていた米大統領選挙が終了した。本稿執筆時点ではトランプ大統領が敗北宣言を拒否しているほか、複数の州で選挙結果に対する訴訟を提起しており、正式な勝者は確定していない。しかしながら、バイデン前副大統領の選挙人獲得見込みが306人と過半数の270人を大幅に上回っており、訴訟によって選挙結果が覆る可能性は低いため、事実上バイデン氏の勝利が確実となっている。

一方、議会選挙では下院で前回選挙から議席数を減らしながらも民主党が過半数を維持することが確実となった一方、上院では1月5日のジョージア州での決戦投票の結果によって多数党が決まることになった。現状、決戦投票で民主党が2議席を獲得するのは難しいとみられており、上院は共和党が過半数を維持する可能性が高くなっている。このため、上下院で多数党の異なるねじれ議会になるとみられ、与野党対立から議会が政治的な機能不全となることが懸念される。

本稿では大統領、議会選挙の結果を総括し、バイデン次期大統領の新型コロナ対策や追加経済対策の概要をまとめた。足元で新型コロナの感染再拡大に伴い、一部地域では経済活動を再制限する動きとなっており、新型コロナ対策や追加経済対策がバイデン次期大統領にとって喫緊の政策課題となっている。ねじれ議会が政策の実現にどのような影響を与えるのか注目される。
 

2.大統領・議会選挙結果

2.大統領・議会選挙結果

(図表2)大統領選挙結果 (大統領選挙結果):バイデン前大統領の当選が確実
11月3日に行われた大統領選挙は、バイデン前副大統領の選挙人獲得見込みが306人となり、過半数の270人を大幅に上回り、バイデン氏が事実上当選を確実にした(前掲図表1、図表2)。また、バイデン氏の獲得した州・特別区は全部で26となり、こちらもトランプ氏の25を上回った。
(図表3)主要接戦州の動向(得票率) 州毎の勝敗を仔細にみると、前回(16年)の大統領選挙でトランプ氏が勝利した接戦州のうち、フロリダ州やオハイオ州ではトランプ氏が勝利した(図表3)。しかしながら、元々民主党の基盤で今回の大統領選挙で勝敗の鍵を握るとみられていたラストベルトと呼ばれる中西部のミシガン州、ウィスコンシン州、ペンシルバニア州でいずれもバイデン氏が雪辱を果たした。さらに、アリゾナ州やジョージア州など元々共和党の基盤だった州でもバイデン氏が勝利したことが大勝に繋がった。

トランプ大統領は選挙で不正があったと主張し、アリゾナ州、ジョージア州、ミシガン州、ウィスコンシン州、ペンシルバニア州、ネバダ州などで30件にもおよぶ訴訟を提起しているが、11月20日時点でこのうち19件が既に却下や訴訟撤回に追い込まれている。また、2000年の大統領選挙ではフロリダ州での再集計を巡る訴訟で最終的に連邦最高裁判所の判決が12月12月までズレ込む結果となったが、これはフロリダ州の結果次第でブッシュ氏とゴア氏の勝敗が変わる可能性があったためで、大差が着いた今回の選挙では訴訟の結果によってバイデン氏の勝利が覆る可能性が低いことから、2000年のように訴訟が長期化する可能性は低いとみられる。
(図表4)大統領選挙の投票率 一方、今回の選挙における得票数は11月20日時点でバイデン氏が79.64百万票(得票率:51.0%)、トランプ氏が73.66百万票(得票率:47.2%)となった。これは、08年にオバマ氏が当選した時の69.5百万票を上回って両者ともに史上最多の得票となった。

また、投票率は11月16日時点で66.6%と推計されており、1900年の73.7%以来およそ120年ぶりの高水準となることが見込まれている(図表4)。

このように、得票数や得票率をみると、今回の大統領選挙に対して有権者の関心が如何に高かったか分かる。
(出口調査結果):党派性を反映。「経済」や「新型コロナ」などが重要な争点
ニューヨークタイムズによる全米およそ1万6千人を対象にした出口調査結果では、バイデン氏の得票率が女性、若年層、非白人層、高学歴層でトランプ大統領を上回った(図表5)。とくに、人種別ではバイデン氏の得票率が黒人で87%、ヒスパニックで66%、アジア系で63%とリードが大きかったことが分かる。
(図表5)米大統領選挙出口調査(得票率)
一方、支持政党別の得票率では、民主党、共和党ともに支持者の94%が支持政党の候補者に投票した。これは前回の大統領選挙の出口調査で民主党支持者の89%がクリントン氏に、共和党支持者の90%がトランプ氏に投票していたのに比べても高い数値となった。このため、今回の大統領選挙における投票先は支持政党による党派性をより反映したものになったと言える。

次に、投票先を決める上で最も重要な争点に関しては「経済」との回答が投票者全体の35%と最も高く、次いで「人種差別」(同20%)、「新型コロナ」(同17%)の順となった。これを投票先でみると、「経済」と回答した83%がトランプ氏に投票した一方、「人種差別」と回答した92%、「新型コロナ」と回答した81%がバイデン氏に投票しており、重要争点に対する考え方の違いによって投票先が大きく分かれる結果となった。

米国では新型コロナの感染拡大と、感染対策として経済活動を制限したことから春先に経済が大幅に落ち込んだ。その後、経済活動を段階的に再開したことから、景気回復基調に転じたものの、依然として新型コロナの感染拡大は続いている。このため、新型コロナの感染対策と経済活動の維持をどうバランスするのか難しい舵取りを迫られている。出口調査では「新型コロナ対策」と「経済」のどちらを重視するのかによって投票先は大きく異なった。「新型コロナ対策」が重要と回答した79%がバイデン氏に投票した一方、「経済」と回答した78%がトランプ大統領に投票した(図表6)。
(図表6)米大統領選挙出口調査結果(得票率)
(議会選挙結果):下院は民主党が過半数、上院は未定も共和党が過半数維持の可能性
大統領選挙と同時に行われた議会選挙では下院(435議席)の全議席が、上院(100議席)の35議席が改選された。下院は11月20日時点で民主党が222議席と過半数(218)を上回る議席を獲得した(図表7)。もっとも、足元で勝敗未定の議席が5議席残っているものの、民主党は改選前の233議席から議席を減らすことが明らかになった。
(図表7)下院選挙結果 一方、上院は共和党が50議席を獲得して過半数(51議席)に迫っている。勝敗未定の2議席はいずれも1月5日に行われるジョージア州での民主党と共和党候補による決戦投票で決まる。ジョージア州では現職の共和党議員と高齢で引退した共和党議員の後任の2議席が争われたが、いずれの候補も過半数の得票が無かったため、得票上位2人による決戦投票が行われることになった。足元の選挙情勢は共和党現職のパーデュー氏が逃げ切る可能性が高くなっているため、上院では共和党が辛くも過半数を維持する可能性が高い。このため、大統領に加え上下院で民主党が過半数を獲得する「オールブルー」の可能性は後退した。

このようにみると、大統領選挙では民主党のバイデン氏が勝利を確実にしているものの、議会選挙は実質的に民主党の敗北と評価できる。米国の有権者はトランプ大統領の続投には反対したものの、民主党議会の信任はしなかったと言えよう。

この結果、来年1月からの第117議会は現在の第116議会、オバマ大統領2期目前半の第113議会以来のねじれ議会となる可能性が濃厚となった。
(ねじれ議会の影響):与野党対立で議会が機能不全となる可能性
最近の傾向として、米議会は民主党議員がよりリベラルに、共和党議員がより保守的な投票行動になっており、超党派での合意が難しくなっている。このため、議会における法案成立数と成立率は趨勢的に低下している(図表8)。
(図表8)米議会における法案成立数と成立率 さらに、ねじれ議会では与野党の対立から、上下両院で法案を通過させることが非常に困難になることが見込まれる。実際にねじれ議会となったオバマ政権時代の第112議会と第113議会では法案成立数が300を切るなど上下院で多数政党が同一の議会に比べて法案成立数が低くなっている。また、現在の第116議会は任期を2ヵ月残しているものの、足元で193本の法案成立に留まっており、成立率も1%と史上最低水準になる可能性が高く、ねじれ議会における議会の機能不全が顕著だ。

このため、バイデン次期大統領が政権公約に掲げた富裕層や企業向けの増税、環境規制緩和や社会保障を充実させるための歳出拡大などは、上院共和党議員の反対にあって実現するのは難しくなるだろう。
 

3.バイデン次期大統領の喫緊の課題

3.バイデン次期大統領の喫緊の課題

(新型コロナ対策・追加経済対策):大規模な追加経済対策を目指すものの、実現は難しい
バイデン次期大統領は、政権移行に向けた準備を進める中、11月9日には早くも13人の専門家からなる新型コロナの対策チームを立ち上げるなど、新型コロナ対策を最大の政策課題としている。バイデン氏は、ワクチンの有効性が発表されたことを評価した上で、ワクチンが全米に普及するまでの数ヵ月間は有効な予防手段としてマスク着用や社会的な距離の確保を求めるなど公衆衛生対策の強化を目指している。

さらに、これらの公衆衛生対策と並行して就任直後から総額3兆ドルを超える大規模な追加経済対策の実現を目指すと思われる(図表9)。バイデン氏が選挙期間中に掲げてきた追加経済対策としては、今年4月以降に実施された成人1人当たり1,200、子供500ドルの直接給付を再び実施することや、7月末に期限切れとなった失業保険の週600ドルの追加給付を期限の延長をして復活させることが盛り込まれた。また、失業後も保険料を払い続けることで勤めていた企業の医療保険を一定期間維持できる制度(COBRA)で保険料を連邦政府が100%保障する政策なども盛り込まれた。
(図表9)バイデン次期大統領の追加経済対策の概要
一方、現議会では下院民主党が2.2兆ドル規模の追加経済対策を要求する一方、上院共和党は直接給付の第2段や州・地方政府支援など民主党が求める政策を拒否し、民主党案を大幅に下回る5,000億ドル規模とすることを求めている。このため、与野党で要求金額の差が大きく政策合意の目途は立っていない。

バイデン次期大統領は下院民主党と共に大規模な追加経済対策の実現を目指すと予想されるものの、ねじれ議会となる場合には野党共和党の反対によって法案成立が難しくなるとみられることから、経済対策規模の縮小を余儀なくされよう。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年11月24日「Weekly エコノミスト・レター」)

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