2020年11月17日

特別定額給付金の使い道(2)-貯蓄する理由は経済不安か、外出自粛で使い道がないためか

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~コロナ禍で増える預金、給付金の使い道でも2位「貯蓄」(26.1%)

図表1 実質預金(対前年同月末増減率)の推移 コロナ禍において銀行口座の預金は増加傾向にある(図表1)。この理由として、雇用環境の不安定化や収入減少などの経済不安があるために消費を控えて貯蓄に努める消費者が増えていること、あるいは、感染の収束が見えない中で旅行やレジャー、外食などの外出行動を控えて使い道がないために貯蓄としてとどめる消費者が増えていることなどが考えられる。

特別定額給付金の使い道1で見た通り、ニッセイ基礎研究所の調査でも、2位に貯蓄(26.1%)が上がっている(1位は「生活費の補填」53.7%)。

前稿では、給付金の使い道について、主に性別や年代、所得などのデモグラフィック属性による違いを捉えたが、意識面などのサイコグラフィック属性については十分に分析をしていない。よって、本稿では、給付金の使い道における貯蓄選択者に注目しながら、あらためて経済不安や今後の見通しなどによる違いを捉える。
 
1 久我尚子「特別定額給付金の使い道」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2020/7/9)
 

2――経済不安や今後の見通し別に見た給付金の使い道

2――経済不安や今後の見通し別に見た給付金の使い道~経済不安で貯蓄、不安がないと消費

1|経済不安別~雇用悪化・収入減少等の不安のある層は貯蓄、不安のない層は旅行や外食などの消費
給付金の使い道の上位10位までの項目について、「自分や家族の感染による収入減少」をはじめとした経済不安のある割合を見ると、貯蓄選択者では、全体と比べておおむね高くなっている(図表2・3)。全体より5%以上高いものについて差の大きい順に見ると、「自分や家族の感染による収入減少」(全体より貯蓄選択者は+7.9%pt)、「自分や家族の感染によって仕事を失う」(+6.7%pt)、「(感染によらずコロナ禍において)自分や家族の収入減少」(+6.6%pt)、「日本経済が悪化し、国内の企業業績や雇用環境が悪化」(+5.6%pt)、「勤務先の業績悪化による収入減少、雇用の不安定化」(+5.4%pt)となっている。

つまり、給付金を貯蓄している消費者は、外出自粛で使い道がないために貯蓄にとどまっているというより、コロナ禍における経済不安が強いために意識的に貯蓄にとどめているという色合いが強い。

なお、前稿で見た通り、貯蓄選択者は、デモグラフィック属性別には、女性や30歳代、小学生以下の子どものいる世帯で多いほか、正社員・正職員や専業主婦・主夫、就業者の業種別には運輸・郵便・卸売・小売業で多い傾向もある。
図表2 経済不安別に見た特別定額給付金の使い道 上位10位(複数選択)
図表3 全体と給付金の使い道で貯蓄選択者の経済不安のある割合
以上を合わせると、子どもの教育費など将来的に比較的大きな出費の予定があったり、テレワークによる在宅勤務などが難しく感染によって仕事に直接的な影響が及ぶ就業者などで、経済不安から、給付金を貯蓄としてとどめている様子がうかがえる。なお、給付金を子どもの教育に費やす消費者では、図表2にあげた全ての経済不安において、不安のある割合が全体を上回る。

一方で、国内旅行や外食、ファッション、家具・インテリアの購入など必需性の低い消費項目に費やしている消費者では、「自分や家族の収入減少」などのいくつかの項目において、不安のない割合が全体を上回る。つまり、経済不安のない層では給付金を積極的に使っている様子がうかがえる。ただし、感染状況の収束が見えない中では、一旦、旅行などを保留しているために、見た目上、貯蓄にとどまってる部分もあるだろう。なお、給付金を使っているとはいえ、生活費の補填にあてている消費者は、当然ながら経済不安が強い傾向がある。
2|今後の見通し別~経済・雇用環境回復に悲観的な層は貯蓄、比較的楽観的な層は消費
同様に、経済面をはじめとした今後の見通しについて見ても、貯蓄選択者では全体と比べて悲観的な見方が強い(図表4・5)。そう思わない割合が全体より5%以上高いものについて見ると、「1年以内に日本経済が回復」(+6.5%pt)、「1年以内に日本の雇用環境が回復」(+5.2%pt)となっている。

つまり、給付金を貯蓄している消費者は、コロナ禍における現在の経済不安だけでなく、今後の経済不安も強いために、貯蓄にとどめている様子がうかがえる。なお、給付金を貯蓄している消費者同様、給付金を子どもの教育に費やす消費者では全体と比べて悲観的な見方が強い。

一方で、外食やファッション、家具・インテリアの購入など必需性の低い消費項目に費やしている消費者では、「1年以内に自分や家族の収入など就労状況が回復」などのいくつかの項目において、そう思う割合が全体を上回る。つまり、現在の経済不安がなく、今後の見通し比較的楽観的な層では給付金を積極的に使っている様子がうかがえる。
図表4 今後の見通し別に見た特別定額給付金の使い道 上位10位(複数選択)

3――コロナ禍における貯蓄増は若い世代ほど経済不安の強さも

3――コロナ禍における貯蓄増は若い世代ほど経済不安の強さも、背景を丁寧に読み解く必要あり

先日、メディア等で報道されたように、「貯蓄が増えているために、お金に困っている人は少ない」との見方もあるようだが、本稿で見た通り、少なくとも給付金が貯蓄にとどまっている理由は主に経済不安の強さによるものである。また、子どもの教育費に費やす背景にも同様に経済不安の強さがある様子が見えた。つまり、貯蓄額は見た目上、増えているが、特に子育て世代以下の比較的若い世代では、経済不安の強さから、給付金を貯蓄したり、節約に努めるなどして、貯蓄を増やしている可能性もある。

これまでにも述べたように、そもそも若い世代ほど、非正規雇用者が増えており、正規雇用者でも賃金水準は低下している3。また、足元では企業業績の悪化によって、新卒の就職活動は厳しい状況にある。よって、若い世代ほど、一層、将来の経済不安は強まる状況にもあり、特に、比較的若い現役世代については、貯蓄が増えているからといって、決して経済状況に余裕があるわけではない。データとして見える事実と、その背景については丁寧に読み解く必要がある。

ニッセイ基礎研究所では継続的に「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」を実施している。今後とも、給付金の使い道をはじめ、コロナ禍における家計支援策や需要喚起策等の状況を分析していく予定だ。
 
3 久我尚子「求められる氷河期世代の救済」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2019/7/2)や「求められる20~40代の経済基盤の安定化」ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2017/5/17)など。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

(2020年11月17日「基礎研レター」)

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