2020年11月16日

QE速報:7-9月期の実質GDPは前期比5.0%(年率21.4%)-内外の経済活動の再開を受けて大幅プラス成長

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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●7-9月期は前期比年率21.4%の大幅プラス成長

本日(11/16)発表された2020年7-9月期の実質GDP(1次速報値)は、前期比5.0%(前期比年率21.4%)と4四半期ぶりのプラス成長となった(当研究所予測10月30日:前期比3.8%、年率16.1%)。成長率のプラス幅は1980年以降のGDP統計(簡易遡及系列を含む)では最大となった。

緊急事態宣言の解除や特別定額給付金の効果から、民間消費が前期比4.7%の大幅増加となったことに加え、世界的な経済活動の再開に伴い輸出が前期比7.0%の高い伸びとなる一方、輸入が前期比▲9.8%の大幅減少となったことから、外需寄与度が前期比2.9%(前期比年率12.2%)と成長率を大きく押し上げた。

一方、企業収益の急速な悪化や先行き不透明感の高まりを背景に設備投資は前期比▲3.4%と2四半期連続の減少となったほか、緊急事態宣言下で着工戸数が落ち込んだことを反映し、住宅投資は前期比▲7.9%と4四半期連続で減少した。
 
名目GDPは前期比5.2%(前期比年率22.7%)と4四半期ぶりの増加となり、実質の伸びを上回った。GDPデフレーターは前期比0.3%(4-6月期:同0.4%)、前年比1.1%(4-6月期:同1.4%)であった。
 
2020年7-9月期の1次速報と同時に基礎統計の改定や季節調整のかけ直しなどから過去の成長率も遡及改定され、2020年4-6月期の実質GDP成長率は、外需の下方修正を主因として前期比年率▲28.1%から同▲28.8%へと下方修正された。
<需要項目別結果>
<需要項目別の動き>
民間消費は前期比4.7%と4四半期ぶりに増加した。表面的には高い伸びとなったが、4-6月期の落ち込み(▲8.1%)を踏まえれば、回復のペースは鈍い。

緊急事態宣言の解除を受けて財を中心にペントアップ需要が顕在化したこと、1人当たり10万円の特別定額給付金の支給によって家計の可処分所得が大幅に増加したことが、消費の押し上げ要因となった。一方、外食、旅行、娯楽などの対面型サービスについては、「Go Toキャンペーン」による押し上げはあるものの、新型コロナウイルス陽性者数の再拡大などを背景に自粛ムードが払拭されていないことから、引き続き低水準にとどまっている。

実質家計消費の内訳を形態別にみると、自動車、家電製品などの耐久財(前期比4.0%)、被服・履物、家具などの半耐久財(同1.5%)、食料品などの非耐久財(同2.1%)、交通、外食、旅行、宿泊などのサービス(同6.6%)がいずれも増加した。サービスの伸びが最も高かったが、4-6月期の大幅な落ち込み(前期比▲12.1%)の反動による部分が大きく、7-9月期の水準は1-3月期を▲6.3%下回っており、耐久財(▲1.3%)、半耐久財(▲2.4%)、非耐久財(▲2.0%)よりも落ち込み幅が大きい。

雇用者報酬は名目・前年比▲2.2%(4-6月期:同▲2.8%)、実質・前年比▲3.0%(4-6月期:同▲3.5%)となり、いずれも2四半期連続のマイナスとなった。4-6月期に続き雇用者数、一人当たり賃金ともに減少した。
 
住宅投資は前期比▲7.9%と4四半期連続で減少した。新設住宅着工戸数(季節調整済・年率換算値)は外出自粛の影響が顕在化した2020年4-6月期に80.0万戸と水準を切り下げた後、7-9月期は82.1万戸と若干持ち直したが、工事の進捗ベースで計上されるGDP統計では減少が続いた。先行きについては、雇用所得環境の悪化が下押し要因となるため、住宅投資の低迷は長期化する可能性が高い。
 
設備投資は前期比▲3.4%と2四半期連続で減少した。企業収益の悪化や先行き不透明感の高まりが設備投資の抑制につながった。テレワークや遠隔サービス関連など一部の投資は拡大しているものの、全体としては、企業収益の悪化や景気の先行き不透明感の高まりから、投資計画を先送り、中止する動きが強まっている。
 
政府消費は前期比2.2%の大幅増加となった。4-6月期は外来受診者の急減による医療費の減少が政府消費を大きく押し下げたが、7-9月期はその動きが緩和されたことに加え、Go Toトラベル事業の政府負担分が押し上げ要因となった。
 
公的固定資本形成は前期比0.4%と2四半期連続で増加した。公的固定資本形成は、災害復旧や「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」に基づく公共事業関係費の積み増しを背景に増加傾向が続いている。
 
外需寄与度は前期比2.9%(前期比年率12.2%)と3四半期ぶりのプラスとなった。輸出が大幅に増加する一方、輸入が大幅に減少したため、7-9月期の経済成長の6割弱が外需によるものとなった。

インバウンド需要がほぼ蒸発した状態が続いたため、サービスの輸出は前期比▲8.1%となり、大幅に落ち込んだ4-6月期(同▲11.3%)から一段と減少したが、世界的な経済活動の再開を受けて財の輸出が前期比11.0%の高い伸びとなったため、財貨・サービスの輸出は前期比7.0%の増加となった。

一方、財貨・サービスの輸入は前期比▲9.8%の大幅減少となった。パソコン、携帯電話、マスクなどの消費財が増加した4-6月期の反動や国内需要の回復ペースの鈍さを反映したものと考えられる。
(経済活動正常化に向けた足取りは重い)
2020年7-9月期は内外の経済活動の再開を受けて、大幅なプラス成長となったが、過去最大のマイナス成長となった4-6月期の落ち込みの6割弱を取り戻したにすぎない。また、日本経済は新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化する前に、消費税率引き上げの影響で落ち込んでいた。直近のピークである2019年7-9月期と比較すると、2020年7-9月期の実質GDPは▲5.9%、民間消費は▲7.2%低い水準にとどまっている。経済活動の正常化に向けた足取りは重い。

景気は2020年5月を底として持ち直しているが、外食、宿泊、娯楽などの対面型サービス消費が引き続き低水準にとどまっていること、ペントアップ需要や特別定額給付金による効果が一巡しつつあることから、消費の回復ペースは鈍化している。また、欧米で新型コロナウイルス陽性者数の増加を受けて再び経済活動を制限する動きが広がっており、このことが輸出の下押し要因となる可能性が高い。

経済正常化に向けた動きが継続することから、10-12月期も高めの成長となるものの、7-9月期の経済成長を牽引した民間消費、輸出の伸びが鈍化することから、7-9月期からは大きく減速する可能性が高い。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2020年11月16日「Weekly エコノミスト・レター」)

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