2020年11月06日

健康投資管理会計ガイドラインについて〔1〕-健康投資管理会計ガイドラインの位置づけと狙い

小林 直人

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1――「はじめに」

健康経営の推進に向けて、経済産業省を事務局として「健康投資の見える化」検討委員会が設置され、健康投資管理会計ガイドライン(以下、「ガイドライン」)の策定及び健康投資を促進するための諸方策が、公開の場で議論されていた。

第1回「健康投資の見える化」検討委員会では、2020年4月頃にガイドラインのとりまとめ予定とされていたが、第4回「健康投資の見える化」検討委員会では、2020年7月頃にとりまとめ予定と変更され、2020年6月にガイドラインが策定・公開されている1

本稿と次稿以降の数回に分けて経済産業省のホームページをもとに、ガイドラインについて紹介する。
 
1 経済産業省「『健康投資管理会計ガイドライン』を策定しました」(2020年6月12日)(https://www.meti.go.jp/press/2020/06/20200612001/20200612001.html, 2020年9月23日最終閲覧)、経済産業省「『健康投資管理会計ガイドライン』について」(https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoutoushi_kanrikaikei_guideline.html, 2020年9月23日最終閲覧))。
 

2――健康投資管理会計ガイドラインの位置づけと狙い

2――健康投資管理会計ガイドラインの位置づけと狙い

経済産業省は、企業等における健康経営®2の取組をさらに促進するため、ガイドラインを策定したと説明している。

同省は、ガイドラインの活用について、健康経営の取り組みの程度を以下の4つのステップに分けて以下のように説明している(図表1参照)。
図表1:健康経営のステップ
ステップ1の健康経営をまだ始めていない企業とステップ2の健康経営を始めたばかりの企業については、『企業の「健康経営」ガイドブック』や『健康経営度調査票』といった、手引き等を活用し、組織体制や具体的な施策、PDCAの意識等、健康経営の基礎的な考え方を参考に、健康経営を進めることができる。

ガイドラインの活用を想定されているのは、ステップ3の健康経営のPDCAを回している企業とステップ4の健康経営の効果や評価を社外開示している企業である。ステップ3の健康経営のPDCAを回している企業は、ガイドラインを活用し、管理会計の手法を用いて内部管理を行うことで、適切な経営判断やPDCAサイクルの下で健康経営を効率的・効果的に実施することができる。ステップ4の健康経営の効果や評価を社外開示している企業は、ガイドラインを活用することで、健康経営の取組状況について外部と適切に対話することができ、それにより、資本市場を始めとする様々な市場から適切な評価を受けることにつながる。

企業等はガイドラインを活用して健康投資管理会計を作成することで、以下の(1)内部機能と(2)外部機能の観点からメリットを享受できる。

(1) 内部機能:健康経営をより継続的かつ効率的・効果的に実施することができる。
(2) 外部機能:健康経営の取組状況について、外部と適切に対話することができる。
 
2 「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
 

3――健康投資管理会計ガイドラインの概要・構成

3――健康投資管理会計ガイドラインの概要・構成

ガイドラインは、ガイドラインの本体と、健康投資管理会計を作成する際に活用できる「健康投資管理会計作成準備作業用フォーマット」から構成されている。

ガイドラインは10章による構成となっている(図表2参照)。
図表2:ガイドラインの構成(目次)
健康投資管理会計作成準備作業用フォーマットは、健康投資管理会計を作成する際に活用できる作業用フォーマット(Excel形式)であり、「戦略マップ」、「健康投資作業用シート」、「健康投資シート」、「健康投資効果シート」、「健康資源シート」の5シートで構成され、それぞれの記入例も付されている。
 

4――健康投資管理会計ガイドラインの内容

4――健康投資管理会計ガイドラインの内容(健康投資管理会計ガイドライン「はじめに」)

これから、ガイドラインに示されている内容について、数回のレポートにわたって解説していくこととするが、まず本レポートでは、冒頭の「はじめに」において記されている内容を見てみよう。

ガイドラインでは、「はじめに」の章で、健康投資管理会計ガイドラインの背景、健康投資管理会計ガイドラインの目的・必要性について記したうえで、健康経営と健康の定義について説明されているので、以下に概述する。
 
(1)健康投資管理会計ガイドラインの背景
健康経営を進める上で、定期健康診断やストレスチェックといった労働安全衛生法等に基づいた、単なる義務的な健康管理を行うだけでなく、企業等が行う労働生産性の向上といった経営課題解決のために必要な健康の保持・増進に向けた取組を追加的に行い、企業等の内部で PDCA サイクルを回すこと、およびその取組を外部へ発信することが重要である。

これまで、国は健康経営の取組の方向性について『企業の「健康経営」ガイドブック』等の手引きを作成するとともに、2014年度から健康経営度調査および企業等の健康経営を顕彰する取組を実施してきたが、今後は、民間主導の取組の更なる活発化が求められており、ガイドラインがその一助になることを期待する。

(2)健康投資管理会計ガイドラインの目的・必要性
健康投資は、各企業等が自主性、積極性および柔軟性を持って行うことが基本である。

国が定める健康経営度調査の項目はあくまで標準的なものにすぎず、取組についても目的や効果に沿った分析を行う手段が少ない等、取組の意志決定や評価に活用する際、一定のハードルが存在する。

このため、ガイドラインはこれまでの取組を踏襲しつつ、企業等が従業員等のために創意工夫し、健康経営をより継続的かつ効率的・効果的に実施するために必要な内部管理手法を示すとともに、取組状況について企業等が外部と対話する際の共通の考え方を提示するものである。

ガイドラインで示す考え方はあくまで一定の枠組みであり、各企業等がその意義を理解した上で、企業等の管理会計の実務や健康経営手法等を踏まえて、柔軟に活用することができる。

(3)健康経営と健康の定義
健康経営は「従業員等の健康の保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること。」である。

企業等にとって、「健康経営」という考えに基づき従業員等の健康の保持・増進を行うことは、労働生産性の向上、企業等のイメージの向上、さらには医療費の適正化等につながることであり、こうした取組に必要な経費は単なる「コスト」ではなく、将来に向けた「投資」であると捉えられる。

そして、ガイドラインで扱う健康の定義は、WHO(世界保健機関)が示すHealth の定義に準じ、以下の通りである3
 
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること。
 
3 「健康投資管理会計ガイドライン」のほか、日本WHO協会「健康の定義について」(https://www.japan-who.or.jp/commodity/kenko.html, 2020年9月24日最終閲覧)参照。
 

5――おわりに

5――おわりに

本稿ではガイドラインの内容について、「はじめに」までを紹介した。第1章「1.健康投資管理会計とは」以降は稿を改めて紹介する予定である。
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小林 直人

研究・専門分野

(2020年11月06日「基礎研レター」)

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