2020年10月13日

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(中国経済-ウィズ・コロナ時代に入る中国経済の成長率は緩やかな低下傾向)
中国では、長らく続いた一人っ子政策の影響で2013年をピークに生産年齢人口(15-64歳)が減少に転じた。人口構成を見ると、これから生産年齢人口になる14歳以下の人口が少なく、定年退職が視野に入り始める50歳台前半の人口が多い。従って、今後も生産年齢人口は減少傾向を続けて、経済成長にマイナスのインパクトをもたらすだろう。

また、従来の成長モデルに限界が見えてきたことも経済成長にはマイナスのインパクトをもたらす。文化大革命を終えて改革開放に乗り出した中国は、外国資本の導入を積極化して工業生産を伸ばし、その輸出で外貨を稼いだ。稼いだ外貨は主に生産効率改善に資するインフラ整備に回され、中国は世界でも有数の生産環境を整えた。この優れた生産環境と安価な労働力を求めて、世界から中国へと工場が集まり世界の工場と呼ばれるようになった。そして高成長期を謳歌した中国だが、経済発展とともに賃金など製造コストも上昇したため、今度は中国から後発の新興国へと工場が流出し始めた。そして、米中対立の激化や「一帯一路」構想の推進は、そうした工場の海外流出を後押しする要因となるため、中国では今後も経済成長の勢いが鈍化していくだろう。

他方、中国政府は従来の成長モデルに代わる新たな成長モデルを築こうと構造改革を進めている。具体的には、外需依存から内需主導への体質転換、労働集約型から高付加価値型への製造業の高度化、製造業中心からサービス産業の育成へなどである。こうした構造改革の実現には時間を要するものの、経済成長にはプラス貢献すると思われる。また、中国で進められている“新型都市化”も経済成長の下支えに貢献しそうである。農村から都市へと労働者が移動すれば、より生産効率が高い分野に労働力が配分されることになり、生産性向上が期待できるからである。これまでも中国では都市化が進んできたが、巨大都市への人口集中、環境問題の深刻化、都市戸籍を持たない農民工(出稼ぎ農民)の待遇など多くの問題も同時に生じた。農民工の待遇改善、中小型都市の開発、環境問題に配慮した都市化など質を重視した“新型都市化”を推進することで、より持続性の高い都市化の進展が期待できる。また、中国の都市化率(総人口に占める都市人口の比率)は2019年時点で60.6%と日本や韓国などと比べてまだ低いことから、2030年には70%前後まで上昇すると見ている。

こうした環境の下、中国政府は“新常態(ニューノーマル)”という旗印を掲げて、安定成長へ移行する方向に舵を切り、第13次5ヵ年計画(2016-20年)では成長率目標を「6.5%以上」へと引き下げた。そして、今後も経済成長の勢いは緩やかな鈍化傾向を辿るだろう。まず足元2020年の中国経済は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)という未曽有の危機に直面した。その爆発的感染(オーバーシュート)を防ぐためには経済活動を制限せざるを得ない一方、経済活動を制限すれば企業の売上高は減少し、仕事を失った従業員が街にあふれ、失業を免れても雇用不安から個人消費は冷え込み、企業の売上高はさらに落ち込むという悪循環に陥る恐れがある。そこで、中国政府は財政・金融をフル稼働させて悪循環を断ち切るモラトリアム的な財政金融政策を実施した。

しかし、そうしたモラトリアム的な財政金融政策は持続不能で、第14次5ヵ年計画期(2021-25年)には高齢化に伴う財政負担増に備えて財政赤字を減らす必要があるのに加えて、過剰債務の解消に向けた債務圧縮(デレバレッジ)を進める必要もあるため、経済成長を押し下げる。但し、新型コロナ禍で加速したデジタル・トランスフォーメーション(DX)が新しい成長モデルへの構造転換にとっては追い風となるのに加えて、ウィズ・コロナ時代に適応するためのスマートシティ化・エコロジーシティ化も“新型都市化” にとっては起爆剤になるなど、経済成長を押し上げる要因もある。従って、成長率目標は「5%前後」に設定されると予想している。また、第15次5ヵ年計画(2026-30年)に入る頃には中国の一人当たりGDPはおよそ2万ドルと現在の台湾並みに上昇するため、欧米企業との競争が激しさを増してイノベーションの勢いは鈍化せざるを得ないだろう。従って、長率目標は「3.5%前後」へ引き下げると予想する。
中国の人口の推理と予測/社会融資総量残高の対名目GDP比の推移
(新興国経済-資本流入の減速も回復を阻害)
新興国経済は世界金融危機後、世界貿易の伸び率の低下、資源ブームの終焉、米利上げに伴う資本流入の低下などの要因が続き、2015年頃までは低調なパフォーマンスが続いた。2016年以降は景気が持ち直したが、2020年に新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われた。新興国でも先進諸国と同様に厳しい封じ込め政策が講じられたが、医療体制が脆弱で衛生環境が整っていないことから感染者の抑制に苦しんでいる国も多い。また、ワクチンや治療薬の入手が先進国と比べて遅れると見られ、ウイルスへの適応に時間を要する国も多いだろう。

また、海外からの資金流入で投資を加速させてきた新興国では、資金流入が途絶えることも回復を阻害させると見られる。新型コロナウイルスの拡大初期には、先進国が手元流動性の確保に動き、リスク回避的な姿勢を強めたことで新興国からの資金流出が見られた。先行きの不確実性が高い状況が続くと見られる中、新興国への投資が弱含む状況が続くと見られる。特にコロナ禍で貿易収支が悪化した国では、経済下支えのための財政赤字が「双子の赤字」を拡大させる。また、中央銀行による金利引き下げは投資国としての魅力を減らすことになる。こうした経済政策が資金流出圧力を強めるため、政策余地が先進国ほど大きくないと言える。

潜在成長力については、人口の増加が期待できる国は多いものの、少子高齢化に伴って生産年齢人口の伸び率は鈍化し、「労働投入の伸び」については緩やかに低下していくと予想される。一方で、インフラ投資需要やデジタル化など生産性改善の余地は大きいため、「資本ストックの伸び」や「生産性向上」には期待できる。ただし、汚職や腐敗、複雑な規制など投資環境が悪い国が多く、「資本ストックの伸び」「生産性向上」を進めるためには、投資環境の改善をはじめとした政府主導での環境整備、規制改革が鍵となるだろう。

新興国の成長率は、予測期間前半は4%を超える高めの成長率を記録するが、予測期間後半にかけて3%台後半まで低下すと予想する。
生産年齢人口の増加率/新興国の経常収支の推移
ブラジルは、世界の中でも新型コロナウイルスの感染者数、死亡者数が多く、コロナ禍の影響を大きく受けている国の1つである。

2019年に誕生したボルソナロ政権は、年金改革を軸とする財政再建や、税制改正や公営企業の民営化、自由貿易の推進といった構造改革に取り組んできており、投資環境の改善に期待が持たれていた。しかし、こうした期待がコロナ禍によって急速に縮小している。

コロナ禍対応では、封じ込め政策のための行動制限導入に反対する大統領が、感染抑制を重視する地方政府や閣僚との対立を深め、閣僚の更迭や辞任が起きている。また経済対策としては、低所得者向けの現金給付などを実施している。現金給付策は、コロナ対策として各国でも類似の政策が実施されているが、これまでのポピュリズム的な政策に回帰するのではないか、といった懸念を浮上させている。感染拡大が止まらないコロナ禍対応で政権への非難が高まる一方、現金給付で支持を集めているという構図となっている。

こうした状況のなか、ブラジルは、これまで進めてきたような財政再建路線への回帰が困難になっていると考えられる。法律で歳出上限が定められ、法律適用外の緊急財源からの支出も資本流出・通貨安リスクを高めるため、政府支出額を過度に増やすこともできないが、これまでよりは財政よりも経済に配慮した政策運営となるだろう。経済成長は、民間企業を中心とした電力、通信、輸送網などへのインフラ投資需要などに支えられる形で進んでいくという経路をたどると見られるが、成長をけん引していた海外からの資本流入が細ることから回復力は弱くなるだろう。

ブラジルの成長率は予測期間前半にはコロナ禍からの反動増でやや高めの成長率を記録するが、実質GDPの水準がコロナ禍前の2019年を回復するのは2023年で、その後は潜在成長率に沿う形で予測期間後半には2%程度まで低下していくと予想する。

ロシアは、新興国の中では生産年齢人口が減少し、労働投入余力が縮小している例外的な国である。足もとでは、新型コロナウイルスによる経済停止の影響に加えて、原油安と欧米諸国との関係激化という逆風にも見舞われている。

新型コロナウイルスの封じ込め政策によるロシア経済への直接の影響は相対的に小さいと見られるが、世界的な経済減速による原油需要や原油価格の低下が、鉱業や輸出の低迷となって経済を落ち込ませている。こうした状況に追い打ちをかけているのが、資源輸出先として緊密だった欧州、特にドイツとの関係悪化である。欧州はコロナ禍からの復興としてグリーンリカバリーを掲げていることから、ロシア産資源への依存度低下が見込まれるが、欧州との関係悪化は、対欧輸出の鈍化をさらに促す可能性がある。

一方、2020年7月に憲法改正の国民投票が実施され賛成多数だったことで、プーチン大統領が2036年まで続投できることになった。大統領自身は続投の意向を明らかにしていないものの、政権移行による混乱を避ける道筋が確保されたことで、予測期間中の国政は比較的安定することが見込まれる。ロシアは新国家目標である「2030年までのロシア発展のための国家目標」でインフラ建設やデジタル化の推進を掲げている。また、欧州が脱炭素化の動きを強めるなか、低炭素エネルギーの開発を進める動きもある。国家目標に向けての投資促進が、欧州のロシア産資源依存の低下にともなう成長率の減速を一定程度抑制するだろう。

ロシアの成長率は予測期間前半にはコロナ禍からの反動増でやや高めの成長率を記録するが、実質GDPの水準がコロナ禍前の2019年を回復するのは2023年、その後は潜在成長率に沿う形で予測期間後半には1%台前半まで低下していくと予想する。

インドはここ数年、停滞気味の経済状況が続くなか、今年の新型コロナウイルスによる経済収縮の影響が世界的にみても深刻なものとなっている。インド政府は今年3月に全国的なロックダウンを実施したものの、スラム街を抱える都市部を中心に感染拡大に歯止めがかからず、現在1日あたりの新規感染者数は世界最多で推移している。またインド政府の財政余力は乏しく、低所得者向けの食料の無料配給や現金給付などの支援策にも限界が近づいたため、6月から段階的な制限解除を進める一方、感染が集中する封じ込めゾーンに限定したロックダウンを実施しており、経済活動と感染防止の両立という難しい舵取りを迫られている。

潜在成長力は、まず人口ボーナスが長期に渡り経済の成長エンジンとなるが、予測期間末にかけて生産年齢人口の増加率が鈍化するため、労働投入の寄与度は徐々に低下しよう。資本投入は旺盛な消費市場を背景とする海外資本の流入やインフラ投資需要への対応などから成長率の押し上げ余地が大きい。しかし、コロナショックを受けて財政赤字と不良債権が拡大するため、アフターコロナでは財政再建の取り組みと銀行の貸し渋りが長期化するとみられるほか、土地収用問題や許認可の遅れにより投資プロジェクトが進まず、資本投入は盛り上がりに欠ける状況が続くだろう。一方、労働生産性は都市化に伴う工業化とサービス化を受けて引き続き向上して潜在成長率を牽引するだろう。またインドのIT産業は世界的な競争力を有しており、物的資本ストックの蓄積の遅れをICTの利活用によってカバーすることも可能とみられる。

インドは、2021年に経済再開に伴う反動増で成長率が上振れるが、その後は新型コロナの感染防止に時間を要して回復が遅れるため、成長率が予測期間中盤にかけて6%台半ばまで上昇する予測期間後半は、潜在成長率の低下に沿う形で6%程度まで成長率が低下すると予想する

ASEAN4(マレーシア・タイ・インドネシア・フィリピン)は、反グローバリズムの台頭や新型コロナウイルスの感染拡大による経済収縮により厳しい経済状況が続いている。

潜在成長力は、予測期間末にかけて人口ボーナスが続くものの、生産年齢人口の増加率が鈍化するため、労働投入の伸びは緩やかに低下していく。しかしながら、資本投入と労働生産性は海外直接投資の拡大や都市化の進展、社会資本ストックの蓄積などを背景に今後も底堅い伸びが見込まれ、成長を下支えるだろう。

ASEANは2015年末にASEAN経済共同体(AEC)を発足させた後、2025年に向けた戦略目標を定め、これまでに情報通信技術(ICT)を活用した電子商取引(EC)の推進や、イノベーションによる生産性の向上など結束を更に強める動きを見せている。また東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉は最終局面を迎えている。今後RCEPが発効すると、ASEANは東アジア貿易の中心地としての地位向上が見込まれる。こうした域内・域外との連携強化は、ASEAN各国が得意分野によって互いに補完し合い、地域として貿易・投資の優位性を高めるものであり、更なるグローバル・サプライチェーンへの参加が期待される。

また米中対立とアフターコロナの時代におけるアジア地域のサプライチェーンの再編において、ASEANの投資先としての優位性が低下することはないだろう。ASEAN各国は、米中貿易摩擦のあおりを受けて中国国内の顧客企業からの発注が減少したものの、中国からの生産移管先として企業の注目を集めることとなった。また今年の新型コロナウイルスの世界的な流行により、企業のサプライチェーンの脆弱性が露呈したため、今後はASEANを活用してサプライチェーンを多元化させる企業の動きが広がると予想される。

もっともASEAN各国は、賃金上昇に伴う製造コストの増加や地域格差の拡大、社会保障制度の整備の遅れなどの共通の課題に加え、経済の成熟度によって異なる構造的課題を有する。例えば、高位中所得国のマレーシアやタイは産業の高度化・高付加価値化への挑戦に技術面の不安を抱えており、また低位中所得国のインドネシアやフィリピンなどはインフラの未整備や不正・汚職の蔓延などビジネス環境の悪さが企業進出を阻んでいる。こうしたボトルネックを解消することができれば持続的成長の確度が高まる一方、各国の取組みが不十分であれば「成長の壁」にぶつかり成長速度が著しく低下しかねず、楽観視はできないだろう。

ASEAN4の新型コロナウイルスの感染状況は国毎に異なる。予測期間前半は、第一波が長引くインドネシアとフィリピンでは感染拡大の抑制に時間を要して経済回復が遅れるだろう。また感染を抑え込んでいるマレーシアとタイでは経済の回復が続くものの、外国人観光客の低迷が景気を下押しする状況が続くだろう。ASEAN4の成長率は2021年にコロナ禍からの反動増で上昇し、その後は予測期間半ばまで4%台後半の横ばいの成長が続く。その後は潜在成長率の低下に沿う形で予測期間末の4%台前半まで成長率が低下するが、総じて安定した成長軌道を維持すると予想する。
 

3. 日本経済の見通し

3. 日本経済の見通し

過去の大型景気との比較(実質GDP) (アベノミクス景気の振り返り)
2012年11月を底として景気回復を続けてきた日本経済は、海外経済の減速を背景とした輸出の低迷を主因として2018年10月をピークに景気後退局面に入った。安倍政権発足と同時に始まった「アベノミクス景気」の回復期間は71ヵ月となり、「戦後最長景気(2002年2月~2008年2月)」の73ヵ月に続く長さとなったが、その間の経済成長率は、消費税率引き上げが実施され景気が足踏み状態となっていた期間が長かったこともあり、過去の大型景気と比べて低かった。アベノミクス景気の期間中の実質GDP成長率(年平均)は1.1%となり、いざなぎ景気(11.5%)、バブル景気(5.3%)、戦後最長景気(1.6%)を下回るだけでなく、現行のGDP統計で遡ることができる1955年以降の回復局面(第4循環~第16循環)で最も低い伸びにとどまった。

アベノミクス景気のもうひとつの特徴は、企業部門(輸出+設備)が好調だったのに対し、家計部門(消費+住宅)が低調だったことである。2012年10-12月期の景気の谷から2018年10-12月期までの伸び(年平均)を需要項目別にみると、輸出(5.0%)、設備投資(3.2%)は比較的高い伸びとなっていたが、民間消費(0.4%)、住宅投資(0.0%)は実質GDPを大きく下回る伸びにとどまった。実質GDP成長率に対する民間消費の寄与度は0.2%で、経済成長率の押し上げにほとんど寄与しなかった。
アベノミクス景気の期間中の実質家計消費支出の伸びを要因分解すると、1人当たり賃金は伸び悩んだものの雇用者数が大幅に増加したことから雇用者報酬は高い伸びとなったが、マクロ経済スライドや特例水準の解消による年金給付額の抑制、年金保険料の段階的引き上げなどが可処分所得を大きく押し下げた。さらに、消費税率引き上げの影響もあって、家計消費デフレーターが0.5%上昇し、実質ベースの可処分所得の目減りにつながったこと、若年層を中心に消費性向が低下したことが消費の伸びを抑制した。
景気回復期の需要項目別寄与度(1990年以降)/実質家計消費支出の要因分解(1990年以降)
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