2020年10月05日

アジアデジタル共通通貨の発行方法・手順および検討課題について

国際協力機構専門家 アジア開発銀行コンサルタント 乾 泰司

大阪経済大学経済学部教授 ニッセイ基礎研究所 客員研究員 高橋 亘

伊藤忠商事理事 石田 護

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【別添】国際機関(例えばAMRO)による分散台帳技術(DLT)を活用した ACU債を発行について

国際機関(例えばAMRO)がACU債をタイで発行する場合、保管振替先は、TSD(Thailand Securities Depository)となる。タイの中央銀行であるBOT (Bank of Thailand)が、資金決済を行うことになる。また、タイの場合は中銀が登録機関となる36。発行したACU債は、ASEAN+3の中央銀行(ないしは政府機関)が購入し、同債券を裏付としてデジタル通貨(ADCC/AMROコイン)を発行するということになる。関係先は次の通りとなる。
関係先
各国/エコノミーにおいて、中銀およびCSDのサポートを得てAMROがACU債を発行することとなる。発行の一般的な流れは、従来の公社債の発行と同様な手順となる方向。タイにおける検討を参考とし、ACU債発行のフロー案として、次の通りを想定する。
ACU債発行のフロー案
i) 国際機関(例えばAMRO)がACU債発行者として、発行に必要な条件を明示する。
ii) タイ中銀が国際証券コード(ISIN: International Securities Identification Number)の付番をタイの証券付番機関(NNA)であるTSDに要求する。
iii) TSD(NNA)がISINを付番する。
iv) 国際機関(例えばAMRO)がACU債の発行を公表する。
v) ASEAN+3の中央銀行(ないしは政府機関)がACU債購入のための手続き(データ入力等)を行う。
vi) 国際機関(例えばAMRO)がACU債の販売を終える。
vii) CSDおよびRTGSシステムにおいてACU債購入のDVP決済を行う。
viii) 各国/エコノミーの中央銀行(ないしは政府機関)が、購入したACU債をベースとしてADCC/AMROコインを発行する。ADCC/AMROコインを発行する額としては、例えば購入したACU債比どの程度(例えば200%)まで発行可能といったことについて合意する必要。

ASEAN+3の他の国/エコノミーにおいても、登録機関の役割を何処が担うかなどについては国/エコノミーにより違いがあるものの、基本的な構成・事務の流れは同じと言える。
 
DLTを活用したACU債発行のイメージを示すと次の通り。
DLTを活用したACU債発行のイメージ
例えば、タイでACU債券を発行する場合、国際機関(例えばAMRO)が発行総額を事前に提示し、ASEAM+3各国/エコノミーの中央銀行(ないしは政府機関)が購入する場合どの程度ACU債券が残っているのか(Remaining amount)、また、同中央銀行(ないしは政府機関)が購入できる限度(Purchasing Quota)といったことをチェックする仕組みが必要となる。ここでは、分散台帳技術のなかでHyperledger Fabricを利用し、チェーンコード37というプログラムにより確認することを想定している。このような閾値を分散台帳の機能により事前にチェックすると共に、実際の債券購入・決済に際し関係先を明確に示しつつ整合性を確保できる処理を採用する。なお、このような確認に責任を持つ機関(endorser)として中央銀行と証券保管振替機構(CSD)が機能することとなる。
 
ASEAN+3の中央銀行(ないしは政府機関)によるACU債の発行・購入は、タイだけでなくASEAN+3では、社債の発行が可能な10ヵ国/エコノミー(中国、香港、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)でも取扱い可能である。また、ACU債は、ASEAN+3の全ての国/エコノミーの中央銀行(ないしは政府機関)が購入することが可能であり、ACU債を基にADCC/AMROコインを発行することが可能となる。保有するACU債をもとにどの程度のADCC/AMROコインが発行できるかは、今後の議論による。ADCC/AMROコインの発行に至るイメージを示すと次のとおり。
ADCC/AMROコインの発行に至るイメージ
 
36 ACU債の登録については、国/エコノミーにより異なり、日本の場合には、ACU債は、登録債とはせずに、証券保管振替機構(JASDEC)を振替機関とする一般振替制度に従う一般債と位置付け、JASDECの振替口座簿に記録される残高の増減記録の仕組みによって権利の移転を行うこととする。
37 Hyperledger Fabricにおいて、取引における限度額のチェックなどのプログラムをチェーンコードと呼んでおり、一般的な分散台帳技術では、スマートコントラクトとも呼ばれている。
 
 

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国際協力機構専門家 アジア開発銀行コンサルタント 乾 泰司

大阪経済大学経済学部教授 ニッセイ基礎研究所 客員研究員 高橋 亘

伊藤忠商事理事 石田 護

(2020年10月05日「基礎研レポート」)

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【アジアデジタル共通通貨の発行方法・手順および検討課題について】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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