2020年10月01日

日銀短観(9月調査)~企業の景況感は底入れしたが、回復の鈍さが目立つ、設備投資計画は異例の下方修正

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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4.売上・利益計画: 20年度収益計画は前回に続いて下方修正

20年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比6.6%減(前回は3.9%減)、経常利益が同28.5%減(前回は19.8%減)とそれぞれ大幅に下方修正された。前回6月調査時点で既に減収減益の計画であったが、今回はそれぞれ減少幅が拡大した形になった。

経常利益計画は、例年期初に保守的に見積もられ、6月調査において前年度実績の上方修正を受けてさらに下方修正された後、9月調査以降は上方修正に向かう傾向が強い。ただし、今回は既述のとおり、下方修正されている。4-6月における収益の急激な悪化が計画に反映されたうえ、今後も景気のV字回復が見込めないことが織り込まれたためと考えられる。

なお、20年度の想定ドル円レート(全規模全産業ベース)は107.34円(上期107.39円、下期107.30円)と前回(107.87 円)から若干円高方向に修正された。前回調査以降、為替が円高に振れたためとみられるが、上期の実績(106.90円)や足下の実勢(105円台半ば)よりも円安水準にある。円高進行の織り込みが遅れている可能性が高い。
 
例年であれば、12月調査以降も、経常利益計画は上方修正に向かう傾向が強いが、今年度については引き続き不確実性が高い。国内外における新型コロナの感染動向次第では今後もさらに下方修正が入るリスクがある。
(図表6)売上高計画
(図表7)経常利益計画
(図表8) 経常利益計画(全規模・全産業)

5.設備投資・雇用

5.設備投資・雇用:人手不足感は緩和したまま、設備投資計画は異例の下方修正

生産・営業用設備判断D.I.(「過剰」-「不足」)は、全規模全産業で前回から横ばいの8となった。依然としてプラス圏(「過剰」との回答が優勢)にある。経済活動の再開に伴って設備稼働率は上昇したとみられるが、生産水準が未だ低いだけに、設備の過剰感は緩和していない。

また、雇用人員判断D.I.(「過剰」-「不足」)も前回から横ばいの▲6となった。前回調査では新型コロナ拡大に伴う需要の激減や休業によって22ポイントも上昇し、悪い意味で人手不足感が大きく解消していた。経済活動は再開されたものの、今回も状況は変わっていないとのことだ。人手不足感が乏しいままであるため、今後景気回復が遅れた場合には、人手過剰感が高まることで失業増加が加速する懸念がある。

上記の結果、需給ギャップの代理変数とされる「短観加重平均D.I.」(設備・雇用の各D.I. を加重平均して算出)も前回から横ばいの▲0.8ポイントとなり、ほぼ均衡状態となっている。
 
先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断D.I.が2ポイントの低下、雇用判断D.I.が4ポイントの低下となった。経済活動の再開に伴う需要回復を見込んだ動きとみられるが、先行きの不透明感から大幅な低下は見込まれていない。この結果、「短観加重平均D.I.」も▲4.1ポイントと小幅な低下に留まる見込みだ。
(図表9) 生産・営業用設備判断と雇用人員判断DI(全規模・全産業)/(図表10) 短観加重平均DI
2020年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比2.7%減(前回調査時点では同0.8%減)へと下方修正された。例年、9月調査では、中小企業において計画が具体化してくることによって上方修正される傾向が強い。しかしながら、現在は新型コロナの感染拡大に伴って収益が大幅に悪化したことで投資余力が低下しているうえ、新型コロナの行方など事業環境の先行き不透明感も強い。このことから、企業の間で設備投資の見合わせや先送りの動きが広がり、前回調査に続いて、この時期としては異例の下方修正となっている。

今後についても、新型コロナの感染やそれに伴う景気の動向次第では、さらに下方修正される可能性がある。
 
なお、20年度設備投資計画(全規模全産業で前年比2.7%減)は市場予想(QUICK 集計1.6%減、当社予想は2.5%減)を下回る結果であった。
 
なお、研究開発投資額も全規模全産業で前年比0.5%減と前回から1.7%下方修正されている。研究開発にも削減圧力がかかっている。一方、ソフトウェア投資額は前年比6.4%増と前回から1.5%上方修正されている。テレワークへの対応等によってソフトウェアの導入が進んでいるためと考えられる。
(図表11)設備投資計画と研究開発投資計画
(図表12) 設備投資計画(全規模・全産業)/(図表13) 設備投資計画(大企業・全産業)

6.企業金融

6.企業金融:企業の資金繰りはやや改善

企業の資金繰り判断D.I.(「楽である」-「苦しい」)は大企業が10と前回比横ばい、中小企業が2と前回比で2ポイント上昇した。D.I.の水準もプラス圏(「楽である」が優勢)にあり、リーマンショック後(2008年終盤~2009年前半)のような底割れ状態にはなっていない。

また、企業サイドから見た金融機関の貸出態度判断D.I.(「緩い」-「厳しい」)についても、大企業が前回から横ばいの16、中小企業が1ポイント上昇の20と底堅く推移し、ともに大幅なプラス圏(「緩い」が優勢)を維持している。

全体としてみれば、金融機関の貸出態度はコロナ前から大きく厳格化しておらず、企業の資金繰りもリーマンショック後のような悪化はしていないことになる。
 
新型コロナの拡大を受けて、政府は「持続化給付金」や「無利子・無担保融資の拡充」を、日銀は民間金融機関での無利子・無担保融資のバックファイナンスを行う「新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ」を導入し、企業の資金繰り支援に注力してきた。こうした政策の効果が一定程度現れているとみられる。
(図表14) 資金繰り判断DI(全産業)/(図表15) 金融機関の貸出態度判断DI(全産業)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

(2020年10月01日「Weekly エコノミスト・レター」)

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