2020年09月30日

お得な旅行のために知るべきホテルの収益構造-OTAとホテル公式ページ、選ぶ予約窓口で生じる違い

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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1. はじめに

9月18日のGo To トラベル事務局の公表によると、ついに10月1日から東京を目的地とする旅行と東京都在住者の旅行が支援対象となることが決定した。国境閉鎖により、海外からの観光客の来訪が望めない今、旅行・宿泊業界からは国内旅行者の増加に期待が寄せられている1。JR各社において新幹線乗り放題切符が発売2されるなど、公共交通機関のキャンペーンも拡充されており、これを機会に国内宿泊旅行を検討する人も多いのではないだろうか。ホテルを予約する際、旅行代理店やホテルの行動を知っていれば、よりお得に旅行できるかもしれない。

なお、ホテルには宴会場、スパ、レストランなどを持つ施設もあるが、以下では宿泊特化型またはホテルの宿泊部門を「ホテル」ということとする。
 
1 渡邊 布味子『低迷する宿泊施設はコロナ禍から抜け出せるか-国内旅行客の動向とGo Toキャンペーンを考える』(不動産投資レポート 2020年7月31日)
2 JR西日本・九州・四国管轄区域内が乗り放題の「どこでもドア切符」、JR東日本管轄区域内の全新幹線が半額になる「先にトクだ値スペシャル」など。なお、外国人観光客向けの新幹線乗り放題券は「ジャパンレールパス」が常時発売されている。
 

2. オンライン・トラベル・エージェント(OTA)とは何か

2. オンライン・トラベル・エージェント(OTA)とは何か

宿泊旅行をするとき、オンライン・トラベル・エージェント(Online Travel Agent、以下、OTA)を利用してホテルを選ぶ人は多いのではないだろうか。OTAとは店舗をもたず、オンライン上に存在する旅行代理店で、自社ホームページ経由で予約を獲得した場合にホテルから販売手数料を得ることで収益を上げている。国内業者ではじゃらん、楽天トラベル、海外業者ではExpedia(エクスペディア、英国)、Booking.com(ブッキングドットコム、オランダ)などが有名であろう。

宿泊希望者は、目的エリア内のホテルの価格を比較して予約する。しかし同じエリアに同じブランドのホテルが複数建設されていることは少なく、目的エリアにあるホテルブランドの各ホームページを一つ一つ訪問して料金を比較するのは煩わしい。OTAのホームページからエリアを絞れば、そのエリア内の登録ホテルの料金を一度に確認することができることは非常に便利である。

旅行調査の世界大手であるフォーカスライト社によると、日本旅行のOTA販売比率は2018年には44%に達しており、コロナ禍前の予測ではあるが、2022年には60%に達すると予測されていた。こうした成長予測に加えて、今回のGo Toトラベルキャンペーンは、旅行の交通費については代理店やOTA経由で予約した旅行商品のみが対象であるという制度的な後押しをすることになる。OTAの販売比率はこれまで見込まれていた以上に大きく伸びていく可能性がある。
 

3. ホテルの収益構造とOTA

3. ホテルの収益構造とOTA

ではホテルの収益にOTAはどうかかわっているのだろうか。

ホテルの収益は宿泊客が支払う宿泊料金から生まれるが、通常はホテルの収支は一室一室の収支ではなく、一棟のホテル全体の収支で考える。宿泊料金が高ければホテルの純収益は上がるが、各客室の宿泊料金を高く設定することにより競合ホテルとの価格競争で負けて宿泊客が減るなど客室の稼働率が低下してしまえば、一棟のホテルとしての収益は下がってしまう。各客室の宿泊料金を引き上げることができ、かつ稼働率を高く維持することができれば、ホテルは高収益を上げることができる。

一方、ホテルの運営には人件費、営業費が必要となる(図表1)。人件費(フロント、リネン交換係、共用部清掃係など)と、営業費のうち消耗品費等(消耗品費、リネン費、水道光熱費、維持管理費、システム運営費など)は、客室稼働率の高低にかかわらず大きく変動することがない。そのため、宿泊料金や稼働率が非常に低い状況でホテルを営業すると費用超過となる。少なくとも、宿泊料金総額が費用総額を超えなければホテルを営業する合理性がない。現在、コロナ禍で宿泊客が大幅に減少している中、各地で休館しているホテルが出てきているのはそのためだ。

また、営業費のうち、広告費や販売手数料(OTA等へ支払い)は広告・販売戦略により変動する。ホテルはOTA経由で宿泊客を獲得した場合、通常、OTAに宿泊料金の1~2割を販売手数料として支払わなければならない(図表1)。
図表1 ホテルの収益構造(概略)
多くの場合、ホテル自身で全ての客室の販売は困難である。もし、ホテルが自社のホームページから予約してもらいたいのであれば、自社のページのメンテナンスが欠かせない。個々の施設がインターネット検索で常に上位に来るようにしたり、広告を打ったりと、多額の広告費をかける必要がある。

一方、OTAは一般的に企業規模が大きい。世界最大のホテルオペレーターであるマリオットグループは総資産、売上高ともにOTAを上回るものの、国内では客室数の多いプリンスホテルの売上高と比較すると、Expedia グループは7倍、Bookingホールディングスは9倍の規模である(図表2)。
図表2 OTAとホテルの事業規模
またインターネット広告にかける費用の効果は、各エリアに分散するホテルよりもエリア内に多くのホテルの販売の受託をしているOTAのほうがはるかに効果的であり、コスト効率的である。

ホテルとしてはOTAと真正面から競争するよりも、OTA経由の方が宿泊希望者に検討してもらえる可能性が高まるため、OTAを窓口として利用するほうが良いという判断になる。訪日客が増加し、宿泊料金が上昇していた近年、ホテルとOTAは相互補完の関係にあり、双方が利益を伸ばしてきた。
 

4.OTAの現状と今後の行動

4.OTAの現状と今後の行動

しかし、コロナ禍でホテルの稼働率は大幅に低下している(図表3)。最悪であった5月の水準からは増加しているものの、外国からの訪日客が元の水準に戻るには時間を要するだろう。稼働率が低下すると価格下落競争が生じて宿泊料金が低下するため、ホテルは人件費や消耗品費に加えてOTAの販売手数料を払うことが困難な状況になり、OTAも客室販売が成立しなければ収益を得ることはできない。

2020年4-6月期の各社の旅行OTA事業を含む分野の業績を見ると、Expediaが前年比▲82%、booking.comが▲84%、じゃらんが▲65%となった。また楽天については昨年事業整理等でセグメント損失▲18億円を計上しているが、一昨年前と比較すると▲111%となった(図表4)。

今後OTAは、より多くの国内旅行客を獲得すべく、自社のホームページに広告費をかけ、国内宿泊旅行先を検索する宿泊見込客の目に留まるようにするとともに、キャンペーン、割引、ポイント付与などで自社ホームページから予約するように宿泊見込客を誘引することになるのではないだろうか。
図表3 ホテル稼働率の推移(前年比)/図表4 2020 年4-6 期OTA の業績(前年比)

5. 価格下落競争の中でホテルはどう行動するか

5. 価格下落競争の中でホテルはどう行動するか

国内旅行客により訪日客の減少を補うことができたとしても、競合ホテルの多い都市部のホテルなどでは長期にわたって価格競争が続くことが予想される。競争の中、ホテルはどう行動するだろうか。

新型コロナ感染症拡大が深刻化した4月、航空業界のデータや情報を扱うOAG Aviationによるアンケートでは「ホテルの販売戦略費を配分するとしたらどうするか」との問いに対し、「オンラインの直接販売や広告に費用をかける」と答えた人が60%、「OTAへの依存を強める」と答えた人が27%となった(図表5)。
図表5 ホテルの販売戦略費を配分するとしたらどうするか
この結果は非常に感覚に沿うものだ。OTA経由の予約は販売手数料がかかることに加えて、相対的にキャンセル率が高く、多くは初回客でリピート見込みもあまりない。ホテルが稼働率の低い状態で営業するなら、販売手数料が取られず相対的に利益率が高い自社のホテル公式ページからの直接予約客を増やそうとするのは自然なことだ。しかし、OTAの販売手数料は成功報酬であり、稼働率を上げるためにはOTA経由の宿泊客を完全に排除する必要がない。損失の出ない範囲でOTAへ委託を続けることは合理的な判断である。

なお、ホテルは優良顧客に良い部屋を割り当てようとする。リピート客、ホテル会員の客、直接予約の客にいい部屋や人気があって売りやすい部屋を割り当て、利益率の低いOTA経由の宿泊客は相対的に売りづらく、人気のない部屋を割り当てることがある。より良い旅行体験をするためには、そうしたホテルの行動を念頭においたうえで、部屋の場所等、予約内容を良く確認したほうが良いだろう。
 

6. 宿泊希望者から見たOTA経由の予約とホテル直接予約

6. 宿泊希望者から見たOTA経由の予約とホテル直接予約

(1) OTAはお得な宿泊料金の部屋を見つけやすい
OTAにとって、個々のホテルの損益分岐点はそれほど問題にならない。国内あるいは全世界を対象とする予約獲得率と手数料割合からなる収入に対し、システム運営、広告、人件費などの費用がまかなえるかどうかが重要となる。個々のホテルで見れば損益分岐を下回る水準であっても、販促上有効であれば、それ以上低い価格での提供もありうる。競合ホテルとの価格比較もしやすいので、お得な宿泊料金を探すのであればOTA経由で探すほうが良いだろう。

一方、ホテルからOTAに販売委託される部屋は、相対的にあまり人気のない部屋なのかもしれない。部屋がエレベーターの横、線路の脇、低層で風景の悪い部屋である可能性があるので、予約前に良く確認するか、値段相当として納得する必要があるだろう。

(2) ホテル公式ページからは満足度の高い部屋が取りやすい
ホテルにとっては、純収益がマイナスの状態での営業継続や、OTAとの価格競争は合理的ではない。ホテル公式ページでは一定程度の価格が維持され、OTA経由の予約よりも価格が高くなる可能性がある。

一方で、ホテルにとって公式ページから直接予約する宿泊客は利益率が高く、より満足度の高い部屋を割り当てられる可能性がある。OTAと同じ価格でもより景色や位置の良い部屋に、プラス数百円~千円程度の差でもグレードが一つか二つ上の部屋に泊まれるかもしれない。

また、しばらくの間はホテル公式ページからの直接予約客を誘引するため、ホテルの販促費用がより多く割かれるだろう。室数限定の割引、直接予約の客限定プランといったホテル独自のお得な価格設定もありうる。
 

7. 終わりに

7. 終わりに

宿泊旅行をするとき、約半数の人がOTAを利用している。ホテルだけでは全ての客室を販売することは困難なことが多く、訪日客の増加とともに、ホテルとOTAはともに補完しあい、収益を高めあう関係にあった。

しかしコロナ禍によって宿泊客数が大きく減少し、ホテルもOTAも大きくマイナスの影響を受けている。稼働率が低い状態では宿泊料金が低下するため、ホテルはOTAの販売手数料を払うことも困難な状況になり、OTAも収益を得ることはできない。

旅行客として宿泊代を支払う側から見れば、同じホテルならOTA経由の予約もホテル公式ページからの直接予約も同じに見えるかもしれない。しかしOTA経由の予約とホテル公式ページからの直接予約は、それぞれ価格も提供される部屋も違うことが多いので注意が必要だ。

今後、OTAは販売手数料を得るため、ホテルは純収益を得るために行動し、それぞれが宿泊希望者を取り合って販売戦略を展開していくことになるだろう。宿泊希望者はそうした行動をいち早く知ることで、先方の販売戦略を有効活用して比較検討すれば、よりお得な旅行をすることができるのではないだろうか。
 
 

(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2020年09月30日「不動産投資レポート」)

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