2020年09月25日

中国経済:景気指標の総点検(2020年秋季号)~景気インデックスは前年比4.9%増まで回復

三尾 幸吉郎

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1.中国経済の概況

(図表-1)中国の実質成長率の推移 新型コロナウイルス感染症の渦中にあった20年1-3月期、経済活動の大胆な停止に踏み切った中国では、国内総生産(GDP)が前年比6.8%減と、四半期毎の実質成長率を遡れる1992年以来初めてマイナス成長を記録した。しかし、新型コロナ禍を小振りな感染拡大に抑え込み、経済活動をゆっくりとではあるが着実に再開した4-6月期には、同3.2%増とプラス成長に回帰することとなった(図表-1)。
(図表-2)産業別の実質成長率 産業別に内訳を見ると(図表-2)、生産活動を再開した製造業は1-3月期の前年比10.2%減から同4.4%増へ、建築業も同17.5%減から同7.8%増へと、第2次産業はV字回復した。

他方、第3次産業は二極化の様相を呈している。新型コロナ対策として実施された外出規制が直撃した宿泊飲食業は1-3月期の前年比35.3%減に続いて4-6月期も同18.0%減と大幅マイナス成長だった一方、卸小売業は同17.8%減から同1.2%増へ、交通運輸倉庫郵便業は同14.0%減から同1.7%増へ、小幅ながらもプラス成長に転じている。

なお、新型コロナ禍がもたらした非接触型への行動変容が追い風となった情報通信・ソフトウェア・ITは1-3月期の同13.2%増に続いて4-6月期も同15.7%増と高成長を継続した。また、中小零細企業の支援に奔走した金融業も1-3月期の同6.0%増に続いて4-6月期も同7.2%増とプラス成長を維持している。
(図表-3)中国の消費者物価(品目別) また、インフレ動向をみると、消費者物価はアフリカ豚熱(ASF)の影響で20年1月には前年比5.4%まで上昇率を高めた。その後も長江や淮河流域の洪水被害の影響で食品は高止まりしたが、新型コロナ禍による需要減を背景に交通通信、居住、衣類などは下落、8月の消費者物価は食品・エネルギーを除くコア部分で同0.5%上昇、全体でも同2.4%上昇と、今年の抑制目標(3.5%前後)を下回る水準で推移している(図表-3)。
 

2.景気10指標の点検



 

2.景気10指標の点検

【供給面の3指標】
まず、工業生産(実質付加価値ベース)を確認すると(図表-4)、20年1-2月期に前年比13.5%減に大きく落ち込んだあと、4月には同3.9%増と前年水準を上回り、その後も少しずつ伸びを高めて8月には同5.6%増まで持ち直してきた。業種別に見ると(図表-5)、製造業は1-3月期に前年比10.2%減に落ち込んだあと、4-6月期は同7.4%増(推定1)、7-8月期は同7.7%増(推定)と持ち直しており、特に落ち込みの厳しかった自動車は急回復となった。なお、電力エネルギー生産供給は製造業とほぼ同様の動きを示し、鉱業は1-3月期の落ち込みも小さかったが戻りも鈍い。
(図表-4)工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移/(図表-5)工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)
他方、PMIの動きを確認すると、製造業PMI(製造業購買担当者景気指数、中国国家統計局)は(図表-6)、2月には35.7%に急落したものの3月には52.0%に回復し、8月まで6ヵ月連続で拡張・収縮の境界線となる50%を上回り、予測指数も8月には58.6%まで上昇してきた。他方、非製造業PMI(非製造業商務活動指数、中国国家統計局)は(図表-7)、2月に29.6%と製造業を下回る水準まで大きく落ち込んだが、3月には製造業を上回る水準に急回復し、その後も製造業を上回る水準で推移している。また、8月の予測指数は62.1%と極めて高い水準にある。
(図表-6)製造業PMI/(図表-7)非製造業PMI
 
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
【需要面の3指標】
まず、個人消費の代表指標である小売売上高の動きを確認すると、新型コロナ禍で経済活動が停止した20年1-2月期に前年比20.5%減と大きく落ち込んだあと、3月以降はゆっくりとだが着実に持ち直し、8月には同0.5%増と前年水準を上回ることとなった(図表-8)。内訳が公表される一定規模以上の小売統計を見ると、1-3月期には飲食が前年比41.9%減、衣類が同32.2%減、自動車が同30.3%減、家電類が同29.9%減、家具類が同29.3%減となるなど軒並み前年割れだったが、4-6月期には化粧品、日用品類、家電類などが前年水準を上回り、7-8月期には自動車も前年水準を上回ってきた。また、回復が遅れた飲食や衣類もマイナス幅を縮めている。なお、新型コロナ禍による行動変容が追い風となったネット販売(商品とサービス)は2桁の伸びを取り戻している。

次に、投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)を見ると、新型コロナ禍で経済活動が停止した1-2月期に前年比24.5%減と大きく落ち込んだあと、早くも3月には同0.2%増(推定)と前年水準を回復、4月以降は前年比10%±3%のレンジで維持している(図表-9)。内訳を見ると、製造業は1-3月期に前年比25.2%減に落ち込んだあと、4-6月期は同1.8%増(推定)、7-8月期は同2.5%増(推定)と前年水準を小幅に上回る程度だが、不動産開発投資は1-3月期に同7.7%減に落ち込んだあと、4-6月期は同11.5%増(推定)、7-8月期は同12.5%増(推定)と前年水準を大幅に上回ってきており、インフラ投資もほぼ同様の傾向にある。
(図表-8)小売売上高の推移/(図表-9)固定資産投資(除く農家の投資)
他方、輸出(ドルベース)は、1-2月期に前年比17.1%減に落ち込んだあと、輸出先となる欧米先進国で経済活動が再開されたこともあり(図表-10)、6月以降は3ヵ月連続で前年水準を上回っている(図表-11)。但し、新規輸出受注が8ヵ月連続で50%を割れるなど先行きは楽観できない。
(図表-10)アップル・モビリティー・トレンド(自動車交通量、G7平均)/(図表-11)輸出(ドルベース)の推移
【その他の4指標と景気の総括】
以上で概観した供給面3指標と需要面3指標に、電力消費量、道路貨物輸送量、工業生産者出荷価格、通貨供給量(M2)を加えた景気10指標を、それぞれ3ヵ月前と比べて上向きであれば“○”、下向きであれば“×”として一覧表にしたのが図表-12である。
(図表-12)景気評価総括表(○×表)
まず需要面を見ると、小売売上高は“○”と“×”が交互に生じていて一進一退、固定資産投資は3ヵ月連続で“×”とこれまでの勢いに陰りが見え始めたが、ここもと輸出金額が5ヵ月連続で“○”と順調に回復している。次に供給面を見ると、製造業PMIが2ヵ月連続で“○”、非製造業PMIも4ヵ月連続で“○”とPMIはともに景気回復を示唆しているものの、工業生産が3ヵ月連続で“×”とこれまでの勢いには陰りが見え始めている。最後にその他の景気指標を見ると、電力消費量が5ヵ月連続で“○”、道路貨物輸送量が5ヵ月連続で“〇”、工業生産者出荷価格も4ヵ月連続で“〇”と景気回復を示唆するものが多い(図表-13)。但し、通貨供給量(M2)が2ヵ月連続で“×”となった(図表-14)。新型コロナ禍がほぼ収束したという環境変化の下で、モラトリアム的な特別金融措置として導入された“疫情融資”も、そろそろ曲がり角なのかも知れない。
(図表-13)貨物輸送量/(図表-14)通貨供給量(M2)と社会融資総量

3.景気インデックスは前年比4.9%増まで回復

3.景気インデックスは前年比4.9%増まで回復

最後に、月次の景気指標の推移を基に実質成長率を推計した「景気インデックス」の状況を紹介したい。中国で毎月公表される景気指標は数多あるが、実質成長率に対する連動性が高い指標もあればそうでない指標もある。中国の経済成長率は、欧米先進国とは異なって主に生産面から推計されているため、個人消費、投資、純輸出といった支出面の景気指標との連動性は概ね低く、農業、工業、サービス業といった生産面の景気指標との連動性は概ね高い。そこで、生産面の景気指標を説明変数として実質成長率を説明する回帰モデルを開発することとした。具体的には、工業生産、サービス業生産、建築業PMIの3つを説明変数として選択、実質成長率に近似させた。なお、新型コロナ前(Beforeコロナ)は、工業生産、サービス業生産、製造業PMIの3つを説明変数としていたが、新型コロナで連動の傾向に変化があったため、製造業PMIを外し、建築業PMIを加えることとした。

その「景気インデックス」の推移をみると、20年1月に前年比8.3%減、2月に同9.8%減に落ち込んだあと、4月には同0.7%増とプラスに転じ、その後もプラス幅を拡大してきた(図表-15)。そして、10月19日に公表される7-9月期の実質成長率を予想すると、7月が前年比4.5%増、8月が同4.9%増と、7-8月累計では同4.7%増だったので、4-6月期の前年比3.2%増を上回るのはほぼ確実な状況となっている。さらに、9月の景気指標がここ数ヵ月のトレンド通りに改善したとすれば、前年比5%台に乗せる可能性もあるだろう。
(図表-15)経済成長率と景気インデックス
 
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2020年09月25日「Weekly エコノミスト・レター」)

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