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(続)コロナウイルス禍中の米国生保会社の個人生命保険販売-ソーシャルディスタンスと対面販売-
松岡 博司
はじめに
今年、主催者であるライフハプンズは特に力が入っているようだ。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は消費者の心に、予期せぬ死亡というリスクがあり得るのだという発見をもたらした。生命保険の意義を伝えるキャンペーンに、今年は特に大きな意義があるのではないか。
当「保険・年金フォーカス」では、5月14日に『コロナウイルス禍中の米国生保会社の個人生命保険販売-ソーシャルディスタンスと対面販売-』1と題して、ロックダウンやソーシャルディスタンス確保の動きの中での米国生保会社の個人向け生命保険販売の状況を報告した。
しかし米国で国家非常事態が宣言された3月13日から2ヶ月しか経過していない時点で、販売業績は4月まで、申込み状況は5月までの数値しかない状況であったため、明確な方向性を確認することができたとは言い難い。
そこで今少しの時間が経過した今回、新しい数値を使って、コロナ禍を受けた米国生保会社の個人生命保険販売の状況を再確認することとしたい。
なお9月7日現在、米国のCOVID-19累計感染者数は627万人、累計死者数は18万8,000人を超えており、いずれも世界最大である2。感染者数の増加ペースは落ち着いてきているが、それでも1日あたり4万人前後の新規感染が続いている。決して安心できる状況とは思えないが、経済活動再開への意欲も強い。
今回も使用するデータは、米国における生命保険マーケティングの調査・教育機関であるリムラ(LIMRA)の調査結果と米国とカナダの生保・医療保険会社を構成員とする医的情報交換機関であるMIBが発表する申込み状況に関するデータである。
1 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64438?site=nli
2 https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/
NHK『特設サイト 世界の新型コロナウイルス感染者マップ・感染者数』より
1――個人生命保険の販売業績と申し込みの状況
米国生保の個人生命保険事業ではコロナ禍からの回復基調が明確になってきた。
ただし個々の会社で見ると回復度合いにいまだ大きな開きがある。グラフ2は、3月以降7月までの各月の販売業績が2019年の各月と比べてどうだったかについての報告を調査参加各社に求め、その報告内容の分布状況をまとめたものである。
これを見ると、パンデミックの最中でも前年同月対比で10%以上の大幅増加を報告する生保会社が4分の1以上もあった一方で、7月でも10%以上の大幅な減少という厳しい状況を報告する会社も3分の1以上存在するという、一概に片付けられるような状況ではないことがわかる。
業績にはパンデミック以外のさまざまな要素が影響しているので簡単には言えるものではないが、この業績不振会社のこれからのあり方は、米国生保市場の明るさに影響してきそうである。
7月に急増した申込み件数
業績の先行指標となる個人生命保険への申込み状況はどうか。次ページのグラフ3は、MIBが発表した個人生命保険申込件数の対前年同月比の増減状況を2月から7月までの各月分並べたものである。パンデミックが猛威を振るい大都市圏で都市閉鎖が実施された3月、4月の申込件数の増減率は、「全体」でも、ほとんどの年齢層でもマイナスに沈んだ。
しかし、5月、6月に入ると、「60歳~」層がマイナス状態にあるだけで、他はプラスに回復した。そして7月には、「全体」がプラス14.1%、年齢層別でも、「0歳~44歳」がプラス18.9%、「45歳~59歳」がプラス12.9%と急拡大した。5月、6月にはマイナスで出遅れていた「60歳~」層もプラス4.0%に浮上した。
申込み状況から見る限り、8月の販売業績も堅調なものが予想される。
COVID-19を契機とする生命保険ニーズの顕在化
こうした回復基調の背景の1つには、COVID-19の脅威にさらされたことで消費者の生命保険へのニーズが喚起されたことがある。
リムラが2020年4月30日から5月15日の間に行ったCOVID-19を受けた消費者の変化を調べた調査では、調査参加者の29%が今後12ヶ月の間に生命保険を購入する可能性が高いと回答した(リムラ“Likelihood to Buy: COVID-19 Consumer Impact”より)。
またリンカーンファイナンシャル社が7月に単独で実施した調査でも、調査参加者の3分の1以上が、パンデミックの影響で生命保険の重要性が高まっていると答えた。
回復基調のもう1つの背景としては、都市封鎖、ソーシャルディスタンス確保等に対応すべく、多くの生保会社が、引受業務のデジタル化を進め、オンライン上で申込みを完結できるプロセスを採用したことがある。もともと米国の生保会社は、デジタル化、インシュアテックの進展の中で、オンライン申込みのプロセス導入に向けた取組を行っていたが、コロナ禍に伴う情勢変化がその動きを加速させた。そこでは従来型の医的な診査を行わない代わりに、リスクを高めに見積もって保険料を高くするといった方策は採られていない。医学的な診査を身体検査なしで行い、保険加入プロセスを簡略化する。これは特に若い世代に受け、彼らの申込みの増加を引き起こした。
先述のリンカーンファイナンシャルの7月の調査でも、調査対象となったミレニアル世代(1981年~1998年生まれの世代)の5人に2人が、完全に電子的手段のみで生命保険に加入できるのであれば、生命保険に加入する可能性が高いと答えている。
MIBが発表した7月の申込み数の状況を伝えるThinkAdvisorの記事は、こうした状況を、若い世代が新しい携帯電話や手の消毒剤を買うように生命保険の買い物を行ったと表現している。
ただし一方で、オンライン申込みは、テクノロジーの敷居の高さを感じる年配層の申込みにはつながりにくい。
松岡 博司
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