2020年09月08日

2020・2021年度経済見通し-20年4-6月期GDP2次速報後改定

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.2020年4-6月期の実質GDPは前期比年率▲28.1%へ下方修正

9/8に内閣府が公表した2020年4-6月期の実質GDP(2次速報値)は前期比▲7.9%(年率▲28.1%)となり、1次速報の前期比▲7.8%(年率▲27.8%)から下方修正された。4-6月期の法人企業統計の結果が反映されたことにより、設備投資が前期比▲1.5%から同▲4.7%へと大幅に下方修正されたほか、住宅投資(前期比▲0.2%→同▲0.5%)、政府消費(前期比▲0.3%→同▲0.6%)も下方修正された。一方、民間在庫変動(前期比・寄与度▲0.0%→同0.3%)が上方修正されたことに加え、6月のサービス産業動向調査の結果などが反映されたことにより、民間消費が前期比▲8.2%から同▲7.9%へと上方修正されたため、実質GDP成長率の改定は小幅にとどまった。

2020年4-6月期の成長率のマイナス幅は、リーマン・ショック後の2009年1-3月期(前期比年率▲17.8%)を上回り、GDP統計で遡ることができる1955年以降1で最大となった。また、実質GDPは、消費税率引き上げや新型コロナウィルス感染症の影響で2019年10-12月期から2020年4-6月期までの3四半期で▲10.1%落ち込んだ。これは、リーマン・ショック前後の2008年4-6月期から2009年1-3月期まで(4四半期)の▲8.6%を上回る落ち込み幅である。
 
1 1980~1993年は簡易遡及系列、1955~1979年は68SNA・1990年基準
(景気はすでに底打ち)
2020年4-6月期は過去最大のマイナス成長となったが、5月下旬に緊急事態宣言が解除されたことを受けて、生産、輸出、消費などの主要経済指標は2020年5月を底に持ち直している。景気動向指数のCI一致指数は、新型コロナウィルスの影響が本格的となった2020年3月から5月にかけて▲22.9ポイントの急低下となったが、6月に前月差+3.2ポイントと5ヵ月ぶりの上昇となった後、7月も同+1.8ポイントとなった。2018年11月2に始まった景気後退局面はすでに終了し、2020年5月が景気の谷となる可能性が高い。
主要経済指標は2020年5月に底打ち/景気動向指数・CI一致指数の推移
緊急事態宣言下で極めて大きな落ち込みを記録した個人消費は、5月を底に持ち直している。家計調査の実質消費支出は、4月、5月はそれぞれ前年比▲11.1%、同▲16.2%と前年比で二桁の大幅減少となったが、6月が同▲1.2%、7月が同▲7.6%と減少幅が縮小した。緊急事態宣言の解除に伴うペントアップ需要(抑制されていた需要)の顕在化に加え、1人当たり10万円の特別定額給付金の支給が消費の押し上げ要因になったとみられる。
特別定額給付金が家計の可処分所得を大きく押し上げ 総務省統計局の「家計調査」によれば、勤労者世帯の実質可処分所得は6月が前年比18.9%、7月が同11.7%の大幅増加となった。勤め先収入などの経常収入は低迷しているが、特別定額給付金の支給によって特別収入が急増したためである。特別収入の実額(一世帯当たり)は6月が15.5万円(前年差14.7万円)、7月が6.6万円(前年差5.8万円)であった。

総務省によれば、給付総額12.73兆円のうち7/31までに12.32兆円(96.8%)が支給された。8月以降は特別定額給付金の支給がほとんどなくなるため、景気悪化に伴う勤め先収入の減少が可処分所得の減少に直結する形となるだろう。

個人消費は全体としては持ち直しているが、外食、宿泊、娯楽などのサービス消費は引き続きコロナ前の水準を大きく下回っている。たとえば、観光庁の「宿泊旅行統計」によれば、延べ宿泊者数は2020年5月に前年比▲84.9%と過去最大の落ち込みを記録した後、6月が同▲68.9%、7月が同▲56.4%と徐々に持ち直しているものの、引き続き大幅な減少となっている。特に、外国人の宿泊者はほぼ消失したままである。
また、日本銀行が作成している実質消費活動指数を形態別に見ると、耐久財、非耐久財は緊急事態宣言の影響で4、5月には大きく落ち込んだものの、6月にはペントアップ需要の顕在化によって大きく反発し、感染症の影響が顕在化する前の2020年1月の水準を上回った。一方、外出自粛の影響を強く受けたサービスは、緊急事態宣言中の落ち込み幅が財を大きく上回ったことに加え、6月以降の戻りも小さい。7月のサービス消費の水準は1月を▲20%近く下回っている。また、6月の財消費が大きく増加したのは、4、5月に外出自粛、店舗休業の影響で購入できなかったものを、緊急事態宣言解除後にまとめて購入したことが一因だったため、7月にはその反動から弱めの動きとなった。
延べ宿泊者数の推移/実質消費活動指数(財別)の推移
 
2 内閣府経済社会総合研究所は、7/30に開催された景気動向指数研究会の合意に従い、第16 循環の景気の山を2018 年10 月と暫定的に設定することとした。第16循環の景気拡張期間は71ヵ月となり、戦後最長の第14循環の73ヵ月に届かなかった。
 

2. 実質成長率は2020年度▲5.8%、2021年度3.6%

2. 実質成長率は2020年度▲5.8%、2021年度3.6%

(2020年7-9月期は年率10%超の高成長も、4-6月期の落ち込みを取り戻せず)
2020年4-6月期のGDP2次速報を受けて、8/18に発表した経済見通しを改定した。実質GDP成長率は2020年度が▲5.8%、2021年度が3.6%と予想する。2020年4-6月期の成長率は若干下方修正されたが、足もとの輸入が想定よりも弱いことを反映し、7-9月期の成長率見通しを1次速報時点の前期比年率13.1%から同14.0%へ上方修正したため、年度ベースの成長率見通しは変更していない。先行きの景気の見方も8月時点と変わってない。
最近の月次GDPの動き 2020年4-6月期は過去最大のマイナス成長となったが、月次では5月を底に持ち直している。当研究所が推計している月次GDP(実質)は、2020年3月から5月にかけて大きく落ち込んだが、6月に前月比4.8%と4ヵ月ぶりに増加した後、7月も同0.2%となった。7月の月次GDPは4-6月期平均を3.0%上回っている。このことは、GDPが8月、9月と横ばいにとどまったとしても、7-9月期の実質GDPは前期比3.0%(年率10%超)の高い伸びとなることを意味する。
2020年7-9月期の実質GDPは、前期比年率14.0%の高成長になると予想する。ただし、外食、宿泊などのサービス消費の持ち直しが限定的にとどまっていること、7月以降、新型コロナウィルスの陽性者数が再び増加したことを受けて自粛を求める動きが強まっていることから、経済活動の正常化は遅れている。7-9月期の実質GDPは表面的には高い伸びとなるが、4-6月期の急激な落ち込みの後であることを踏まえれば、回復ペースは鈍いとの判断が妥当だろう。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
(新しい生活様式が経済活動を抑制)
今後の景気回復ペースは急激な落ち込みの後としては、緩やかなものにとどまりそうだ。

「新しい生活様式」の実践は恒常的に外食、旅行などのサービス支出を抑制する要因となる。また、経済活動の収縮が一定期間継続し、倒産、失業者の大幅増加が不可避となったことで経済基盤が損なわれ、経済活動の制限がなくなったとしても需要が短期間で元の水準に戻ることは難しくなった。雇用者所得の減少、企業収益の悪化は長期にわたって個人消費、設備投資の下押し要因となるだろう。
実質GDPが元の水準に戻るのは2022年度以降 さらに、人々が3密を避ける姿勢が従来よりも強くなったことで、通常のインフルエンザ流行時にも外食、旅行、コンサート、各種イベントなどが敬遠され、レジャー関連の需要が落ち込むリスクもある。仮に、通常のインフルエンザ流行時に今回のように感染者数、死者数が繰り返し報道されるようなことがあれば、人々が過剰反応する可能性も否定できない。もちろん、コロナ後の新しい生活様式によってこれまでなかった需要が新たに生み出されることは期待できる。しかし、従来型の需要の消失分を短期間で取り戻すことは難しいだろう。今回の予測期間末である2022年1-3月期の実質GDPは直近のピーク(2019年7-9月期)と比べて▲2.9%低い水準にとどまる。実質GDPが元の水準に戻るのは2022年度以降となろう。
(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2020年4月に前年比▲0.2%と3年4ヵ月ぶりの下落となった後、エネルギー価格の下落幅縮小などから6、7月には前年比0.0%とマイナス圏を脱した。しかし、「Go To トラベル事業」の開始によって、宿泊料が8月から大きく下落し、コアCPIを▲0.3%強押し下げることが見込まれる。このため、コアCPI上昇率は8月に再びマイナスとなり、消費税率引き上げ(+幼児教育無償化)の影響がほぼ一巡する10月にはマイナス幅が拡大するだろう。
消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測 先行きについても、予測期間を通じてGDPギャップがマイナス圏で推移し需給面からの下押し圧力が続くこと、賃金の下落がサービス価格の低下要因となることから、基調的な物価は当面弱い状態が続くことが予想される。なお、「Go To トラベル事業」終了後(現時点では2021年1月末終了予定)には宿泊料が物価押し上げ要因となる。

コアCPI上昇率は2020年度が前年比▲0.5%(▲1.0%)、2021年度が同0.6%と予想する(括弧内は、消費税率引き上げ・教育無償化の影響を除くベース)。


 
日本経済の見通し(2020年4-6月期2次QE(9/8発表)反映後)
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

(2020年09月08日「Weekly エコノミスト・レター」)

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