2020年08月19日

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1. はじめに

福岡市のオフィス空室率は、2010年以降、新規供給が限定的であることを反映し、低下傾向で推移している。需給の逼迫に伴い、募集賃料は上昇している。一方、新型コロナウィルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言の発令は、経済活動に対して広範囲にわたって甚大な影響をもたらしている。本稿では、福岡のオフィスの現況を概観した上で、新型コロナウィルスの感染拡大が及ぼす影響を踏まえて、2024年までの賃料予測を行う。
 

2. 福岡オフィス市場の現況

2. 福岡オフィス市場の現況

2-1. 空室率および募集賃料の動向
三幸エステートによると、福岡市の空室率(2020年6月末)は低下傾向で推移しており、2.4%となった(図表-1)。福岡市では、2010年以降、オフィスの新規供給量は、年間10,000坪を上回ることはなく、低水準に留まっている。一方、事務所の新規開設や拡張移転が活発であり、需給は逼迫している。しかし、空室率を規模1別にみると、移転集約等を受け皿となる「大規模ビル」は1.2%(前年比▲0.1%)と低水準での推移が続いている一方、「小型ビル」は8.0%(前年比+1.6%)、「中型ビル」は3.9%(前年比+0.5%)と上昇しており、規模間で格差がみられる。

募集賃料は、需給の逼迫を受けて、2020年6月末時点で13,500円/月・坪(前年比+17.4%)と大幅に上昇した(図表-2)。
図表-1 福岡オフィスの規模別空室率/図表-2 福岡オフィスの空室率と募集賃料
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2-2. オフィス市場の需給動向
三鬼商事によると、福岡ビジネス地区では、総ストックを表す賃貸可能面積は、新規供給量が限定的であったことに加え、「福岡ビル」をはじめとして、再開発および建て替えに伴うビルの取り壊し(滅失)が進んだことで、69.8 万坪(2018 年末)から69.4万坪(2019 年末)へと減少した。

テナントによる賃貸面積は、2010年以降、9年連続で増加していたが、昨年は68.4万坪(2018 年末)から68.0 万坪(2019 年末)へと減少した(図表-3)。この結果、2019年末の福岡ビジネス地区の空室面積は1.4万坪となり、ファンドバブル期のボトムである5.1万坪(2009年末)の1/3以下の水準まで減少している。
図表-3 福岡ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
足元では、「九勧承天寺通りビル」や「D-LIFEPLACE呉服町」等の竣工に伴い、「賃貸可能面積」は69.8 万坪に増加し、「空室面積」は1.8 万坪に増加した。
図表-4 福岡ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積の増減
2-3. 空室率と募集賃料のエリア別動向
三鬼商事によると、2019年末時点で最も賃貸可能面積が大きいエリアは、「博多駅前地区(23.1%)」で、次いで「天神地区(22.7%)」、「博多駅東・駅南地区(16.1%)」、「祇園・呉服町地区(15.9%)」、「薬院・渡辺通地区(12.1%)」、「赤坂・大名地区(10.1%)」の順となっている(図表-5)。

賃貸可能面積は、「祇園・呉服町地区」(前年比+1.6千坪)や「赤坂・大名地区」(+1.4千坪)、「博多駅前地区」(+1.1千坪)で増加したが、「福岡ビル」の建て替え等に伴い「天神地区」(▲7.5千坪)では大幅に減少し、エリア合計で▲3.4千坪減少した。

一方、賃貸面積は、「天神地区」(前年比▲6.4千坪)と「赤坂・大名地区」(▲0.1千坪)で減少し、合計▲3.7千坪の減少となった。結果、空室面積は、合計+0.3千坪増加した(図表-6)。
図表-5 福岡ビジネス地区の地区別オフィス面積構成比(2019年)/図表-6 福岡ビジネス地区の地区別オフィス需給面積増分(2019年)
エリア別の空室率(2020年6月末)は、「赤坂・大名地区」が4.3%(前年比+2.0%)、「博多駅前地区」が2.9%(+0.8%)、「祇園・呉服町地区」が2.6%(+0.7%)、「天神地区」が2.3%(+0.7%)、「博多駅東・駅南地区」が2.1%(+0.5%)、「薬院・渡辺通地区」が1.6%(+0.7%)となり、全てのエリアで上昇した(図表-7左図)。

一方、募集賃料は、全手のエリアにおいて、上昇傾向での推移が続いている。特に、「天神地区」(前年比+9.1%)の賃料は大きく上昇した(図表-7右図)。
図表-7 福岡ビジネス地区の地区別空室率・募集賃料の推移(月次)

3. 新型コロナウィルスの感染拡大がオフィス需要に及ぼす影響

3. 新型コロナウィルスの感染拡大がオフィス需要に及ぼす影響

3-1. 就業者数の増加
福岡県の就業者数は、2012年以降増加傾向で推移しており、2019年には258.5万人(対前年+1.9万人)となった(図表-8)。こうした就業者数の増加がオフィス需要を下支えしてきた。

住民基本台帳人口移動報告によると、福岡市の転入超過数は高水準で推移しており、2019年は+8,191人となった。(図表-9)。
図表-8 福岡県の就業者数/図表-9 主要都市の転入超過数
また、総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」によれば、福岡市の生産年齢人口は、2016年以降増加を続けており、2019年には100万人を超えた(図表-10)。国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」によれば、2025年の生産年齢人口は+2.0%(対2015年)と、首都圏以外の地方主要都市の中で唯一増加する見通しである(図表-11)。

以上の状況から、これからも就業者の増加が継続し、福岡のオフィス需要を牽引すると考えられていた。
図表-11 福岡市の生産年齢人口/図表-11 生産年齢人口の見通し 
(2015年から2025年の増減率)
しかし、コロナウィルスの感染拡大後、こうした状況は一変している。内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、福岡県の「企業の景況判断BSI2」(2020年第2四半期時点)は▲60.0となり、リーマンショック時(2019年第1四半期・▲45.7)を下回り、福岡の景況感は急速に悪化している(図表-12)。また、福岡商工会議所「新型コロナウィルス感染症が企業に及ぼす影響に関する緊急調査」によれば、コロナウィルス感染拡大による経営への影響について、「すでにマイナスの影響が出ている」との回答が、2月調査の32%から6月調査の62%と約2倍に増加しており、企業の経営状況も急激に悪化している(図表-13)。
図表-12 企業の景況判断BSI/図表-13 コロナウィルス感染拡大による経営への影響
こうした状況下で雇用環境も悪化している。厚生労働省「職業安定業務統計」によれば、2020年6月の福岡県の有効求人倍率は、6か月連続で悪化し、1.11(2019年末比▲0.45)となった(図表-14)。

事業環境に対する先行き不安から、これまで福岡のオフィス需要を支えてきた従業者数は今後、減少に転じる可能性が高いと考えられる。
図表-14 有効求人倍率
 
2 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」の割合を引いた値
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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