2020年07月16日

空家法施行後の空き家の現状-空き家総数は増加している一方、「腐朽(ふきゅう)・破損がある空き家」は減少

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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4――「空き家対策」と「空き家の増減」の関係

1空き家対策の現状
1-1空家法の施行
続いて、現在の空き家対策について整理する。

これまでも各自治体では独自に空き家管理条例を制定し、空き家対策を講じていた。しかし、自治体の条例に基づく対応では、空き家の所有者の特定に固定資産税情報を利用できないほか、条例に基づく「代執行」ができない等の問題も起こっていた。このような状況を踏まえ、2014年11月に「空家法」が成立し、2015年5月に全面施行された。

「空家法」は、所有者等を特定する目的での空き家への立ち入り調査や、固定資産税情報の利用を可能とした。空き家の中でも、特に周辺に悪影響を及ぼす状態にある空き家は、「特定空家」に認定し、「助言・指導」や「勧告」を行う。それでも、改善が見られない場合には、家屋の解体などの「行政代執行」を行うことができる強い権限を自治体に与えた(図表7)。

また、「空家法」では、原則、空き家の管理責任は、空き家の所有者等にあるとした。所有者が空き家の除去や修繕等の勧告を受けると、空き家の増加要因になっていた「住宅用地特例処置」を受けることができない。さらに勧告に違反した場合は、最大50万円の過料が課せられる。また、自治体が「行政代執行」を行った場合は、その費用を徴収される。

「空家法」では、各市区町村が「空家等対策計画」を策定することを求めている。国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について」によれば、2019年3月31日時点において1,051自治体(全市区町村の6割)で「空家等対策計画」を策定されている。
図表-7 空き家に対する処置の流れ
1-2|中古住宅流通の活性化
中古住宅流通を活性化させ、空き家の有効活用促進を目指す取り組みも進んでいる。その代表的な取り組みとして、「空き家バンク」が挙げられる。「空き家バンク」とは、空き家物件情報を地方自治体のホームページ上で提供する仕組みであり、既に約6割の自治体が設置している9。さらに、国土交通省は開示情報の標準化を図り、「全国版空き家・空地バンク」を創設し、2018年4月から本格運用を開始された。利用者は、全国の空き家情報を一元的に得ることが可能になった。

また、良質な中古住宅を安心して売買できる環境を整備し、流通活性化を促す取り組みも始まっている。中古住宅の売買時に「建物状況調査(インスペクション)」の実施を推進する動きもその1つである。

購入した中古住宅に瑕疵が見つかった場合にその補修費用が補填される「既存住宅売買瑕疵保険」が2010年4月に創設された。「既存住宅売買瑕疵保険」は、専門の建築士が「インスペクション」を実施したうえで、専門の保険会社(住宅瑕疵担保責任保険法人)が引き受ける仕組みとなっており、「インスペクション」の実施が広まるきっかけとなった。更に、2016年5月に成立した「宅地建物取引業法の一部を改正する法律」(改定宅建業法)に伴い、2018年4月より仲介業者の「建物状況調査」の斡旋が義務化された。
 
9 株式会社価値総合研究所「平成29年度空き家バンクに関する調査 調査研究報告書」(平成30年2月)
2|「腐朽・破損がある空き家」の現状:「戸建て」、「共同住宅等」ともに減少に転じた
空き家の中でも、「腐朽・破損がある戸建ての空き家」は、借り先(もしくは購入先)を見つけることが特に難しい。管理されない状況で放置され、治安や景観等に悪影響を及ぼす懸念があり、「特定空家」に認定される可能性が高い。

「腐朽・破損がある戸建ての空き家」は、1998年から2013年の15年間で、48万戸から99万戸へ約2倍に増加したが、2018年には94万戸(2013年比▲5.0%)に減少した。また、「腐朽・破損がある共同住宅等の空き家」は1998年から2013年の15年間で62万戸から114万戸へと2倍弱増加したが、2018年には96万戸に減少(2013年比▲16.1%)した(図表8)。

空き家総数は増加し続けているが、周囲に悪影響を及ぼす懸念のある「腐朽・破損がある空き家10」は減少に転じた。
図表-8 腐朽・破損がある空き家
図表9は、「空家等対策計画」策定の有無でグループ分けし、空き家率が低下した自治体の割合を示したものである。

戸建ての空き家率が低下した自治体の割合は、「計画策定なし自治体」では42%、「計画策定済み自治体」では39%であった。また、共同住宅等の空き家率が低下した自治体の割合は、「計画策定済み自治体」、「計画策定なし自治体」ともに55%であった。今のところ、「空家等対策計画」の策定の有無と、空き家の減少に明確な関係性は認められない。

一方、「腐朽・破損がある戸建ての空き家の占める割合」が低下した自治体は、「計画策定なし自治体」では54%であったに対し、「計画策定済み自治体」では59%を占めた。「共同住宅等」でも、「計画策定なし自治体」では62%であったのに対し、「計画策定済み自治体」では66%を占めた。「戸建て」、「共同住宅等」ともに、「計画策定済み自治体」の方が「腐朽・破損がある空き家」が減少した自治体が多かった。
図表-9 「空家等対策計画の策定」と「空き家率の減少」
 
10 空き家の中で「腐朽・破損がある空き家」の占める割合は、「戸建て」では31%、「共同住宅等」では18%。
 

5――おわりに

5――おわりに

空き家の増減は、空き家対策の進捗だけなく、地域人口の変動や高齢化の状況等に強い影響を受ける。また、「空家法」は2015年5月の施行であり、調査時点(2018年8月)までの日が浅いため、本格的な効果の発現は今後に期待される。一方、治安や景観等に悪影響を及ぼす懸念がある「腐朽・破損がある空き家」が減少に転じたことは、明るい兆候だと言えそうだ。

ただし、空き家対策の運用には課題も指摘されている。総務省行政評価局「空き家対策に関する実態調査結果報告書」では、「助言・指導」を実施して改善がみられない件数と比較し、「勧告」を実施した件数が大幅に少ないと指摘した11。「勧告」に伴う「住宅用地特例処置」の除外により、所有者とのトラブルが起こることを自治体側が懸念12している可能性がある。

本格的な人口減少と高齢化を迎えるにあたり、空き家対策が適切に運用され、空き家数が削減に向かうことを期待したい。
 
11  「特定空家」等の所有者に対して必要な措置をとることの「助言・指導」は、2018年度までに、全市区町村の約3割(541市区町村)で実施されたが、「助言・指導」の次の段階にある「勧告」は全市区町村の約1割(197市区町村)の実施に留まっている。
12 泉水健宏(2019)「空き家対策の現状と課題-空家等対策特別措置法の施行状況を中心とした概況」参議院常任委員会調査室「立法と調査」No.416

 
参考図表-1 「戸建て」の空き家率

 
参考図表-2 「共同住宅等」の空き家率
 
 

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

(2020年07月16日「ニッセイ基礎研所報」)

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