2020年08月17日

人口動態データ解説-東京一極集中の「本当の姿」(下)-なぜ「子育て世帯誘致」では奏功しないのか

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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はじめに-集中イメージに頼らず、集中実態を知ることが大切

「東京で地方移住フェアを見てきたら、小さなお子さんを連れた家族が多く見に来ていた。だからやっぱり移住は子育て世帯向けに考えるべき」
 
地方創生に関して地方の方から出てきた意見である。

しかし、統計的な実態を考えて一極集中を解消したいと考えるならばこの意見は不正解である。

その理由のデータ説明は後述するが、こういった統計的に見た誤解がなぜ生じるのか、最初に少し触れてみたい。
 
このケースでは、「東京のフェアにきたときに実際に見た光景」という意見形成の前提(根拠)がある。
 
しかし、この「前提」の確からしさ(妥当性)を考えると、
「そもそも子育て世帯が関心をもつ話題しかその移住フェアで取り扱っていなかった(子育て世帯誘致色の強いイベントだった)可能性」
が指摘できなくもない。
 
ということは、
「移住フェアに来てくれる人々には子育て世帯が多い」
というよりも、
「あえて子育て世帯しかアクセスしないようなフェアの設計である」
という前提条件(根拠)をもとにした意見かもしれないともいえるのである。
 
このように東京一極集中問題に関しては、よく聞いてみると「本当にそうだろうか」「根拠の妥当性はあるのだろうか」と思わざるをえない意見を耳にすることが少なくない。
 
前レポートでも述べた通り、本レポートは国の統計データをもとに解説を行い、東京一極集中問題を読者が考える際の「正確な前提条件」を提示することを目的としている。
 
東京への人口集中が強まる中、正確な前提条件が上流思考となることで、中流思考である「誰を集めるのか」、そして下流思考である「どうやって集めるのか」を今一度、それぞれのエリアで議論されることを願いたい。
 
レポート(下)では、直近のコロナ禍以前の2019年の人口動態結果を、総数ならびに男性女性別だけでなく、年齢層別に解説する。
 

1――「転出・転入の差」は何歳で起こっているのか

1―― 「転出・転入の差」は何歳で起こっているのか

いわゆる地方創生の観点から人口移動を見る場合、大切なのは転出総数(出ていった数)、転入総数(やってきた数)そのものではなく、転出・転入の差(入ってくる人-出ていった人)であると前回レポート(上)で解説した。繰り返しになるが、大きく転入超過するエリアは沢山の人々に選ばれる、その時代の人々に好まれるエリアであり、その反対は選ばれないエリア、であることが示される。
 
ダイバーシティを尊重した自由な選択から生じる移動であったとしても、沢山の人に選ばれない転出超過エリアであるとすると、もしそのエリアの人口減少を阻止したいという意志があるならば、選ばれるように修正していく必要がある。
 
前回、東京都への一極集中は男性よりも女性において強くおこっている現象であることを解説したので、次に、年齢的な傾向があるか、について解説してみたい(図表1)。
 
2019年に東京都に転入超過した人口は8万2982人であるが、そのうち57.4%が女性である。男性の転入超過人口の1.35倍の女性が1年間で東京都に増えたことになる。
 
その年齢ゾーン別の内訳をみると、男女とも20代前半が圧倒的な割合を占めていることが見てとれる。男性では転入超過人口の72%、女性では67%と、双方ともに約7割が20代前半となっている。2番目に多いのは20代後半で、男性の31%、女性の22%を占める。

つまり20代だけで、実に男性転入超過人口の103%(他の年齢ゾーンでマイナスとなる分があるので100%超過となる)、女性転入増加人口の89%を占めている。
 
POINT1 東京一極集中の原因は、その7割が20代前半人口の転入超過に起因する
POINT2 東京一極集中の原因は、20代人口移動のアンバランスの結果であるといえる
 
【図表1】2019 年 東京都における転入超過人口の年齢ゾーン分布(男女別)
ここで注意したいのは「でも、実際は大学入学で東京へ出ていく子が多いから、10代後半がもっと多く、大学の所在問題ではないか」という反論である。

確かに大学生の段階では親元に住民票を残したままで、住民基本台帳上は地元にいるかに見えつつも東京都に居住する大学生は存在する。しかし、だからこそ筆者は住民基本台帳上の移動結果に注目している。

「住民票を移動させるくらいの覚悟で移動したかどうか」が基本台帳で把握可能だからである。
 
地方の高校生が4年ないし6年くらいの期間、大学生として東京に出ていたとしても、卒業後に地元に戻る、または地元以外の地方に就職で移動するのであれば、それは「一極集中を解消する」という目的からすれば、問題はない。そればかりか、東京で得た知見を地方に活かす、という意味で歓迎される側面もある。
 
逆に言えば、ある地方エリアに大学在学中だけ学生がいたとしても、「一極集中解消はできない」のである。

大学生が集まることによって、そのエリアの教育関連の一時的な産業発展にはつながるかもしれない。しかし、大学在学期間だけ人口を集める施策ならば、「短期かつ一過性の人口集め」に終わってしまう。むしろどこの大学をでても、その卒業後の就職地、そして家庭形成地に選ばれてこそ、そのエリアの長期的な発展が経済面、人口面でもたらされるのである。
 
この視点から見ると、東京都の人口集中の7割が20代前半、つまり大卒新卒または、高卒や大卒の若い時期の転職時期にあたる20代前半で起こっていることから、一極集中の解消は、「男女とも、若い人口の就職地として選ばれるエリアであるかどうか」にかかっていることが示唆されている。
 
集中人口の年齢ゾーン解説の終わりに、東京都からの転出超過が発生している年齢ゾーンもあわせてみておきたい。

まず、30代後半以降の男性(いわゆるアラフォー男性)が転出超過傾向にあり、女性の転入超過と真逆の特徴的な動きを示している。実数は多くないため、大企業の転勤族の単身赴任などによる住民票の移動が主たる原因ではないかとも考えられる。

また、50代から70代と男女とも東京都からの転出超過が大きく増加しているが、やはり男性の方が圧倒的に転出超過となる。50歳において婚歴のない独身割合(2015年全国 男性24% 女性14%)が、男性は女性を実数でも割合でも大きく上回っているため、老後を見据えた転職といった理由から、何かしらの地方移住が起こっている可能性もあるかもしれない。ただ、高齢者の地方への移住は、次世代人口形成の観点からは影響が小さいということに留意したい。
 

2――一極集中年齢ゾーン人口のもつ注目すべき特徴

2―― 一極集中年齢ゾーン人口のもつ注目すべき特徴

東京都への転入が超過している人口について、その7割が男女とも20代前半であること、また、20代後半も加算すると東京一極集中は20代人口によって形成されていることを解説した。

地方で誤解されがちな「進学先問題」といった大学進学時期ではなく、その後の数年の就業行動によるとみられる移動は、東京と地方の就業先としての吸収力の格差が顕著であることを示している。
 
20代後半においては男女の転入超過数がバランシングしているものの、20代前半では女性が男性の1.24倍といった東京都への高い転入超過の性差を示している。新卒就職先、または高卒や大卒後数年での転職先として若い男女、とりわけ女性に選ばれることに対する地方の弱みが示唆される。
 
そして、このように東京都に圧倒的な割合で転入超過している20代前半人口は、将来的な人口動態問題を考えるうえで見逃してはならない、ある特徴を持っている(図表2)。
【図表2】年齢ゾーン別に見た配偶状況(2015 年)
20代前半人口は都会、地方に関係なく、ほとんどが未婚者(統計上は婚歴のない独身を表す)である。

最新の国勢調査年である2015年の状況をみると、20代前半の男性の94.8%、女性の90.9%が未婚であることが示されている。東京の転入超過人口の7割を占める20代前半は、独身者がほとんどであることが示されており、さらに、2番目に定着数の多い20代後半においても、男性の7割、女性の6割が独身者である。
 
つまり、統計的に見れば、東京都に増え続ける人口は、そのほとんどが独身者であるということができる。

もっというと、独身であるからこそ、ライフデザインの変更を伴うような大胆な越境が可能となっていることを示している結果ともみえる。
 
POINT3 東京に移住によって増加し続けている人口はほぼ「独身者」である
 

3―― ターゲットの誤解がないか施策の見直しを

3―― ターゲットの誤解がないか施策の見直しを

これまでに述べてきた、東京への人口集中のPOINT1~3を考えれば、その裏返しとなる地方エリアの人口減少問題の解決の鍵は、「20代前半の独身男女、しかも男性より多くの独身女性を引き寄せる」ことであることは、明白であろう。
 
しかしながら、縁あって様々な地方へ出向き、人口問題に絡んでお話しをさせていただいてきたが、地方創生関係の話において「20代前半の独身の男女、しかも男性より多くの女性を引き寄せる」といった基本戦略に立脚した諸施策をうかがうことが全くないのが現実である。
 
冒頭に述べたように、移住話題で必ずと言っていいほどでてくる「子育て世帯誘致」は、東京に一極集中し続ける20代の若い独身男女が、東京都で家族形成を行った後のライフデザインに働きかけるタイプの施策であり、最低限でも、以下の大きな移住に伴うライフデザインの変更を、対象となるカップルに要請せざるを得ない。
 
夫の仕事、妻の仕事、子どもの育つ環境、の大きな3つのライフデザインに関する変更である。それは、まだ家庭形成していない独身男女へのアプローチよりも、はるかに複雑な意思決定を対象者に対して迫ることになる。
 
第二次世界大戦後75年。

人口構造は大きく変わり、40代人口を100とすると、30代人口85、20代人口67となる(2015年 国勢調査)。
 
エリアの持続的未来を支えるのは、この少数派の若い人口であることを今一度確認したい。

若い世代の夢や希望に真摯に向き合い、若い世代の求めるライフデザインに寄り添い、若い世代に選ばれるエリアづくりができるかどうかが、そのエリアの持続可能性の未来を決めるであろう。

【参考文献一覧】
 
総務省. 「住民基本台帳移動報告」2019年

天野 馨南子.“人口動態データ解説-東京一極集中の「本当の姿」(上)” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2020年8月3日号

天野 馨南子.“強まる東京一極集中(総数編)社会純減2019都道府県ランキング分析-最新純減ランキングにみる新たな動向-” ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2020年4月13日号

天野 馨南子.“令和元年2019人口動態データ分析-強まる東京「女性」一極集中(1)~追い上げをみせる大阪府、愛知県は社会減エリアへ” ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2020年2月25日号

天野 馨南子. “強まる「女性」東京一極集中(2)~転出男女アンバランス 都道府県ランキング-高まる地方男性の未婚化環境-”ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2020年3月9日号

落合 陽一.「働き方5.0」(小学館新書)2020年

天野 馨南子.“データで見る「東京一極集中」東京と地方の人口の動きを探る(上・流入編)-地方の人口流出は阻止されるのか-” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018年8月6日号

天野 馨南子.“データで見る「東京一極集中」東京と地方の人口の動きを探る(下・流出編)-人口デッドエンド化する東京の姿-” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018年8月13日号
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2020年08月17日「基礎研レポート」)

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【人口動態データ解説-東京一極集中の「本当の姿」(下)-なぜ「子育て世帯誘致」では奏功しないのか】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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