2020年08月14日

新しい生活様式による影響と今後の課題-「新しい生活様式」に関するSNS投稿データの分析

金融研究部 准主任研究員・ESG推進室兼任 原田 哲志

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1――はじめに

現在、日本では新型コロナウイルス感染拡大防止のために、様々な取り組みが行われている。政府は、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議で、感染対策として「感染拡大を予防する新しい生活様式」を提言した。この中で、日常生活の各場面別の生活様式として図表1に示す場面を挙げている。これを見ると、新しい生活様式は買い物、娯楽、公共交通機関の利用など様々な場面に及んでいることが分かる。

こうした感染拡大防止策は人々の生活に大きな影響を与えている。新しい生活様式について、人々がどのようなことを感じているかは、感染防止対策の普及や課題点を考える上で、参考となるだろう。本稿では、「新型コロナウイルス」や「在宅勤務」について人々がどのように感じているかについてSNS投稿データから調べた。また、分析手法についても概略を説明してみたい。
図表1 日常生活の各場面別の生活様式

2――分析方法

2――分析方法

本稿では、Twitterでの「新しい生活様式」に関する投稿を収集・分析し、人々の考えを調べた。本稿で行った分析の概略を説明する。
 
・対象データ
Twitterの投稿のうち、2020年6月23日から2020年6月30日までの「新しい生活様式」に関連する1万件の投稿を抽出し、下記の方法で分析した。
1単語の共起ネットワーク
文章に含まれる「単語」や同じ文中で使われている(共起関係)単語を調べることで、文章の中で、どのような事柄が注目されているか、また、それらがどのように関係しているかを知ることができる。このような、テキストに含まれる単語同士の関係を「共起ネットワーク」と呼ぶ。

この例での単語同士の関係のように、点と点を線でつなぎグラフにし、つながりに着目して点と点の関連性を分析するのは、「グラフ理論」と呼ばれ、様々な研究がされている。グラフ理論はコンピュータ科学や社会学といった幅広い分野で応用されている。身近な例では、SNSでの知り合いかもしれないユーザーの提示やGoogleなどインターネット検索エンジンでのWebサイトの評価が挙げられる。

グラフ理論の身近な活用例

・SNSユーザー同士の関係性の分析
・インターネット検索エンジンでのWebサイトの評価


本稿の分析では、抽出した投稿文を単語に分解し、投稿に含まれる単語と出現回数を調べた。また、一つの投稿文中でどの単語が同時に出現(共起)していたかを調べた。これにより、共起ネットワークを調べた(図表2)。これにより、「新しい生活様式」に関してどのようなことが話題になっているのか、どのように関連しているかを調べた。共起関係の分析にはKH Corder1を用いた。KH Corderは今回行った単語の共起ネットワークなど、テキストの分析(テキストマイニング)の機能を持つフリーソフトウェアである。

図表2 単語の共起関係の分析のイメージ
 
1 KH Coder3を使用した。(http://khcoder.net/
 参考文献:樋口耕一(2014)『社会調査のための計量テキスト分析 ―内容分析の継承と発展を目指して―』 ナカニシヤ出版
2極性(ポジティブ・ネガティブ)分析
極性分析とは、コンピューターによって文章を分析する自然言語処理の一つの手法で、分析したい文章がポジティブな文章なのかネガティブな文章なのか判定する手法である。文章のポジティブ、ネガティブ(極性)を判定させる手法として、文章に含まれる単語を調べる方法がある。これはポジティブ(ネガティブ)な文章にはポジティブ(ネガティブ)な単語が含まれるという考えに基づいている。そのような単語を集めたリストを「極性辞書」と呼ぶ。

図表3は極性分析の流れを示している。極性分析では、まず対象となる文章を構成する単語を抽出する。次に、抽出した単語一つ一つについて、極性辞書に基づいて単語の極性を評価する。これらの単語の極性を集計し、文章全体の極性を算出する。
図表3 文章の極性分析の流れ
極性分析を用いることで、商品に対するレビューやSNS投稿についての感情を定量評価することができる。これにより、特定の商品、イベント、政策などに対して人々が考えていることを調査するのに役立てることができる。例えば、商品へのレビューのマーケティングへの活用やSNS投稿から政策への人々の反応を調査するといったことが挙げられる。
 
文章の極性分析の活用例

・商品レビューのマーケティングへの活用
・政策に対する人々の反応の調査


本稿では、「新しい生活様式」や関連する単語を含むSNS投稿文について極性分析を行った。SNS投稿文を形態素解析(けいたいそ・かいせき:意味のある最小の単語に分けて品詞等を判別する方法)を用いて個々の単語に分割し、極性辞書に基づいて、それらの単語の極性(ポジティブかネガティブか)を評価・集計した。投稿文の極性の評価においては、ネガティブな単語よりもポジティブな単語をより多く含む投稿をポジティブな投稿と判定した。ネガティブな投稿も同様にどちらの極性の単語の数が多いかで判別した。極性辞書には、東北大学の乾・鈴木研究室の日本語極性辞書2を用いた。これにより、「新しい生活様式」に関する人々の反応を分析した。
 
2 小林のぞみ,乾健太郎,松本裕治,立石健二,福島俊一. 意見抽出のための評価表現の収集. 自然言語処理,Vol.12, No.3, pp.203-222, 2005.
東山昌彦, 乾健太郎, 松本裕治, 述語の選択選好性に着目した名詞評価極性の獲得, 言語処理学会第14回年次大会論文集, pp.584-587, 2008.
 

3――「新しい生活様式」に関する投稿の傾向

3――「新しい生活様式」に関する投稿の傾向

1単語の共起関係
実際に、「新しい生活様式」に関連して、どのようなことが投稿されているのか見ていきたい。図表4は、「新しい生活様式」に関連する投稿に含まれる主要な単語とその関係を示している。図中の単語を結ぶ線は、太いほど結びつきが強いことを示す。単語の色付けは、結びつきの強い単語のグループを示す。

これを見ると、投稿はいくつかのトピックに大きく分かれている様子が見られる。手洗いの徹底といった日常生活での基本的な感染予防や感染対策の実践、東京の感染者数増加などが話題となっている状況が分かる。投稿を詳細にみると、下記の特徴が見られた。
 
  • 頻出単語には、「必要」、「対応」といった単語が挙がっており、新しい生活様式による感染症対策の必要性に関する投稿が見られた。また、「手洗い」、「徹底」といった単語が挙がっており、基本的な感染対策に関する投稿が見られた。
     
  • その一方で、以前の日常に戻りたいとの投稿があった。「新しい生活様式」という単語は現状の感染対策を永続的に続けなければいけないというニュアンスを感じさせるとの投稿があった。また、ライブやイベントへの参加が難しいことに関する不満が見られた。
     
  • また、「テレワーク」、「イベント」、「熱中症」、「夜の街」などの単語が含まれており、新しい生活様式が日常の幅広い場面に関連していることが分かる。

SNSの投稿では、新しい生活様式の必要性が認識される一方で、それによる不便への不満やいつまで感染対策を続けるのか分からないことへの不安が見られた。
図表4 「新しい生活様式」に関連する単語の関係(共起ネットワーク)
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金融研究部   准主任研究員・ESG推進室兼任

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、オルタナティブ投資

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
         大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
    2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

    【加入団体等】
     ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・修士(工学)

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