2020年08月07日

新型コロナウイルスと各国経済-封じ込めは限界?コロナとの共生を模索する各国

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1――概要

新型コロナウイルスの封じ込めでは、初期に感染が拡大した中国で強固なロックダウン(都市封鎖)がなされ、一定の効果を挙げたこともあって、その後に感染が拡大した欧米でもロックダウンを中心とした厳しい封じ込め政策が実施された。しかしながら、世界的に見ると感染拡大は止まらなかった。厳しい封じ込め政策は経済への影響が甚大であることなどから、長期間実施することは難しく、経済活動を再開・維持する国も多くなっている。

本稿では、こうした最近の動きについて、世界的な状況および各国の状況を比較・概観していきたい。得られた結果は以下の通りである。
 

・感染者数は世界的に見て増加傾向にある。いったん感染拡大のピークを越えた国でも「第二波」による拡大に見舞われている国が散見される。

・5月以降は多くの国で経済活動の再開・維持が模索されており、外出制限などの厳しい封じ込め政策の実施はしていない。また、混雑状況データからは「住宅」の滞在時間が減り「職場」の滞在時間が増えるなど、人の移動量も増していることが分かる。欧州を中心に「公園」の混雑量にも増加傾向が見られる。

・ロンドン大学が公表している7月11日時点での実効再生産数の推計値は多くの地域で1を超えている。7月までに取られている感染予防策では、今後も感染者数の増加が止まらない可能性がある。

・理論的には、感染者1人が感染させる人数が1人より少なければ、時間が経過するにつれ感染は収束するが、こうした状況になっていない。

・感染拡大が制御不可能になってしまえば、医療崩壊リスクが高まり、強固な封じ込め政策の再実施を検討する必要も生じてくるだろう。

・多くの国で、感染予防的な行動をとりつつ経済活動も再開・維持するというコロナとの共生を目指しているものの、経済活動の再開は始まったばかりであり、最適解を見つけられていない。経済復興の腰折れリスクは依然として大きいと言える。

 

2――世界的な感染動向

2――世界的な感染動向1

まず、新型コロナウイルスの感染状況を確認すると(図表1)、世界全体では2月から4月上旬にかけて感染が急速に拡大したものの、4月中旬から5月にかけては若干減速した。これは、同時期に欧米で実施したロックダウン(都市封鎖)を中心とする封じ込め政策が大きな効果を挙げ、これらの地域での感染が抑制されたためと見られる(図表2)。
(図表1)新規感染者・死亡者数の推移(世界全体)/(図表2)新型コロナウイルス新規感染者数
一方、経済規模の大きい新興国(ブラジル、インドなど)ではなかなか感染拡大に歯止めがかからない状態が続いており、米国でも6月後半から感染が再拡大し4月のピークを越えて「第二波」と言える状況に見舞われた。欧州でも7月後半に入って感染再拡大の兆しが見える(図表2)。4月と7月の感染者数の増加を比較しても、7月の感染者数が4月を上回っている国は多くなっている(図表3の左上部分)。
(図表3)各国の新型コロナウイルス感染状況(4月・7月) 背景には、外出制限などの強固な封じ込め政策は感染者数の拡大防止に効果はあるが、経済への影響が大きいため、長期間実施することが難しく5月後半頃から封じ込め政策を緩和する動きが見られたことがある。

その結果、世界全体の感染者数は5月半ばの減速傾向から再度上昇に転じ、現在まで右肩上がりの状態が続いている。死亡者も4月のピークから5月下旬までは減速が続いていたが、その後は増加に転じている(図表1)。
 
1 本稿以前に「新型コロナウイルスと各国経済」『ニッセイ基礎研レター』シリーズでMSCI ACWIの指数を構成する49 カ国・地域についての調査をしており、本稿でも特に断りがない限り、これらの国・地域を対象とする。中国と記載した場合は中国本土を指し香港は除くこととする。また、香港等の地域も含めて「国」と記載する。
 

3――政府の動き

3――政府の動き

感染拡大が続く一方で、足もとの政府の封じ込め政策については4月に比べて厳しい政策を打ち出している国は多くない。

図表4には横軸に政策の厳しさ、縦軸に感染者増をプロットしている。4月は厳しい封じ込め政策を実施している国が多く、緑の〇印が図表の右側に偏っているのに対して、7月の封じ込め政策の厳しさ(青の□印)は左側にシフトしている。感染が収束した国(図表でいえば下側に位置している国、つまり「抑制成功国」)が封じ込め政策を緩めただけでなく、ほとんどの国で4月ほど厳しい政策を取っていない状況にある。実際、各国の4月の政策の厳しさと7月の政策の厳しさを直接比較すると(図表5)、7月の封じ込め政策が4月の政策より厳しい国はごく一部にとどまっていることが分かる。
(図表4)各国政府の封じ込め政策の厳しさ(4月・7月)/(図表5)各国政府の封じ込め政策の厳しさ(4月→7月)
前述した通り4月以降に各国で行ってきた政策は、厳しいロックダウンや外出制限などの経済的代償が大きいものが中心であり、実際に経済への被害が深刻化している上に政府の財政支援にも限界もあることから長期的に続けることは難しい。また、4月以降に医療体制・検査体制を強化してきたことで、足もとの感染者数増加に医療が対応できており、経済を止めてまで感染拡大を阻止したいという状況にないことも、厳しい封じ込め政策を実施せずに済んでいる要因と思われる。

ただし当然ながら、感染を完全に抑えているわけではないので、場所・期間を限定した断続的な封じ込めの実施や、ソーシャルディスタンス確保・マスク着用などの基本的な感染予防策は導入されている。
 

4――人々の動き

4――人々の動き

前節では、政府による対策としての封じ込め政策の厳格度を見た。次に実際の人々の活動がどうなったかを見ていく。

Googleが公表している混雑状況データ(COVID-19 コミュニティモビリティレポート)では、コロナ禍前(1月3日以降の5週間)をベースラインにして、訪問者数・滞在時間から測定した混雑量を公表している。

このデータをもとに「住居」の混雑具合を見ると(図表6)、厳しい封じ込め政策をしていた4月には「住居」の滞在時間(および訪問者数)が長くなっていることが分かる(図表5の緑〇が右上の位置にある)。4月には厳しい行動制限が課されていた結果、様々な店舗が休業し、また在宅勤務などが進み自宅で過ごす人が増えたことが背景にあるだろう。一方、7月は4月より「住居」への滞在時間が減少している(図表6の青□が下側にある)ことが分かる。7月は封じ込め政策が緩和され経済活動が段階的に再開されてきているため、「住居」以外への人の移動が進んでいると言える。

一方、「職場」の混雑具合は、「住居」の混雑具合と逆の現象が起きている(図表7)。4月は「職場」への滞在時間が急激に減る一方で、4月は増えている。
(図表6)「住居」の混雑具合(4月・7月)/(図表7)「職場」の混雑具合(4月・7月)
なお、いずれのデータでも4月のデータより7月のデータの方が横への広がりが大きく、7月の方が政府の政策の厳しさにバラツキがあることを示している。ただし、「住宅」のデータは全体的に下方にシフトし、「職場」のデータは上方シフトしていることから、比較的厳しい封じ込め政策をしている国においても4月と比較して人の移動量は増えていると考えられる。
(図表8)「公園」の混雑具合(4月・7月) 「公園」の混雑量(訪問者数・滞在時間)からは、また違った特徴が読み取れる(図表8)。7月に「公園」の混雑具合が増しているが、特に欧州各国での混雑が目立つ。コロナ禍前の混雑量の基準(1月)が寒い時期であり、基準時点の混雑量が少ないと見られることから気候が温暖になってきた時期に外出や「公園」の混雑が増えるのは自然な変化であると言えるが、特に欧州ではバカンスシーズンに入り、また域内を中心に国境管理を廃止してきたことから、域内における人の移動量を後押ししている可能性も指摘できるだろう。
 

5――まとめ

5――まとめ

前節までに見たように、世界的に見て感染者数は増加傾向にある。これは、多くの国で経済活動の維持・再開が模索され、厳しい封じ込め政策を避けており、また人の移動・混雑具合も増してきた結果とも言える。

図表9はロンドン大学が公表している7月11日時点での実効再生産数2の推計値3と7月の感染者数をプロットしたものである。ここからは多くの地域で実効再生産数が1を超えていることが分かる。

この実効再生産数はひとつのモデルにおける推計値であり、時系列で変化するため結果は幅をもって見る必要があるが、7月までに取られている感染予防策では、今後も感染者数の増加が止まらない可能性がある4
(図表9)7月の感染者増加数と実効再生産数 理論的には、感染者1人が感染させる人数が1人より少なければ、時間が経過するにつれ感染は収束するが、こうした状況になっていない。各国とも、さらなる感染予防的な行動が求められていると言えるが、感染拡大が制御不可能になってしまえば、医療崩壊のリスクや強固な封じ込め政策の再実施を覚悟する必要も生じるだろう5

多くの国で、感染予防的な行動をとりつつ経済活動も再開・維持するというコロナとの共生を目指しているものの、経済活動の再開は始まったばかりであり、最適解を見つけられてはいないと思われる。経済の復興は始まっているが感染者数の急拡大による腰折れリスクは依然として大きいと言えるだろう。
 
2 あるウイルスを1人の感染者が何人に感染させるかを示す値。1人が2人に感染させる場合、再生産数は2となる。
3 ロンドン大学衛生熱帯医学大学院(LSHTM)による推計値。詳細はウェブサイト(https://epiforecasts.io/covid/posts/global/)を参照。
4 ニュージーランドやタイでは7月の感染者増加数が少ないが、実効再生産数の推計値が大きくなっている。これらの国では推計の誤差が大きく信頼区間が広い点には注意が必要。推計値の詳細は前述のウェブサイトを参照。
なお、感染拡大がまず他人との接触が多い人からはじまって、こうした人への再感染がないとすれば、他人との接触が少ない人のみが感染の可能性がある状態になっていき、次第に感染拡大ペースが減速する可能性なども考えられる。
5 重症者や死亡者が増えなければ感染者数が増えても問題ないとする意見もあるが、新型のウイルスであり、仮に回復したとしても後遺症などの影響が未知数である以上、感染拡大を放置する政策は講じにくいと思われる。例えば日経新聞(英フィナンシャル・タイムズからの翻訳)では「[FT]コロナ「後遺症」? 長引く倦怠感などの症状」の記事で後遺症についての論争を紹介している(https://r.nikkei.com/article/DGXMZO62268990U0A800C2000000?type=my&s=1#IAAUAgAAMA)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年08月07日「基礎研レター」)

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