2020年08月04日

年金改革ウォッチ 2020年8月号~ポイント解説:確定拠出年金の拠出限度額見直し 

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

企業年金・個人年金部会では、より公平な制度に向けたDC(確定拠出年金)の拠出限度額や必要書類の見直し、新型コロナウイルス禍に配慮したDB(確定給付企業年金)の掛金設定の弾力化などについて、活発な意見交換が行われた。年金広報検討会では、法改正に伴う厚生年金適用拡大のメリットの伝え方や、老後設計に向けて公私年金を組み合わせた「見える化」の具体策などが議論された。
 
○社会保障審議会  企業年金・個人年金部会
7月9日(第12回)  DCの拠出限度額、DBの掛金設定の弾力化
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_12308.html (資料)
 
○年金広報検討会(年金局)
7月27日(第5回)  今年度の広報計画、改正年金法の広報、「いっしょに検証!公的年金」の見直し
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212815_00019.html (資料)
 

2 ―― ポイント解説:確定拠出年金の拠出限度額見直し

2 ―― ポイント解説:確定拠出年金の拠出限度額見直し

企業年金・個人年金部会は6月に続いて開催され、確定拠出年金の拠出限度額の見直しについて、議論のたたき台となる案が示された。本稿では、提示された案と論点を確認する。
図表1 2022年10月に施行される確定拠出年金の見直し事項 1|見直しの対象:確定給付企業年金と併設時の企業型と、企業型と併用時の個人型
6月の同部会では、今年5月に成立した改正の施行と併せて対応すべき項目について、税制改正のプロセス*1も考慮して、優先的に議論を進める方針が確認されていた。そこで今回は、2022年10月の施行時に、既に決まっている事項(図表1)に加えて見直すべき点について、具体的な見直しの案が示された。
図表2 確定拠出年金の拠出限度額(月額) 今回提示された項目は、確定給付型の企業年金と併設する企業型確定拠出年金の拠出限度額と、企業型確定拠出年金と併用時の個人型確定拠出年金(iDeCo)の拠出限度額である(図表2の赤枠)。
 
*1 例年は8月に各省庁の要望が提示される。




 
2|見直し1:企業型の拠出限度額を精緻化
確定給付型企業年金と併設時の企業型確定拠出年金の拠出限度額(月額)は、法改正後の「2.75万円」を「5.5万円-確定給付型企業年金の仮想掛金額」へ見直す案が示された。確定給付型企業年金がない場合は仮想掛金額がゼロだと考えると、企業型確定拠出年金の拠出限度額が「5.5万円-確定給付型企業年金の仮想掛金額」へ一本化されることになる。
図表3 確定給付型企業年金の加入員1人当掛金(月額) 現行の2.75万円は、確定給付型企業年金の仮想掛金額を一律に2.75万円とみなして設定されていた。しかし、確定給付型企業年金の水準は企業ごとに異なり、かつ現在は仮想掛金額が下がっている(図表3)。見直し後は、仮想掛金額が2.75万円未満の企業は企業型確定拠出年金の掛金を現在より引上げ可能となる。

一方で、仮想掛金額が2.75万円超の企業では、企業型確定拠出年金の掛金を現在より引き下げるケースが出てくる。6月の部会では現行の2.75万円を経過措置として続ける意見が出たが、今回はその意見は出なかった。5.5万円を引き上げる意見は出たが、厚労省は税制改正での交渉が困難という見方を示した。
図表4 見直し案に沿った確定拠出年金の拠出限度額のイメージ 3|見直し2:企業型確定拠出年金と併用時の個人型確定拠出年金の拠出限度額を一本化
上記の見直しで企業型確定拠出年金の拠出限度額が「5.5万円-確定給付型企業年金の仮想掛金額」へ一本化されるのにあわせて、企業型確定拠出年金と併用時の個人型確定拠出年金(iDeCo)の拠出限度額も「2.0万円」へ一本化する案が示された(図表2右)。企業型確定拠出年金の拠出額が少ない場合には、企業型との合計が5.5万円を超えない範囲で、2.0万円まで個人型に拠出可能になる。これにあわせて、個人型へ加入する際に勤務先が発行する必要がある書類を廃止する案も示された。

この見直しには賛成の意見が多かったが、さらに進めて、個人型の拠出限度額を5.5万円に引き上げたり、企業型内で可能な個人拠出(マッチング拠出)の制限*2を撤廃する意見も出された。これに対して厚労省は、確定給付型企業年金での個人拠出も併せて考える必要*3があり、長期的課題と整理した。
 
*2 企業型確定拠出年金での個人拠出(マッチング拠出)は、企業の拠出額以下かつ企業との合計額が限度額以内で可能。
*3 各制度で個人(従業員)拠出分の税制措置が異なる。企業型確定拠出年金(マッチング拠出)と個人型確定拠出年金(iDeCo)は小規模企業共済等掛金控除(拠出限度額まで)、確定給付企業年金は生命保険料控除(年4万円まで)、厚生年金基金と公務員共済の年金払い退職給付と私学共済の退職等年金給付は社会保険料控除(上限なし)、の対象となる。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

(2020年08月04日「保険・年金フォーカス」)

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