2020年08月03日

2019年健康寿命はさらに延伸~制限がある期間はやや短縮するも、加齢や健康上の問題があっても、制限なく日常生活を送ることができる社会を構築することが重要

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――2019年健康寿命の試算

1|健康寿命は平均寿命以上の延び
直近の健康寿命としては、2016年時点のものが公表されており、男性が72.14年、女性が74.79年だった。2019年時点の健康寿命を、今回公表された「2019年簡易生命表」と、7月上旬に厚生労働省から公表された「2019年国民生活基礎調査」の結果を使って、2016年の算出方法に倣って、筆者が計算してみたところ、男性が72.68年、女性が75.38年となった2。したがって、健康寿命はこの3年間で男性が+0.54年、女性が+0.59年延びたことになる。

この間の平均寿命の延びは、男性が+0.43年、女性が+0.31年なので3、健康寿命の延びは、男女とも同じ期間の平均寿命の延びをわずかに上回っている。この健康寿命の延びが平均寿命の延びを上回る傾向は、2010年から続いており、どちらかと言えば、平均寿命と健康寿命の差(健康上の問題で日常生活に制限がある期間)は短縮傾向にある。
図表1 平均寿命と健康寿命の推移
 
2 厚生労働科学研究「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究」のロジックを使って計算をした。
3 2016年の平均寿命は、2016年簡易生命表より男性80.98歳、女性が87.14歳だった。
2|延伸の要因は、高齢期の健康状態の改善
健康上の問題で日常生活に影響がある割合は、どの程度改善しているのだろうか。
図表2 健康上の問題で日常生活に影響がある割合の推移 健康寿命の計算に使われているのは、「国民生活基礎調査」の「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という設問である。2019年の結果は、全体の13.4%(男性12.0%、女性14.6%)が「健康上の問題で日常生活に影響がある」と回答していた4

年齢別に、2004年調査と比較すると、60歳以上で日常生活に影響がある割合は大きく低下しており、高齢期での改善が大きかった(図表3)。この高齢期の改善が、平均寿命の延伸以上に健康寿命が延びている要因だと考えられる。
 
4 日常生活に影響がある内容として「日常生活動作」が39%、「外出」が37%、「仕事・家事・学業」が44%、「運動」が35%、「その他」が14%で、2016年までの調査と大きな変動はない(割合はいずれも男女年齢計。)。
 

2――国の目標は2040年までに+3年、75年以上

2――国の目標は2040年までに+3年、75年以上

「健康寿命」は、2013年の日本再興戦略で「健康寿命の延伸」が目標として掲げられたことで、広く注目されるようになった。当初は、2020年までに2010年の数値(男性70.4年/女性73.62年)を1年以上延伸することを目標としていたが、この目標は2016年にクリアしている。

現在は、引き続き、平均寿命を上回る健康寿命の延伸としており、2040年までに2016年の数値から+3年以上延伸し、男女とも75歳以上とすることを目標としている。この目標に向けて、糖尿病等の生活習慣病の重症化予防、認知症の様態に応じたサポート体制の充実、がんの早期発見と治療と就労の両立に向けたサポート体制など、幅広い分野での取り組みが推進されている。
図表3 財政再生計画における予防・健康づくりの推進に向けた取り組み

3――加齢や健康上の問題があっても

3――加齢や健康上の問題があっても、制限なく日常生活を送ることができる社会の構築も重要

以上のとおり、平均寿命とともに健康寿命も継続的に延びており、筆者の概算によれば男性が72.14年、女性が74.79年で、3年間の健康寿命の延びは、男女とも同じ期間の平均寿命の延びをわずかに上回っていた。また、健康上の問題で日常生活に影響がある割合は、60歳以上で改善していた。

「日常生活に制限」をもたらす懸念のある要因を取り除き、平均寿命を上回る健康寿命の延伸を実現するための各種政策は、個人のQOL(生活の質)向上のためにも、高齢化がますます進む日本における成長戦略としても重要だろう。

一方で、目標どおり2040年までに健康寿命が+3年延伸されたとしても、国立社会保障・人口問題研究所の推計(平成29年中位推計)では、この間に平均寿命は男性2.41年、女性2.49年延伸すると予測5していることから、「日常生活に制限がある期間(今回の試算では男性8.7年、女性12.1年)」の改善は2040年までに0.5年程度にとどまる。どれだけ健康寿命が延びても、日常生活に影響がある期間は一定期間生じるということだ。
 
国の「健康寿命の延伸」という目標は、定義に立ち返ってみれば、「日常生活が制限なく送れる期間の延伸」を目指しており、上記のような健康悪化の早期発見や予防、効果的な治療を行う仕組みづくり等が理想的かもしれない。しかし、加齢や健康上の問題があっても、制限なく日常生活を送ることができる社会を構築することも、もう一つの重要な改善策となり得るだろう。
 
5 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)報告書」による中位推計では、2016年の平均寿命の推計が男性80.86/女性87.14歳、2040年が男性83.27/女性89.63歳と推計している。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2020年08月03日「基礎研レター」)

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