2020年08月03日

2020年4-6月期の実質GDP~前期比▲8.1%(年率▲28.8%)を予測~

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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●4-6月期は年率▲28.8%の大幅マイナス成長を予測

本日(8/3)、内閣府から公表された2020年1-3月期の実質GDP2次速報(改定値)は前期比▲0.6%(年率▲2.2%)となり、1次速報から変わらなかった。法人企業統計(確報)の結果が反映されたことにより、設備投資が前期比1.9%から同1.7%へ下方修正される一方、民間在庫変動の寄与度が前期比年率▲0.4%から同▲0.2%へ上方修正された。
 
2020年1-3月期のGDP2次速報(改定値)を受けて、2020年4-6月期GDP(1次速報)の予測を行った。2020年4-6月期の実質GDPは、前期比▲8.1%(前期比年率▲28.8%)と3四半期連続のマイナス成長になったと推計される1。新型コロナウィルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言の発令に伴う外出自粛や店舗休業の影響で、民間消費(前期比▲7.4%)、住宅投資(同▲4.0%)が大幅減少となったほか、企業収益の悪化や先行き不透明感の高まりから設備投資(同▲4.2%)も大きく落ち込んだ。公的需要(政府消費、公的固定資本形成)は増加したものの、国内需要は前期比・寄与度▲4.7%の大幅減少となった。また、海外経済の急激な悪化を背景に輸出が前期比▲21.9%の大幅減少となったことから、外需も前期比・寄与度▲3.4%(年率▲12.9%)と成長率を大きく押し下げた。
 
名目GDPは前期比▲6.9%(前期比年率▲24.8%)と3四半期連続の減少となるが、実質の伸びは上回るだろう。GDPデフレーターは前期比1.4%(1-3月期:同0.1%)、前年比2.2%(1-3月期:同0.9%)と予測する。国内需要デフレーターは前期比▲0.2%の低下となったが、輸入デフレーター(前期比▲9.6%)が輸出デフレーター(同▲1.0%)以上に低下したことがGDPデフレーターを押し上げた。
 
2020年4-6月期は、新型コロナウィルス感染症の影響でリーマン・ショック後の2009年1-3月期(前期比年率▲17.8%)を超える大幅マイナス成長になったとみられる。5月下旬に緊急事態宣言が解除されたことから、景気は5月を底として持ち直しているが、そのペースは緩やかなものにとどまっている。
最近の月次GDPの動き 当研究所が推計している月次GDPは2020年3月が前月比▲4.4%、4月が同▲6.1%と急速に落ち込んだ後、5月には同▲0.8%と減少幅が縮小し、6月は同3.7%と4ヵ月ぶりの増加となった。6月の月次GDPは4-6月期の平均よりも2.2%高い水準となっている。

7-9月期は高い発射台からスタートすることもあり、4四半期ぶりのプラス成長となる可能性が高い。ただし、飲食、宿泊などのサービス消費の持ち直しが限定的にとどまっていること、7月に入り新型コロナウィルスのPCR陽性者数が再び増加していることもあり、経済活動の正常化は遅れている。現時点では、7-9月期の実質GDPは前期比年率10%程度と4-6月期の落ち込みの半分以下の伸びにとどまると予想している。
 
1 8/3までに公表された経済指標をもとに予測している。今後公表される経済指標の結果によって予測値を修正する可能性がある。
 

●主な需要項目の動向

●主な需要項目の動向

・民間消費~緊急事態宣言の影響でサービス消費を中心に大幅減少~
 
民間消費は前期比▲7.4%と3四半期連続の減少を予測する。

民間消費は、2月末の政府の自粛要請を受けて、外食、旅行などのサービス消費を中心として3月に減少した後、緊急事態宣言が発令された4月、5月には水準を大きく切り下げた。5月下旬に緊急事態宣言が解除されたことを受けて、6月には持ち直したものの、4-6月期の民間消費は過去最大の落ち込みとなった。
新車販売台数(含む軽乗用車)の推移/百貨店売上高の推移
外食産業売上高の推移/延べ宿泊者数の推移
足もとの消費動向を業界統計で確認すると、自動車販売台数は、来店客数の減少や部品の供給制約の影響で5月に前年比で▲50%近い減少となった後、6月には同▲20%台まで減少幅が縮小した。また、百貨店売上高は、インバウンド需要がほぼ消失する中、緊急事態宣言下で休業する店舗が多かったことから、4月、5月と前年比で▲70%前後の大幅減少となったが、緊急事態宣言解除後の営業再開を受けて、6月には同▲20%程度までマイナス幅が縮小した。

一方、外食、宿泊などのサービス消費は、緊急事態宣言解除後もソーシャルディスタンス(社会的距離)を確保する姿勢が根強いことから、持ち直しは限定的にとどまっている。
・住宅投資~3四半期連続の減少~

住宅投資は前期比▲4.0%と3四半期連続の減少を予測する。
新設住宅着工戸数の推移 新設住宅着工戸数(季節調整済・年率換算値)は90万戸台の推移が続いていたが、消費税率が引き上げられた2019年10-12月期に80万戸台、外出自粛の影響が顕在化した2020年4-6月期には70万戸台へと水準を大きく切り下げた。

先行きについては、雇用所得環境の悪化が下押し要因となるため、住宅投資の低迷は長期化する可能性が高い。
・民間設備投資~回復基調が途切れる~
 
民間設備投資は前期比▲4.2%と2四半期ぶりの減少を予測する。

設備投資の一致指標である投資財出荷指数(除く輸送機械)は2020年1-3月期の前期比▲0.8%の後、4-6月期は同▲8.0%の大幅減少となった。また、機械投資の先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)は2020年1-3月期に前期比▲0.7%と3四半期連続で減少した後、2020年4、5月の平均は1-3月期を▲10.8%下回っている。
設備投資関連指標の推移/設備投資計画(全規模・全産業)
日銀短観2020年6月調査では、2020年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア投資、除く土地投資額)が3月調査から▲3.7%下方修正され、前年度比0.8%増となった。増額計画は維持したが、6月調査としては2009年度(前年度比▲12.7%)以来の低い伸びとなった。企業収益の悪化を受けて設備投資計画は9月調査以降も下方修正される公算が大きく、2020年度実績は2010年度(前年度比▲2.2%)以来の減少となることが予想される。

設備投資は、高水準の企業収益を背景に、人手不足対応の省力化投資、都市再開発やインバウンド関連の建設投資、研究開発投資を中心に堅調に推移してきた。企業収益は、海外経済の減速や消費税率引き上げの影響で弱い動きとなっていたが、新型コロナウィルスの影響で一段と悪化している。設備投資の回復基調は途切れてしまったと判断される。
・公的固定資本形成~災害復旧、国土強靭化関連を中心に増加傾向が続く~
 
公的固定資本形成は前期比0.7%と2四半期ぶりの増加を予測する。

公共工事の先行指標である公共工事請負金額は2018年10-12月期から7四半期連続で増加し、2020年4-6月期は前年比3.4%となった。一方、公共工事の進捗を反映する公共工事出来高(建設総合統計)は、2019年4-6月期から増加を続けており、2020年4、5月の平均は前年比7.3%となり、2020年1-3月期の同7.2%と同程度の伸びとなっている。

公的固定資本形成は、災害復旧や「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」に基づく公共事業関係費の積み増しを背景に増加傾向が続いている。
公共工事請負金額、出来高の推 なお、公的固定資本形成を推計する際の基礎統計となっている「建設総合統計」は、2020年4月分の公表時に、新たな進捗率の適用や推計に用いる補正率の見直しを行い、2011年4月から2020年3月の公表値を遡及改定した。ただし、QEの推計では、2019年度までの既公表系列に対して2020年4-6月期以降の公表系列を接続させるため、2019年度の遡及改定系列と既公表系列の比率により2020年4月以降の系列の水準を調整して用いられる。このため、建設総合統計の遡及改定は2019年度以前の公的固定資本形成に反映されない。
・外需~財、サービスの輸出がともに急減し、成長率を大きく押し下げ~

外需寄与度は前期比▲3.4%(前期比年率▲12.9%)と2四半期連続のマイナスになると予測する。海外経済の悪化やインバウンド需要の急減を反映し、財貨・サービスの輸出が前期比▲21.9%の大幅減少となった。

2020年4-6月期の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前期比▲37.5%(1-3月期:同▲0.1%)、EU向けが前期比▲26.3%(1-3月期:同▲3.1%)、アジア向けが前期比▲9.1%(1-3月期:同▲4.2%)、中国向けが前期比6.4%(1-3月期:同▲7.5%)、全体では前期比▲20.7%(1-3月期:同▲4.0%)となった。
地域別輸出数量指数(季節調整値)の推移 多くの国で都市封鎖が行われていた欧米向けが急激に落ち込む一方、経済活動の再開、工場の再稼働が早かった中国向けがすでに持ち直していることから、アジア向けは落ち込み幅が相対的に小さい。また、欧米向けの輸出数量(季節調整値)を前月比でみると、4、5月に急速に落ち込んだ後、段階的な経済活動の再開を反映し、6月には小幅ながら上昇に転じている。7-9月期は前期比でプラスに転じる可能性が高いだろう。ただし、経済活動の水準が元に戻るまでには時間を要するため、輸出の回復ペースは急激な落ち込みの後としては緩やかなものにとどまることが予想される。

一方、財貨・サービスの輸入は前期比▲1.3%と小幅な減少にとどまった。海外旅行の急減少からサービスの輸入は大きく落ち込んだが、中国の生産活動が再開される中で、パソコン、携帯電話などの消費財の輸入が増加した。

 
日本・月次GDP 予測結果
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2020年08月03日「Weekly エコノミスト・レター」)

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