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低迷する宿泊施設はコロナ禍から抜け出せるか-国内旅行客の動向とGo Toキャンペーンを考える
金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子
1.はじめに
コロナ禍の拡大は第2波が懸念され、未だ収束の兆しはない。宿泊需要消失の影響から4月にはホテルオペレーターの㈱ファーストキャビンが、6月にはWBFグループが倒産した。いずれもすぐに他企業からの救済を受けることができたが、ホテルセクターの回復の見通しは不透明なままだ。宿泊施設がコロナ禍から抜け出せる見込みはあるのか、国内の宿泊需要について考えてみたい。
2.宿泊施設の投資と収益の状況は
3.客室稼働率の状況と今後のシナリオ
世界観光機関(UNWTO)は5月に今後の国際観光客数の3つのシナリオと客数の予測を公表し、段階的な国境開放と旅行規制の緩和が行われる時期が以下となる可能性を示した。
シナリオ1 7月初旬の場合で客数前年比▲58%、
シナリオ2 9月初旬の場合で▲70%、
シナリオ3 12月初旬の場合で▲78%
また、同専門家委員会の調査では、観光需要の大部分が回復を始めるのが2021年以降になると予測する。
一部には、既に限られた国への移動制限を解除し始めた国2もあるが、多くの国では本格的な国境開放の目途は立っていない。国内でも政府は一部の国に対する国境開放の検討を始めてはいるものの本格的な国境開放はまだ先である。日本に限って言えばUNWTOの3つのシナリオのうち、シナリオ1の7月初旬の国境開放は実現せず、シナリオ2の9月初旬の開放も難しそうな状況である。
2 6月半ばから後半にかけてドイツ、イタリア、ギリシャ、スイスなどがEU域内など限られたエリアへの国境開放を開始している
4.国内旅行客には訪日客よりも多く旅行してもらう必要がある
ただし、国内旅行客と訪日客について、客数と平均宿泊日数が異なっていることには注意が必要である。2019年の訪日客と国内旅行客の客数を見ると、国内旅行客と訪日客の割合は8対3となっている(図表3)が、一方で、2019年の平均宿泊日数を見ると、国内旅行客の平均宿泊日数は訪日客の4分の1以下となっている(図表4)。
ここで、国内旅行客と訪日客の室料単価が変わらないと仮定して、訪日客が泊まるはずであった宿泊施設に、国内旅行客に泊まってもらうことを考える。国内旅行客と訪日客の人数割合が8:3で、平均宿泊日数の割合が1:4とすると、単純計算だが人数×平均宿泊日数は合計で8×1+3×4=20となる。訪日客の3×4=12がなくなったのを国内旅行客の8×1=8が代替するとすると人数の増加や宿泊日数の増加で、全ての国内旅行客がいつもより2.5倍(20÷8)以上多く旅行に行く必要があることになる。
国内旅行客がいつもより多く旅行に行くことに、回数利用制限のないGo To キャンペーンが貢献すると政府が考えたのはある意味当然と言えるのではないだろうか。当面の経済面だけを考えると、例年最も国内旅行客が多い8月に、原則として日々の売上を積み上げていく必要がある宿泊施設にとって、顧客に繰り返し来てもらえる可能性が上がることはプラスであるとは考えることができる。但し、Go To キャンペーンによるコロナ禍の拡大が起きると、宿泊施設の利用停止や厳しい移動制限が課せられる可能性もあり、その場合、国民の旅行意欲の長期低迷によって逆効果になるリスクもある。
5.予算の多い国内旅行客を増加させると波及効果が見込みやすい
6.コロナ禍前までに国内旅行客数が伸びていた施設には競争力がある
コロナ禍前の状況では、国内旅行客は客数も平均宿泊数も横ばいとなっていたことから国内旅行客数が増加していた施設については競争力を増していたと考えられ、これからGo Toキャンペーンなどで国内旅行客が国策として増加するとすれば、国内旅行客のニーズを適切にとらえることができるリゾートホテルやビジネスホテルはこれから大きく回復するかもしれない。
7.日本人海外旅行客の需要を取り込める可能性もある
8.終わりに
観光需要は日帰り旅行、国内宿泊旅行、海外旅行と、近い旅行から遠い旅行へと回復する見込みであり、宿泊施設の当面の目標は宿泊を伴う国内旅行客の需要の喚起と取り込みとなる。ただし、訪日客に比べて国内旅行客は平均宿泊日数が少なく、宿泊施設はより多くの客数を呼び込む必要がある。
東京を除外したまま開始されたGo To キャンペーンは、残念ながら繁忙期の8月の国内旅行需要を十分に取り込むことはできないだろうと推測される。しかし、例年は8月に次いで春と秋の国内旅行需要が多い。政府にはコロナ禍の状況を踏まえて、東京を含める形で近隣県への国内旅行に限定してのGo To キャンペーンにするなど、柔軟かつ機動的な運営を期待したい。また、国家予算に制限はあるのであろうが、経営難に陥る宿泊施設に対する何等かの支援を実施し、2021年以降にコロナ禍が克服されて訪日客が復活した場合に宿泊するインフラがないという状況にならないような政策が望まれる。こうした各種政策により10月、11月の国内旅行需要を少しでも多く取り込むことができれば、国内の宿泊施設の売り上げ回復のきっかけになるのではないだろうか。
(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
03-3512-1853
- 【職歴】
2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
2006年 総合不動産会社に入社
2018年5月より現職
・不動産鑑定士
・宅地建物取引士
・不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員
(2020年07月31日「不動産投資レポート」)
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