2020年07月16日

ケアプランの有料化で質は向上するのか-報酬体系の見直し、独立性の確保が先決

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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4――ケアプラン有料化の論点(1)~財源論からの視点~

1自己負担を導入した場合の給付抑制効果は500億円程度
まず、ケアプランを有料化した場合の給付抑制効果を探ろう。ケアプランを有料化した場合、利用者は原則として1カ月当たり1,000~1,500円程度の負担増を強いられるが、ケアプランの作成費に相当する居宅介護支援費は5,000億円前後であり、仮に一律で1割負担を導入したとしても、全体の給付抑制効果は約500億円にとどまると見られていた。一方、ケアプラン作成費を除く他の介護保険サービスは所得に応じた2~3割負担を導入しており、これに準じる形でケアプランの有料化を実施すれば、給付抑制の規模は少し大きくなるが、約10兆円に及ぶ全体の介護総予算(自己負担を含む)に比べれば、正に「雀の涙」に過ぎなかった。

もちろん、危機的な財政状況を踏まえれば、ケアプラン有料化は一つの選択肢だったが、その場合、どんな影響があるのか予想した上で、利害得失を考慮する必要があった。以下、(1)利用控えの懸念、(2)自己作成者の増加――という2点で、想定されたマイナス面の影響を予想する。
2有料化によるマイナス面の予想(1)~利用控えの懸念~
第1に、利用控えの懸念である。ケアプラン有料化は利用者のアクセス悪化をもたらし、低所得者を中心に介護保険サービス全体の利用控えが起きる可能性が想定される。この場合、給付抑制は約500億円よりも大きくなる反面、適切に介護保険サービスが行き届かなくなるリスクも想定される。実際、2019年末に決着した制度改正論議21では、与党内で「自己負担が生じると低所得者が利用を控える恐れがある」「ケアマネジャーに対して利用者が強く迫るようになり、過剰なサービス利用に繋がる」といった慎重な意見が示されたほか、部会でも「利用控えが危惧される」といった声が出たことで、有料化が見送られた。

もしケアプラン有料化を実施することになった場合も、低所得者は引き続き無料または定額の自己負担にとどめるなど、所得に応じた配慮が必要になったと思われる。この選択肢を採用すると、給付抑制効果は一層、小さくなったはずである。
 
21 2019年12月16日『週刊社会保障』、2019年11月19日『共同通信』配信記事を参照。なお、全世代型社会保障検討会議(議長:安倍晋三首相)が2019年末、中間報告を取りまめる際、原則1割の75歳以上高齢者に関する医療費自己負担を2割に引き上げることが決まり、「医療、介護双方の負担増は難しい」との判断が働いたという。2019年12月20日『朝日新聞』を参照。
3|有料化によるマイナス面の予想(2)~自己作成者の増加による市町村の負担増~
第2に、自己作成者が増加することによる影響である。実は、ケアマネジャーの業務は独占ではなく、本人または家族による自己作成が可能22とされており、日本ケアマネ協会は2018年4月の意見表明23で、「利用者負担の導入(ケアプランの有料化)→利用者・家族による自己作成の増加→過度にサービスに依存するケースの増加」という経路24を経て、ケアプラン有料化が給付費の増加に跳ね返る危険性を指摘した。

ただ、これは一方的な見方に映る。自己作成者の場合、本人または家族がサービス担当者会議を開催するだけでなく、給付管理は保険者である市町村が担うことになり、過度にサービス依存したケアプランを一定程度、抑制できる仕組みがある。さらに、先に触れた通り、ケアマネジャーが「金庫番」としての側面を持っているにしても、日本ケアマネ協会の主張は「専門職であるケアマネジャーが無知な利用者の過度な利用を抑えている」というパターナリズム(父権主義)に映る。

確かにケアプラン有料化で自己負担者が増加した場合の懸念材料として、給付管理を担う市町村の事務負担に留意する必要がある。その場合でも、自己作成者は非常に少ない25上、事務負担が煩雑で難しい点などを踏まえると、ケアプラン有料化で自己作成者が急増するとは考えにくい。
 
22 セルフケアプランなどの名称があるが、本レポートは本人または家族のケアプラン作成を「自己作成」と呼ぶ。
23 日本介護支援専門員協会が2018年4月26日に公表した「居宅介護支援費の利用者負担導入論についての意見表明」を参照。
24 それ以外にも、自社サービスに偏った自己作成を代行するサービス業者が生まれる危険性に言及している。
25 全国マイケアプラン・ネットワーク編(2010)「全国保険者調査から見えてきたケアプラン自己作成の意義と課題」(老人保健事業推進費等補助金)によると、2009年7月現在で要介護者の0.01%、要支援者の0.04%だった。
4本質は「質」の問題 このような議論を踏まえると、介護保険財政の逼迫を含めた厳しい財政事情の中、有料化は一つの選択肢になり得たが、全体の財政規模で見ると、「雀の涙」程度の給付抑制効果しか期待できない以上、財源論だけ見れば大きな争点になるとは言えなかった。

確かに自己負担なしで実施されてきた約20年間の経緯を踏まえると、有料化は「介護保険の変質」を示すシンボルになる可能性があった。中でも、ケアマネジメントとケアプラン作成は介護保険サービスにアクセスする際の「入口」に相当するため、有料化を実施する場合でも所得基準を導入しつつ、利用控えへの影響を見極める必要があった。

以上のように考えると、ケアマネジメント改革の本質はコストの問題ではなく、むしろ「質」の問題と言える。
 

5――ケアプラン有料化の論点(2)~質の観点~

5――ケアプラン有料化の論点(2)~質の観点~

1|コストと質を同時に議論している財政審の問題点
財政審の案によると、複数の事業者のサービスを盛り込んだケアプランを作成することをケアマネジャーに義務付けることで、価格競争を期待していたようだ。

確かに介護保険制度は創設時、部分的に市場原理を採用した経緯があるため、価格競争を全て否定できない。具体的には、介護保険サービスを使う際、利用者はケアマネジャー、サービス事業者とそれぞれ契約する仕組みを採用するとともに、利用者の選択肢を広げるため、株式会社やNPOなど幅広い業態の市場参入を認めることで、競争原理を取り入れている。

一方、価格や施設基準などについては、政府がコントロールするため、市場経済と計画経済の中間を意識する「準市場」(quasi-market)の考え方となっている。その意味では、ケアマネジャーが中心となり、事業者ごとの競争を促す財政審の主張は準市場の概念に沿っていると言える26

しかし、財政審の主張は価格競争しか考えていなかったと言わざるを得ない。一般の財やサービスの場合、消費者は価格だけで判断していないし、生活の質に深く関わる介護保険サービスについても、利用者が単純に安さでサービスを選ぶとは考えにくい。

さらに日本ケアマネ協会が指摘する通り、財政審の案は現在の介護報酬体系と符合しなかった面が多い。具体的には、3年に一度の介護報酬改定に際して、厚生労働省は「人員を手厚くしたら加算、満たさなかったら減算」「認知症の人を受け入れたら加算」といった形で、数多くの加算や減算を付けることで事業者の経営を誘導し、質を高めようとしている。つまり、「加算を取得していない事業者は質が悪く、加算を取得している事業者は良質」という前提に立っている。

ただ、この状況で単純に価格だけで比べると、加算を取っていない、あるいは減算措置を受けている事業者が選ばれるようになり、「加算を取っていない質の悪い事業者」、より正確に言えば「加算を取っておらず、質を確保していないと報酬上、評価されている事業者」が選ばれやすくなる危険性があった。

以上の点を踏まえると、財政審の提案には限界があったと言わざるを得ず、「質の向上」と言いつつ、実態は「コストの抑制」の問題を論じていたと言える。もちろん、財政再建を重視する財政審がコスト抑制に繋がる制度改正を提唱するのは止むを得ない面があるが、質とコストの問題は切り離して考えた方が良かったのではないだろうか。
 
26 実際、2018年度介護報酬改定では、ケアプラン作成に際して、利用者への説明義務が強化された。具体的には、▽複数のサービス事業者を紹介、▽サービス事業者をケアプランに位置付けた理由――といった点について、利用者がケアマネジャーに説明を求められる点を利用者に周知する義務がケアマネジャーに対して課された。さらに、利用者がケアマネジャーの説明を理解したことを示すため、署名を利用者から得なければならないとした。
2良質なケアプラン、良質なケアマネジメントとは何か
では、「良質なケアマネジメント」「良質なケアプラン」とは何だろうか。一般的にケアの質は構造(structure)、過程(プロセス)、成果(outcome)の3つで測定するが、ケアマネジメントやケアプランで支えられる生活は複雑かつ多様であり、一つの指標だけで検証するのが難しい。この結果、介護の場合、医療のように客観的な数字に基づく標準化が難しく、利用者とケアマネジャーの対話や、両者の信頼関係に基づく納得感や満足度など、両者の間で交わされるプロセスが重要になる。例えば、ケアマネジメントの解説書では、ケアマネジャーが自身の専門知識や社会的規範(常識)に基づいて判断する「ノーマティブ・ニーズ(normative needs)」と、要介護者が体感している「フェルト・ニーズ(felt needs)」の調整や信頼関係の構築を通じて、真のニーズ(real needs)が生まれると指摘している27

その点で言うと、「ケアプランの短期目標が具体的ではない」「情報収集が不十分」といったプロセス面の問題点28は改善されなければならないが、ケアマネジメントやケアプランで支えられる生活に「正解」を見出すのが難しいのと同様、ケアマネジメントやケアプランに「正解」は存在しない。最終的な評価は本人のQOLが深く絡む分、その評価は難しいと言わざるを得ず、質の面だけで見れば「介護保険サービスを多く入れたケアプランが悪い」とは一概に言えない難しさがある。介護保険制度の創設に関わった元厚生省幹部も「偉い専門家たちが頭を傾げるような“愚かな”ケアプランでも、介護保険はその選択(筆者注:利用者の選択)を尊重しなければならない」と原則を述べている29
 
27 白澤政和(2018)『ケアマネジメントの本質』中央法規出版p176、323を参照。
28 ケアプランを詳細に検証したケースとしては、日本総合研究所(2012)「ケアプラン詳細分析結果報告書」(老人保健事業推進費等補助金)などを参照。
29 堤修三(2018)『社会保険の政策原理』国際商業出版p260を参照。
3|質の向上に欠かせない利用者の納得感
では、質を担保する上では、どんな仕組みが想定されているのだろうか。ケアマネジメントでは本人の意思決定を支援しつつ、サービス担当者会議を通じて様々な視点を加味したり、サービス開始後も検証したりする前提になっている。やや正確性を犠牲にして分かりやすい言葉で言うと、「正解」が存在しない以上、利用者の意向を含めて、多くの関係者の知恵や経験を持ち合って暫定的な答えを出した後、必要に応じて見直していくプロセスが重視されていると言える。

もちろん、介護保険サービスを多く入れたケアプランを推奨するわけではないが、こうしたケアプランが増えた場合も、要介護度別に定められた区分支給限度基準額(以下、限度額)で上限が定められており、一定の歯止めが掛かっている。さらに介護保険制度では負担と給付の関係が明確になっている30ため、サービスを多く利用すれば、利用者の自己負担だけでなく、市町村ごとに定めている高齢者の介護保険料が上昇する仕組みとなっており、負担面でも住民参加のシステムの下、一定程度の牽制が働くようになっている31

分かりやすく言うと、「現場に近いところで、負担と給付の関係を意識しつつ、より良質なケアプラン、より良質なケアマネジメントに向けて、利用者を交えた合意形成を関係者で進めることで、利用者の納得感を高めて下さい」という前提になっていると言える。

では、現在のケアマネジャーが上記で述べた機能や役割を果たしているだろうか。以下、(1)介護保険サービスをケアプランに組み込まなければ、ケアプラン作成に関わる介護保険の報酬を受け取れない「報酬体系の問題」、(2)ケアマネジャーの勤める居宅介護支援事業所が他の介護保険サービス事業所に併設されており、利用者の代理人機能が発揮されにくい「独立性の問題」――というつの制度的な問題点を指摘する32
 
30 ここでは詳しく述べないが、その一例として、国民健康保険のように赤字補填目的とした市町村税の追加投入(法定外繰入)が認められていない。
31 なお、65歳以上高齢者が支払う介護保険料が財源に占めている割合は23%であるため、「保険料の上昇として跳ね返る部分が小さい」という批判が想定される。しかし、介護保険制度は3年に1回の見直しに際して、第1号被保険者と第2号被保険者のシェアを人口比に応じて変更しており、高齢者に応分の負担を求める仕組みとなっている。実際、2000年度の制度創設後の動きを見ると、高齢者人口の増加を受けて、第1号被保険者の割合が1%ずつ増加、第2号被保険者の割合が1%ずつ減っており、現在は第1号が23%、第2号が27%の割合となっている。
32 それ以外の問題点として、サービス担当者会議が実質的な議論の場となっておらず、ケアプランの原案にお墨付きを与える場になっている点が挙げられる。あり方検討会の中間整理でも「サービス担当者会議における多職種協働が十分に機能していない」と指摘されている。
 

6――ケアマネジャーを巡る制度的な課題(1)

6――ケアマネジャーを巡る制度的な課題(1)~報酬体系の問題~

1|介護支援専門員が介護「保険」支援専門員になるインセンティブ構造
第1に、報酬体系の問題である。先に触れた通り、ケアマネジャーにはソーシャルワーク的な機能が期待されているが、現在の報酬体系では介護保険サービスを組み込まないと、ケアマネジャーはケアプラン作成費に相当する居宅介護支援費を受け取れない。

具体的に言えば、あるケアマネジャーがアセスメントに沿って、「知的好奇心の旺盛な人であり、リハビリテーションで体の機能も回復したので、社会参加の方策としてはデイサービスではなく、大学の生涯学習講座に通ってもらう。そのための移動は自費サービスと自治体の移送サービスを組み合わせる」といったケアプランを作成しても、ケアマネジャーはケアプラン作成費に当たる居宅介護支援費を受け取れない。

つまり、現在のシステムは実質的に給付管理に報酬を付けていることになる。少し分かりやすく言えば、ケアマネジャーは介護支援専門員ではなく、介護「保険」支援専門員として振る舞うことが想定されていることになる。

実際、筆者自身も利用者やケアマネジャーと話している際、「介護保険サービスを使わないと、ケアマネジャーが報酬を受け取れないので、そんなに必要ないけど、福祉用具のレンタルサービスをケアプランに入れた」「ケアマネジャー向け研修で社会資源を入れるように言われるのに、専門職としての対価を一銭も受け取れないのは変」といったエピソードを耳にする。つまり、現状では利用者にとっても、ケアマネジャーにとっても、日常生活を支援する選択肢が介護保険サービスに限定される構造になっており、ケアプランやケアマネジメントの質を高める方法が限定されていることになる。

さらに言えば、ケアマネジャーを介護「保険」支援専門員としてしまう現在の報酬体系は別の政策を進める上でも、阻害要因となる可能性がある。例えば、厚生労働省は現在、障害者や子育て支援まで包摂した「地域共生社会」の実現に向けて、地域づくりを重視している。その際、本来はソーシャルワーク的な機能を用いて、ケアマネジャーを含めた専門職が関与できる余地は大きいと思われるが、ケアマネジャーを介護保険制度の枠内に留める現在の報酬体系はネックとなり得る33
 
33 政府は介護保険サービスと介護保険外サービスを組み合わせる「混合介護」も推進しているが、ソーシャルワークを評価する報酬にすれば、介護保険サービス以外の社会資源や民間企業のサービスがケアプランに入りやすくなる可能性がある。
2|ケアマネジャーが「タダ働き」を強いられている実態
こうした実態の一端が医療経済研究機構の調査34で明らかになった。調査では過去1年間に経験した事象として、「入院、入所中に病院等からの依頼でカンファレンス等に参加し、居宅介護支援に至らなかったケース」の有無をケアマネジャーに尋ねたところ、表1の通りに本人自身に経験ある人が計55.4%、周囲のケアマネジャーが経験したという話を聞いたことがある人が計46.4%に上った(「よくある」「ときどきある」の合計)。つまり、上記の場面でケアマネジャーは「タダ働き」を強いられていることになる。
表1:カンファレンスに参加せても報酬を受け取れなかったと答えたケアマネージャーの比率 一方で、近年の医療・介護制度改革では、医療・介護連携を図る必要性が指摘されており、診療報酬と介護報酬を同じ時期に見直した2018年度改定では、患者の入院・退院に際して、病院とケアマネジャーが患者の状態に関する情報をスムーズにやり取りするための細かい制度改正が積み重ねられた。

それにもかかわらず、ケアマネジャーがカンファレンスに参加したり、病院と情報をやり取りしたりしても、退院した患者が介護保険サービスを利用せずに済んだ場合、介護保険の居宅介護支援費を受け取れないのは制度上の欠陥と言わざるを得ない。実質的に給付管理しか評価していない現状はケアマネジャーの「代理人」機能を阻害していると言える。
 
34 医療経済研究機構(2020)「ケアマネジメントの公正中立性を確保するための取組や質に関する指標のあり方に関する調査研究事業」(老人保健事業推進費等補助金)を参照。有効回答数は1,303人。
3給付管理にしか介護報酬が付かない制度創設の経緯
では、介護報酬が実質的に給付管理しか付いていないのはなぜだろうか。その理由の第1として、ケアマネジメントが介護保険サービスに位置付けられたことが影響していると思われる。介護保険制度を創設する際、ケアの手間暇を判断する要介護認定と、ケアマネジメントの関係が争点の一つとなった。当時の政策立案に関わった官僚や学者たちの書籍では、以下のように書かれている35
 
(筆者注:要介護認定の導入に伴う)問題の第1は、要介護認定は、性格上保険者が行うべき行為であるが、これによってサービス内容が一方的に決定されるのであれば、実質的に措置制度と変わらないこととなってしまうのではないかという点であり、問題の第2は、要介護認定においても評価(アセスメント)が行われるならば、ケアマネジメント機関が行うアセスメントと内容がほぼ重複してくるのではないかという点であった。

つまり、介護保険制度の導入に際して、市町村が支援の内容を一方的に決める「措置」制度を見直すとともに、利用者の自己決定を重視する社会保険方式に切り替えることを重視したのに、市町村が実施する要介護認定の段階で、市町村がケアの内容を決めてしまえば、措置制度と何ら変わらなくなって来る、その場合はケアマネジメントとの関係が悩ましい課題だったというのである。

結局、要介護認定は「保険者である市町村が客観的な事実に即して介護が必要かどうか確認する行為」、ケアマネジメントは「サービスの仲介」と整理することで、制度としては別建てとなった36。この結果、ケアプラン作成が「介護保険サービスを受けるための手続きの一つ」という形で、制度の枠内だけで理解されやすくなったと言える。

第2に、給付管理をケアマネジャーの仕事とした点である。介護保険制度の創設に関わった元厚生省幹部の書籍37によると、利用者が複数の異なるサービス事業者を同時に利用できるようにしたため、その合計をチェックする機能をケアマネジャーに担わせたとしている。

少し具体的に考えてみる。介護保険制度では要介護度ごとに上限を定められた限度額を超えると、全額が自己負担になる仕組みを採用しており、利用者が「A」「B」「C」と3つのサービス事業者を同時に選んだ場合、3つのサービスの合計が限度額を超えているかどうかチェックする必要がある。例えば、要介護度1と判定された利用者の場合、限度額は16,765単位38となり、A事業所で5,000単位、B事業所で5,000単位、C事業所で7,000単位を使った場合、限度額を超える部分は全額自己負担となる。しかし、3つの事業所から同時にサービスを利用した場合、報酬の支払い請求が別々に来ることになり、当時の技術では合算するのが難しかったため、ケアマネジャーに給付管理させることにしたというのである。実際、ケアプランの書類の一つである「利用票別表」を見ると、ケアマネジメントとケアプラン作成の時点で、「限度額の枠内に入っている単位数」「限度額の枠外にはみ出ている単位数」が区分される書式になっている。

ケアプラン作成を含めたケアマネジメントが実質的に介護保険サービスの枠内にとどまり、給付管理だけを報酬の対象として実情は、こうした制度創設時の判断や経緯が影響しており、利用者のQOL改善に向けた選択肢を広げる意味で見直しが必要と言える。
 
35 介護保険制度史研究会編著(2019)『新装版 介護保険制度史』東洋経済新報社p76を参照。
36 同上pp114-115を参照。
37 堤修三(2010)『介護保険の意味論』中央法規出版p57を参照。
38 通常、1単位は10円だが、地域ごとに異なる。
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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

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【ケアプランの有料化で質は向上するのか-報酬体系の見直し、独立性の確保が先決】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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