2020年07月20日

欧州保険会社が2019年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(3)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その2)-

中村 亮一

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1―はじめに

欧州の保険会社各社が4月から6月にかけて公表した単体及びグループベースのSFCR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)については、前回のレポートで長期保証措置と移行措置の適用による影響の説明について報告した。

今回のレポートでは、欧州大手保険グループのSFCR(含むQRTs(定量的報告テンプレート))の内容から、SCRとMCRの計算方法の説明等について報告する。
 

2―SCRとMCRの計算方法の説明

2―SCRとMCRの計算方法の説明

各社とも、「E.2 Solvency Capital Requirement and Minimum Capital Requirement(E.2ソルベンシー資本要件と最低資本要件)」において、SCRとMCRの計算方法の概要を説明している。なお、各社の説明内容やその説明箇所は会社によって異なっており、必ずしも「E2」だけにSCRとMCRの計算方法に関する事項が網羅されているわけではないことには注意が必要であるが、今回はとりあえず「E2」からの記載内容からの抜粋を報告する。

1|SCRMCRの計算方法の説明概要
以下では、AXA、Generali及びAegonの3社についての説明概要を報告する。
(1)AXA 
AXAのSCRとMCRの計算方法の説明(の一部)は、以下の通りとなっている。

SCRとMCRを計算するために、内部モデルの使用や米国等での同等性評価、さらには非保険部門については部門別ルールに基づいていることを説明している。これにより、AXAのグループSCRのうち、グループ全体でみると、70%が内部モデル、23%が標準式、0.3%が同等性、7%が銀行・資産運用会社、年金基金等の他の規制基準の適用に基づくもの(2018年は、66%が内部モデル、4%が標準式、25%が同等性、6%が銀行・資産運用会社、年金基金等の他の規制基準の適用に基づくもの)となっている。2018年と比べて、XL事業体がBermudaの同等性から標準式へと変更されたことから、同等性による割合が低下して、標準モデルによる割合が高くなっている。

また、内部モデルの使用に関しては、「内部モデルは、AXAの会社が、ローカルリスクプロファイルをよりよく反映するローカルキャリブレーションを選択し、グループがさらされている全ての重要なリスクを捉えることができるように設計されている。結果として、AXAグループは、内部モデルは、AXAグループ全体のSCRをより忠実に反映し、SCRメトリクスが経営陣の意思決定とより整合的になると考えている。」と説明している。

さらに、グループの分散化効果について、例えば、「内部モデルでは、主要なリスクカテゴリ(市場、信用、生命、損害、オペレーショナルリスク)全体にわたる集計と、地理/会社間の集計という、主な集計ステップを考慮したマルチレベル集計アプローチが実施されている。」と説明している。

E.2ソルベンシー資本要件(SCR)と最低資本要件(MCR
当グループは、2015年11月17日、ソルベンシーIIのSCRを計算するために内部モデルを使用することについてACPR(フランスの監督当局)と監督カレッジからの承認を受けた。内部モデルは、2018年に取得した以前はXL Groupの一部であった会社(XL事業体)を除く、全ての重要な会社に対するAXAグループの経済資本モデルの使用を包含している。2018年12月31日現在、XL事業体に対するSCRは、グループは、バミューダの標準式SCRに基づいて、同等性制度に従って計算されるものに加えて、移行措置として、(グループの主たる監督者である)ACPRによって要求される5%のアドオンで計算されていたのに対して、2019年12月31日現在のXL事業体に関するSCRは知るベンシーII標準式に従って算出された。ACPRの事前承認を条件として、当グループは、早ければ2020年12月31日にも、その内部モデルをXL事業体に拡大する予定である。

内部モデルは、AXAの会社が、ローカルリスクプロファイルをよりよく反映するローカルキャリブレーションを選択し、グループがさらされている全ての重要なリスクを捉えることができるように設計されている。結果として、AXAグループは、内部モデルは、AXAグループ全体のSCRをより忠実に反映し、SCRメトリクスが経営陣の意思決定とより整合的になると考えている。

一般原則
ソルベンシーIIは、2つの異なるレベルのソルベンシー資本要件を規定している。(I)最低資本要件(MCR)。会社レベルで適用され、保険契約者や受益者が許容できないレベルのリスクにさらされる自己資本の額である。(II)ソルベンシー資本要件(SCR)。これは会社及びグループの両方のレベルで適用され、保険及び再保険会社が多額の損失を吸収することを可能にする適格自己資本のレベルに相当する。 それは、支払が期日までに行われるという保険契約者及び受益者への合理的な保証を与える。

規則の第297条-(2)に従い、フランスの全てのSFCR申告者について、ACPRは2020年12月31日までに終了する移行期間中に資本の追加項目の開示を要求しないことを選択した。

ソルベンシー資本要件(SCR
2019年2月21日に公表された2019年12月31日現在のAXAグループのソルベンシーII比率は2018年12月31日の193%に対して、198%であった。グループは、2019年の全ての時点でSCRを超過する適格自己資本を維持した。

当グループは、内部モデルの範囲、基礎となる方法論及び前提条件を定期的に見直し続け、それに応じてSCRを調整する。しかしながら、内部モデルの大きな変更は、SCRの水準を調整することを求めるかもしれないACPRによって承認されなければならない。2019年に、AXAコーポレートソリューションとXLICSEの合併に続いて、内部モデルのスコープ拡張が導入され、グループSCRへの貢献度の計算でXLICSEに部分的な内部モデルが適用された。

さらに、当グループは、その目的を通じて欧州保険会社のモデルの一貫性の見直しを行うことが期待されているEIOPA(欧州保険年金監督局)の作業計画を監視している。そのような見直しが、コンバージェンスを高め、国境を越えたグループの監督を強化するための規制改正につながる可能性がある。

2019年12月31日現在で、AXAのグループSCRは300億ユーロで、内部モデル範囲(210億ユーロ)、標準式会社(68億ユーロ)、同等性による会社(1億ユーロ)、部門別ルール (年金事業、銀行、資産運用)(21億ユーロ)という異なる要素に分割される。AXAグループSCRに関する追加情報については、QRT S.25.02.22「ソルベンシー資本要件- 標準式及び部分内部モデルを使用するグループのための」を参照のこと。

2018年に比べて、AXAのグループSCRは302億ユーロから300億ユーロに減少した。この進展は主としてお互いに相殺しあう以下のいくつかの要素による。

・株式市場が拡大し、当社の株式エクスポージャーが増加し、既存の株式ヘッジの影響が減少した経済的要因。 金利の低下は、生命リスクとソブリン債エクスポージャーの増加につながる。株式市場の低迷による経済的要因により当社の株式エクスポージャーが減少した。

・金利感応度を低下させる経営行動

・主な影響は、米国の売却と、AXA XLのバミューダ標準式(及び5%アドオン)からソルベンシーII標準式への移行による。

2019年12月31日現在、SCRのリスクカテゴリによる内訳は、市場リスク38%、生命保険22%、損害保険28%、信用リスク7%、オペレーショナルリスク6%となっている。

グループ分散効果
内部モデルの分散効果は、異なるリスク/サブリスク又は異なるポートフォリオ/会社への集計方法の適用によって駆動される。したがって、分散効果は、特定のリスク要因の範囲内、ポートフォリオ間、地域間又は異なるリスクカテゴリ間で現れる。

一例として、デュレーションギャップは、例えば、保障商品のための長い期間と年金のための短い期間のように、異なるポートフォリオに対して異なる符号を有することができる。このような場合、2つのポートフォリオを組み合わせると金利リスクが低下する。

リスク集計アプローチ内の細かさのレベルは、分散効果の測定に影響する主要な要因である。典型的には、集計アプローチが、地理、事業単位/法人レベル、リスクタイプ、商品タイプなどの次元に応じて、ポートフォリオや活動を区別するほど、より明示的な分散効果が明らかになる。内部モデルでは、主要なリスクカテゴリ(市場、信用、生命、損害、オペレーショナルリスク)全体にわたる集計と、地理/会社間の集計という、主な集計ステップを考慮したマルチレベル集計アプローチが実施されている。

2019年12月31日現在の主要なリスク(市場、信用、生命、損害、オペレーショナル)における分散効果は107億ユーロであった。

範囲と計算方法
以下の表は、グループSCRを計算するために使用される内部モデルの範囲内にある会社を一覧表にしたものである。
(図表については省略)

グループ内で、指令2009/138 / ECの第230条及び第233条で言及されている方法1(デフォルト法)と方法2(控除合算法)の組み合わせを使用して、グループ・ソルベンシーが計算される。方法2を用いる会社は、銀行、資産運用会社、年金基金を中心とした保険以外の金融部門やソルベンシー制度が同等とみなされている米国又はバミューダの子会社に関連している。 関連する主要な会社は以下の表に要約されている。
(図表については省略)

(2)Generali
GeneraliのSCRやMCRの計算方法の説明(の一部)は、以下の通りとなっている。

SCRについては、監督当局の承認を受けた会社の金融リスク、信用リスク、生命保険引受リスク、損害保険引受リスクをカバーするGeneraliグループの部分内部モデル(PIM)ならびに他の(再)保険会社の標準式および他の規制制度(例えば銀行業や年金業務)を適用して算出される。オペレーショナルリスクは、グループの全ての保険会社において標準式により計測される。

その他、LTG措置や移行措置、USPの使用、簡素化の使用等について説明している。

E.2.1.SCRとMCRの値
このセクションは、Generaliグループのソルベンシー資本要件(SCR) 及び最低資本要件(MCR)について記載している。SCRは、1年間の信頼水準が99.5%の自己資本のバリュー・アット・リスク (VaR) として計算される。

SCRは、監督当局の承認を受けた会社の金融リスク、信用リスク、生命保険引受リスク、損害保険引受リスクをカバーするGeneraliグループの部分内部モデル(PIM)ならびに他の(再)保険会社の標準式および他の規制制度(例えば銀行業や年金業務)を適用して算出される。

オペレーショナルリスクは、グループの全ての保険会社において標準式により計測される。

PIMは、主要なリスクの正確な表現を提供し、セクションE .4でより詳細に説明されているように、各リスクの個別の影響とグループ自己資本に対する複合的な影響の両方を測定する。

当グループでは、SCRの定義に簡易計算を使用していない。

会社固有のパラメータ(USP)は、Euro Assistance会社とイタリアの会社DAS のSCRの計算に使用される。これらのUS Pの使用は監督当局により承認されている。

ボラティリティ調整の詳細はセクションD.に記載されている。マッチング調整は適用されない。

以下のテンプレートは、分散を計算しない下記のカテゴリーの会社に対する資本要件の合計としてSCRの総額を提供する。

・内部モデルに基づくSCRの計算にPIMを使用する権限を付与されたエンティティ。EEAと非EEAの間で区別される。

・EEAと非EEAとを区別した標準式計算に基づくエンティティ、およびその他の少数保有エンティティ

・セクタールールに基づくクレジット等の金融サービス

・ソルベンシーIに基づくIORP年金基金。
(図表等は省略)

グループの連結最低SCRの目的のために、算出はグループの法的単体のMCRに基づいており、EIOPAによって提供された指示に従っている。

MCRの2018年末の15,639百万ユーロから2019年末の16,103百万ユーロの増加は、法的単体のSCRの動きと同様、保険料と責任準備金の動きによるものである。
(図表等は省略)

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中村 亮一

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