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2019年度生命保険会社決算の概要-外貨建保険と外貨建資産にいつまで頼れるか
保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
1――保険業績(全社)
基礎利益は、全体では▲2.7%と減少(前年度5.2%増加)した。基礎利益が増加したのは42社中16社にとどまる。
2――大手中堅9社の収支状況
なお、大手グループでは、グループ内の会社で第三分野や金融機関窓販などに特化していることが多いので、収支の方もグループ連結でみるべき時期がいずれ来ると考えられるが、グループ内の保険子会社は、まだ収支に占める割合が小さいこと、もとからある9社単体の開示項目が多いこと、から従来通り9社でみることにしたものである。
国内金利は、引き続きゼロに近いところで推移し、2019年度末には、+0.005%と、辛うじてマイナスからは脱した。為替については、対米ドルでは、米国の政策金利の引き下げにより一時期105円台の円高もあり、また新型コロナウィルスの感染拡大を受けた乱高下もあったが、3月末には108.83円となった。対ユーロでは政治リスクとの関連で時期によって上下したが、年度末には119.55円と、やや円高の方向に進んだ。また、外貨建保険で比較的よく使われる豪ドルについてはかなり円高の方向に進んでいる。
3利源を公表している7社だけの合計金額を見たものが図表-6である。危険差益は、▲6.7%減少(前年度は2.9%増加)となった。先に述べた保有契約の減少や、2017年の死亡表の改定(保険料の引き下げ)によるものと考えられる。一方で近年第三分野商品の保有が増加してきたことは、、選択効果もあり、まだ給付金等の支払いも大きくないことから、危険差の拡大方向に寄与していると思われる(と、外部からは定性的にそう推測するしかない。)
費差益については、▲30.1%と大きく減少した(前年度は▲17.4%減少)。費差益とは、簡単に言えば、収入保険料のうち事業費を賄うための付加保険料と、実際の事業費支出の差である。
金額の大きさで見ると、近年は危険差に比べて小さくなってしまったものの、それだけに年度により大きく増減する傾向が見られる。また退職給付費用(これは人件費の一種なので費差でみることは自然ではあるが)の会計処理が大きく影響する仕組みとなっていて、毎年大きく増減するので直感的な理解が及びにくい面もある。
用語の混乱を避けるため、「基礎利回り」-「平均予定利率」、を計算した時、プラスのとき「利差益」、マイナスのとき「逆ざや」と呼ぶ。(あるいはこれに責任準備金を乗じて、金額に直したものも、そう呼ぶ。)
「基礎利回り」とは、基礎利益のうち資産運用損益にかかわる部分であり、主に利息配当金収入から成る。これが契約者に保証している利率(予定利率)を上回っていれば利差益、下回っていれば逆ざやと呼んでいる。
2008年度を底として、2012年度まで逆ざやであったものが、2013年度から利差益に回復し、2019年度は7,707億円と2017年度から3年連続で最高水準を更新した(一部の会社はまだ逆ざやであるが、そのマイナス額は横ばいまたは減少傾向にある。)。
「平均予定利率」は、保有している保険契約の負債コストを表すことになるが、過去に契約した高予定利率の契約が減少していくことにより、毎年緩やかな低下を続けている。現在の新規契約の予定利率は、1%未満であるものが主流であることから、そこに向けて、より緩やかになってはいるが、今後も低下傾向は続くだろう。
一方、「基礎利回り」は、わずかながら低下した。主要な構成要素である利息配当金収入自体は多くの会社で増加してはいるが、運用資産の中で中心となる国内債券に関して、超低水準の金利が続いており(保有債券の年限などにもよるが、)利回りの方は低下傾向にあると思われる。今後も利息収入に徐々に悪影響をもたらすことになるだろう。そうした状況に対し、近年、外貨建債券などへのシフトが進んでいることと、国内大手社においては株式の保有も比較的多いことから株式配当の増加もあり、債券の利回り低下を補っているものと考えられる。
なお、ヘッジ付外債については、「利息収入は基礎利益としてカウントする一方、ヘッジコストはキャピタル損益に含める」のが一般的な計上ルールになっていることから、基礎利益だけが大きくみえる表示になっているので、注意が必要ではある。
基礎利益の動向は、危険差益や費差益では大幅な好転が見込めない中、利差益の動向に大きく依存しているのが現状だが、経済環境に大きく左右されることもあり、将来にむけて決して楽観はできない。実際、そうした見方を公表している会社が多い。
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