2020年07月09日

2019年度生命保険会社決算の概要-外貨建保険と外貨建資産にいつまで頼れるか

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――保険業績(全社)

2019年度の全生命保険会社の業績を概観する。

生命保険協会加盟会社は、4月1日現在42社であり、新型コロナの感染拡大による決算業務への影響から例年に比べ多少の発表時期の遅れはあったものの、42社全社の決算が6月中旬までに出揃った。42社合計では、年換算保険料ベースで新契約は▲35.1%減少、保有契約は▲1.8%減少となった。これらを、伝統的生保(16社)、外資系生保(15社)、損保系生保(4社)、異業種系生保等(6社)、かんぽ生命に分類し、業績を概観した。(図表-1)
【図表-1】 主要業績(2019 年度)
「伝統的生保」(16社)の新契約年換算保険料は、▲30.0%減少(前年度+16.2%増加)となった。全般的には、金融機関窓販による外貨建保険や、個人定期保険の新契約が減少したことによる。保有契約年換算保険料は▲0.9%と減少した(前年度+2.5%増加)。なお、保険金額ベースでの新契約高、保有契約高は第三分野商品の増加を反映していないこともあり、近年減少している。以下同様に保険料ベースでの増減を示す。「外資系生保」は、新契約が▲39.7%減少(前年度19.3%増加)し、保有契約は▲1.2%減少(前年度 4.7%増加)した。「損保系生保」は、新契約が▲33.4%減少(前年度 7.0%増加)で、保有契約は+0.5%増加(前年度 5.7%増加)となった。「異業種系生保等」は新契約が▲9.1%減少(前年度 15.6%増加)、保有契約は4.0%増加(前年度 5.5%増加)となった。

基礎利益は、全体では▲2.7%と減少(前年度5.2%増加)した。基礎利益が増加したのは42社中16社にとどまる。
【図表-2】新契約年換算保険料(2019 年度)
次に、新契約年換算保険料の個人保険、個人年金保険および第三分野の内訳を見たものが図表-2である。保険のニーズが死亡保障のみならず、医療や年金分野にも拡大しているところから、保険契約高のみでは保険業績を把握しづらくなってきた。この指標は、これらを反映する目的で、1年間に支払う保険料の金額(年換算保険料)で新契約の規模を表示したものである。)。41社(かんぽ生命を除く。)合計で、個人保険は対前年▲34.5%。減少した(前年度15.3%増加)。また個人年金は、▲21.7%減少(前年度18.4%増加)となった。各社が注力している分野にもよるが、法人向け定期保険等の税制取扱いの整備に伴う販売減少や外貨建保険の販売減少により、販売業績は全体として減少傾向となった。外貨建保険については、海外金利の低下により国内外の金利差が縮小し、貯蓄面でのメリットが小さくなったことが響いている。
 

2――大手中堅9社の収支状況

2――大手中堅9社の収支状況

以下で、特に収支上のシェアが大きい大手中堅9社合計の収支状況をみていくことにする。

なお、大手グループでは、グループ内の会社で第三分野や金融機関窓販などに特化していることが多いので、収支の方もグループ連結でみるべき時期がいずれ来ると考えられるが、グループ内の保険子会社は、まだ収支に占める割合が小さいこと、もとからある9社単体の開示項目が多いこと、から従来通り9社でみることにしたものである。
1基礎利益は減少
2019年度までの資産運用環境は図表-3の通りである。
【図表-3】運用環境
国内の株価については、日経平均株価21,206円で始まったあと、米中貿易摩擦を受けた下落などもあり、それが一定落ち着いたあとは、一時24,000円を超える水準まで上昇していた。しかし新型コロナウィルスの感染拡大に伴う景気悪化を背景に、世界的に株価は下落し、一時16,000円台まで下落、その後若干回復したものの年度末には18,917円となり、年間では結局▲10.8%の下落となった。

国内金利は、引き続きゼロに近いところで推移し、2019年度末には、+0.005%と、辛うじてマイナスからは脱した。為替については、対米ドルでは、米国の政策金利の引き下げにより一時期105円台の円高もあり、また新型コロナウィルスの感染拡大を受けた乱高下もあったが、3月末には108.83円となった。対ユーロでは政治リスクとの関連で時期によって上下したが、年度末には119.55円と、やや円高の方向に進んだ。また、外貨建保険で比較的よく使われる豪ドルについてはかなり円高の方向に進んでいる。
【図表-4】有価証券含み益(大手中堅9 社計)
こうした状況を反映して、有価証券含み益は図表-4に示した通り、国内大手中堅9社で見ると、国内債券の含み益が▲1.3兆円減少した。外国証券含み益は債券で増加、株式で減少し合計では0.7兆円増加した。国内株式の含み益が▲2.7兆円減少し、有価証券合計では▲3.4兆円減少した。
【図表-5】基礎利益の状況(大手中堅9社計)
【図表-6】3利源の状況(開示7社計)
そうした中、2019年度の基礎利益は23,519億円、対前年度▲3.8%の減少となった。(図表-5)  (基礎利益とは、生命保険会社の基本的な収益力を表わす利益指標で、銀行の業務純益に相当する。保険契約から生みだされる収支や、資産運用損益のうちの利息・配当金等、比較的安定的なものだけを含めており、有価証券の売却損益等は含まない。) 逆ざやについては、振り返ると2013年度に9社合計で利差益に転じた後、拡大傾向にあり、ほぼゼロ金利の状況にあっても、外債利息や内外株式配当の増加により、2019年度は、逆ざや解消後最高水準をさらに更新し7,707億円、7.2%増加となった。危険差益・費差益等の保険関係収支は15,812億円、▲8.3%の減少となった。

3利源を公表している7社だけの合計金額を見たものが図表-6である。危険差益は、▲6.7%減少(前年度は2.9%増加)となった。先に述べた保有契約の減少や、2017年の死亡表の改定(保険料の引き下げ)によるものと考えられる。一方で近年第三分野商品の保有が増加してきたことは、、選択効果もあり、まだ給付金等の支払いも大きくないことから、危険差の拡大方向に寄与していると思われる(と、外部からは定性的にそう推測するしかない。)

費差益については、▲30.1%と大きく減少した(前年度は▲17.4%減少)。費差益とは、簡単に言えば、収入保険料のうち事業費を賄うための付加保険料と、実際の事業費支出の差である。

金額の大きさで見ると、近年は危険差に比べて小さくなってしまったものの、それだけに年度により大きく増減する傾向が見られる。また退職給付費用(これは人件費の一種なので費差でみることは自然ではあるが)の会計処理が大きく影響する仕組みとなっていて、毎年大きく増減するので直感的な理解が及びにくい面もある。
2利差益は逆ざや解消以降最高水準
【図表-7】利差益の状況(大手中堅9社計)
【図表-8】利差益(逆ざや)状況の推移(9社計)
利差益について、さらに詳しく見てみる(図表-7 、8)。

用語の混乱を避けるため、「基礎利回り」-「平均予定利率」、を計算した時、プラスのとき「利差益」、マイナスのとき「逆ざや」と呼ぶ。(あるいはこれに責任準備金を乗じて、金額に直したものも、そう呼ぶ。)

「基礎利回り」とは、基礎利益のうち資産運用損益にかかわる部分であり、主に利息配当金収入から成る。これが契約者に保証している利率(予定利率)を上回っていれば利差益、下回っていれば逆ざやと呼んでいる。 
 
2008年度を底として、2012年度まで逆ざやであったものが、2013年度から利差益に回復し、2019年度は7,707億円と2017年度から3年連続で最高水準を更新した(一部の会社はまだ逆ざやであるが、そのマイナス額は横ばいまたは減少傾向にある。)。

「平均予定利率」は、保有している保険契約の負債コストを表すことになるが、過去に契約した高予定利率の契約が減少していくことにより、毎年緩やかな低下を続けている。現在の新規契約の予定利率は、1%未満であるものが主流であることから、そこに向けて、より緩やかになってはいるが、今後も低下傾向は続くだろう。

一方、「基礎利回り」は、わずかながら低下した。主要な構成要素である利息配当金収入自体は多くの会社で増加してはいるが、運用資産の中で中心となる国内債券に関して、超低水準の金利が続いており(保有債券の年限などにもよるが、)利回りの方は低下傾向にあると思われる。今後も利息収入に徐々に悪影響をもたらすことになるだろう。そうした状況に対し、近年、外貨建債券などへのシフトが進んでいることと、国内大手社においては株式の保有も比較的多いことから株式配当の増加もあり、債券の利回り低下を補っているものと考えられる。

なお、ヘッジ付外債については、「利息収入は基礎利益としてカウントする一方、ヘッジコストはキャピタル損益に含める」のが一般的な計上ルールになっていることから、基礎利益だけが大きくみえる表示になっているので、注意が必要ではある。

基礎利益の動向は、危険差益や費差益では大幅な好転が見込めない中、利差益の動向に大きく依存しているのが現状だが、経済環境に大きく左右されることもあり、将来にむけて決して楽観はできない。実際、そうした見方を公表している会社が多い。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

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