2020年07月09日

IAISがIAIGsの指定に関する登録簿等の情報を公表-48グループがIAIGsに指定される-

中村 亮一

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1―はじめに

5月に入ってから、EIOPA(欧州保険年金監督局)や英国のPRA(健全性規制機構)といった欧州の保険監督当局等が、IAIGs(国際的に活動する保険グループ)に指定された保険グループを公表していたことについては、保険年金F「欧州各国の保険監督当局等がIAIGs指定保険グループを公表」(2020.6.10)(以下、「前回のレポート」という)で報告した。

7月1日に、IAIS(保険監督者国際機構)が、こうした欧州やその他の国や地域から、これまでGWSs (Group-wide Supervisors:グループ全体の監督者)によって公表されてきたIAIGsをまとめた登録簿やそれ以外の非公開のIAIGsを含めたIAIGsの指定に関する情報を公開した。

今回のレポートでは、IAISによって公開されたIAIGsに関する登録簿について報告する。
 

2―IAIGsとは

2―IAIGsとは

まずは、繰り返しになるが、IAIGsについて説明する。

IAIGsというのは、英語でInternationally Active Insurance Groupsと呼ばれており、その言葉通りに、国際的に有意なレベルで保険事業活動を展開している保険グループのことを指している。その具体的な選定基準については、IAIS(保険監督者国際機構)がその定量的基準等を定めている。また、IAIGsに対しては、特別な監督・規制が行われることになっている。
1|IAIGs の選定基準
IAIGs の選定基準のうちの定量的基準は以下の通りとなっている。
 

(1) 国際的活動
・3つ以上の管轄地域において、保険料が計上されていること、および
・本店所在管轄地域外のGWP(収入保険料)のグループ全体のGWPに対する割合が10%以上

(2) 規模(3 年移動平均)
・総資産が500 億米ドル以上、または 
・全体のGWPが100 億米ドル以上

ただし、これらの定量的基準に関わらず、グループ全体ベースでIAIGs の監督に対して責任を有しているGWSが、限定された状況において、グループがIAIGs とみなされるかどうかを判断するための裁量権を有している。例えば、(a)自国の保険事業活動が重大である場合、(b)合併および買収あるいは売却等により近い将来に基準を満たすあるいは満たさなくなる場合等が想定されている。
2|今回のIAIGs の指定に関する情報の公表
GWSが、IAIGs の指定を公表するが、場合によっては、この開示が法的変更又は規制措置を必要とすることがある。

IAISは、このコミットメントを達成するためのGWSの進捗状況を監視する。IAISは、GWSによって公開されたIAIGs の公開登録を編集する。登録簿には、公開されたIAIGs の数とIAIGs の基準の充足又は監督裁量の行使に基づいてGWSにより特定されたIAIGs の総数を比較した情報が添付されることになっている。
3|IAIGsに対する監督・規制
IAIGsの監督のための共通の枠組みとして、IAISは、2019年11月に、ComFrame(Common Framework for the Supervision of Internationally Active Insurance Groups:国際的に活動する保険グループの監督のための共通の枠組み)を採択している。

このComFrameの中で、IAIGs に対する監督・規制内容としては、(1)監督当局の枠組み(監督カレッジの組成や危機管理グループ(CMG)の設立)、(2)資本規制、(3)再建・破綻処理計画、(4)グループガバナンス、(5)ERM(統合的リスク管理)、等が挙げられている。それぞれの項目の具体的な内容については、今回のレポートの趣旨ではないので触れないが、例えば、「(2)資本規制」について、IAISはComFrameの一環としてICS(保険資本基準)を策定中である。
 

3―IAIGsの指定に関する情報の公表

3―IAIGsの指定に関する情報の公表

IAISは、IAIGsの指定に関して、以下の情報を公表1している。
1|IAISによる情報開示
IAISの公表によれば、「2020年7月1日の時点で、 16の管轄区域からの48 のIAIGsが関連GWSにより確認されている。さらにこれらの48のIAIGsのうち、11の管轄区域からの 30のIAIGsが関連GWSにより公開されている。」となっている。

また、「少なくとも、公開登録簿は毎年更新される。しかし、その年に発生する可能性のあるGWSによる開示に基づいて、アドホックな更新がより頻繁に行われる可能性がある。」としている。

なお、今回のIAISの公表情報からは、定量的基準は満たさないが、GWSの裁量に基づいて選定されたIAIGsがあったのかは明確にされていない。
2|公開されたIAIGsの状況
公開されている11の管轄区域からの 30のIAIGsについては、前回のレポートで報告した欧州の8つの管轄区域からの21のグループに加えて、米国、シンガポール、香港という新たに3つの管轄区域からの以下の9つのグループ(( )内はGWS)の名前が挙げられている。

AIA Group ( Insurance Authority, Hong Kong)
Berkshire Hathaway (Nebraska Department of Insurance)
Chubb (Pennsylvania Insurance Department)
Fairfax (Delaware Department of Insurance)
Great Eastern (Monetary Authority of Singapore)
Liberty Mutual (Massachusetts Division of Insurance)
Prudential Financial (New Jersey Department of Banking and Insurance)
Prudential plc (Insurance Authority, Hong Kong)
RGA (Missouri Department of Insurance)

なお、米国については、各州の保険監督当局がGWSとなっているため、州単位での公開が行われている。

結局、公開された30のIAIGsの管轄区域別の状況は、以下の通りとなっている。

フランス   8  
英国     4
ドイツ    3  
オランダ   2
イタリア、スペイン、ベルギー、オーストリア  1
米国     6
香港     2
シンガポール 1 
3|公開されていないIAIGsの状況
IAIGsの名簿公開については、IAIGsに対する規制等の実施に関して、各管轄区域等での所要の対応が必要になってくる等の事情もあることから、それぞれのGWSの判断によって対応が異なっている。

IAISの情報によれば、IAIGs指定保険グループのある16の管轄区域のうちの11の管轄区域が公開していることになる。残りの5つの管轄区域については、定量的基準からは、日本、カナダ、スイスからのそれぞれ複数の保険グループがIAIGsに指定されていることが想定される。さらに、中国の保険グループが、その海外の保険事業展開の状況からは定量的基準を満たさない場合でも、中国保険監督当局の裁量に基づいてIAIGsに選定されているものと推定される。

また、米国という1つの管轄区域においては、IAIGsのグループ名の公開については州によって対応が異なっており、例えば、New York州では定量的基準を満たす保険グループがあるものの公開されていないものと想定される。従って、非公開の18のIAIGsの中には、米国からの保険グループも複数含まれているものと想定される。
 

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、IAISによって公開されたIAIGsに関する登録簿について報告してきた。

IAIGsの指定状況は、それぞれの国や地域における保険市場や保険グループの海外展開の状況等を反映して、国・地域毎にその指定グループ数がかなり異なっている。

また、IAIGsの名簿の公開に関するスタンスもGWSによって異なっている。今後、各管轄区域による監督・規制に関する規定の整備状況等に伴って、さらなるIAIGs指定に関する情報が明らかになってくることが期待されることになる。

IAIGsの指定に関する状況は、IAIGsに対する監督・規制を巡る状況と共に、関係者の関心の高い事項であることから、今後ともその動向を引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2020年07月09日「保険・年金フォーカス」)

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