2020年07月03日

新型コロナウイルスと各国経済-コロナ禍を上手く乗り切っているのはどの国か?49か国ランキング

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1――概要

新型コロナウイルスが世界的に流行、WHOがパンデミック宣言した3月11日から4か月近くが経過した。各国は新型コロナの感染拡大を防ぐために様々な手段を講じてきたが、感染拡大抑制に効果的な封じ込め政策は、ロックダウン(都市封鎖)や外出規制に代表されるように直接的に経済活動を制限することになる。厳しい感染防止措置と経済維持がトレードオフの関係にあることから、政府は難しい舵取りの中で政策実行を行っている。中にはスウェーデンのように外出規制のような厳しい行動制限の導入を避けている国もある。

本稿では、感染防止と経済維持にトレードオフの関係がある中で、感染を抑制しかつ経済活動も維持できている国、つまり上手くコロナ禍を乗り切っている国がどこなのかをランキング付けして評価した。得られた結果は以下の通りである。
 

【先行事例と本稿での評価方法】
・コロナ対応力評価の先行事例として、POLITICOや英エコノミスト誌、Deep Knowledge Groupなどがそれぞれ独自の評価を実施しているが、評価基準により高評価となる国は異なる。
・コロナ対応の評価には様々な切り口があるが、本稿では、シンプルに各国の「コロナ被害」(感染拡大)と「経済被害」をいずれも小さく抑えている国という観点で評価する。
・「コロナ被害」は「(1)累積感染者数」「(2)感染拡大率」「(3)致死率」の3つの観点を評価し、「経済被害」については、コロナ禍によって失われたGDPの損失を推計し評価する。

【評価結果と上位国の特徴】
・総合順位では、台湾、マレーシア、香港、タイ、中国、韓国の順に高評価となった。
・上位国に東南アジアの国が多いが、これらの国では比較的早期に「謎の肺炎」に対する注意を払っており、早期の水際対策を講じたことが結果的に最も効果的だった可能性がある。
・今回のランキングでも先行きの被害を一定織り込んではいるが、実際の「コロナ禍被害」と「経済被害」の動向はこれからのコロナ対応への巧拙で変動しうる。
・そして今後は、各国の財政出動余地の縮小などから、強固な行動制限に対する反発も強くなっており、コロナ対応ではこれまで以上に難しい舵取りが求められている状況でもある。

 

2――先行事例等

2――先行事例等

各国の新型コロナウイルスへの対応に関する評価としては、例えば、すでに次のような取り組みがある。

米ニュースメディアのPOLITICOでは主要30か国のコロナ対応への評価を「健康」「経済」「封じ込め政策の厳しさ」の3点からマッピングしている1。「健康」では新型コロナへの検査数、感染者や死亡者を評価し、「経済」ではGDPや失業率、財政政策について評価している。POLITICOではランキング付けはしていないが、中国の評価が高い結果となっている。

英エコノミスト誌は、21か国について「コロナ対策の質」と「リスク」という観点から点数をつけている2。「コロナ対策の質」は検査数、コロナ以外の医療への影響、死亡率を評価し、「リスク」は肥満率、高齢化率、インバウンドの規模を評価している。結果はニュージーランドが最もリスクが低い。

先端技術系の企業・非営利団体であるDeep Knowledge Groupは大規模な分析しており、200に及ぶ地域に対して、多い国では130の指標を集計し、安全性評価の点数とランク付けをしている3。この評価では、経済活動への影響はほとんど考慮されておらず、感染拡大の防止力が評価に寄与する内容となっている。結果は、1位から順にスイス・ドイツ・イスラエルの順となっている。

このようにコロナ対応の評価方法は様々な切り口があり、結果にもバラツキがある。さらに、評価を実施する際のウエイトの置き方(例えば「健康」と「経済」ではどちらを重要視するか)でも評価に差が出てくる4。また、感染者数の今後の動向や、経済活動の回復ペースなどには不透明な要素も多いため、現時点で断定的な評価を下すことは難しい。

しかしながら、各国での感染状況や経済パフォーマンスを概観しておくことは、今後の経済動向を考察する際には有用であり、また各国のコロナ対策の初期評価としても興味深い内容である。

本稿では、シンプルに各国の「コロナ被害」と「経済被害」について、現時点で入手できる実データおよび予測データを利用して評価し、「コロナ被害」や「経済被害」が小さい国(=上手くコロナ禍を乗り切っている国)について考察してみたい5
 
1 https://www.politico.com/interactives/2020/ranking-countries-coronavirus-impact/に公開。横軸に「健康」、縦軸に「経済」、「封じ込め政策の厳しさ」を色分けすることでプロットしている。
2 https://www.eiu.com/n/campaigns/oecd-countries-responded-to-the-coronavirus-crisis/からレポートの入手が可能。
3 https://www.dkv.global/covid-safety-assesment-200-regionsに公開。
4 例えば、学術研究として経済学的に最適なロックダウン政策を考察することも実施されている(「感染症の死亡コスト」と「経済活動損失」のトレードオフを最適にする解を調べる)。こうした研究では、「感染症の死亡コスト」を定量化するが、結局はこの死亡コストを大きく見積もるほど、厳しいロックダウンを長期間実施した方が良いことになる。学術研究については、例えば、日本銀行金融研究所のニュースレターでAlvarez, Argente, and Lippi による“A Simple Planning Problem for COVID-19 Lockdown”のモデルをベースラインとなるモデルとして紹介している(https://www.imes.boj.or.jp/japanese/newsletter/nl202006J1.pdf)。
5 本稿以前に高山武士(2020)「新型コロナウイルスと各国経済-金融市場の反応と各国経済へのインパクト」『ニッセイ基礎研レター』2020-04-10および、同「新型コロナウイルスと各国経済-双子の赤字と財政ファイナンス」『ニッセイ基礎研レター』2020-05-25でMSCI ACWIの指数を構成する49 カ国・地域について、金融市場や経済状況の調査をしており、本稿でも特に断りがない限り、これらの国・地域を対象とする。具体的な構成国・地域は後掲図表2の通りで、中国と記載した場合は中国本土を指し香港は除くこととする。また、香港等の地域も含めて「国」と記載する。また、以降の「先進国」「新興国」のカテゴリはMSCIの分類にもとづく。
 

3――コロナ対応の評価方法

3――コロナ対応の評価方法

本稿では、「コロナ被害」および「経済被害」ついて、以下のように評価していく。
【コロナ被害】
「コロナ被害」については「(1)累積感染者数」「(2)感染拡大率」「(3)致死率」で評価する。

まず、「(1)累積感染者数(対人口比率)」によりコロナの蔓延度合い(封じ込めの効果)を直接計測する。ただし、先々の感染者数は現在の累積感染者数を見ただけではわからない。そこで「(2)感染拡大率(新規感染者の対累積感染者比率)」で感染が拡大傾向にあるか縮小傾向にあるかを評価する。感染が拡大傾向なら最終的な感染規模は大きく、逆に感染が縮小傾向なら最終的な感染規模は小さいとの想定のもと、今後の見通しを足もとの伸び率で評価している。

また、感染者が多かったとしても治療や自己免疫等で回復するのであれば、コロナ禍の被害としては小さいと考えられる。そこで「(3)致死率(対感染者比率)」も評価する。

ただし、感染者数、致死率ともに政府等の発表から作成されている点、その定義が公表主体によって異なる点には注意が必要である6
 
6 例えば、ベルギーでは検査で新型コロナウイルスと確認されなくても、その可能性があるものを死亡者としてカウントしているので、過大評価をしている可能性がある。一方で、そもそも検査数が少ない国では、感染者数、死亡者数を過小評価している可能性がある。検査数や陽性率を評価対象に含めることもできるが、本稿では評価の分かりやすさを重視して、これらの要素は考慮していない。
経済被害】
次に「経済被害」については、コロナによって失われたGDPの損失を計算する。この「GDP損失」は各国の実質GDPの水準について「コロナ禍前の想定(ベースライン)」と「コロナ禍後の見通し」をそれぞれ計算した上で、その差額をコロナ禍での経済被害として推計する。

推計の際、ベースラインはコロナ禍前の年末年始に公表された国際機関等の見通しを用いて作成し、コロナ禍後の見通しは、主に6月に入ってから公表された国際機関等の見通しを用いて試算した7。ベースラインとコロナ禍後の具体的な数値については、参考として巻末に記載する(後継図表6)。

なお、被害の推計を2020年のGDP差額に限っており、長期的な経済被害について考慮していない点、コロナ禍以外の要因での成長率変動を取り除いていない点には注意が必要である。
 
7 点数は、49か国を成績の良い順に10グループ(5か国ずつ、最終グループは4か国)に分けて、最良グループが10点、次のグループが9点、…、最も成績の悪いグループが1点として付けた。
【総合評価】
全体の点数計算にあたっては次のように計算している。
(図表1)日本のコロナ対策の評価 「コロナ被害」と「経済被害」について、被害の小さい国から被害の大きい国まで好成績順に並べて、1~10点で点数をつける点数をつける8(高得点がコロナ禍に上手く対応していることを示す)。そして、「コロナ被害」の3項目と「経済損失」の1項目の点数をレーダーチャートにした場合の面積が大きい国を上手く対応している国としてランク付けする。

例えば、日本について評価すると図表1のようになる。感染者数が49か国中4位(4番目に少ない)ので最高点の10点、感染拡大率は22位で6点、致死率は35位で4点、GDP損失は9位で9点となっている。総合点は面積の95点となる。この評価では、「コロナ被害」が3項目あり、「経済被害」が1項目しかないため、「コロナ被害」のウエイトが高めの評価と言える9
 
8 当研究所でも見通しを作成している国がいくつかあるが、今回は基本的に国際機関の見通しを活用している。
9 レーダーチャートの面積での点数付けは、ひとつの項目で秀でた点数を取るよりも、全項目でバランスの良い点数を取ることにウエイトを置いた点数付けでもある。例えば、4項目のうち3項目で1点、残りの1項目で10点の場合、総合点数は面積の11点となる。一方で、すべての項目で3点を取った場合、総合点数は18点となって後者の評価の方が高い。単純な足し算での合計点を出すと前者は合計13点、後者は合計12点で前者の総合点の方が高くなる。
 

4――評価結果・ランキング

4――評価結果・ランキング

さて、前節の方法で49か国のコロナ対応を評価してランク順に並べると、図表2のようになる。

総合順位では、台湾、マレーシア、香港、タイ、中国、韓国といった順に高評価となった。「コロナ被害」のウエイトが高いということもあり、感染者数や感染拡大率が低い国が上位を占めている。しかしながら、興味深い点として、上位国のこれらのコロナ被害が小さい国は、GDP損失も小さい傾向にあり、「経済被害」のウエイトを少し高めても順位の変動がほとんどないことを補足しておく。

また、他媒体での評価と比較するとPOLITICOで評価の高い中国は、本稿でも「経済被害」で高得点を取っているが、致死率の高さが順位を低下させる要因となった。

エコノミスト誌で評価の高いニュージーランドは経済への影響が大きく、Deep Knowledge Groupで評価の高いスイス、ドイツ、イスラエルは実際の感染者や死亡者がランキング上位国と比較して多かったため、順位が下がっている。エコノミスト誌やDeep Knowledge Groupはリスクや安全性といった「能力」を評価しているが、本稿では、今後の見込みも含んだ「結果」に重点を置いており、必ずしもリスクの低い国で感染が抑制されているわけではないという状況が反映された判定となった。
(図表2)各国のコロナ対応の評価
なお、「コロナ被害」と「経済被害」をそれぞれプロットしてみると、全体的に見ると、必ずしも「コロナ被害」と「経済被害」がトレードオフの関係になかった(図表3・4、トレードオフの関係にある場合は左上の第二象限と右下の第四象限にプロットされる)。現在入手できる情報からは、コロナ被害を抑えたからといって、経済損失が大きいわけでも、その逆に経済損失を抑えたからといってコロナ被害が大きいわけでもないことを示している。

こうしたトレードオフの関係が見られた国(経済を犠牲にして感染抑制を重視した国、後者は経済成長を重視し感染抑制を緩くしている国)は、例えば、足もとの新規感染者が最も少ないニュージーランド(8位)やタイ(4位)、フィンランド(16位)(コロナ被害が小さく、経済被害は大きい)やスウェーデン(41位)(コロナ被害は大きいが経済被害は小さい)など一部のみだった。ただし、経済被害を小さいとしているスウェーデンの場合でもランキング上位国よりはGDP損失が大きいため総合順位は低くなっている10
(図表3)各国のコロナ対策の評価(先進国)/(図表4)各国のコロナ対策の評価(新興国)
 
10 前述の通り「コロナ被害」と「経済被害」のバランスを重視している配点になっているため、こうしたトレードオフの関係にある国は順位が下がりやすいということも要因として挙げられる。またスウェーデンの場合は「経済」のウエイトが低いことも評価が下がった要因でもある。仮に、「コロナ被害」(平均点)と「経済被害」の合計で総合点を計算するとニュージーランドやタイは順位を落とし、スウェーデンは順位を上げる。
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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