2020年07月01日

熱中症に対する注意喚起が変わる~災害・防災、ときどき保険(番外編)

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――今年の6月は熱中症による救急搬送者数が多い

今夏は、新型コロナウイルス(Covid-19)感染拡大予防のためにマスクを着用している人が多いことから、例年以上に熱中症への懸念が強くなっている。

その一方で、熱中症による救急搬送者数は2015年以降、5月から公表されていたが、今年は新型コロナへの対応を優先するために、公表開始が6月に延期された。このようなところにも新型コロナの影響が出ているのだ。

6月1~28日の熱中症による救急搬送者数は、昨年の1.5倍で、この10年でもっとも多い。死亡者数も、28日で9人にのぼり1、今年も天気予報でも水分補給や冷房の使用を呼び掛けている。
図表1 熱中症による救急搬送者数(6月1日からの累計)
 
1 翌年の冬に公表される熱中症による死亡者総数(人口動態統計による)は、例年、救急搬送された死亡者数の10倍程度にのぼる。
 

2――「高温注意情報」は2011年に新設されたが、2021年に廃止予定

2――「高温注意情報」は2011年に新設されたが、2021年に廃止予定

さて、気象庁では、熱中症への注意喚起を、時間を追って4段階で発表している。

まず、向こう2週間のうち5日間平均気温がその時期としてかなり高く2なると予想された場合に「高温に関する早期天候情報」が発表される。身体が暑さに慣れるためには数日から2週間程度の時間が必要といわれていることによるようだ。続いて、向こう1週間で最高気温が概ね35℃以上3となることが予想された場合に「高温に関する気象情報」が発表される。さらに、最高気温が概ね35℃以上と予想された前日に「(地方)高温注意情報」が地方別に発表される。そして、当日、最高気温が概ね35℃以上と予想された場合に「(府県)高温注意情報」が都道府県ごとに発表される。

「高温注意情報」は、東日本大震災後、節電が呼びかけられたことによって、熱中症の危険性が高まったことから2011年に新設された。当初は、気温が低い北海道と電力不足懸念が少なかった沖縄県は対象外だったが、翌2012年以降は全国が対象となっている。気象庁による16個の注意報(大雨、洪水、大雪、強風、風雪、波浪、高潮、雷、濃霧、乾燥、なだれ、着氷、着雪、融雪、霜、低温)とは異なる位置づけにある4。気象庁による注意報については、基礎研レター「注意報・警報-災害・防災、ときどき保険(4)」5に詳しい。
 
2 具体的には、統計的にその時期・地域として10年に1度の割合で出現する高温となることが予想された場合、または、地域ごとに決められた日最高気温が基準値以上となる場合に公表される。基準値は、北海道地方27度、東北地方30度、北陸地方31度、関東甲信地方32度、東海地方32度、近畿地方32度、中国地方32度、四国地方32度、九州北部地方32度、九州南部・奄美地方32度、沖縄地方31度である。
3 青森県、宮城県、沖縄県では33℃以上、北海道では宗谷地方で31℃以上、それ以外の地方で33℃以上、それ以外の都府県では35℃以上が基準とされている。
4 一方、「低温注意報」はいわゆる「注意報」の1つで、低温により災害や農作物の被害が発生するおそれがあると予想した場合に発表される。「高温に関する早期天候情報」は条件を満たせば冬でも公表されるが、「高温注意情報」は4月第4水曜日から10月第4水曜日を対象とした期間に公表される。
5 安井義浩「注意報・警報-災害・防災、ときどき保険(4)」ニッセイ基礎研究所 基礎研レター(2017年10月31日)
 

3――2021年からは全国的に「暑さ指数」「熱中症警戒アラート」を導入

3――2021年からは全国的に「暑さ指数」「熱中症警戒アラート」を導入

高温注意情報は、これまで最高気温のみを基準として発表されていた。しかし、熱中症リスクを高めることで知られる日射・輻射熱や湿度が加味されていなかったことや、情報発表の頻度が高すぎることで、危険性が十分に伝わっていない懸念があったことから、2021年からは、全国で環境省が公表している「暑さ指数(WBGT)6」が33以上7を基準として導入することになった。また、高温注意情報に代わって熱中症の危険性が非常に高い日には「熱中症警戒アラート」の発表を予定している。
図表2 気温・暑さ指数(WBGT)と、熱中症搬送人員数との関係 まず、2020年7月8から、関東甲信地方の1都8県(東京都、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、神奈川県、山梨県、長野県)で試行される。

暑さ指数(WBGT)とは、体と外気との熱のやりとりに着目しており、気温が1、湿度(湿球温度)が7、輻射熱(黒球温度)が2の割合で算出される9。気温のみを基準とする場合と比べて、熱中症搬送者数との相関が高い(図表2)ほか、ISO等で国際的に規格化されており、日本では、環境省が2006年からWEB上で提供している。

WBGTが28以上で熱中症が起きやすくなる(図表2)ことから、運動や日常生活に関して、21以上で注意、28以上で厳重注意とされ、激しい運動は中止する、31以上で運動は原則禁止とする等の目安が決められている。
 
6 湿球黒球温度:Wet Bulb Globe Temperature
7 通常単位は「℃」であるが、気温と区別するために、単位ナシで表記されるようだ。
8 配信は6月30日17時から10月28日5時までが予定されている。
9 観測地は700近くあるが、観測データが異なることから、全天日射量や風速等を使ったいくつかの推計式が使われる。
 

4――わかりやすい運用に期待

4――わかりやすい運用に期待

図表3 気温と暑さ指数の比較ー2019年8月(東京) 例えば、東京における2019年8月の日最高気温と日最高WBGTを比較すると、図表3のようになる。

日最高気温が35℃以上だったのは10日間だったのに対し、日最高WBGTが33以上だったのは6日間に留まる。「高温注意情報」と比べて「熱中症警戒アラート」が発表される頻度が下がることで、より危険性を認識しやすいことが期待できる。

熱中症警戒アラートは、天気予報等では、色で示す等の直感的にわかりやすく伝えることなっているが、公表情報が詳しく多角的になるほど、受け取る住民側の混乱のもとになりかねない。各種団体においては、運動や日常生活に関して、国が公表している目安を十分に考慮にいれた活動が求められるだろう。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2020年07月01日「基礎研レター」)

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