2020年06月30日

次回の都道府県地価調査は下落の兆しか-コロナ禍は公的評価にどう影響するのか

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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(2)今まで上昇を続けてきたホテルセクターが不調である
また、地価公示等では変動率のランキングも注目される。公示地等はそのエリアの代表的な土地が選ばれ、変動するセクターがあれば、地価公示価格等にもその影響が出やすい。例えば、「高層オフィスビル街の代表的な大規模の画地」はオフィスの景況、「交通利便性の高いエリアの代表的なホテル適地」はその地域の観光の景況に影響を受けることとなる。
 
図表6は過去5年の地価調査において、前年比で大きく上昇した地点のうち上位20地点である。虻田郡倶知安町(北海道、ニセコ周辺)、那覇市、台東区浅草(東京都)、京都市、大阪市など、全国的に外国人観光客の増加の恩恵を受けた地点が上位にあがっている(図表6)。
図表6 都道府県地価調査(全国、商業地)の上昇率ランキング(2015-2019 年の上位20 地点)
しかし、ここにきて好調を続けてきたホテルセクターへコロナ禍が大きな影響を与えている。図表7はホテル系かつ宿泊特化型ホテルを多く含むREITの客室稼働率とRevPERの前年比のグラフである。客室稼働率は宿泊のあった客室数を予約可能であった客室数で除して求め、ホテルに対する需要の多寡を測ることができる。また、RevPERは客室稼働率と宿泊料収入を乗じて求め、そのホテルの収益力を測ることができる。4月の客室稼働率はインヴィンジブル投資法人(国内)が28%(前年比▲69%)、いちごホテル投資法人が30%(前年比▲67%)と多くの需要が喪失し、4月のRevPERはインヴィンジブル投資法人(国内)が1,734円(前年比▲83%)、いちごホテル投資法人が1,339円(前年比▲81%)とホテルの収益力にも深刻な影響が出ていることがわかる。

また、図表8はオータパブリケイションが公表する全国各都市の客室稼働率である。コロナ禍以前は大きくても前年比±10%程度の範囲で推移してきた。しかし、2020年4月の客室稼働率は全国17%(前年比▲53%)、札幌22%(前年比▲68%)、東京15%(前年比▲60%)、大阪14%(前年比▲69%)と、こちらも急激な需要の喪失を示している。なお、同データはサンプル数が少なく、また休業している施設の数値は反映されないため、実態はこの数値以上に悪いものと推定される。

収益用不動産における収益力の低下は不動産価格の下落に繋がる。次回の地価調査では、今までホテル適地やインバウンド客目当ての店舗適地とされ、上昇を続けてきたエリアの基準地価を中心に下落地点が増加するのではないだろうか。
図表7 ホテル系REIT の客室稼働率とRevPER/図表8 全国各都市の客室稼働率

5. 地価公示価格等が下落した場合の影響はあるのか

5. 地価公示価格等が下落した場合の影響はあるのか

前述のとおり、次回の地価調査で基準地価格の下落地点が大きくなったとしても、地価公示価格等は必ずしも実際の売買価格を決める主たる要因にはならない。ただし、以下の2点については下落の影響が及ぶ可能性があると考える。
(1)不動産鑑定評価額の再評価への影響
不動産鑑定評価額は原価法、取引事例比較法、収益還元法の3手法を関連付けて決定されるとともに、最も類似性が高いと判断される地価公示価格等との整合性が求められる。

つまり、ある不動産について、不動産鑑定評価を行った後に時点を変えて再度評価する際に、最も類似性が高いと判断される公示地等の地価公示価格等が下落していれば、鑑定評価額も下落するのが整合的である。

具体例としてはREITやSPCの保有物件の鑑定評価などが挙げられる。これらの不動産投資には、客観性を担保するために定期的な鑑定評価が求められており、対象不動産と類似性の高い地点の基準価格が下落した場合、鑑定評価額が影響されて下落する可能性がある。
(2)路線価を通じた土地の買い取り価格への影響
地価公示価格等は、同じ公的評価であり国税庁が毎年7月に公表する相続税路線価(以下、路線価)に強い影響を及ぼす。路線価自体は相続税や贈与税の基準となるものだが、通常は不動産取引を行わない個人が所有土地を不動産業者に売却する場合などではこの路線価を参考にすることも多い。例えば路線価の4~5割増などが土地の売買価格の目安になる場合がある。

対象不動産と類似性の高い地点の基準価格が下落した場合には路線価も下落することから、売主に提示される価格も下落する可能性が高くなる。個人が所有土地の売却を考える際に、一時的に路線価が下落しているようであれば、当面、売却交渉を見送るのも一つの考えではないだろうか。
 

6. おわりに

6. おわりに

9月下旬に公表予定の次回の地価調査は、全体的に下落地点が増加すると思われる。その理由には、前述のように直近の景気動向指数が大きく下落していることや、今まで絶好調であったホテルセクターなどの業績が急速に悪化していることなどが挙げられる。

ある地点の地価公示価格等の下落は、特徴の類似するエリアの不動産鑑定評価や路線価にも影響する。不動産の売主と買主は、売買にあたって必ずしも地価公示価格等の価格を考慮しないが、不動産鑑定評価や路線価を通じた間接的な影響は否定できない。

地価公示等は、広範かつ長期に調査されている不動産の指標として有用なものである。どのような特性があるのかを理解し、動向に注目することが重要である。
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年~ 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2020年06月30日「不動産投資レポート」)

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