2020年06月30日

新型コロナによる賃料減免。J-REIT分配金への影響は?~一定の前提条件のもと、分配金▲9%~▲13%を想定~

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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コロナ禍の影響は、ホテル>商業施設>オフィス>住宅>物流施設の順に大きい
続いて、コロナ禍による不動産市場への影響を簡単に述べたい。弊社レポート6にある通り、最も甚大な影響を受けたセクターはホテルである。3月以降、外出自粛や国内外で人の移動が厳しく制限されるなか、観光やビジネス、インバウンドの宿泊需要は大きく落ち込んだ。ホテル特化型リートであるジャパン・ホテル・リート投資法人によると、保有20ホテル(変動賃料等導入)の経営指標は月を追って悪化し、5月の稼働率は8.5%、客室単価(ADR)は前年比▲37.8%、RevPAR(稼働率×ADR)は前年比▲94.0%となった。現在も回復の足取りは重く、6月のRevPARは前年比▲90%程度減少する見込みであり、厳しい経営環境が続いている。
[図表-6] ホテルの運営状況(稼働率、ADR、RevPAR)
また、商業施設の被害も大きい。生活必需品を取り扱う店舗の売上は底堅いものの、飲食やサービス系店舗、繁華性の高いエリアに立地する店舗などではソーシャル・ディスタンスの確保が求められ、今後も売り上げへの影響は避けられないと思われる。一方で、オフィスや賃貸住宅、物流施設は、いまのところ影響は見られない。ただし、オフィスではビル内にある来店型店舗や飲食店舗などオフィスワーカーの出社制限などで売上の減少したテナントが一定程度生じている模様だ7
 
6 岩佐浩人『新型コロナでREIT市場は急落。不動産市場は曲がり角に直面』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2020年5月14日)
7 ケネディクス・オフィス投資法人によると、全体の11.9%(契約賃料ベース)のテナントから賃料減免・支払い猶予の要望がある(2020年4月期決算説明資料)。
一定の前提条件のもと、JREIT分配金への影響を試算する
最後に、変動賃料の減少や賃料減免によるJ-REIT分配金への影響を確認する。実際には、新型コロナウィルス感染拡大による店舗売上への影響は未だ全容が見えない。また、J-REITによるテナント交渉もこれからであり、テナント属性(業態・財務・信用力など)も様々である。

日経不動産マーケット情報(2020年7月号)によると、賃料減額の要請は、「店舗により異なるが、平均すると3ケ月間、20%くらいの減額」(全国チェーン飲食店)、「減額要請は商業施設で6割、ホテルでほぼ全てのテナントから減額要請。オフィスはごく一部に限られ、住宅や物流施設はない」(綜合型REIT)、「最終的に減額に応じるケースは10%~20%程度、減額期間は2カ月~3カ月」(不動産仲介会社)と報じている。

それでは、賃料減免などでJ-REITの分配金がどれほど減少するのか、これらの情報を参考として、一定の前提条件のもと、試算したい。図表―7は、J-REITの収益構造と賃貸事業収入の構成比をもとに、賃料免除による賃貸事業収入の減少率をマトリックス表(横軸:セクター別構成比、縦軸:免除期間)で示している。

例えば、ケース①『変動賃料なし、ホテル(期間4カ月)、商業施設(期間3カ月)、オフィス(期間1カ月)を全テナント・全額免除』では、『賃貸事業収入は▲13%、分配金は▲30%』となる。しかし、前提として、全テナント(ホテル・商業・オフィス)は現実的ではないと思われる。

次に、ケース②『変動賃料なし、ホテル(期間4カ月・対象4割)、商業施設(期間3カ月・対象3割)、オフィス(期間1カ月・対象1割)を全額免除』では、『賃貸事業収入は▲6%、分配金は▲13%』となる。また、ケース③『変動賃料なし、ホテル(期間4カ月・対象4割・減額率▲40%)、商業施設(期間3カ月・対象3割・減額率▲30%)、オフィス(期間1カ月・対象1割・減額率▲10%)』では、『賃貸事業収入は▲4%、分配金は▲9%』となる。

このように、「ケース②」や「ケース③」といった、ある程度の賃料減免であれば、J-REIT全体の分配金減少率は「▲9%~▲13%」にとどまる。さらに、年間分配金の6倍以上に相当する保有不動産の含み益(約3.7兆円)などを活用すれば、分配金への影響を許容範囲内に収めることができそうだ。
[図表-7] 賃料減免による賃貸事業収入と分配金の減少率

4――おわりに

4――おわりに

本稿では、一定程度の賃料減免であれば、J-REIT全体の分配金減少率が許容範囲内に収まることを確認した。一方で、より本質的な課題として次の2点を挙げたい。1つは、「景気悪化」の影響である。景気悪化は全ての不動産セクターにとって天敵であり、前回の金融危機時を超える景気悪化が見込まれるなか、相応のダメージは不可避だと思われる。2つ目は、「不確実性」の影響8である。「デジタル化」、「行動変容」、「賃貸借契約」の「3つの不確実性」は、中長期的に人々の不動産ニーズを変えて、賃貸市場に大きな地殻変動をもたらす可能性がある。今後のJ-REIT市場を見通すうえで、これらの影響を慎重に見極める必要がありそうだ。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

(2020年06月30日「基礎研レポート」)

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