2020年06月26日

中国経済:景気指標の総点検(2020年夏季号)~景気インデックスはプラス成長を示唆!

三尾 幸吉郎

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1.中国経済の概況

(図表-1)中国の実質成長率の推移 新型コロナ禍で経済活動をほぼ全面停止していた20年1-3月期、中国の国内総生産(GDP)は実質で前年比6.8%減と、四半期毎の実質成長率を遡れる1992年以来で初めてとなるマイナスを記録した。リーマンショックでも急減速したが、今回はそれを超える大打撃となった(図表-1)。
(図表-2)中国の実質成長率(産業別) 産業別の実質成長率を見ると、宿泊飲食業が前年比35.3%減と大きく落ち込んだのを始め、卸小売業は同17.8%減、建築業は同17.5%減、交通運輸倉庫郵便業は同14.0%減、製造業は同10.2%減と幅広い産業で大幅な前年割れとなった。他方、新型コロナ禍でテレワークや電子商取引が新常態となる中で追い風が吹いた情報通信・ソフトウェア・ITは前年比13.2%増と2桁成長を遂げ、中小零細企業の支援に奔走した金融業も同6.0%増とプラス成長を維持した(図表-2)。
(図表-3)中国の消費者物価ん(品目別) その後、中国では新型コロナ禍がほぼ収束し現存感染者数は100人を下回ってきた。これを背景に習近平国家主席は4月8日、防疫対策を常態化する中で生産・生活秩序の全面回復を加速する必要があるとして、中国政府は「防疫対策を常態化する」という条件付きながらも、経済活動の本格再開に舵を切った。そして、実質GDP成長率との連動性が高い工業生産(実質付加価値ベース)は、1-2月期の前年比13.5%減をボトムに持ち直し、4月には同3.9%増、5月は同4.4%増と前年水準を上回るようになってきた。特にハイテク製造業は4月が前年比10.5%増、5月が同8.9%増と19年通期の同8.8%増を上回る高い伸びを示すまでに持ち直してきた。

一方、インフレ動向をみると、5月の消費者物価は前年比2.4%上昇と、1月の同5.4%上昇をピークに4ヵ月連続で低下してきた。アフリカ豚熱(ASF)で豚肉が高騰したため食品価格こそ高止まりしているものの、その他は概ね落ち着いており食品・エネルギーを除くコアは前年比1.1%上昇と低い上昇率に留まっている(図表-3)。
 

2.景気10指標の点検

2.景気10指標の点検

【供給面の3指標】
まず、工業生産(実質付加価値ベース)を確認すると、前述のとおり20年1-2月期に前年比13.5%減に大きく落ち込んだ後、3月には同1.1%減までマイナス幅を減らし、4月には同3.9%増、5月には同4.4%増と前年水準を上回るまでに持ち直してきた(図表-4)。業種別に見ると、鉱業は1-3月期の前年比1.7減から4-5月期には同1.9%減(推定1)へ悪化しているが、電力エネルギー生産供給は同5.2%減から同1.8%増(推定)へプラス転換し、製造業は同10.2%減から同8.2%増(推定)へ回復した。特に自動車は同26.0%減から同19.1%増へ急回復している(図表-5)。
(図表-4)工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移/(図表-5)工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)
一方、PMIの動きを確認すると、製造業PMI(製造業購買担当者景気指数、中国国家統計局)は(図表-6)、2月には35.7%に急落したが、3月には52.0%に急回復し、その後はやや停滞気味だが拡張・収縮の境界線となる50%を3ヵ月連続で上回り、予測指数は5月に57.9%まで上昇している。他方、非製造業PMI(非製造業商務活動指数、中国国家統計局)は(図表-7)、2月には26.6%と製造業よりさらに深刻な落ち込みとなったが、3月以降は拡張・収縮の境界線となる50%を3ヵ月連続で上回り、特に建築業は5月に60.8%という極めて高い水準まで上昇している。
(図表-6)製造業PMI/(図表-7)非製造業PMI(商務活動指数)
 
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
【需要面の3指標】
個人消費の代表指標である小売売上高の動きを確認すると、新型コロナ禍で経済活動が停止した20年1-2月期に前年比20.5%減と大きく落ち込んだ後、3月は同15.8%減、4月は同7.5%減、5月は同2.8%減と、ゆっくりとだが着実に前年水準に近付いてきている(図表-8)。内訳が公表される一定規模以上の小売統計を見ると、1-3月期には飲食が前年比41.9%減、衣類が同32.2%減、自動車が同30.3%減、家電類が同29.9%減、家具類が同29.3%減と大きく落ち込んだが、4-5月期には飲食と衣類がマイナス幅を縮め、家電類と家具類は前年水準をほぼ回復し、自動車、化粧品、日用品類は前年水準を上回ってきた。なお、新型コロナ禍による行動変容が追い風となったネット販売(商品とサービス)は、前年比12.4%増(推定)と2桁増になった模様である(図表-9)。
(図表-8)小売売上高の推移/(図表-9)小売売上高(限額以上規模)
投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)を見ると、新型コロナ禍で経済活動が停止した1-2月期に前年比24.5%減と大きく落ち込んだ後、3月は同0.2%増(推定)、4月は同7.3%増(推定)、5月は同9.3%増(推定)と急回復してきた(図表-10)。内訳を見ると、製造業は1-3月期の前年比25.2%減から1-5月期には同14.8%減にマイナス幅が縮小し4-5月期は同0.7%増(推定)、不動産開発投資は同7.7%減から同0.3%減にマイナス幅が縮小し4-5月期は同10.7%増(推定)、インフラ投資は同19.7%減から同6.3%減にマイナス幅が縮小し4-5月期は同13.7%増(推定)と、製造業は伸び悩んだものの不動産開発とインフラが牽引役を果たし始めている。

他方、輸出(ドルベース)は、1-2月期に前年比17.1%減に落ち込んだ後、3月は同6.6%減、4月は同3.5%増、5月は同3.3%減と一進一退となっている。新型コロナ禍が世界に波及したことで新規輸出受注が50%割れで低迷しており、輸出の先行きに明るい兆しは見られない(図表-11)。
(図表-10)固定資産投資(除く農家の投資)/(図表-11)新規輸出受注指数の推移
【その他の4指標と景気の総括】
以上で概観した供給面3指標と需要面3指標に、電力消費量、道路貨物輸送量、工業生産者出荷価格、通貨供給量(M2)を加えた景気10指標を、それぞれ3ヵ月前と比べて上向きであれば“○”、下向きであれば“×”として一覧表にしたのが図表-12である。

需要面をみると、固定資産投資は3月以降3ヵ月連続で“○”、小売売上高と輸出は4月以降2ヵ月連続で“○”となっており、2-3月をボトムに底打ちした模様である。供給面をみると、工業生産と製造業PMIは3月以降3ヵ月連続で“○”、非製造業PMIは5月に3ヵ月ぶりの“○”となっており、製造業が先行して底打ちしそれに遅れて非製造業にも底打ちの兆しが見え始めている。また、電力消費量と道路貨物輸送量が4月以降2ヵ月連続で“○”となり、工業生産者出荷価格は7ヵ月ぶりに“○”に転じ、通貨供給量(M2)は6ヵ月連続で“○”を維持している。
(図表-12)景気評価総括表(〇×表)
(図表-13)通貨供給量(M2)と社会融資総量 なお、ここもとの新型コロナ禍に伴う景気悪化に際しては、中国政府及び中国人民銀行(中央銀行)が金融面から景気を下支えした。旧正月(春節)連休明けの2月初めに1.7兆元(日本円換算で26兆円)の大量資金供給に踏み切ったのに加えて、新型コロナウイルスが猛威を振るっていた1月31日には防疫物資の生産・輸送・販売を担う企業を金融支援し、新型コロナ禍が峠を越えた2月26日には企業の業務・生産再開に対する金融支援を始めるという手順を踏んだ。また、3月1日には資金繰りに窮した中小零細企業を救済するため、6月30日2までに期限がくる元本償還・利払いを一時的に延期する“疫情融資”と呼ばれるモラトリアム措置を発動した。そして、5月の通貨供給量(M2)は前年比11.1%増まで伸びを高め、社会融資総量残高も同12.5%増まで伸びを高めた(図表-13)。
 
2 6月30日とされていたこの処置の期限は5月の全人代にて21年3月末まで延長された
 

3.景気インデックスはプラス成長を示唆!

3.景気インデックスはプラス成長を示唆!

最後に、月次の景気指標の推移を基に実質成長率を推計した「景気インデックス」をご紹介する。中国で毎月公表される景気指標は数多いが、実質成長率に対する連動性が高い指標とそうでない指標に分かれる。中国の経済成長率は、欧米先進国とは違い主に生産面から推計されているため、個人消費、投資、純輸出といった支出面の景気指標との連動性は低く、農業、工業、サービス業といった生産面の景気指標との連動性が高い。そこで、生産面の景気指標を説明変数として実質成長率を説明する回帰モデルを開発してみた。具体的には、工業生産、サービス業生産、建築業PMIの3つを説明変数として選択し、実質成長率に近似させている。なお、新型コロナ前(Beforeコロナ)は、工業生産、サービス業生産、製造業PMIの3つを説明変数としていたが、新型コロナで連動傾向に異変が生じたため、製造業PMIを外し建築業PMIへ入れ替えることとした。

その「景気インデックス」の推移をみると、20年2月に前年比8.3%減まで落ち込んだ後、3月には同4.9%減、4月には同1.7%減と緩やかにマイナス幅を縮め、5月には同2.1%増と5ヵ月ぶりにプラス成長に転じた(図表-14)。6月の景気指標は未だ公表されていないものの、7月16日に公表される20年4-6月期の実質成長率は小幅ながらもプラス成長になる可能性がでてきた。

但し、6月に入り新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の“第2波”の恐れが高まってきている。新規確認症例は4月末以降ほとんど1桁で多くても20名を超えない日々が続いていたが、6月13日には57名の新規感染が確認された(図表-15)。発火点となった北京では、16日に新型コロナウイルス感染症に対する緊急対応体制を3級から2級に引き上げるとともに、オフィスビルや商業施設などの出入り管理を厳格化し、北京を離れる場合には7日以内に実施したPCR検査の陰性証明を持参することを義務付けるなど新型コロナ対策が強化された。今のところ中国の新規確認症例数は日本のそれよりも低位に留まっており、北京以外に拡散する兆しは確認できないものの、景気回復の勢いを削ぐ恐れはある。どの程度の影響になるか注視していく必要がある。
(図表-14)経済成長率と景気インデックス/(図表-15)COVID-19の新規確認症例の内訳
 
 

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三尾 幸吉郎

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(2020年06月26日「Weekly エコノミスト・レター」)

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