2020年06月17日

日銀短観(6月調査)予測~大企業製造業の業況判断D.I.は24ポイント低下の▲32と予想、リーマン級の落ち込みに

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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6月短観予測:緊急事態宣言の影響で景況感は大幅続落、設備投資計画も弱気化

(新型コロナの影響が深刻化) 
7月1日に公表される日銀短観6月調査では、新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う緊急事態宣言発令の影響により、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が▲32と前回3月調査から24ポイント低下し、景況感の急激な悪化が示されると予想する。また、大企業非製造業の業況判断D.I.も▲17と前回から25ポイント低下すると見込んでいる。製造業・非製造業ともにリーマンショック後に匹敵する急激な落ち込みが予想される(図表2)。

予測通りであった場合、D.I.の水準は大企業製造業で2009年9月調査、非製造業で同年12月調査以来の低水準ということになる。
 
前回3月調査では、新型コロナウイルス拡大に伴う内外需要の減少開始によって、大企業製造業(業況判断DIが8ポイント低下)をはじめ景況感の幅広い悪化が確認されていた(図表3)。

そして、前回調査以降、企業を取り巻く状況はさらに悪化した。4月に入ると緊急事態宣言が発令され、全国に拡大された。この結果、さらなる外出自粛や休業要請で消費が急減したうえ、ロックダウンの実施を受けた海外経済の失速や訪日客の途絶もあって景気は大幅に落ち込んだ。緊急事態宣言は5月半ばから段階的に解除されたものの、外出自粛ムードや入国規制等は残り、経済活動の回復ペースは鈍い。政府・日銀は経済対策や追加緩和を打ち出してきたが、感染拡大懸念を伴う需要喚起策ではなく資金繰り支援が中心であるため、景気へのプラス効果は限定的に留まっている。
(図表2)業況判断D.I. 過去の急落事例/(図表3)前回調査までの業況判断D.I.
(図表4)生産・輸出・消費の動向/(図表5)景気ウォッチャー調査
実際、現在出揃っている4月分の主要経済指標を見ると、輸出・消費・生産がそれぞれ前月比約1割減と急激に落ち込んでいる(図表4)。

そして、5月分が既に公表されている景気ウォッチャー調査(いわゆる街角景気)では、現状判断DI1が4月に急落した後、緊急事態宣言が解除された5月には4カ月ぶりの改善に転じているものの、その水準は未だ極めて低いままだ(図表5)。また、5月の輸出も欧米経済の落ち込みを受けて一段と減少している(図表4)。
 
今回、大企業製造業では海外でのロックダウン(都市封鎖)に伴う輸出の減少、外出自粛による国内製品需要の落ち込み、サプライチェーン混乱による一部部品の調達難などを受けて景況感が大幅に悪化すると見込まれる(表紙図表1)。内外需要が激減した自動車をはじめ、幅広い業種で落ち込みが確認されるだろう。

非製造業も、外出自粛や休業に伴う売上の急減、入国規制に伴う訪日客の途絶などから景況感が大幅に悪化すると予想される。特に大きな影響を受けた小売やサービス、運輸・郵便での悪化が顕著になりそうだが、これまで景況感の下支え役になってきた建設・不動産でも工事の中断や家賃の減免等を受けて景況感が明確に悪化しそうだ。
 
中小企業の業況判断D.I.は、製造業が前回から21ポイント低下の▲36、非製造業が23ポイント低下の▲24と予想(表紙図表1)。大企業同様、製造業・非製造業ともに景況感の大幅な悪化が避けられない。
 
なお、先行きの景況感については、大企業では持ち直しが示されると予想。コロナ感染拡大の鈍化を受けて、既に国内外で経済活動が段階的に再開されており、今後の景気回復が見込まれるためだ。ただし、景気回復は緩やかなペースに留まるとの見方が一般的であるほか、感染第2波への警戒もあり、先行きの景況感改善は小幅に留まるだろう。また、中小企業はもともと先行きを慎重に見る傾向が強いだけに、今回も先行きにかけて景況感のさらなる悪化が示されると予想している。
 
1 景気ウォッチャー調査におけるDIは短観のように景気の水準を示すものではなく、3カ月前と比べた景気の方向感を示す。
(今年度設備投資計画は異例の下方修正)
2019年度の設備投資計画(全規模全産業)は前年比0.7%増(前回調査時点では同2.7%増)へと下方修正されると予想している(図表7・8)。例年6月調査(実績)では、中小企業で計画が具体化したことによって上方修正される反面、大企業で下方修正が入ることで、全体として小幅に下方修正される傾向があり、今回も同様のパターンとなることが予想される。
 
一方、2020年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比3.0%減(前回調査時点では同0.4%減)に下方修正されると予想している。例年、6月調査では計画の具体化に伴って上方修正される傾向が極めて強い。しかし、今回は新型コロナの感染拡大に伴う収益の大幅な悪化や、事業環境の強い先行き不透明感を受けて、企業の一部で設備投資の撤回や先送りの動きが台頭し、この時期としては異例の下方修正になると見ている。
(図表6)設備投資関連指標の動向/(図表7)設備投資計画推移(全規模全産業)
(図表8)設備投資計画の予測表
(注目ポイント:緊急事態宣言発令後の経済活動失速の影響)
今回の短観は、緊急事態宣言発令後の経済活動失速が企業にどの程度の悪影響を与えたかを計る大きな材料と位置付けられる。全体的に悪化が見込まれるが、業況判断D.I.の足元の低下幅、先行きにかけての方向感、設備投資計画の下方修正状況など注目すべき点は多い。
(図表9)資金繰り判断D.I. そうした中、とりわけ注目されるのが資金繰り判断D.I.の下落幅だ。前回調査では、新型コロナ拡大の初期段階であったこともあり、大企業・中小企業ともに小幅な下落に留まっていたが(図表9)、以降、休業や売上の急減に伴って企業の資金繰りは逼迫度を増したとみられ、どこまで下落しているかが注目される。政府・日銀は資金繰り対策を打ち出してきたが、その効果が問われるという意味合いもある。
 
(日銀金融政策への影響は限定的か)
今回の短観では、企業の景況感が幅広く大幅に悪化し、設備投資計画も慎重化すると見込まれるが、当面の日銀金融政策に与える影響は限定的になりそうだ。

4月以降の経済活動の停滞を鑑みれば、日銀にとっても今回の短観で景況感などが大幅に悪化することは想定済みのはずだ。また、金融市場が安定を取り戻しているほか、コロナ感染拡大の鈍化に伴って国内外で経済活動が再開されており、景気もひとまず最悪期を脱しているとみられるためだ。

当面は新型コロナの感染動向とその影響、景気の回復動向を見極めるため、様子見姿勢を取ると見込まれる。

ただし、既述のとおり、日銀にとって足元の最大の課題に位置付けられる企業の資金繰りについても厳しい結果が予想される。想定を超える悪化が示された場合には、日銀が警戒を強め、資金繰り対応策のさらなる強化・拡充に向かう材料になり得る。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2020年06月17日「Weekly エコノミスト・レター」)

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