2020年06月17日

キャッシュレスを学ぼう(6)-改正割賦販売法-キャッシュレスビジネスの自由度拡大

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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1――はじめに

「キャッシュレスを学ぼう」シリーズの第6回は、今国会で成立した改正割賦販売法について、解説をおこなうこととする

本論に入る前に、本シリーズ前回の第5回までで、各方式に一通り触れたことになるので、ここでは、本シリーズで述べたことを簡単に振り返っておきたい。

まず後払い方式のキャッシュレス、典型的にはクレジットカードであるが、これには割賦販売法が適用される。このうち、分割払いやリボ払いには、過剰与信防止のための規制、利用者に対する情報提供義務等の規制、およびクレジットカード番号等の適正管理規制等が適用される。後払い方式のうち翌月一括払いは、単なる後払いという性格から、クレジットカード番号等の適正管理規制のみ適用がある。

他方、前払い方式のキャッシュレスは前払式支払手段と呼ばれ、資金決済法で規制が行われる。前払式支払手段の例としてはSuicaやnanacoなどがある。また、前払式支払手段として発足したPayPayなどでは、個人間送金が可能とするとともに払込金を払い戻しできるように仕組みを変更した。前払金の払い戻しができるものは、資金移動業として規制される。両者の規制の違いは、たとえば前払式支払手段発行者では利用者資金の半額を保全する必要がある一方、資金移動業者では利用者資金の全額を保全する必要があるといった点である。

さらに、新しい技術であるブロックチェーンを用いたものとして、暗号資産(仮想通貨)があり、資金決済法と金融商品取引法で規制が行われる。
 
ところで、今回の割賦販売法改正は、フィンテックの進展に合わせて、技術革新に伴うビジネスの自由度を拡大することにある。割賦販売法改正の概要は、(1)与信審査における性能規定の導入、(2)少額包括信用購入あっせん業者の新設、(3)クレジットカード番号等管理等の厳格化、(4)電子的な通知の容認である。以下では現行割賦販売法を単に法といい、改正割賦販売法を改正法という。
 

2――クレジットカードビジネスの構造と規制

2――クレジットカードビジネスの構造と規制

1|クレジットカードビジネスの構造
本項は、第一回で述べたクレジットカードビジネスの復習となるので、詳しくは、「キャッシュレスを学ぼう(1)-クレジットカード・デビットカード」をご覧いただきたい。

取引の流れとしては、①利用者がカードを使って加盟店で商品を購入する。②加盟店契約会社(アクワイアラー)は加盟店の銀行口座に代金(手数料控除後)を払い込む。この際に、加盟店契約会社と加盟店の間に一種のフィンテック会社である決済代行会社が入ることがある。決済代行業者が間に入ることで、加盟店はさまざまな決済ブランドが利用できるようになるなどのメリットがある。③加盟店契約会社は国際ブランドカード等の決済ネットワークを経由して、カード発行会社に立替金を請求する。④カード発行会社は利用者の銀行口座から代金額を引き去り、加盟店契約会社に立替金を送金するといったものである(図表1)。
(図表1)クレジットカードビジネスの構造
2クレジットカードの現行規制
規制としては、まず、(1)分割払い、あるいはリボ払いを行うカード発行会社は、経済産業省の登録を受けなければならない(法第31条)1。また、(2)分割払い等を取り扱うカード発行会社が、極度額(利用限度額)を定めてカードを発行する際、あるいはカードの極度額を増やす際には、利用者の包括支払可能見込額を算定しなければならない(法第30条の2)。包括可能支払見込額は年収等から、生活維持費等を差し引いて算出する。その際には、指定信用情報機関(株式会社CIC)から債務の支払い状況等の情報を取得しなければならない。そして、極度額は包括支払可能見込額の9割を上限とする(法第30条の2の2)。

さらに、(3)分割払い等を取り扱うカード発行会社はカード発行時およびカード利用時に、利用者に対して支払回数や手数料など一定の情報提供をしなければならない(法30条第1項、法30条の2の3第1項)。また、加盟店もカード利用時に支払総額など一定の情報提供を行う必要がある(法第30条の2の3第4項)2

そして、(4)クレジットカード番号等の適切管理義務・措置義務である。この規制だけは翌月一括払いのカード会社にも適用される。具体的には、カード発行会社、加盟店契約会社、加盟店はクレジットカード番号等を適切に管理しなければならない。そして、加盟店契約締結権を有する加盟店契約会社(決済代行会社含む)には、経済産業省へ登録する義務、および加盟店で不正なクレジットカード番号等の取り扱いがないかどうか調査する義務がある。
 
1 翌月一括払いが除かれているのは、単なる後払いとされていることから、購入者に対して信用を供与する(貸付金的な)性格が強くなく、利用者の信用状況を考慮する必要まではないとされているからである。
2 このほか、割賦販売法では、決済の原因となった取引が取り消された時などに割賦の支払を拒絶することができる(法30条の4、抗弁権の接続)。
 

3――改正法の改正内容

3――改正法の改正内容

1与信審査における性能規定の導入
性能規定とは聞きなれない言葉だが、規制が具体的な仕様(手段)を定めるのではなく、結果としての性能が一定の条件を満たすよう求めるものを指す。法では、利用者の年収等から生活費や借入金返済額等を差し引いて、カード利用可能額を算定する方式(法30条の2)しか、与信審査の手段としては認めていない。改正法ではこの方式に加えて、利用者の支払い能力に関する情報を、高度な技術的手段による分析によって算定する方式を認めることとした。これはフィンテック企業による、購入履歴等をもとにした、ビッグデータ・AI解析を活用した与信審査手法を認めるものである3。この規定は、適切な与信審査が行われたといえる水準の成果を求めるという性能規定である。

この方式を採用する場合には、「プレッジ・アンド・レビュー」(確約と評価)により、事前・事後チェックが行われる。まず、事前チェックであるが、上記のような高度な技術手段による分析により算定する方法と算定方法を行う体制が、経済産業省の基準に適合するかどうか判断する。適合する場合には、経済産業大臣は包括信用購入あっせん業者を認定することができる(改正法第35条の5の4)。認定申請の際には、業者は与信審査方法と延滞率をプレッジ(確約)する4。与信審査方法は現在の技術水準に照らして不適正・不十分なものであってはならず、また不適切な変数等を組み込まないものでなければならない。また、購買履歴等を活用するものであることから、個人情報保護の観点から問題がないものでなければならない。延滞率は指定信用情報機関である株式会社CICの延滞率を基本とし、一定範囲内の変動幅の中で管理することをプレッジする。業者の整備すべき体制としては、独立した与信審査・管理を行う責任部署を設け、内部監査部門を設けることが求められる。

そして、事後チェックとしては、延滞率がプレッジ通りに推移しているか、あるいはプレッジした方法や体制が順守されているかのチェックが行われる。そのため、業者からは定期的なレポートが求められ(改正法第30条の5の5第4項)、著しく不適正な与信審査が行われている場合には、改善命令等の行政措置が行われる(改正法第30条の5の6)。

なお、法には、利用者が利用額を支払わなかった場合において、包括信用購入あっせん業者から契約解除が可能となる期間が定められている。これは現在、催告してから20日間経過以降とされている。改正法は、この期間制限を認定包括信用購入あっせん業者に対しては、7~8日までに短縮することとしている(改正法第30条の5の7)。デジタルをビジネスの場とする、フィンテック業者を念頭に置いているからである。
 
3 産業構造審議会商務流通情報分科会 割賦販売小委員会報告書「当面の制度化に向けた整理と今後の課題~テクノロジー社会における割賦販売法制のあり方~」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shomu_ryutsu/kappu_hambai/pdf/20191220_report.pdf  P16参照。なお、この規定で包括支払可能見込み額を算定する場合でも、信用情報機関への照会義務は免除されていない。
4 前掲注3報告書P21~P22参照。
2|少額包括信用購入あっせん業者の新設
改正資金決済法では「キャッシュレスを学ぼう(3)-資金移動業」で述べた通り、少額のみ取り扱う資金移動業に対する規制緩和が行われた。同様に、割賦販売法でも、少額の決済については緩やかな規制とすることでイノベーションの推進を促す方策をとることとした。具体的には、包括信用購入あっせん業者については、極度額(利用限度額)10万円以下を条件として、規制緩和を行う5。規制緩和の対象となる業者のイメージとしては、(1)クレジットカードを発行せず(スマホで表示されるQRコードによる決済など)、(2)フィンテックを活用した与信管理を行い、(3)従来の決済ネットワークを利用せず、インターネット上で加盟店と決済するような事業者が想定されている。

少額包括信用購入あっせん業者は、経済産業省に登録しなければならない(改正法第35条の2の2)。登録少額包括信用購入あっせん業者は、純資産要件が緩和され(改正法第35条の2の11第1項第3号)6、資本要件(現行登録時最低2000万円)が撤廃されている。また、支払可能見込額調査までは求められず、これに代わる技術・データを利用した、簡易ではあるが、適切な与信審査手法を実施する(改正法第35条の2の4)7、また簡易な社内体制を認める(改正法第35条の2の11第1項第11号、独立監査部門の設置に代わる監査方法の認容等)といった緩やかな規制が適用される。
 
5 前掲注3報告書P8参照。
6 現行法では「資産―負債≧資本金×0.9」が登録要件とされているが、改正法では、登録時に純資産の値が負でないこと、かつ、事業開始から5年以内に現行基準を満たすこととするなど緩和された(前掲注1P10 参照)。
7 購入履歴、支払履歴などのリアルデータの活用が期待されている(前掲注3報告書P14参照)。
3|クレジットカード番号等管理等の厳格化
改正割賦販売法ではクレジットカード番号等(QRコード等も含む)の適正管理を強化した。きっかけとしては、昨年7月に、流通系のQRコード決済において、不正アクセスによる大量の不正利用事件があったことがそのひとつである。

まず、クレジットカードを利用した後払い方式による、QRコード決済業者の取引の一般的な仕組みを説明する。最初に、①QRコード決済業者やECモール運営者が、あらかじめクレジットカード番号等を利用者から取得しておく。②利用者が加盟店からの購入に当たってQRコード決済を利用したり、ECモールの決済を利用したりすると、③QRコード決済業者等が加盟店に立替払を行い、④立替金を従来のクレジットカードの立替金請求ルートで請求し、⑤カード発行会社が利用者預金から引き落として清算を行う(図表2)といったものである。
クレジットカード番号等管理等の厳格化
法はクレジットカード番号等の適正管理を、カード発行業者、加盟店契約会社(加盟店契約締結権限を有する決済代行業者含む)、加盟店だけに課してきたが、改正法では、新たにコード決済業者、ECモール運営者等にも適正管理義務が課せられることとなった。
4電子的な通知の容認
電子デバイスのみを利用するフィンテックの進展により、各種の通知を、書面の交付によってではなく、電子メール等だけで行うことが自然であると考えられてきている。この点、改正法では、完全にデジタル化したサービスと、それ以外を分ける。そして、前者をスマートフォン・パソコン完結型サービスとして、完全電子化を認める。後者(完結型でないもの)は、電子的な通知を認めるが、利用者から請求があった場合には、書面を提供すべきことを求める。

スマートフォン・パソコン完結型サービスとされるためには、物理的なカードを発行しないことが前提となる。利用するために必要なのはカード番号だけだとしても、その番号が物理的カードと紐づけられている場合は、スマートフォン・パソコン完結型サービスには該当しない8

このような整理のもとで電子的通知ができるものとしては、(1)カード等発行時の取引条件等の通知(改正法30条第1項)、(2)包括信用購入あっせんにかかる売買契約を利用者が締結したときの支払総額等の情報(改正法第30条の2の3第1項、第2項)がある。これらの場合で業者が電子的に通知を行ったときに、スマートフォン・パソコン完結型サービス以外については、利用者からの請求があれば書面を提供しなければならない(改正法第30条第3項、第30条の2の3第4項)。

また、包括信用購入あっせん契約の解除に向けた催告通知は、原則として書面で行わなければならないが、スマートフォン・パソコン完結型サービスでは電子的な解除催告を行うことができる(改正法第30条の2の4)。
 
8 前掲注3報告書P31参照。
 

4――おわりに

4――おわりに

日本におけるキャッシュレス比率(民間最終消費支出に対するキャッシュレス支払額の比率)は、現状20%前後であり、政府は2025年までには4割程度まで引き上げることを目標としている9。昨年10月の消費税引き上げにあたり、キャッシュレス・ポイント還元制度を導入し、消費税増税の影響を緩和するとともに、キャッシュレスの推進が図られた。

キャッシュレスの目的としては、現金のハンドリングコスト削減と、インバウンド消費の拡大(海外は日本よりキャッシュレス比率が高く、日本で現金しか使えないのが不便との声がある)とされている。

本シリーズで見てきたように、今般のキャッシュレスに関係する法令の整備は、一段前に進んだものと思われる。また、乱立するキャッシュレス決済事業のQRコード、バーコードの規格統一も進められている。政府や関係各所の取り組みは評価できるが、日本で本当にキャッシュレスが根付くのだろうか。次回は、キャッシュレス利用の推進力として活用されてきた、ポイント制度について触れてみたい。
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保険研究部   常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

(2020年06月17日「基礎研レター」)

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【キャッシュレスを学ぼう(6)-改正割賦販売法-キャッシュレスビジネスの自由度拡大】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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