2020年06月05日

コロナショック後の金融市場動向~リーマンショック後とどう違う?

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2.日銀金融政策(5月):臨時会合を開催、新資金供給オペを導入

「新たな資金供給手段」の概要 (日銀)新しい資金供給オペを導入
5月はもともと金融政策決定会合が予定されていない月であったが、日銀は22日に臨時の会合を開催し、中小企業等の資金繰り支援のための「新たな資金供給手段」の導入を決定した。前回4月の会合において議長(総裁)から検討が指示され、骨子が公表されていたものを、次回6月の会合を待たずして前倒しで決定した。
 
内容は、政府の緊急経済対策における無利子・無担保融資等を実行した金融機関に対して、共通担保の範囲内でバックファイナンス的にゼロ金利での資金供給を行うものだ。3月に導入し4月に拡充した「新型コロナ対応金融支援特別オペ」と同様、インセンティブを高めるために、利用残高の2倍の金額を日銀当座預金のマクロ加算(ゼロ%金利適用部分)に加算するうえ、利用残高相当の日銀当座預金に対して0.1%の付利を行う仕組みとしている。資金供給の対象は約30兆円とされている。

また、これに加えて、3月に導入されたCP・社債等の追加買入れと「新型コロナ対応金融支援特別オペ」の期限を従来の9月末から来年3月末へと半年間延長した。
 
ちなみに、長短金利操作やその他資産の買入れ方針に変更はなく、会合後の総裁会見も今回は開かれなかった。
(評価と今後の予想)
(評価)企業の資金繰りが逼迫しているだけに、今回、資金繰り対策の追加を前倒しで決定したことは前向きに評価できる。また、内容に関しても、緊急経済対策における無利子・無担保融資やコロナ対応として信用保証協会による保証の認定を受けた融資のみならず、それに準じるプロパー融資が対象に加えられており、日銀の積極的な姿勢がうかがわれる。効果については、融資の実行役である金融機関の対応姿勢や能力に左右される面があるものの、付利やマクロ加算がインセンティブになる形で無利子・無担保融資等を一定程度後押しする効果は期待できる。

なお、CP・社債等の追加買入れと「新型コロナ対応金融支援特別オペ」の期限を早々と半年延長したことも企業の資金繰りへの安心感を高めるという面で前向きに評価できる。経済の正常化には時間がかかるとの認識のもと、日銀が長期戦を覚悟したことを示唆している。
 
(予想)新型コロナの影響で、今後も日本経済は極めて厳しい状況が続くとみられ、企業等の資金繰り難も続くと見込まれる。従って、日銀は今後もCP・社債の買入れ増額や資金供給手段の拡充など必要に応じて資金繰り対策を強化すると予想される。

なお、マイナス金利の深堀りについては、資金繰り対策の前面に立つ金融機関の体力を損なう恐れが強いため、日銀は慎重なスタンスとみられる。ただし、もし大幅な円高が進行する場合には、止む無く深掘りに踏み切る可能性も残されていると見ている。
 

3.金融市場(5月)の振り返りと予測表

3.金融市場(5月)の振り返りと予測表

(10年国債利回り)
5月の動き 月初▲0.0%台前半でスタートし、月末は0.0%近辺に。
月初、緊急事態宣言延長を受けた国債増発懸念によりって金利はじわりと上昇し、11日には小幅ながらプラス圏に浮上。その後は、第2次補正予算編成に伴う国債増発観測やわが国を含む先進国での経済活動再開が金利の上昇圧力となる一方、新型コロナ・香港情勢を巡る米中対立や日銀の国債買入れ増額が抑制圧力となる形でせめぎ合いとなり、0.0%付近での極めて膠着した推移に。月末も0.0%付近で終了した。
日米長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールドカーブの変化/日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(5月)
(ドル円レート)
5月の動き 月初107円台前半でスタートし、月末も107円台前半に。
月初、新型コロナの責任を巡る米中の対立や独連邦憲法裁判所によるECB量的緩和の一部違憲判断を受けてリスクオフの円買いが進み、7日には106円台前半に。その後は欧米での経済活動再開を受けたリスクオンの円売りで12日には107円台を回復。しばらく米中対立やコロナ感染第2波への警戒が上値を抑えたものの、内外での経済活動再開期待から20日には108円付近に上昇した。

月の終盤は107円台後半で推移したが、月末には香港を巡る米中対立の激化懸念が強まったことでやや円が買われ、107円台前半で終了した。
ドル円レートの推移(直近1年間)/ユーロドルレートの推移(直近1年間)
(ユーロドルレート)
5月の動き 月初1.09ドル台前半でスタートし、月末は1.11ドル台前半に。
月初、独連邦憲法裁判所によるECB量的緩和の一部違憲判断を受けてユーロ圏の先行き懸念が強まり、7日には1.07ドル台後半に。その後は押し目買いも入り、しばらく1.08ドル台での推移が継続。月の後半に入ると独仏政府によるEUの復興基金案発表を受けてユーロが持ち直し、19日には1.09ドル台を回復。月終盤には欧州委員会が復興計画を打ち出したことでさらに上昇し、月末は1.11ドル台前半で終了した。
金利・為替予測表(2020年6月5日現在)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

(2020年06月05日「Weekly エコノミスト・レター」)

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