2020年06月05日

コロナショック後の金融市場動向~リーマンショック後とどう違う?

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
  1. コロナショック後の日経平均株価の下落率は一時約3割に達したが、その後持ち直しが続き、足元ではショック直前の水準をほぼ回復している。リーマンショック後よりも早期に底入れし、回復ペースの速さも顕著だ。ダウ平均もほぼ同様の展開を辿っている。
     
  2. 今回の世界経済の落ち込みはリーマンショック後を超えるとの見方が多い中で、内外の株価が急速に回復している理由の一つは景気悪化の原因が可視化されていることだ。先進国では4月入り後に感染ペースが鈍化し、経済の制限措置が段階的に緩和に向かった。目に見える形で景気悪化の原因が改善に向かったことが景気回復期待に繋がり、株価の急ピッチの持ち直しに寄与した。そして、もう一つは主要国による大規模な財政出動と金融緩和だ。これらが比較的迅速に行われたことが景気回復期待や資金流入期待を高め、株価の持ち直しに繋がった。日本株に関しては、リーマンショック後にはまだ導入されていなかった日銀によるETF買入れの影響も大きい。
     
  3. 一方、コロナショック後の本邦長期金利の動きは限定的に留まっている。日銀はマイナス金利の深堀りを回避しており、市場でも深掘り観測が殆ど台頭しなかったため、金利低下が抑制された。また、大規模な財政出動に伴う国債増発は本来金利上昇要因となるが、日銀が国債買入れを増額する方針を明確化したことで、金利上昇も抑制されている。
     
  4. ドル円レートは、一時的に乱高下する場面があったものの、概ね安定的に推移している。リーマンショック後には大幅な円高ドル安が進んでいた。リーマンショック後には、米金利が大きく低下したことが円高ドル安圧力となったが、今回は米金利の低下幅が小幅に留まっている。また、リーマンショック後に比べて内外株価の回復が早く、リスクオフの円高圧力が高まりにくかったこともドル円の底堅さに寄与している。
     
  5. 以上のとおり、リーマンショック後は、株価の低迷、金利の低下、円高の進行が顕著であったが、コロナショック後は、これまでのところ、株価は急回復し、金利とドル円の動きは限定的に留まっている。ただし、現在の市場、とりわけ株式市場が脆さを抱えている点には注意が必要だ。新型コロナは未だ不明な部分が多いうえ、特効薬やワクチンも存在しない。今後内外で感染の第2波が到来し、再び経済活動の制限措置導入を余儀なくされる可能性もある。また、主要国による財政出動と金融緩和も、実体経済の落ち込みを完全に穴埋めすることはできない。実態経済の回復が遅れ、先行して持ち直してきた株価との乖離がますます鮮明になれば、株価が修正を余儀なくされるだろう。従って、内外株価が2番底に向かうリスクはまだ排除できない。
■目次

1.トピック:コロナショック後の金融市場動向
  ・株価は急落後にV字回復
  ・コモディティも底打ち・回復傾向
  ・金利・ドル円の動きは限定的
  ・まとめと今後のポイント
2.日銀金融政策(5月):臨時会合を開催、新資金供給オペを導入
  ・(日銀)新しい資金供給オペを導入
  ・評価と今後の予想
3.金融市場(5月)の振り返りと予測表
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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