2020年05月26日

目の不自由な方など印刷物を読むのが困難な方向けの保険会社の対応

小林 直人

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1――はじめに

保険会社の商品は、商品そのものを見てみたり、触ってみたりすることができない。そうした保険会社の商品の内容・取り扱いは、約款をはじめ、様々な通知物等、書面に記載された文字や図面によりお客様に伝えられることが多い。しかし、目の不自由な方は、そうした文字等から情報を得るのに困難が伴う。

目の不自由な方の情報取得の困難さを軽減・解消するためには視覚に代わって触覚や聴覚等を活用することが多いようである1。触覚に頼るものとして点字、聴覚に頼るものとして音声があげられよう。

保険会社によっては、目の不自由な方への対応として、点字や音声を活用した対応を行っているので、対応事例を紹介する。
 
1 日本理学療法士協会「障害者自立支援機器の活用のための支援体制構築の活性化に向けた調査研究事業報告書」2018年3月9頁 (http://www.japanpt.or.jp/upload/japanpt/obj/files/chosa/h29_03.pdf, 2020年5月20日最終閲覧)、日本理学療法士協会「障害者支援機器の活用ガイドブック」2018年3月10頁 (http://www.japanpt.or.jp/upload/japanpt/obj/files/chosa/h29_05.pdf, 2020年5月20日最終閲覧)。
 

2――保険会社の対応事例

2――保険会社の対応事例

1点字等の導入事例
明治安田生命保険、アフラック生命保険、ジブラルタ生命保険、プルデンシャルジブラルタファイナンシャル生命保険、アメリカンホーム医療・損害保険が点字を導入している。

明治安田生命保険は、専任担当者が自力での手続きが困難な顧客をサポートする「アシストデスク」を設置し、点字・QRコードを記載した「アシストカード」を発行し、顧客がカードに記載されているフリーダイヤルやQRコードを用いて「アシストデスク」に連絡可能としている2
明治安田生命保険:アシストカードイメージ
また、アフラック生命保険、ジブラルタ生命保険、プルデンシャルジブラルタファイナンシャル生命保険、アメリカンホーム医療・損害保険は、保険証券や契約内容について、点字で記載した説明書等を提供している。

アフラック生命保険は、お客様からの要望により、保険契約の内容等における一定の基本項目について点字記載された「点字ご契約内容説明書」を提供している3

ジブラルタ生命保険は、保険証券の記載内容(契約関係者氏名・保険金額・特約金額・保険期間等)について、点字で確認できる4

プルデンシャルジブラルタファイナンシャル生命保険は、加入時に送付している保険証券や、年1回送付している「ご契約内容のお知らせ」に、点字での案内を同封している。また、封筒に通知名と会社名を表示した点字シールを貼付している。このほか、同社では対面での手続き時の意思疎通手段の強化として、対話支援システムを導入し、障がいをお持ちの方に配慮した取り組みを進めている5

アメリカンホーム医療・損害保険は、点字書類を希望する場合に問い合わせ窓口へ連絡することで、契約内容(証券、加入者証記載の補償内容)を点字で確認することができる6
 
2 明治安田生命保険「ご高齢のご加入者さまへのアフターフォロー充実の取組み 「MYアシスト+」制度の創設について~超高齢社会におけるお客さまの手続きの利便性を向上させるために~」(https://www.meijiyasuda.co.jp/profile/news/release/2017/pdf/20180316_01.pdf, 2020年5月1日最終閲覧)。
3 アフラック生命保険「耳や言葉、目の不自由なお客様」(https://www.aflac.co.jp/home_support_disabilities.html#visuallyImpaired, 2020年5月25日最終閲覧)。
4 ジブラルタ生命保険「耳や言葉、目のご不自由なお客さまへ」(https://www.gib-life.co.jp/st/inquiry/handicapped.html, 2020年5月1日最終閲覧)。
5 プルデンシャルジブラルタファイナンシャル生命保険「目が不自由なお客さまのために 「ご契約内容のお知らせ」に点字表示のある封筒を導入」2018年1月11日(http://www.pgf-life.co.jp/hpcms/news/NB300.do?NID=1433, 2020年5月25日最終閲覧)。
6 アメリカンホーム医療・損害保険「耳や言葉、目の不自由なお客さまへ」(http://www.americanhome.co.jp/v2/customers/disability_ops.html, 2020年5月25日最終閲覧)。
2音声約款・音声コード等の導入事例
音声を活用した対応事例としてDAISY (デイジー)や音声コードUni-Voice(ユニボイス)を導入している事例がある。
(1)DAISY (デイジー)の導入事例
1) DAISY (デイジー)とは
「DAISY」とは、Digital Accessible Information SYstemの略で、日本では「アクセシブルな情報システム」と訳されている7

ここ数年来、視覚障害者や普通の印刷物を読むことが困難な人々のために、カセットに代わるデジタル録音図書の国際標準規格として、50カ国以上の会員団体で構成するデイジーコンソーシアム(本部スイス)により開発と維持が行われている情報システムである。

デイジーコンソーシアム公認のオーサリングツールを使ってデジタル図書を作ることができ、専用の機械やパソコンにソフトウェアをインストールして再生をすることができる。

国内では、点字図書館や一部の公共図書館、ボランティアグループなどでデイジー録音図書が製作され、主な記録媒体であるCD-ROMによって貸し出されているようである。

また、デイジー録音図書を製作する様々なソフトウェアや再生用ソフトウェアが紹介されている。
 
7 日本障害者リハビリテーション協会「DAISYとは」(https://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/about/index.html, 2020年5月25日最終閲覧)。
2) デイジーの導入事例
明治安田生命保険は、既述の「アシストデスク」を設置し、点字・QRコードを記載した「アシストカード」の発行に加え、ご契約のしおり・約款に関わる目の不自由な方に対する対応として、「米ドル建・一時払養老保険」について音声約款(音声デイジー・テキストデータ)を提供している8。同社のホームページからテータをダウンロードし、再生専用機またはパソコン等により再生することで、当該商品の契約締結前交付書面、ご契約のしおり、定款、約款が音声で提供される。
 
8 明治安田生命保険「目の不自由な方など印刷物を読むのが困難な方向けの「米ドル建・一時払養老保険」の音声約款等(音声デイジー・テキストデータ)」(https://www.meijiyasuda.co.jp/find/list/dolyourou/voice/index.html, 2020年5月25日最終閲覧)。
(2)音声コードUni-Voice(ユニボイス)の導入事例
1) 音声コードUni-Voice(ユニボイス)とは
「音声コードUni-Voice」は、JAVIS(日本視覚障がい情報普及支援協会)が開発した漢字を含む文字データ約800文字を記録できる携帯電話対応2次元バーコードである9。ユニボイスをスマートフォン用音声コードリーダーアプリ「Uni-Voice」(iOS/Android版)および、視覚障害者向けアプリ「Uni-Voice Blind」(iOS版のみ)で読み取ることで、 ユニボイスに格納された文字情報を音声で読み上げると同時に、テキストにて画面表示されるというものである。目の不自由な方が音声コードの位置を確認するために穴あけ加工で半円の切り欠き加工をすることとされている。
日本視覚障がい情報普及支援協会:音声コードUni-Voice イメージ
 
9 日本視覚障がい情報普及支援協会「音声コード Uni-Voice は、「読めない」ハンディを解決する“高アクセシビリティ情報発信”を提供します!!」(https://www.javis.jp/index.php, 2020年5月25日最終閲覧)、「音声コードUni-Voice技術仕様書バリアブル印刷品質評価版」2016年5月20日6頁(https://www.javis.jp/pdf/uni-voice_VariablePrintSpec_28.5.20.pdf, 2020年5月25日最終閲覧)、「音声コードUni-Voiceのご案内」(https://www.javis.jp/pdf/JAVIS_201909.pdf, 2020年5月25日最終閲覧)。
2) ユニボイスの導入事例
オリックス生命保険、プルデンシャルジブラルタファイナンシャル生命保険、SBI損害保険、三井住友海上あいおい生命保険は、以下の通り、お客様宛の送付物や手続用の冊子にユニボイスを導入し、音声を用いて目の不自由な方へ情報提供する取り組みを行っている。

オリックス生命保険は、郵送物の一部(「ご契約失効のお知らせ兼復活のおすすめ」)にユニボイスを用いた音声案内電子サービスを導入し、スマートフォン・タブレット用のアプリケーションを使用することにより、重要な情報をテキスト表示または音声読み上げで提供している10
オリックス生命保険:音声案内サービスイメージ
プルデンシャルジブラルタファイナンシャル生命保険は、「ご契約内容のお知らせ」の封筒および送付物の一部に、ユニボイスを用いて保障内容を読み上げる音声案内電子サービスを導入しており、切り欠きの入った封筒と書面の形状から音声コード付きであることが認識できるようにしている11
プルデンシャルジブラルタファイナンシャル生命保険:音声案内電子サービスイメージ
SBI損害保険は、ユニボイスを用いた音声案内電子サービスを郵送物の一部に導入している。 がん保険や火災保険の請求資料や保険証券を送付する際の封筒から開始し、がん保険の重要事項説明書やサービスガイドなどへ順次拡大をしていくことを発表している12
SBI損害保険:音声案内電子サービスイメージ
これらの保険会社の郵送物への音声コードの導入例とは違った導入例として、三井住友海上あいおい生命保険の導入例があげられる。同社は、保険金・給付金の請求手続き案内冊子にユニボイスを用いて音声と手話動画のガイダンスを同時収集している13
三井住友海上あいおい生命保険:保険金・給付金請求手続き案内冊子音声案内イメージ
 
10 オリックス生命保険「業界初、お客さまの契約内容に合わせた音声案内電子サービスを導入~高齢者や目が不自由な方向けに重要情報のご案内方法を改善~」2018年5月23日(https://www.orixlife.co.jp/about/news/2018/pdf/n180523.pdf?oKL=14wpaa1, 2020年5月25日最終閲覧)。
11 プルデンシャルジブラルタファイナンシャル生命保険「『ご契約内容のお知らせ』に音声案内電子サービスを導入」2019年 10月 3日(http://www.pgf-life.co.jp/hpcms/news/NB300.do?NID=1525, 2020年5月25日最終閲覧)。
12 SBI損害保険「郵送物の一部に音声案内電子サービスを導入~ご高齢・目の不自由なお客さまへのサービス向上~」2019年5月31日(https://www.sbisonpo.co.jp/company/news/2019/0531.html, 2020年5月25日最終閲覧)。
13 三井住友海上あいおい生命保険「保険金・給付金ご請求手続きのご案内冊子の機能を拡張 ~ 生命保険業界初! 音声・手話動画のガイダンス機能を同時収載 ~」2019年3月28日(https://www.msa-life.co.jp/news/pdf/20190328_univoice.pdf, 2020年5月25日最終閲覧)。
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小林 直人

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