2020年05月25日

地域医療連携推進法人の広がり-地域医療構想実現のためのツールは、うまく活用できるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1――はじめに

日本では、高齢化が進み、医療の変容が迫られている。かつては、急性心筋梗塞や脳卒中などの急性期を伴う病気で、患者に入院してもらったうえで治療するという形が中心であった。近年は、これに加えて、認知症や老衰など、徐々に進む症状について、進行を止めたり遅らせたりするために、自宅や高齢者施設で生活を続けながら療養するという形が増えている。いわゆる地域医療の拡大である。

政府や自治体では、地域包括ケアシステムの構築に向けて、地域医療構想の策定、実施を進めている。それに伴い、地域医療連携推進法人制度が2017年より始まっている。この制度は、医療法人等が協力して地域医療を進めるために、新たに法人を設立して、その傘下で活動しようという仕組みである。当初、設立される法人の数が少ないことが心配されたが、最近1年間で徐々に増えてきている。

本稿では、地域医療連携推進法人の現状や課題について、みていくこととしたい。
 

2――地域医療連携推進法人制度の創設まで

2――地域医療連携推進法人制度の創設まで

地域医療連携推進法人制度は、地域医療構想を実現するためのツールともいえる。まず、その創設までの流れを簡単にみておこう。
1|地域医療を「競争から協調へ」と変化させる
日本の医療提供の仕組みは、経営主体や規模の異なる、さまざまな病院、診療所などから成り立っている。このため、医療の専門人材が複数の医療機関に分散していたり、CTやMRIなどの高額医療機器がさまざまな施設に重複して導入されていたり、といった非効率が存在する。なかには、地域の複数の医療施設間で、収入源ともいえる患者の奪い合いが起こることさえある。

そこで、その変革に向けて、2012~13年の社会保障制度改革国民会議や、その後の医療法人の事業展開等に関する検討会等で、地域医療を「競争から協調へ」と変化させ、医療施設の連携体制を構築することが議論された。2015年の法案成立を経て、2017年に地域医療連携推進法人制度が創設された。
2合併や買収などの経営統合や事業の広域化は、主たる目的とはならなかった
制度創設時の検討においては、医療法人間の合併や買収など、経営体制の統合に関する議論も行われた。そのなかで、株式会社による医療機関経営の是非などが論じられたが、最終的に、医療経営の非営利性は堅持されることとなった。株式等を通じた支配力や影響力の行使、経営統合のかわりに、地域の医療施設同士の緩やかな結びつきによる連携に主眼が置かれることとなった。

また、事業の広域化については、この制度検討時にモデルとされたアメリカのIHN1では、人口数百万人規模の広域医療圏で事業を行っている点が注目された。検討会等での議論の結果、広域化ではなく、原則として人口数十万人規模の二次医療圏を想定した連携推進区域が設けられることとなった。

このように、連携重視や広域化回避により、医療法人等が参加しやすい形に落ち着いたといえる。
 
1 IHNは、Integrated Healthcare Networkの略で、広域医療圏統合医療事業を指す。
 

3――地域医療連携推進法人制度の概要

3――地域医療連携推進法人制度の概要

つぎに、地域医療連携推進法人制度の概要をみることとしたい。
1理念とそのための意思決定を共有して、ヒト・モノ・カネを有効活用する
地域医療連携推進法人制度は、医療法人等が協力して、社会に貢献するためのものとされている。地域医療連携推進法人の貢献内容を明確にした理念をつくり、これを参加する医療法人等が共有する。

その理念を実現するためには、地域医療連携推進法人が行うさまざまな意思決定に、参加する医療法人等が従う必要がある。つまり、意思決定についても共有化が図られることとなる。

法人経営においては、一般企業と同様、ヒト・モノ・カネを有効に活用することがポイントとなる。
2株式会社は、原則として地域医療連携推進法人に参加できない
地域医療連携推進法人に参加できるのは、病院・診療所・介護老人保健施設などを開設する法人、区域内の医療従事者養成機関、地方独立行政法人、三師会(医師会、歯科医師会、薬剤師会)、関係自治体などとされている2。参加法人は、社員となる。区域内の個人開業医も、社員として参加することができるが、参加法人にはなれない。営利組織である株式会社等は、原則として参加できない3

また、意思決定にあたり、原則として社員1名につき1票の議決権が与えられ、社員総会で決議が行われる。法人内には業務を執行4を設ける必要がある。
 
2 病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院のいずれかを運営する法人が2以上参加することが、地域医療連携推進法人の認定要件の1つとなっている。
3 株式会社立病院の場合、条件を満たせば、その株式会社は参加法人となる。株式会社から病院等が経理上切り離されていることや、剰余金が医業の範囲内で再投資される仕組みとなっていることが、その条件となる。
4 医師会、患者団体その他で構成されることが一般的。
3地域医療連携推進法人の設立には都道府県知事の認定が必要
ここで、地域医療連携推進法人を設立するまでの流れを簡単にみてみよう。まず、厚生労働省の示すモデル定款を参考に定款を作成する。つぎに、一般社団法人としての設立登記を行う。地域医療連携推進法人は、一般社団法人としての法人格をもつことになる。

そして、定款や、事業の方針を記した医療連携推進方針を添付して、都道府県知事に対して申請する。それを受けて、都道府県医療審議会が開かれ、意見聴取が行われる。この審議会は、医師会代表や住民が参加して行われ、設立に向けた関門となる。最終的に、都道府県知事が認定して設立に至る。
図表1. 設立の手続き(ポイント)
4業務内容は、医師等の共同研修、病床の融通、医薬品の共同購入など多岐に渡る
地域医療連携推進法人の業務内容は、医療連携推進業務が中心となる。その内容は、参加法人が行う機能の分担と業務の連携に関して、医療連携推進方針に記しておく必要がある。この方針に沿っていれば、幅広い業務を行うことができる。ヒト、モノ、カネごとにまとめると、主に次の通りとなる。
図表2. 地域医療連携推進法人の業務内容 (主な例)
活動内容の実績は、主に、医師や看護師等の共同研修や、医薬品・医療機器の共同購入となっている。病床の融通や、地域フォーミュラリーの作成を行う地域医療連携推進法人も出ている。基金については、2019年1月までに引受者の募集をした実績はなく、あまり活用されていない模様である6
 
5 都道府県に設置されている医療審議会は、病床整備に関する病床の開設許可に関して、病床過剰地域で新たな整備は原則的に許していない。ただし、地域医療連携推進法人の参加法人同士で病床融通を行う場合などは、特例で許可している。
6 「地域医療連携推進法人制度に関するアンケート調査結果」(厚生労働省, 地域医療連携推進法人連絡会議資料, 2019年1月25日)より。

 

4――地域医療連携推進法人の設立事例

4――地域医療連携推進法人の設立事例

ここで、2019年までに設立された15の地域医療連携推進法人をみておこう。厚生労働省公表の資料より、個々の法人制度の概要をまとめると、次の表に示す通りとなる。
図表3. 地域医療連携推進法人の設立事例 (設立順) [2019 年までの設立分]
この表をみると、2017年に4法人、2018年に3法人、2019年に8法人が設立されている7。設立地域は、各地に及んでおり、地域医療連携のための手法として、全国的に広がっているものとみられる。

また、参加法人をみると、地方自治体が参画しているもの(備北メディカルネットワーク、アンマ、はりま姫路総合医療センター整備推進機構など)、大学病院が加わっているもの(尾三会、日光ヘルスケアネット、北河内メディカルネットワーク)など、地域医療連携推進法人ごとの違いがみられる。

参加施設に、老健や特養といった公的介護保険施設を含むものは、9法人となっている。介護領域に連携の幅を広げている法人は限られているといえる。

理念・運営方針をみると、「地域医療構想」、「地域完結型」、「地域包括ケアシステム」「地域連携」といった表記が随所にみられ、地域医療に貢献することを掲げている法人が多い。
 
7 2020年も、清水令和会(高知県土佐清水市)、県北西部地域医療ネット(岐阜県郡上市・高山市・白川村)、湖南メディカル・コンソーシアム(滋賀県大津市・草津市・栗東市・守山市・野洲市)といった設立の動きが続いている。
 

5――地域医療連携推進法人の課題

5――地域医療連携推進法人の課題

前章までにみたとおり、地域医療連携推進法人制度の設立が続いている。しかし、そこには、課題もいくつかある。主なものについて、簡単にみていこう。

(1) ガバナンスが緩い制度であるため、経営トップには強いリーダーシップが求められる
地域医療連携推進法人は、株式等を通じた支配力や影響力の行使や経営統合を主眼とするものではなく、地域の医療施設同士の緩やかな結びつきを目指すものとされている。参加法人の規模によらず、社員1名につき1票の議決権を原則としている。このため、複数の組織をまとめるために、経営トップには求心力や実行力が必要となる。運営上、リーダーとして高い資質を持った人材が必須となる。

(2) 活動資金が不足して、難易度の高い事業は進まない恐れがある
地域医療連携推進法人には、医療連携推進業務のみで事業比率50%を超えることが求められる。また、社会福祉法人からの資金移動はできない。このように、事業内容や資金移動に一定の制約がある。なお、基金引受者の募集は可能だが、あまり活用されていない。今後、採算が悪化した病院に対する資金貸付や、新規病院の開設など、高難度の事業を行うためには活動資金の確保が必要と考えられる。

(3) 医療と介護の連携を進めることが求められる
現在のところ、地域医療連携推進法人の活動は、主に、医療領域のヒトやモノに関して行われている。老健や特養などを巻き込んだ介護との連携は、すべての地域医療連携推進法人で行われているわけではない。今後、介護領域に活動の幅を広げることで、高齢者が病院等を退院した後に、自宅や介護施設で療養を行う際の、医療と介護の連携を強化していくことが期待される8
 
8 社会福祉連携推進法人制度の創設を含む、「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案」が、2020年の通常国会(第201回国会)に提出されている。この法案が成立すれば、地域医療連携推進法人と、社会福祉連携推進法人の協力についても、検討が進められるものとみられる。
 

6――おわりに (私見)

6――おわりに (私見)

地域医療連携推進法人は、制度開始からまだ3年ほどしか経過しておらず、未知数の部分が多い。ただ、地域医療関係者の間では、地域における医療施設等の連携を進めるうえで有効な手法であるとの声が多く、期待は徐々に高まりつつある。今後も、各地での展開や、地域医療に与える影響を見定めていく必要があるだろう。引き続き、地域医療連携推進法人の動向を注視していくこととしたい。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

(2020年05月25日「基礎研レター」)

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