2020年05月25日

デジタルプラットフォーム透明化法案の解説-EU規制と比較しながら

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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2|特定デジタルプラットフォーム提供者の講ずべき措置
法には、特定デジタルプラットフォーム提供者が、商品等提供利用者との相互理解のための必要な措置を講ずべき旨が定められている(法第7条第1項)。経済産業大臣はそのために必要となる指針を策定する(法第7条第2項)。指針には以下が定められる(図表6)。
特定デジタルプラットフォーム提供者の講ずべき措置
指針には特定デジタルプラットフォーム提供者は、商品等提供利用者との間で認識のすれ違いが起こらないようにするための必要な措置が定められることとなるが、重要なのは、三の紛争解決の措置であろう。特定デジタルプラットフォーム提供者が必要な措置を講じない場合は、経済産業大臣は是正勧告することができる。
3EU規則との比較
まず、特定デジタルプラットフォーム提供者による開示義務は、EU規則とそう変わらないものと思われる。ただしEU規則にあって、日本の法に定められていない項目がある。その一つは最恵国待遇である。最恵国待遇とは、商品等提供利用者は、特定デジタルプラットフォームでの販売価格を、ほかの販路での販売価格よりも、安い価格にしなければならないとするものである(規則第10条第1項)。

また、差別化された取り扱いの開示義務も法にはない。EU規則では、デジタルプラットフォーム提供者自身あるいは関連会社の提供する商品等の取り扱いについて、一般的な取り扱いと異なることとする場合は、その旨と根拠等を開示しなければならない(規則第7条(1))とされている。現時点でこれらについて情報は見当たらないが、政令等で開示項目として指定される可能性はある。

他方、特定デジタルプラットフォーム提供者による、相互理解のために講ずべき措置規定は、日本独特の制度と思われる。EU規則では手厚い紛争解決制度(苦情解決、調停、代表者による訴訟制度)が用意されている一方で、そもそも紛争にならないように相互理解を促進する旨の具体的規定は見当たらない。

相互理解に関する措置については、行政がバックアップするような規定になっている。次項で述べる行政の関与規定も含め、行政が手厚く関与する規制の在り方は日本特有のものと考えられる。
 

4――特定デジタルプラットフォーム提供者への行政の関与

4――特定デジタルプラットフォーム提供者への行政の関与

1特定デジタルプラットフォーム提供者からの報告及び利用者からの申し出
特定デジタルプラットフォーム提供者は毎年度、事業の概要、苦情処理・紛争解決、開示の状況、商品等提供利用者との相互理解のための措置等について経済産業大臣に報告を行わなければならない(法第9条第1項)。経済産業大臣は、透明性や公正性について評価を行う(同条第2項)。

また、利用者(商品等提供利用者および購入者)は、取引条件等の開示が行われていない、あるいは商品等提供利用者との相互理解のために講ずべき措置が行われていないと認めるときは、適正な措置をとるように経済産業大臣に求めることができる(法第10条)。
2|経済産業大臣による報告徴求および検査
経済産業大臣は以下の場合、特定デジタルプラットフォーム提供者から報告を求め、事業場に立ち入り、帳簿その他の物件を検査させることができる(法第12条第1項、第2項)。これらの権限を行使できるのは、(1)特定デジタルプラットフォーム提供者の指定(法第4条第1項)、および指定取消し(規模が政令で定める基準未満となるか、事業停止により取消しとなる。法第11条)に必要な場合、(2)特定デジタルプラットフォーム提供者が開示すべき事項を開示していないため、勧告等を行う場合(法第6条第1項、第4項)、(3)相互理解のため必要な措置を講ずべき旨の勧告を行う場合(法第8条第1項)、および(4)特定デジタルプラットフォーム提供者が、第10条による申し出を行った利用者に対して不利益な取り扱いを行った場合に、その不利益取り扱いをやめるべきことを勧告する場合(法第10条第3項)である。
3公正取引委員会への措置請求
経済産業大臣は、特定デジタルプラットフォーム提供者の透明性および公正性を阻害する行為があり、それが独占禁止法に違反すると認めるときは、公正取引委員会に適切な措置を求めることができる。さらに、その行為が多数の商品等提供利用者に対して行われているか、商品等提供利用者にとっての不利益の程度が大きい場合等には、措置を求めなければならない(法第12条)。
 

5――おわりに

5――おわりに

特定デジタルプラットフォーム提供者は、日系企業よりも海外企業に大きなものが多く、海外に所在する企業に対して、法をどう執行するのかが特に問題となる。

このことに関係する規定がいくつかある。まず、特定デジタルプラットフォーム提供者と商品等提供利用者との相互理解のための措置(法第8条)において、日本における緊密な連絡を行う業務管理者を設置すること(法第8条第3項第4号)が特定デジタルプラットフォーム提供者には求められる。

また、経済産業大臣が特定デジタルプラットフォーム提供者に対して行う通知や勧告等の送達(通知)については、民事訴訟法第108条の外国においてすべき送達の規定が準用され、企業所在地国の大使に嘱託して行うこととなる(法第20条)。また、送達ができないときは、経済産業省の掲示板に掲示することで、送達されたとみなす公示送達の手続きが定められている(法第21条)。

特定デジタルプラットフォーム提供者の適正な取引慣行のルール化は急務である。他方、日系企業のみに規制が強いというのでは国際競争力に悪影響を及ぼす。

法の条文を見る限りでは、日系企業にのみ著しく不利になるようなものは見当たらない。あとは監督権限の行使がどう行われるか、という点は注意深く見ていく必要があると思われる。監督権の行使は国内企業に対して執行しやすく、海外企業に対して執行しにくい。

国内外のデジタルプラットフォーム間の平等な競争条件は確保されなければならない。かといって、このことは海外でも行われているからという理由で、商品等提供利用者等に対する不透明な取引を国内で容認してもよいということではない。しかしながら、現実問題として、不透明な取引が海外企業である巨大デジタルプラットフォームも含めて行われている場合において、そのような取引を行う海外企業に日本からだけの要請で是正を求めていくのは無理があるかもしれない。その意味では国際的な協調が強く求められるものと考える。
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保険研究部   常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

(2020年05月25日「基礎研レター」)

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