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新型コロナウイルスの感染拡大を受けての保険監督当局等の対応(3)-中国とインド等-
中村 亮一
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1―はじめに
これまでのこのテーマに関する2回のレポートでは、欧州のEIOPA(保険年金監督当局)、米国のNAIC及び各州保険監督当局、オーストラリアのAPRA及びカナダのOSFIのこれまでの対応について、特に配当支払い及び自社株買いに関する停止要請を巡る動き、さらにはこれに対する保険会社の対応等について報告してきた。
今回のレポートでは、中国、インド、香港及びシンガポールの保険監督当局等の対応について、それぞれの国毎の焦点とする事項に絞って報告する。
2―中国CBIRCの対応
中央政府の指導に従い、銀行及び保険セクターを促進して、新しいコロナウイルスの蔓延を防止及び制御するための金融サービスを改善し、実体経済により良いサービスを提供するために、流行の予防と管理のための金融サービスのさらなる改善に関する通知を発行している。
具体的な内容を抜粋すると、例えば以下のような項目について、保険会社に関連する規定が挙げられている。
I.会社が仕事と生産を再開できるように金融サービスを強化する。
・保険機関は、自身の状況に基づいて、疫病の予防と管理の最前線にいるスタッフに、事故、健康、年金、医療及びその他の優遇保険サービスを提供することを奨励される。
・保険会社は、流行にひどく打撃を受けた企業に対して、手数料を削減し、保険料の支払い期限を適切に延長することが奨励される。銀行及び保険機関は、サービスの範囲を拡大し、注目の商品、専門的なコンサルティング、財務管理、情報技術サポートなどの付加価値サービスを提供することが奨励される。
・中小企業のための商業用財産保険、労働安全保障保険、輸出信用保険の適用範囲を拡大する努力がなされるべきである。
・保険機関は、農業保険商品の多様性と農業保険の適用範囲を着実に拡大し、農家の生産と経営の期待を安定させるために、支援されている。
II.科学技術の応用と金融サービスの革新の強化
・全ての銀行及び保険機関はオンラインビジネスを積極的に推進し、インターネットバンキング、モバイルバンキング、スマートフォンアプリ、ミニプログラムなどの電子チャネルを通じてサービスの管理とセキュリティを強化する必要がある。銀行及び保険機関は、「非接触サービス」チャネルを最適化及び充実させ、安全で便利な「
ホーム」金融サービスを提供するものとする。
III.社会的責任を果たす
・銀行や保険機関は、環境、社会、コーポレートガバナンスの責任を負い、環境にやさしい健全な投資と資金調達の概念を提唱するイニシアチブを取るべきである。
IV.伝染病の予防と制御の要件を実装するためのメカニズムの改善
・全ての銀行及び保険機関は、伝染病の予防と管理において地方自治体と完全に協力する必要があり、それらの義務が果たされない場合、責任を負う。
V.財務管理の質と効率の向上
・スタッフ、特に経営陣は、流行の予防と管理の動的な状況を認識し、積極的に社会的責任を負う必要がある。
・流行期間中は、全てのレベルの流行防止統制本部からの命令に従い、非現実的な要件や、実際の状況に適合しない不適切なイノベーションは回避する必要がある。
・特別な作業体制のある流行期には、作業に優先順位を付け、継続的な学習を維持する必要がある。これにより、緊急事態や複雑な問題を解決するためのスキルと能力をさらに強化できる。
この通知は、保険会社が電子的再訪問を行うための条件を明記しており、保険会社は電子的再訪問の実施を標準化し、顧客の身元の信頼性管理を強化し、消費者の正当な権利と利益を保護する必要がある。この通知のリリースは、生命保険会社が新しいサービスとテクノロジーを使用して再訪問サービスを最適化するためのプロモーションにとって非常に重要であるとしている。特に、新型コロナウイルス感染の予防と制御の現在の重要な期間において、オンラインでの再訪問は、会議や対面の接触を減らし、人々の安全と健康を確保するのに役立つ、としている。
この通知は、COVID-19の蔓延の防止と管理ならびに経済社会開発の促進に関する中央政府の決定と取決めを徹底的に実施するために、実体経済に役立つ金融サービスをさらに強化し、調整された再開を促進する。保険に関しては、以下のように規定されている。
保険と保証サービスによるサポートを増やすこと。制御可能なリスクを前提として、保険機関と保険会社は、産業チェーンの上流部門と下流部門のMSME(中小マイクロ企業)に信用補完を提供して、資金調達を支援することが奨励される。生命保険会社は、適切に約束された融資の期間を延長し、融資額を増やすことができる。
3―インドのIRDAIの対応
健康保険商品で、入院費用の治療が補償される場合、保険契約者に引き起こされる可能性のある困難を緩和するために、コロナウイルスの下で報告された全ての請求は、以下の基準に従って処理されるべきとしている。
i)入院が商品でカバーされている場合、保険会社はコロナウイルス(COVID-19)に関連するケースが迅速に処理されることを保証する。
ii)検疫期間中の治療を含む治療経過中の許容可能な医療費の費用は、適用される契約の条件及び現行の規制枠組みに従って決済される。
iii)COVID 19で報告された全ての請求は、請求を否認する前に、請求審査委員会によって徹底的に審査される。
さらに、保険会社は、ニーズベースの健康保険を提供するために、ベクター媒介性疾患5を含む様々な特定の疾患のための商品を導入しているが、様々なセクションの健康保険要件を満たすために、コロナウイルスの治療費をカバーする商品を設計することを奨励される、と述べている。
4 https://www.irdai.gov.in/ADMINCMS/cms/whatsNew_Layout.aspx?page=PageNo4057&flag=1
5 蚊、ダニ、ハエ等のベクター(媒介生物)を通じて発生する疾患
この通達の中で、以下のように述べている。
国内でのCOVID-19の普及と2020年3月25日から2020年4月14日までの21日間の全国的な封鎖、及びいくつかの州政府による封鎖のさらなる延長により、経済の様々な部門にわたって大きな影響が生じる可能性が高い。インドの保険会社は、保険契約者の保護を強化するために、事業継続のための戦略と行動計画を準備する必要がある。経済が経験するストレスのために、保険会社の資本及び流動性ポジションの十分性が悪影響を受ける可能性があり、全ての保険会社が同じことを防ぐ必要がある。
こうした認識に照らして、保険会社に対して、以下の実行を勧告している。
(i)保険会社の委員会は、現会計年度2020-21で必要とされる資本の利用可用性とソルベンシーマージンを批判的に調査し、適切な資本とリソースを利用できるようにするための戦略を考案する。
(ii)上記(i)の戦略に準拠するように、2019-20会計年度の配当金支払いを調整する。
(iii)2020-21会計年度の管理費を上記(i)の戦略に沿うように合理化する。
全ての保険会社は、その後の会議でそれぞれの取締役会の前にこのコミュニケーションを行うことを奨励される。
健康保険の3月4日のガイドラインに続いて、この通達では、以下の基準を述べている。
COVID 19による一般的な状況に照らして、医療インフラへの圧力を緩和する必要性も考慮に入れて、全ての保険会社は健康保険請求を迅速に決定するものとする。全ての健康保険請求に迅速に対応するために、保険会社は次のタイムラインに従うように指示される。
a.キャッシュレス治療の承認に関する決定は、承認リクエストの受信時から2時間以内にネットワークプロバイダー(病院)に通知され、最後に必要な要件は病院から保険会社又はTPAのいずれか早い方に通知される。
b.最終的な退院の決定は、最終請求書の受領時から2時間以内にネットワークプロバイダーに通知され、最後に必要な要件は病院から保険会社又はTPAのいずれか早い方に通知される。
また、保険会社は、それぞれの第三者管理者に適切なガイドラインを発行することが奨励される。
IRDAIは、被保険者の施設が30日を超えて占有されていない標準火災及び特別危険の契約における一般条件の文脈においての契約の継続性に関するインドの損害保険業界の立場を歓迎する、と述べるとともに、保険契約者と保険会社に対して、以下の助言を述べている。
2020年3月25日から5月3日までの国家の封鎖期間中に空き家に一時的な緩和を与えるこの行為は、現在の前例のない状況を考えると、保険契約者の利益になる。損害保険会社は、関連する条項が2020年5月3日以降に全ての保険契約にどのように適用されるか及び保険契約者が途切れのない補償を利用するためにどのような措置が必要かを保険契約者に通知するよう当局から通知を受けている。保険会社は、様々な地域の現地の状況に応じて、合理的かつ適切なアプローチを取る必要がある。
保険会社はまた、当局から保険契約者との関わりを継続し、ロックダウン中又はその直後に惹きつけられる可能性のある一般的な保険条件に関する必要なガイダンスを提供するように助言されている。彼らは、保険契約者が全ての保険契約の中断のない補償を確実にするために保険契約者が取るべき行動に間に合うようにアドバイスする明確でシンプルな言語で、電子メール、SMS、又はその他のデジタル手段を通じて保険契約者と直接通信する必要がある。
保険契約者は、保険契約の条件を注意深く読み、彼ら又は彼らの被保険物件が長期間の移動の制限がある可能性のある場所にある場合の保険要件を認識するように要求される。
IRDAIは、保険業界の活動の混乱を防ぐために、多くの要件を緩和してきている。
例えば、保険会社は、4月30日までに最終的な再保険プログラムを、大災害モデリングレポートの概要とともに提出する必要があったが、IRDAIは会計年度2020/21の期限を5月31日に延長した。
保険会社は、顧客とのリモートの連絡を維持し、保険料の支払い/更新方法と請求の決済方法を通知する必要がある。
生命保険会社は、必要に応じて、保険契約の猶予期間を30日延長する必要がある。一方、保険会社は、保険契約の停止を回避するために、「十分に前もって」顧客を管理する必要がある。
なお、IRDAIは、5月9日には、ロックダウンが2020年5月17日までさらに延長され、一部の保険契約者が契約を期限内に更新することが困難になっていることを考慮して、保険料払込の猶予期間を5月31日まで延長することを許可した9。
4―香港の保険監督当局の対応
IAは、仲介者とクライアントの間の面談による感染のリスクを減らすため、2019–20評価年度の税額控除の対象となる適格繰延年金契約及び任意健康保険スキームの商品を対象に、一時的な促進策を導入した。
具体的には、保険会社と仲介業者は、顧客との重要な情報の事前の開示を適切に行い、郵送による保険証券の配達及び必要に応じて保険契約者が専門家の助言を求めるために30暦日以上続く延長されたクーリングオフ期間を適用した場合、その販売プロセスで金融ニーズ分析を実施する必要を省略することができる。 保険会社と仲介人は、顧客の公正な取扱いの原則を厳格に遵守し続ける必要がある。
なお、この措置は、2020年3月31日に該当する現在の税査定年度末まで続く(その後6月末まで延長された)。
COVID-19パンデミックの最新の進展に鑑み、IAは、一時的な円滑化措置の第2フェーズを発表し、販売プロセス中の感染のリスクを最小限に抑えるための対面方式として、フェイスツーフェイスでない方式で販売できる生命保険商品の種類を拡大した。
具体的には、第2フェーズには、定期保険契約を含む追加の保障タイプの商品及び特定の払い戻し可能又は更新可能保険による保障を提供する契約(病院の現金、医療、重大な病気、人身事故、障害、又は介護保険など)が含まれる。
個々の保険会社によって展開された対象となる保険契約者に対する救済措置には、最長180日の保険料支払いの猶予期間、医療範囲の拡大と病院の制限の緩和、簡素化された迅速な請求手続き、病院の現金給付、死亡給付及びその他の譲許的給付が含まれている。
保険会社からの積極的な動きにもかかわらず、特にCOVID-19に基づく旅行保険の適用範囲に関して、市場にはある程度の混乱があることから、IAは、COVID-19の急速な発展の観点から、最も信頼性の高い情報をワンストッププラットフォームに提供する必要性を認識しCOVID-19に関する保険ダッシュボードを作成した。COVID-19に関する様々な事業分野の保険適用範囲を明確にするだけでなく、メンバーからの軽減策も要約している。
5―シンガポールの保険監督当局の対応
シンガポールの保険会社は、統合シールドプラン(IP)、IPライダー、及び他の殆どの個人及びグループの健康保険契約がCOVID-19に関連する入院費用をカバーすることを明確にしている。一部の保険会社は、COVID-19と診断された生命保険契約者に、診断時の無料の一時金の支払いや入院期間中の毎日の現金支払いなどの追加の利点を提供している。
MASは「慎重なリスク評価を堅持しながら、ウイルスに感染した顧客と建設的に協力する金融機関によるこれらの取り組みをサポートしている」と語った。
6―まとめ
これまで3回のレポートで報告してきたように、各国・地域での新型コロナウイルスへの対応は、それぞれの特色はあるものの、概ね共通した考え方に基づいた対応がなされてきていることがわかる。
今後の新型コロナウイルスの感染拡大の動向等によっては、さらなる対応も行われてくることも考えられることから、引き続き各国の保険監督当局及び保険会社の対応については注視していきたい。
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(2020年05月15日「保険・年金フォーカス」)
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