2020年05月12日

日本海溝・千島海溝における地震・津波想定の公表~災害・防災、ときどき保険(11)

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

1―はじめに~地域別の地震・津波への対応

内閣府の中央防災会議では、様々な自然災害を想定して作業部会などが設けられている。

検討されている自然災害としては、風水害、火山(噴火)、地震・津波と、全体に共通する対策全般などがあって、さらに細分化されたテーマに沿って、ワーキンググループ・調査部会・検討会などが設置・開催されている。

このうち地震・津波に関しては、現在、南海トラフ沿いの巨大地震に関する調査会などが、予測可能性、防災体制などに分けていくつかある。

2020年4月21日に公表されたのはこれまでに検討会で検討されてきた日本海溝・千島海溝沿いにおける最大クラスの地震・津波の想定など1の報告と、「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策検討ワーキンググループ」が設置されることである。その背景と内容を紹介する。
 
1 日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデルの検討について(概要報告)http://www.bousai.go.jp/jishin/nihonkaiko_chishima/model/pdf/honbun.pdf
 

2―日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震についての報告

2―日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震についての報告

1|想定される最大規模の地震・津波の想定方法~予知ではなく津波の痕跡から
まさに東北地方太平洋沖地震がそうであるように、日本海溝で発生する地震の震源となりうる地域は広大で岩手県沖から茨城県沖まで及んでおり、大すべり域は宮城県沖にある。現在の科学的知見ではマグニチュード9を超える地震が発生した際にどの程度の断層のすべりになるのか見極めることは困難である。しかし一方で過去の津波堆積物をみると、宮城県等の海岸域での調査から、東北地方太平洋沖地震と同じ規模の巨大津波は550~600年間隔で5回発生したことがわかるという。他の地域ではまだこうした資料が不足しているが、今後の調査の進展により最大クラスの地震・津波を推定することで起こりうる事態を想定していくことになっている。
2津波発生の蓋然性~状況は切迫
岩手県から北海道にかけての太平洋岸では12~13世紀あるいは17世紀に発生した津波による堆積物があり、その時間間隔を考えると最大クラスの津波の発生が切迫している状況にあると考えられている。
(ご参考)今回の報告で対象とした地域
3地震・津波の規模
日本海溝(三陸・日高沖)モデル・千島海溝(十勝・根室沖)モデルと呼び、どちらでも東北地方太平洋沖地震と似たマグニチュード9以上の地震の規模が予想されている。

震度については、いろいろなケースがあるものの、一例を挙げると
・北海道厚岸町付近で震度7
・北海道えりも町から東側の沿岸部では震度6強
・青森県太平洋沿岸や岩手県南部の一部で震度6強
などと推定されている。

地震の規模でもそうだが津波の想定にもいろいろな困難があり、採用した前提条件にもよることには注意すべきではあるが、得られた結果の例は以下のようなものである。

・北海道 根室市からえりも町 30m弱、苫小牧市・函館市など 10m程度
・青森県 八戸市 25m 
・岩手県 宮古市 30m
・宮城県以南 場所により10mを超えるが、東日本大震災よりも低い程度
 

3―新たなワーキンググループの設置

3―新たなワーキンググループの設置

これまでも中央防災会議では、東北地方太平洋沖地震の教訓を踏まえ、南海トラフ地震、首都直下地震について、最大クラスの地震・津波を想定した防災対策の検討が進められてきた。

日本海溝・千島海溝も過去に大きな地震が発生してきた地域のひとつとして、2006年に策定された防災基本計画に基づいて防災計画が推進されてきた。ところが、2011年の東北地方太平洋沖地震の発生により、甚大な被害が発生した。その教訓も踏まえて専門調査会が設定され、さらには巨大地震モデル検討会が設置されるなかで検討が進められてきた。

今般、そこにおける最大クラスの地震・津波の検討を踏まえ、当ワーキンググループがあらたに設置され、今後被害想定と防災対策を検討することとなったものであり、それに先立ち、今後の検討に資するために地震・津波モデル検討の基本的な考え方や震度分布・津波高・浸水域などの現時点における主要結果が公表されたということである。
 

4―おわりに~今後の検討スケジュール

4―おわりに~今後の検討スケジュール

当ワーキンググループにおいて、各地域の特性を踏まえ、最大クラスの地震による被害を想定した具体的な防災対策が検討され、2020年度中を目途にとりまとめられる予定である。具体的には
・想定される最大クラスの地震・津波による人的物的経済的被害の想定
・これら想定される被害を軽減するための防災対策
・特に、寒冷地、積雪地特有の被害の想定、防災訓練
が例示されている。

並行して、上に紹介した地震・津波想定を提示した検討会においても、さらに点検や詳細な分析・整理が行われ、あらためて報告書として取りまとめられることになっている。
Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

(2020年05月12日「基礎研レター」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【日本海溝・千島海溝における地震・津波想定の公表~災害・防災、ときどき保険(11)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

日本海溝・千島海溝における地震・津波想定の公表~災害・防災、ときどき保険(11)のレポート Topへ