2020年05月01日

ECB政策理事会-担保緩和の伏線からの追加緩和決定

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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(質疑応答)
  • 資産購入について構成やペースの変更は議論したか。特にAPPにジャンク債を含める議論をしたか
    • まず議論の2日間の議論内容をフィードバックしたい
    • 当初影響があった産業は交通、観光等の一部だったが、現在は大部分が閉鎖された
    • 2020年4-6月期の厳しいシナリオでは前期比▲15%となる見通し
    • PMIは4月に13.5、3月29.7、2月51.6と景況感は急速に悪化
    • ドイツでは71800社が短期の特別労働プログラム(給与補填制度)に参加
    • フランスでは425,000社(1,000万人以上)が失業特別制度(給与補填制度)に応募
    • イタリアでは460万人の従業員をカバーしている
    • 3月以降の措置では、「十分な流動性供給」「企業・家計への円滑な信用供与」「緩和的な資金調達環境の維持」を目的としている
    • 年末までの資産購入には1兆ユーロ以上を準備
    • 新しい条件付貸出ファシリティは3兆円の流動性をマイナス金利で供給する
    • 担保条件の大幅緩和により、厳しい状況下でも銀行が資金調達手段を活用できる
    • 全体で非常に強力なパッケージとなっている
    • 持続的に、パッケージとして、あるいは単体で政策機能・規模を測定している
    • この観点でTLTROIIIの緩和とPELTROの導入を決定した
    • 理事会は、緩和的な金融条件をつくり前例のない衝撃を吸収する決意を強くしている
    • PEPPと他の政策に組み込まれている柔軟性を最大限使うつもりである
    • 4月7日の格付けを実質上凍結することで、CQS5(BB格相当)の制限はあるものの、担保拡大を決定した。
    • APP(購入策)については議論していない
    • 念を押すと、我々は十分に柔軟ですべての選択肢を検討し、金融政策とその波及効果が効果的であるように意思決定し、監視を行うつもりである
       
  • OMTについて、現在の危機でOMTは適切な手段なのか。ESMプログラムは解決手段となり得るのか
    • OMTは特殊な場合、特殊な環境を対象としている
    • 財政政策、構造政策の過ちによってユーロ圏が危機にさらされた場合である
    • 現在は、そのような状況に直面しているわけではない
    • 1国ではなくすべての国が対称的に影響を受ける状況にある
    • このような状況下で最も良い手段はPEPPとなる
    • OMTも政策手段であり、OMTを排除しようとはしていないが、今回の危機ではPEPPが効果的であるように設計されている。
    • OMTを実施するか否かは理事会が決定する
       
  • PEPPの規模拡大や構成についての議論はあったか
    • PEPPはパンデミック対応を目的とした例外的な政策であり、一時的かつ柔軟性がある
    • PEPPの実施期間は理事会で決定できる
    • 危機の長さにもよるが、2020年末を延長する可能性もある
    • 特別に設計されたPEPPに加え、APP等、ECBは1兆ユーロの火力が利用できる
    • PEPPの柔軟性としては、(PEPP発表時に述べた)「自主規制が、ECBの責務の達成することを妨げている可能性があり、理事会は直面しているリスクに応じ必要な範囲でそれらの見直しを検討する」との表現に示されている
    • この資産構成・地域構成などの柔軟性は最大限活用すべきと信じる
    • PEPPの規模、期間については再検討する用意がある
       
  • 新しいPELTROが主要リファイナンス・オペ金利から25bp低い金利で実施されるにもかかわらず、政策金利の引き下げをしなかった理由は何か
    • 3月以降の流動性供給・TLTRO緩和・適格担保拡大などの政策を実施してきた
    • すでに金利は十分低く、現在はこれらの金融政策パッケージが実行的である。
    • 貸出動向調査でも金融政策の効果が見て取れる
    • 必要な柔軟性を利用してきたし、今後も続ける
       
  • 多くのエコノミストがECBはイールドカーブコントロールを採用すべきだと主張しているが、どう思うか。国債スプレッドをコントロールするのはECBの役割だと思うか。
    • 現在の金融政策で、すべての満期を扱うため、カーブ全体を操作が可能
    • 対象が短期でも長期でも、金融政策を目標に近づけ、適切に波及させることが目的
    • 究極的には物価安定という責務がある
    • 現在は特殊な環境下であるため、これらの金融政策が目標達成の道具となっている
    • 現在は金融政策の補給を全地域・全部門に波及させるために、あらゆる柔軟性を活用する
       
  • 市場はECCL(強化条件付クレジットライン)がOMTの発動条件になると期待しているが、OMTが発動するための詳細な条件は何か
    • OMTは2012年の、違った時代の違った問題に対応するために設計された
    • OMTの自動的な発動条件はなく、理事会が正当性と目的を評価する必要がある
    • OMTは現環境では最適ではなく、ショックの対称性を考えるとPEPPが目的に適う
    • 我々はPEPPの柔軟性を用いる
       
  • ジャンク債の担保としての利用ではなく購入を考えているか
    • APP適格フレームワークについては議論していない
    • PEPPではギリシャ国債購入のための適格要件免除をしているので、存在はしている
    • ユーロ圏内の分断や金融環境の引き締めは受け入れない
    • 権限の範囲内でこれらの原則を念頭に置いて必要な調整を行う。
       
  • PELTROの参加者として非金融機関も受け入れるのか
    • 3月12日に決定されたLTROは、当初、次回TLTROまでのつなぎと考えていた
    • PELTROは短期金融市場の効果的な補強として機能させるために導入した
    • 理事会では、参加者(カウンターパーティー)の拡大を議論していない
    • しかし、経済構造が脅かされているなかでは、あらゆる可能性には目を向ける
       
  • PEPPの拡大に際しては、新規国債発行の規模に合わせるのか。ユーロ圏では1兆ユーロの国債発行が9-12月期にあるとアナリストは考えているようだ。PEPPの規模の要素として見ているものはあるか。
    • PEPPは非常に大きい購入力を持っている。他と合わせて1兆ユーロ以上ある
    • 金利が引き締められるリスクがある場合は、最大限に柔軟性を生かして介入する
    • 資産構成、地域、時間の柔軟性を利用する
       
  • 本日の決定は銀行部門に焦点をあてたものだが、理由があるのか。ユーロ圏の銀行部門に特別なストレスがあるのか。
    • TLTROのマイナス1%での融資は実体経済への影響を意図している。
    • 信用供与が大企業から単独事業者まで全体にいきわたることを意図しており、銀行向けではない
       
  • COVIDの銀行危機により、不良債権比率の増加が予想される。金融安定性へのリスクについてどのように心配しているか
    • 2008年の金融危機以降、不良債権削減の効果もあり、銀行の頑健性は増している。
    • 金融安定性の懸念材料については、SSMがマクロプルーデンスな観点を検討している
       
  • ECB理事会の人は今回の危機が恒久的なものになることを懸念しているか。ユーロ圏の人はロックダウンからの出口戦略を模索しているが、ECBも考えているか
    • 恒久的にならないことを願う
    • 4-6月期は厳しいだろうが、我々は回復にも目を向けている
    • 6月の予測と明日発表されるシナリオでは2021年には回復に向かっている。
    • 欧州理事会・ユーログループのもと、各欧州機関が危機に向け連帯し、できる限りのことを行うことを期待する。
    • 出口については、私たちもほぼロックダウン状態で運営している
    • ユーロシステムの全職員と毎日犠牲を払って職務にあたっているECB職員に感謝の意を表したい
    • 我々は、我々の業務を危険にさらすことなく終えるかを検討している
       
  • 4月のインフレ率低下を踏まえて、5月のインフレがマイナスになる予想はあるか。長期的にはデフレの可能性があるか
    • まず、明日発表のシナリオを見て欲しい
    • 予測を述べることは控えたい。確かなことはインフレ率が急激に減速していることだ
    • 予測が難しいのはロックダウンにより価格形成メカニズムが機能していないため
    • 予測をするための正確性を妨げられる例外的な状況にある
ECBの金融政策ツール
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年05月01日「経済・金融フラッシュ」)

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