2020年04月20日

若者の現在と10年後の未来~働き方編-「働き方改革」の理想と現実のギャップ、アフターコロナに期待

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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2若者の状況~30代前半の女性は「女性活躍」、男性は「長時間労働の是正」で理想と現実のギャップ
次に、若者について見ると、「働き方改革」で望まれる項目も、望まれない項目も、全体と比べて、あてはまる割合がやや高い(図表4)。よって、若者では、「働き方改革」として進むべき方向と実態のギャップをやや強く感じている可能性がある。なお、若者では、特に「結局、長時間働ける人が評価されやすい」(+4.2%pt)や「残業の必要がなくても、終業時間の直後は帰りにくい」(+3.2%pt)、「年齢に関係なく、業績で公平に評価されている」(+3.0%pt)など、「不公平感の是正」や「長時間労働の是正」の面のうち、「働き方改革」で望まれない項目でやや高い傾向がある。
図表4 20~50歳代の就業者(n=4,567)と若者(n=972)の現在の職場環境の比較(「あてはまる」「ややあてはまる」の合計値)
さらに、若者について性年代別に見ると、「不公平感の是正」については、30~34歳の女性で実感が薄く、依然として長時間働ける人が評価されているという認識が強い(図表5)。30代前半の女性は、まさに女性の活躍推進における管理職登用の対象となりつつある層だ。当事者であるがために、進むべき理想の姿と実態のギャップを大きく感じるのだろう。また、この層では「セクハラはパワハラなどを受けても告発しにくい」で、あてはまる割合が高いことも特徴的だ。組織における女性ならではの難しさを感じているということなのかもしれない。

「長時間労働の是正」の面では、30~34歳の男性で、会社からの帰りにくさや休暇の取りにくさを感じている。30代前半の男性は、「就労環境の整備」の面でも「仕事と育児を両立する制度が整っている」で、あてはまる割合が低い。30代前半は男性も管理職登用の対象となりつつある年代だ。また、男性は女性と比べて組織の序列を意識して動く傾向があるために、旧来型の価値観を持つ上司の動向を懸念しているという意識のあらわれなのかもしれない。
図表5 20~50歳代の就業者と性年代別に見た若者の現在の職場環境の比較(「あてはまる」「ややあてはまる」の合計値)

4――未来の職場環境~

4――未来の職場環境~若者は就労環境整備や柔軟な働き方は進むと考えるが、評価制度は懐疑的?

1現在と未来の比較~若者はテレワークや両立環境の整備は進むと考えるが、性年齢による不公平感の是正には懐疑的?
調査では、10年後、2030年に予想される職場環境についても15項目をあげてたずねている。まず、前節で見た現在の環境と比較可能な4項目について見ていきたい。

20~50歳代全体では、現在と比べて10年後の未来は、テレワーク等の働く場所の多様化について、あてはまる割合が16.3%から45.6%(+29.3%pt)へと大きく伸びている(図表6(a))。また、仕事と育児の両立環境については、より進んだ状況として男性の育休取得と比較したが、10%ptも高くなっている。一方で、性年齢による不公平感の是正については、伸びているものの大きな違いはない。

若者でも、テレワーク等の「就労環境の整備」の面では同様だが、「不公平感の是正」についてはやや低下している(図表6(b))。つまり、若者では「就労環境の整備」は進むが、「不公平感の是正」は進むとは考えていない。

この背景には、前節で見たように、若者は「働き方改革」の理想と現実のギャップをやや大きく感じており、特に「不公平感の是正」について、その傾向が強かったことがあげられる。現在でもギャップを感じる中で、未来には期待しにくいということなのかもしれない。一方で、若者では現在の50歳代などと比べて、各段に「女性の活躍」や「年功序列より業績評価」が進んだ状況にある。よって、そもそも若者の持つ基準が全体と比べて高い影響もあるだろう。
図表6 現在と10年後に予想する職場環境の比較(「あてはまる」「ややあてはまる」の合計値)
なお、若者について性年代別に見ると(図表略)、「就労環境の整備」では若者全体と同様だが、「不公平感の是正」では男女で違いがある。「不公平感の是正」のうち「女性の活躍」については、男性は進むとは考えていないが(あてはまる割合が未来の方が低いが)、女性は進むと考えている。一方、「年功序列より業績評価」については、男女とも進まないと考えている。

若者が「年功序列より業績評価」が進まないと考える理由は、現状で見られる難しさによるものだろうが、若い男性が「女性の活躍」が進まないと考える理由は、もしかしたら、女性の管理職登用で、これまで男性が占めていた管理職枠が減ることへの恐れなどによる、若い男性自身の願望なのかもしれない。
2その他の未来~高年齢ほど、男性より女性で変化が進むと考える、革新を求めている?
このほか10年後の未来の働き方について、あてはまる割合を見たところ、全体で50%を超えているものは、「夫婦の働き方」の面では「高収入夫婦が増える一方、低収入夫婦も増えている」(60.9%)、「夫婦ともにフルタイム勤務が当たり前になっている」(53.5%)が、「柔軟な働き方」の面では「副業や兼業が、めずらしくなくなっている」(56.9%)が、そして、その他の面では「70代になっても大抵の人が働くようになっている」(55.7%)である。夫婦世帯間の経済格差は広がる一方、共働きや副業・兼業、高齢期の就労など、働き方の多様化という現在の流れは強まっていく様子がうかがえる。

若者では、全体と比べて全ての項目で、あてはまる割合が低いが、若者について性別に見ると(図表略)、全ての項目で女性が男性を上回る。また、若い女性では、おおむね全ての項目で全体をも上回る。なお、全体でも全ての項目で女性が男性を上回り、女性では年齢が高いほど、あてはまる割合が高い傾向がある。

つまり、年齢が高いほど、また、男性より女性で変化が進むと考えている。これは、前述の通り、そもそも若者の持つ基準が全体と比べて高水準(変化の進んだ状態)にあることに加えて、女性では、働く女性が増えているとはいえ、依然として男性中心である現在の就労環境に対して、変革を求めているということなのかもしれない。先の女性のライフコース分析において、20~50歳代の女性では、年代によらず、結婚・出産後も仕事と家庭を両立したいという希望が最も多くなっていた。
図表7 20~50歳代と若者の10年後に予想する働き方の比較(「あてはまる」「ややあてはまる」の合計値)

5――おわりに

5――おわりに~アフターコロナはデジタルと非デジタルのバランスの最適化、慣習や評価制度にも影響

近年、「女性の活躍推進」や「働き方改革」が進められてきた。しかし、本稿で見た通り、制度面では進むべき方向へ進んでいるものの、実際には制度を使いにくい、長時間働ける人が評価されやすいといったギャップがあり、若者では、その認識がやや強かった。

現在の緊急事態下では、特にテレワークなどの「就労環境の整備」の面で「働き方改革」の舵を大きく切らざるを得ない状況が広がっている。新型コロナ終息後、アフターコロナは、まず、自社にとって最適なデジタルと非デジタルのバランスを探ることから始まる。

制度に加えて、就労環境も変わることで、自ずと、終業直後は帰りにくいといった慣習も変わっていくだろう。さらに、オフィスに滞在する時間が減れば、長時間働ける人が評価されやすいといった評価制度の面でも変革が期待できるだろう。

新型コロナの影響で収入が激減した業種や雇用形態もある中で、今回の事態を「働き方改革」を進める良い機会とは言い難い。しかし、この不安ばかりの事態を、何らかの意味のある方向へとつなげたい。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2020年04月20日「基礎研レポート」)

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