2020年04月17日

Z世代の情報処理と消費行動(9)-若者の消費行動からみる流行についての試論

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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3――局地的なブームの性質の変化

流行そのものにも2つのフェーズがあると筆者は考えている。「社会的なブーム」と「局地的なブーム」の2種類である。SNSの普及により、特に局地的なブームについては、クラスタごとに流行が存在し、我々が認識していないところで、世の中には局地的なブームが乱発していると言えるだろう。

従来は、局地的なブームは、特定の場所から発生していた。例えば若者の街である渋谷や原宿は流行が発信される場所として数多くのトレンドを生み出した。このトレンドは人伝えやメディアによって地域に伝播し、「原宿発」といったように発祥した地名が一種のブランドとして人々に受容されていく性質がある。
図4 2種類の局地的なブーム
一方で、現代では、SNSにおいても局地的なムーブメントが生まれているが、その性質は従来のモノとは性質が異なる。SNSにおいては以前レポートで述べたように、クラスタ内で世界観を共有するような消費が行われている。その世界観は、例えばツイッターでいうタイムラインやインスタグラムの検索ページで自然とクラスタメンバーの前に現れるものであり、「なんとなく〇〇が流行っている」、「次のトレンドは〇〇だ」といった言ったように、クラスタメンバーは探求しなくとも無意識にクラスタ内の消費傾向を認識している。その無意識に取得したクラスタ内の消費傾向(トレンド)を消費し合うことで、クラスタ内でブームが生まれる。これは社会全体でみると、その一部の界隈の人の間で盛り上がっているモノであり、クラスタ内においてはメイントレンドであったとしても、社会的に見ると広くは認知されていない「局地的なブーム」であると言えるだろう。しかし、従来の特定の場所が生み出していたブームと異なり、このクラスタにおける局地的なブームの発祥はSNSであり、実社会において地理的な隔たりなく、各所で消費が行われるようになる。その結果、理由はわからないがある特定の商品がじわじわ全国的に販売を伸ばすようになる。

例えばアニメ「クレヨンしんちゃん」はターゲットである子どもだけでなく、若者特に女性の間で支持されている。これは、SNS上の韓国系のクラスタの中で「クレヨンしんちゃん」のグッズが流行しており、全国的に韓国系のオタクの中で消費されているのである(図5)。
図5 ある韓国系クラスタのInstagramにおけるハッシュタグ
このようなSNS上で生まれた局地的なブームが全国的に消費されることで、社会的なブームになることもある。社会的なブームになると流行の認知経路に変化が生まれる。局地的なブームの時は、前述したように、現実世界ではわからないがSNS上で流行しているということを、日々のタイムラインを通してクラスタは認識する。そのブームが社会的なものになると、当該クラスタ外の人々がマスメディアや口コミを通して認知するようになる。この社会的にブームが伝播していく流れは図2で説明した「マス型」の流行の広がり方と類似性があると言えるだろう。
図6 局地的なブームと社会的ブームの流行の認知度経路の違い

4――まとめ

4――まとめ

流行の中心には常に若者がいる。しかし、その流行の発生方法も発生場所も以前とは大きく変わってきていることをこのレポートを通して知っていただけたら幸いである。また、昔は流行に乗り遅れる事は“ダサい”ことであったが、特にZ世代は情緒的価値やブランドよりも機能価値を求めるという点や、わざわざ自分で消費をする必要があるのか考える点など、自身の意思に基づいた消費を行っているため、すべての流行を追いかけるわけではない。特に廣瀨(2020b)3で論じた通り、若者には「ウチら」の消費と「わたし」の消費が存在しており、クラスタメンバーとしてその流行に乗る必要があるのか、また学校などの実社会においてその流行に乗ることが円滑なコミュニケーションを促すのかといった点を考慮しながら、限られた経済力の中で支出を分配している。そのため、前述した通り、ただ流行の消費をするのではなく、それに付随したアウトプット(動画や写真など)で、如何に自身のオリジナリティを出すことができるかという点も焦点が置かれるのである。

また、流行も以前のような雑誌やテレビ主導のモノから、特定の個人や特定のクラスタから発祥するモノも多く存在している。予兆もなく生まれるブームに翻弄される中でメーカーや小売りは、なぜその商品(サービス)が流行しているのかという原点を探ることが必要とされる。また、そのブームの規模を認識する必要もある。そのような意味でも、現代においては、プロモーションのみならず、マーケティングリサーチの側面からみても、SNSの存在は不可欠であると筆者は考える。
 
3 廣瀨涼(2020b)「Z世代の情報処理と消費行動(7)「ウチら」と「わたし」の消費文化論(1) 」『基礎研レター (2020/03/23)』https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64038&pno=2&site=nli#anka1
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
          ニッセイ基礎研究所入社

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

(2020年04月17日「基礎研レポート」)

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