2020年04月17日

Z世代の情報処理と消費行動(9)-若者の消費行動からみる流行についての試論

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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1――若者のブランド消費から見えてくること

若者のブランド消費行動において、筆者が着目しているのは、「準拠集団をモノ消費に見えるコト消費によって肯定している」という点である。準拠集団とは、個人の行動において何らかの影響を与える集団を意味する。一般に個人の購買は価値観や信念などによって意思決定されているが、現代消費のメインストリームであるブランド消費や流行現象などはこの限りではない。これらの他人を顧みることで生まれる消費行動の源泉が、準拠集団であると考えられている。現代の若者の消費行動を検証すると、情緒的価値やブランドよりも機能価値を求めるという点や、わざわざ自分で消費をする必要があるのか考える点など、自身の意思に基づいた消費を行っているように思われる。若者に対するインタビューでも、本人たちは「ただ勧められたものを買うわけではない」と、あくまでも消費の意思決定は自分の意思に基づくものであると主張する傾向がある。しかし、実際のところ若者も他人を顧みている。「ウチら」にとっての消費では他人を顧みることが「アイデンティティ形成」や「コミュニケーション」に繋がるという側面から見ても、若者の消費行動が準拠集団からの影響を受けていると言えるであろう。この「他人を顧みている消費」と「意思を持って行う消費」いう一種のダブルスタンダードの状態を肯定しているのが、廣瀨(2020a)1で挙げたZ世代の特徴である「Creative & Edit(制作と編集技術)」である。

例えばZ世代は、動画に特化したSNSを好み、自身の撮った動画とアプリ内にある音楽を編集し、ショートムービーを制作する。若者は「トキ消費」や「コト消費」の一側面として動画撮り、編集し、投稿することで自分らしさを表現している。商品が選考されるときもこの心理は働いており、「トキ消費」、「コト消費」を動画投稿を通じて行うZ世代は、その商品を消費することで自分ならどのようにその商品を消費し、表現することができるかという「モノ消費に見えるコト消費」よって自分らしさを追求している。この自分らしさの追求の結果アウトプットされたものは、個人の作成した唯一無二のオリジナルなのである。特に動画作成においては、他人の投稿した動画をそのまま真似しても評価を受けづらいため(いいね!の数が増えない)、自分らしさを表現した動画を作成することが強いられる。そのため、他人から影響を受けて購買をしたとしても、消費結果としてオリジナリティのあるものを生み出すという思考があるため、自分の意思で購買し、自分が購買行動の意思決定を行ったと考えている。このことから、他人をきっかけにした消費であっても、消費方法はオリジナリティがあるという点で他人を顧みるという点を肯定しており、これはブランド消費や流行を始めとした準拠集団的思考に基づく消費を肯定する背景にもなっていると筆者は考える。しかし、そもそも消費結果を動画作成し、投稿するという流れ自体が現代消費文化の一側面である。若者が無意識下で他人を顧みて意思を決定するという枠組みに組み込まれていると考えると、本質はZ世代以前の若者が行ってきた流行消費と変わらないと言えるのかもしれない。
図1 流行に対するスタンス
 
1 廣瀨涼(2020a)「Z世代の情報処理と消費行動(2)-Z世代と4つの市場変化」『基礎研レター (2020/02/06)』https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=63607?site=nli
 

2――流行の作られ方は2種類に大別される。

2――流行の作られ方は2種類に大別される。

流行の多くは、若者文化から生まれている。メーカーや小売りは予兆もなく生まれるブームに翻弄されることが多く、供給が追い付かず、流通が整った時には流行が終わっていることも珍しくはない。

では、どのように流行が生まれるのだろうか。流行の発生には大きく分けて2種類あると筆者は考えている。一つは、「マス型」である。これは以前から存在する、マスメディア主導の流行の発生である。特定の商品やサービスがメディアミックスによって大量に露出し、意図的か否かを問わずメディアを主導に流行が生み出される。メディアは消費者に認知され定着するまで、過剰にそのサービスや商品を取り上げ、時間の経過とともに消費者が流行として捉え、影響の中心が口コミに移行すると共に、メディア露出が逓減していく。このタイプの流行は、マスメディアによって広く社会に伝播していくため「社会的なブーム」を生み出していると考えられるだろう。
図2 社会的ブームの広がり
次に、「消費者先行型」である。これは、ある消費者の影響力が他の消費者の消費行動に影響を及ぼし、伝播していく流行である。「マス型」がメディアによる戦略と仮に捉えるとしたら、消費者先行型は自然発生的な流行といえるだろう。流行は、様々な視点や理論から考察することが可能であるが、消費者先行型の流行については「イノベーター理論」で説明できるのではないかと筆者は考えている。イノベーター理論とは、スタンフォード大学の社会学者、エベレット・M・ロジャースが1962年に提唱した、商品購入の態度を新商品購入の早い順に以下の五つに分類した理論2のことである。
 
  1. イノベーター(Innovators:革新者):
    冒険心にあふれ、新しいものを進んで採用する人。
  2. アーリーアダプター(Early Adopters:初期採用層):
    流行に敏感で、情報収集を自ら行い、判断する人。他の消費層への影響力が大きく、オピニオンリーダーとも呼ばれる。
  3. アーリーマジョリティ(Early Majority:前期追随層):比較的慎重派な人。平均より早くに新しいものを取り入れる。
  4. レイトマジョリティ(Late Majority:後期追随層):比較的懐疑的な人。周囲の大多数が試している場面を見てから同じ選択する。
  5. ラガード(Laggards:遅滞層):最も保守的な人。流行や世の中の動きに関心が薄い。イノベーションが伝統になるまで採用しない。
図3 イノベーター理論からみる流行を生み出す層
イノベーター理論における「イノベーター」は、“商品やサービスの目新しさ”や“誰も使用していない”といった点に魅力を感じており、彼らは商品のディテールに重きは置いていない。市場全体の2.5%を占めていると考えられている。この次の層である、アーリーアダプターは、オピニオンリーダーとも呼ばれ、イノベーター達が採用している新しい商品の使用価値やメリットに着目し、良いと判断したら購買する。ここでいう使用価値やメリットは「かわいい」「映える」といった情緒的価値も含まれており、写真映えがするという理由も商品が選考される要因となるのである。いわゆる「インフルエンサー」はこのアーリーアダプターに属すると考えられており、彼らに受け入れられ、発信されることで流行が生み出される。アーリーアダプターによって採用される商品は多種多様で、すべての商品が流行になるわけではなく、その次のアーリーマジョリティ層に採用されることで流行しているものとして認知されるようになる。このころには、マスメディアでも取り上げられるようになり、マスメディアと口コミの相乗効果で人々が流行しているものであると周知の事実として認識するようになる。その後レイトマジョリティが採用するころには、ブーム自体のピークは過ぎているのにもかかわらず追随したサービスや商品が登場したり、より安価な価格で代替品や類似品が手に入るようになり、一種のコモディティ化していく。
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
          ニッセイ基礎研究所入社

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

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