2020年04月14日

ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社の状況(2)-2018年結果-

中村 亮一

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1―はじめに

前回のレポート「ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社の状況(1) -2018年結果-」(2020.4.10)では、以前の保険年金フォーカス「ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社の状況(1)-2017年結果-」(2019.3.18)について、2018年ベースの数値に更新する形で、民間医療保険の普及状況について報告した1,2

今回のレポートでは、「ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社の状況(2)-2017年結果-」(2019.3.25)について、2018年ベースの数値に更新する形で、民間医療保険会社の市場シェア、経営効率及び財務面の状況について報告する。
 
1 ドイツの医療保険制度全体の概要及びその中での民間医療保険の位置付けや各種の制度の具体的な内容等については、基礎研レポート「ドイツの医療保険制度(1)~(3)」(2016.3.15~2016.4.18)を参照していただきたい。
2 以下の図表については、基本的には、ドイツ保険協会(GDV)の「Statistical Yearbook of German Insurance 2019」及び民間医療保険連盟(PKV)の「Der Zahlenbericht des PKV-Verbands zum Download.2018」(ドイツ語版)からの数値に基づいているが、両者の数値は必ずしもベースが同じにはなっていない。PKVをデータ・ソースとするGDVの資料についても、GDVの資料に基づく、としている。また、2019年の公表資料において行われた2017年以前の数値の修正等を反映している。
 

2―民間医療保険会社の状況(1)-市場シェア-

2―民間医療保険会社の状況(1)-市場シェア-

ここでは、民間医療保険会社の市場シェアの状況について報告する。
1|会社数
2018年末で46社の民間医療保険会社が存在しており、会社数では、保険会社全体の1割弱を占める形になっている。2015年から2016年にかけて、2社が事業を停止して、新たに1社が事業を開始している。2017年及び2018年と民間医療保険会社の数に変化はない。
民間医療保険-会社数の推移-
2|会社形態
データが得られる直近ベースでは、2018年末の46社のうち、24社が株式会社で22社が相互保険組合3である。前者と後者の保険料ベースでの市場シェアはそれぞれ58.9%、41.1%となっている。

10年前との比較では、株式会社の数は減少し、相互保険組合の数は変化していないが、保険料では、株式会社がシェアを高めている。
民間医療保険-会社形態別-
 
3 英語の「mutual insurance association」の翻訳であるが、「共済組合」との翻訳も考えられる。
3|会社のシェア(市場の集中度)
上位会社のシェアは、保険全体の場合に比べて高く、より集中度が進んだ市場となっている。

外資系会社のシェアは13.2%と、保険全体の場合の16.5%に比べると低い水準となっている。
民間医療保険-市場の集中度(2017年 グループ収入保険料ベース)-
4|医療保険会社
2017年における医療保険各社の収入保険料及び被保険者数は、以下の通りとなっている。

上位5社の収入保険料シェアが約5割となっている。大手会社のシェアは5年前に比べて若干変動しているが、大きくは変わっていない。
民間医療保険会社の収入保険料(2017年度)/(参考)2012年度

3―民間医療保険会社の状況(2)-経営効率-

3―民間医療保険会社の状況(2)-経営効率-

ここでは、民間医療保険会社の各種の経営効率の状況について報告する。
1|損害率・収益率
保険料に対する給付額の割合を示す「損害率(Damage ratio)」は、以下の左の図表が示すように、事業年によって変動はあるものの、ほぼ80%前後で安定的に推移している。 

一方で、総収入に対する保険事業からの財務業績の割合を示す「保険事業による利益率(Result ratio from insurance business activity)」については、ここ数年は12%~14%程度の水準で推移している。
民間医療保険事業費率の状況/民間医療保険損害率・利益率の状況
その性格上、医療保険制度改正の影響を受ける可能性もかなりあるが、比較的安定的な損害率や収益率を挙げてきている状況にあるといえる。
2|事業費率
事業費率を、新契約費率と維持費率4で見た場合、上記の右の図表が示すように、新契約費率は低下傾向にあったが、ここ数年はほぼ横ばいである。維持費率もここ数年はほぼ横ばいである。

このように、民間医療保険会社は、過去から事業費効率の改善化を図ってきているが、ここ数年は安定的な傾向にある。
 
4 新契約費には、ブローカーへの手数料を含む保険契約締結時に発生する全ての経費が含まれる。維持費には、保険契約の維持管理に関わる全ての経費が含まれるが、新契約費と給付金支払手数料等のサービス処理に伴う経費は含まれない。
3|資産運用効率
(1)資産構成比(運用ポートフォリオ)
民間医療保険会社の資産(投資ポートフォリオ)の推移は、下記の図表の通りであり、2018年末で273.0十億ユーロとなっている。2017年末に比較して5.5%の増加で、この水準は、生命保険会社の2.3%、損害保険会社の▲0.8%に比較して高い。
民間医療保険会社の資産の推移
その資産の構成比は、貸付が37.8%、無記名債券その他の確定利付証券が23.8%、ファンドに含まれる債券が22.0%で、その他の債券等を含めて8割以上が金利資産となっている。また、株式の構成比は4.8%となっている。
(2)運用利回り
昨今の低金利環境を反映して、運用利回りは低下してきている。2018年は3.03%となっており、最高予定利率の3.5%を下回っている。

なお、2018年末の正味の含み損益は360億ユーロで資産の13%に相当している(2017年末は、資産の15%に相当する410億ユーロだった)。
医療保険会社の資産構成比(2018年末)/民間医療保険運用利回りの状況
4|その他の重要指標
民間医療保険連盟の資料によれば、上記に加えて、例えば、以下の比率が重要指標として掲げられている。ここに、RfB(Rückstellung für Beitragsrückerstattung:Provision for bonuses and rebates)は、将来の保険料軽減等に使用されるための準備金である。

「リファイナンス比率(Refinancing[RfB] ratio)」は、RfBを総収入(earned gross revenues)で除して得られる比率であり、会社が将来において保険料水準の軽減を提供するための追加ファンドの余地を示している。

「リファイナンス充当比率(Refinancing[RfB] appropriation ratio)」は、RfBの特別ファンドを総収入で除して得られる比率で、リファイナンス充当金のうちのどの程度が、将来において、保険料水準の軽減や現金償還を提供するための手段のファイナンスに使用されるのかを示している。

「リファイナンス解約比率 (Refinancing[RfB] withdrawal ratios)」は、現金償還と一時金償還の2つの指標に区分され、それぞれRfBからの全体の償還のうちの現金及び一時金での償還の割合を示している。

「準備金比率(Provision ratio)」は、総収入のうちのどの程度が老齢化のための準備金(老齢化準備金、保険料払戻準備金、保険監督法第150条第4項に従う保険料への使用)に繰り入れられているのかの割合を示している。

これらの重要指標の過去からの推移は、以下の通りとなっている。
民間医療保険のその他重要指標の推移

4―民間医療保険会社の状況(3)-財務面-

4―民間医療保険会社の状況(3)-財務面-

この章では、ドイツの保険監督当局のBaFinのAnnual Report 2018等に基づいて、民間医療保険会社の財務面の状況について報告する。
1|老齢化積立金の積立状況
民間医療保険連盟全社の総負債・資本293,305百万ユーロのうち、老齢化積立金が260,058百万ユーロで88.4%を占めている。

その他では、支払備金が7,194百万ユーロ(2.4%)、保険料返還等のための準備金(RfB)が15,894百万ユーロ(5.4%)となっており、資本は6,943百万ユーロ(2.4%)となっている。 
民間医療保険会社の総負債・資本構成(2018年末)
このうち、老齢化積立金の積立額及びその給付額に対する比率の推移は、以下の通りとなっている。

高齢化を反映する形で、毎年比率が上昇してきている。2018年末では、9.10年分の給付金額に相当する老齢化積立金が積み立てられている状況にある。
民間医療保険会社の老齢化積立金の積立状況の推移
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中村 亮一

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