2020年03月23日

「大阪オフィス市場」の現況と見通し(2020年)

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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1. はじめに

大阪のオフィス市場では、まとまった空室を確保することが困難な状況が続いている。逼迫した需給環境を反映し、成約賃料はファンドバブル期の水準を上回る水準まで上昇した。本稿では、大阪のオフィス市況を概観した上で、2024年までの賃料予測を行う。但し、本稿では新型肺炎(コロナウィルス)の感染拡大の影響は加味していない。影響を含めた賃料予測は後日報告したい。
 

2. 大阪オフィス市場の現況

2. 大阪オフィス市場の現況

2-1. 空室率および賃料の動向
全国主要都市の空室率は、いずれの都市も低下傾向で推移している。三幸エステートによると、大阪市の空室率(2019年12月時点)は2.6%となり、過去最低水準を更新した。大阪のオフィス市場では、まとまった空室を確保することが困難な状況が続いている(図表-1)。

大阪市の空室率を規模別にみると、全ての規模1で低下傾向が継続している。特に、大規模ビルの空室率は、2016年以降急速に改善が進んでおり、1.2%まで低下した(図表-2)。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 大阪オフィスの規模別空室率
全国主要都市の成約賃料は、空室率の改善を背景に上昇基調で推移している。大阪市の成約賃料(2019年下期)は、前年同期比+11.4%の上昇となり、ファンドバブル期(2006年~2008年頃)の水準を上回った(図表-3)。
図表-3 主要都市のオフィス成約賃料(オフィスレント・インデックス)
2019年の空室率と成約賃料の変化を主要都市で比較すると、大阪市では、空室率が大きく改善し、賃料も大幅に上昇した(図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した大阪市の賃料サイクル2は、2012年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」局面が続いている。前述の通り、空室率は過去最低水準に低下し、成約賃料は、ファンドバブル期の水準を上回った。ただし、空室率は既に3%を切り、これ以上の低下の余地は小さくなっており、「空室率上昇・賃料上昇」あるいは「空室率上昇・賃料下落」局面に近づきつつある(図表-5)。
図表-4 2018年の主要都市のオフィス市況変化/図表-5 大阪オフィス市場の賃料サイクル
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2. 需給動向
三鬼商事によると、大阪ビジネス地区では、賃貸面積(総需要面積)は2011年以降、9年連続で増加している(図表-6)。2019年末の賃貸面積は214.5万坪(前年比+0.6万坪)に達した。

一方、新規供給が限られる中、築古ビルの滅失が進み、賃貸可能面積(総供給面積)は、2018年末の220.1万坪から2019年末の218.5万坪へと減少した(前年比▲1.7万坪)。

結果、2019年末の大阪ビジネス地区 の空室面積は4.0万坪(前年比▲2.3万坪)まで減少し、ファンドバブル期のボトムである9.4万坪(2007年末)を大幅に下回っている。
図表-6 大阪ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
図表-7 大阪ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積の増減
2-3. エリア別動向
2019年末時点で賃貸可能面積が最も大きいエリアは、「梅田地区(34.3%)」で、次いで「淀屋橋・本町地区(30.7%)」、「船場地区(15.1%)」、「新大阪地区(9.7%)」、「心斎橋・難波地区(5.1%)」、「南森町地区(5.1%)」の順となっている(図表-8)。

2019年は、新規供給が限定的な中で築古物件の滅失等が進み、賃貸可能面積が増加したエリアはなかった。特に、「梅田地区」(▲0.9万坪)や「淀屋橋・本町地区」(▲0.5万坪)、「新大阪地区」(▲0.1万坪)、「船場地区」(▲0.1万坪)で賃貸可能面積の減少が進んだ(図表-9)。

一方、賃貸面積は、「船場地区」(+0.4万坪)、「淀屋橋・本町地区」(+0.1万坪)、「南森町地区」(+0.1万坪)等で増加した。この結果、空室面積は全ての地区で減少し、大阪ビジネス地区全体で▲2.3万坪減少した。
図表-8 大阪ビジネス地区の地区別オフィス面積構成比(2019年)/図表-9 大阪ビジネス地区の地区別オフィス需給面積増分(2019年)
大阪の空室率をエリア別にみると、2019年は「心斎橋・難波地区」を除くすべての地区において、低下基調で推移した(図表-10左図)。特に、「梅田地区」の空室率(2019年12月時点)は0.9%となり、2002年以降で過去最低水準まで低下した。

また、募集賃料をエリア別にみると、「梅田地区」・「淀屋橋・本町地区」・「船場地区」では2017年初から、その他の地区の賃料(「南森町地区」・「新大阪地区」・「心斎橋・難波地区」)では2018年以降上昇に転じている(図表-10右図)。
図表-10 大阪ビジネス地区の地区別空室率・募集賃料の推移(月次)
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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